長期レビュー

パナソニック「モビエイト BE-ENHE78」 その1

~“通勤用”電動アシスト自転車を約10kmの通勤に使ってみた!
by 滝田 勝紀

 
「長期レビュー」は1つの製品についてじっくりと使用し、1カ月にわたってお届けする記事です。(編集部)



パナソニック「モビエイト BE-ENHE78」

 今回から3回に渡ってパナソニックサイクルテックの電動アシスト自転車「モビエイト」を紹介しよう。モビエイトの一番の特徴はなんと言っても、「通勤」に向いたモデルであるということ。従来のスポーツタイプにはなかった泥よけが標準でついていたり、ワイドなビジネスバッグがスッポリ入るカゴも通勤を意識したものだ。

 つまり「モビエイト」の特徴を知るためには、通勤に使ってみるのが一番! というわけで1回目の今回は実際に通勤で使ってみた様子をお届けしよう。


メーカーパナソニックサイクルテック
製品名モビエイトBE-ENHE78
希望小売価格145,000円

 

スピードが乗りやすい大口径でスリムな700×32ccタイヤを搭載。軽くてサビに強いアルミ素材をリム部分に採用し、泥よけも標準装備するビジネスバックもそのまま入るワイドバスケット

 自分は東京都杉並区に住んでいるフリーランスのエディター・ライターである。ただし港区の某出版社ももう1つのオフィスとしてデスクが置かれている。自宅近くの大宮八幡宮をスタート地点として、約12kmの距離を実際に通勤してみた。

 ルートはざっとこんな感じだ。距離11.9km。徒歩では2時間25分の距離を、自転車で30~40分で完走を目指す。

・まずは環状7号線に出て、井の頭通りを左折、ひたすら直進。
・代々木公園前の交差点を右折し、渋谷方面へ直進、宮益坂上の交差点へ。
・左折して青山通りを少し直進、今度は骨董通りより手前の路地を右折、麻布方面へ。
・国道246の青山トンネルを潜り、六本木通りをひたすら直進して、アマンドの交差点を飯倉片町方面へと直進。
・東京タワー前を横切り、増上寺やプリンスホテル、芝公園などを横目に日比谷通りを渡って、浜松町方面へ直進してゴール。

今回走行した実際のルート。約12kmの道のりだ

 実際にふだん使っているビジネス用にも使えるようなトートバックをバスケットに入れてスタート。ワイドサイズのカゴなので、取っ手を上にしていれられる。仮に弁当などを持って通勤する人にとっては、バックのなかで弁当が横に偏る心配や、汁物が漏れて書類がぐちゃぐちゃになるような大惨事に見舞われる危険性も少ない。バッグの荷物の重さは約1.5~2kgぐらい。通勤用バッグとしては標準的な重さだろう。

普段使っているバッグを入れたところ。バンド付きなのでバッグの飛び出しを気にする事なく安心して走行できるスタート地点の大宮八幡宮。結婚式もやっている大きめの神社だ

0km~2km<永福~和泉~環七>~曲がり角の繰り返しや商店街の歩行者をクリア

 出発前にまずは、スイッチ周りをチェック。普通の自転車と違って電動アシスト自転車は電源を入れてから漕ぎ出すのが鉄則だ。モビエイトには、アシスト力が強い「パワーモード」、自動でアシスト力を制御する「オートマチックモード」、アシスト力を抑えて長距離走行する「ロングモード」の3つの運転モードが搭載されている。バッテリーはリチウムイオンバッテリーで、容量は8Ah。走行距離は選んだモードによって異なる。パワーモードの場合約40km、オートマチックモードが約44km、ロングモードが約54kmだ。

長距離走行を実現する8Ahバッテリー搭載8段ギヤシステムを後ハブに内蔵したシマノ・インター8を採用。チェーン外れ等のトラブルの可能性を大幅に軽減
まず走ったのは閑静な住宅街。裏道などとして使われる道も。細い道なども多く、曲がり角もたくさん

 今回は、なるべくバッテリーを持たせたいので、まずはロングモードに設定することにした。モビエイトには内装8段変速機も搭載している。電動アシスト自転車のギアというのがどんなものなのか、わからなかったので、まずはを1速に設定してスタートした。しかし、走り始めてみると、やはりギアが軽すぎた。特に平地ではここまで軽いギアは必要ない。何度か微調整したところ、平地でギアは6速くらいがちょうどよさそうだ。

 まずは、井の頭通りから閑静な住宅街の細道だ。車が2台すれ違うのがやっとのような細かな住宅街の道路を、右に左に路地を曲がりながら走り続ける。すると、電動アシスト自転車のメリットがいきなり確認できた。自転車に乗っている時に角を曲がる場合、スピードをある程度落とすために必ずブレーキを効かせ、角を曲がった後は、再度スピードをあげている。

 電動アシスト自転車の場合、このスピードを戻す作業がかなり楽。漕ぎ出した瞬間、モーターが駆動、アシスト機能により、スピードが一気に戻る。まるで、見えないおじさんが、そのたびに登場して、後ろから押してくれる感じ。

 これまで自転車に乗ってきた経験からいうと、自転車に長時間乗っている時の疲労というのは、曲がり角や上り坂、赤信号などによって落ちた速度を、一定の速度に戻すことで溜まっていたように思う。モビエイトの場合、漕ぎ出しをしっかりアシストしてくれるので、曲がり角が多くても、負担が少なく疲れにくい。

車と多くの歩行者が行き交う商店街。おばちゃんたちは買い物に夢中で自転車の存在など気にも留めない。だからこそ安全運転が必要

 さらに住宅地のなかを進み続けると商店街が出てきた。商店街というのは、歩行者も多く、自転車を一定速度で走らせ続けることが難しい場所だ。モビエイトでは、アシスト機能がしっかり働くので、止まりそうなほど遅い速度で漕いでいても、地面に足がつくことなく、安定した状態で自転車をこぎ続けられる。

 自転車に乗っている人は、誰しも体感していることだと思うが、自転車は止まってしまうと、右か左どちらかに倒れてしまう。電動アシスト自転車では、ちょっとペダルを踏むだけで、モーターのアシストによって前に進むため、倒れにくいのだ。

2km~5km<環七~代々木上原~渋谷>~代々木上原界隈の上り坂は上り坂にあらず

環状7号線に出たところ。歩道も広めなので、歩行者に注意しながら自転車でも走る

 いよいよ環状7号線に出た。片道2車線から3車線、車通りが激しい道なので、いくらスポーツタイプといっても、電動アシスト自転車は、歩道を走ることを選択する。歩道は比較的広め。歩行者に気をつけながらひたすら走り続け、順調に快走を続けられた。

 井の頭通りを左折すると、先ほどの環状7号線よりも車通りは少なく、なおかつ広めな道なので、車道の端を走ることを選択する。するといよいよ、このルートの第一の難所である代々木上原地点へと差し掛かる。このあたりは坂道が多く、井の頭通りも山手通りとの交差点まで、2回ほど上りと下りを繰り返さなければならない。

 実際に、ママチャリや一般的なスポーツバイクに多くの乗っている人たちが、下り坂の勢いを使うか、立ち漕ぎで上っていた。ただ、電動アシスト自転車の場合、そのぐらいの上り坂は坂にあらず。実際に8速のままで、モーターアシスト機能により、サドルに座ったまま、どちらの坂も上り切ってしまった。

一般の自転車にとってはキツイ上り坂も、モビエイトにとってはアシスト機能により、たいした上り坂には感じられない8速のままでも快適に上れてしまう。ロングモードでもサドルに座ったままだ富ヶ谷の交差点。スタイリッシュな自転車が増え始める

5km~6km<渋谷~青山>~最大の難所である渋谷の街中を快走

 続いて、代々木公園やNHKを横目に、今度は渋谷の街中へ。渋谷というのは、文字通り“谷”となっている地域であり、外に出るには坂道が必ず存在する。この通勤コース第2の難所であり、アップダウンの激しいルートだ。しかも、車も人も多いので、走り難い。だが、最初の上りも4速にすると、ペダルへの負担も大きくない状態でクリア、その後は信号に引っ掛かったり、多くの歩行者避けながら下りを進み、最後の長い上り坂も車道の端をひたすら5速でアシストモードを利かせながら、一回も止まらずに上り切ることができた。

代々木公園から表参道へ続く坂は、今回上らずにNHKの横を渋谷方面へ。緑が多くて気持ちがいい神南小学校下の交差点を左折。一気に急な上り坂を駆け上がるタワーレコード横交差点から明治通りへ一気に下り、そのまま宮益坂上まで今回のルートで1番長い坂へ
人間工学に基づいた握りやすく疲れにくい太めのグリップ

 ある程度の距離を走ることで、気付いたモビエイトの利点の1つがハンドルグリップの太さだ。自転車に長距離乗っていると、知らないうちに、腕や手に力が入っていることが多い。さらに手のひらが痛くなっていることもよくある。実際、通常のスポーツバイクで長距離を走る場合、ジェルで手のひらを衝撃から守るようなグラブなどは必須だ。でも、モビエイトの場合、ハンドルが太めで握りやすい形状なので、手のひらに痛みを感じることはなかった。

6km~8km<青山~西麻布>~自動でライトオン! 西麻布~六本木は穏やか

青山通り沿い。道路の反対側には国連大学などが存在する。オシャレエリア。一歩路地に入ると、南青山から西麻布方面へと抜ける裏道

 さて、続いて青山通り~西麻布ルート。ここは全ルートの中でも穏やかなルエリアだ。オシャレなインテリアショップやハイブランドの路面店、さらにはオープンカフェなども多く、目にも楽しい。しかもずっと平地が続くので、多少ゆったりと走っていられた。距離的にも中間点を過ぎたあたりであり、通勤中でも急ぎでなければ、少し休憩を取ってみるのもいい。実際、通勤だからといって、ずっと走り続けなければいけないものではなく、少し休憩を入れることも疲労を軽減するにあたっては大切な選択肢だ。

 六本木通りに出ると、いきなり青山トンネルを通ることになる。ここでもモビエイトならではの機能が役に立つ。トンネルに入った瞬間、昼間にも関わらず、自動的にフロントのLEDライトが点灯、リアのソーラー充電赤色灯が点滅し出した。これにより、暗いところでも安心して走り続けることができた。実際、昼間だと、トンネルに入ったからといって、ライトを手動で点灯させる人は少ないと思う。だが、昼間にトンネルを走ることは、目が慣れていないので、夜間以上に危険な場所である。だからこそ、このモビエイトのオートライト機能は安全面において重要なのだ。

青山トンネル。首都高速3号線と六本木通りが潜っているトンネル内は下り坂。センサー感知により自動でライトが点灯する

8km~11.9km<六本木~浜松町>~急なアップダウンもパワーモードで完全勝利

 いよいよ通勤ルートも最終地点である。六本木ヒルズなどを横目に、アマンドで有名な六本木の交差点を左折、外苑東通りへと入る。このあたりは平地が続く場所であるが、夜になると多国籍な外国人とタクシーが無数に走りまくる日本を代表する歓楽街である。ただ、歓楽街というものの昼間は、人があまりいないのも特徴。車道と歩道を上手に使い分けながら、飯倉片町の交差点へ。

 さらにまっすぐとロシア大使館を横目に走り抜けると、このコース最後の難所へ。飯倉の交差点へと急な下り坂を降りると、今度は東京タワーに向かって一気に急坂を上らなければならない。さらに、片側3車線の左は左折専用車線なので、車にも注意しなければならず、下りの勢いを使いながら、一気に上ることに。ただ、東京タワーの前は観光地特有の人の多さと駐車車両の多さで、自転車を止めなければならないシーンも多い。ここは無理せず、パワーモードに変更、上りはより大きなアシスト力に頼ることになした。ロングモードよりも強い力で押されるので、急な坂にも関わらず、ギアは5速で座ったまま上り切ることができた。

六本木の有名な交差点から外苑東通りを飯倉片町方面へ。このあたりは比較的平地が続く飯倉の交差点は急な下りから東京タワー方面へ一気に上る。信号が青なことを確かめて、その勢いを使って上りたい

 東京タワーを横目に、最後は下り坂を観光客を気にしながら降りると、いよいよプリンスホテルや増上寺などがみえる。このあたりは東京タワー同様、観光客によって歩道は占拠されているので、車道をゆっくりと走る。実際、信号が青になると、横断歩道だけではなく、車道にも歩行者が溢れ出すので、思い通りに走ることはできない。商店街などと同様、車と歩行者に気をつけながら、ゆっくりとアシストモードを上手に使って走り抜ける。

 その後は浜松町方面へと向かい、オフィスへと到着。トータルで掛かった時間は43分。写真を撮りながら走ったことを考えると、実際には30分台で走ったことになる。

東京タワーの迫力に圧倒されながら、下り坂へプリンスホテルの目の前を通るさらに進むと徳川家のお墓である増上寺へ。観光地で人も車も多いので、下りでもゆっくり走る

 12kmの距離を30分台で走る、これを毎日続けるとなると、皆さんどう感じるだろうか。ふだん最寄り駅と自宅を往復するだけ。ちょっと近くのスーパーなどに買い物に行くだけの人にとっては、かなり遠く感じる距離かもしれない。だが、いわゆるママチャリでも十分出せる速度、時速20km程度で気軽に走ったとしてもたった30分ちょっとでいける身近な距離でもあるのだ。今回走った12kmはアップダウンの多いコースながら、特に息が上がることもなく、疲れも感じなかった。この日はたまたま五月晴れの良い天気だったこともあり、電車に乗るよりもずっと気持ち良かったくらいだ。

 また、今回実際通勤に使ってみて、感じたのは、電動アシスト自転車でスゴイのは坂道だけではないということ。人が多い場所や曲がり角が多い道での、ちょっとした負担を見事にカバーしてくれる。

 もちろん、通勤は毎日のことなので、雨の日は無理に乗る必要はない。あくまでも乗りたい時に乗ってみる。朝は晴れていても、夜は雨が降っていることもある。そんなときは、思い切って帰りは、自転車を駐輪場に置いて帰ることも大切な決断だ。「絶対に乗る」などと決めるよりも、カジュアルに楽しく通勤する方が長続きするだろう。

 今回はいきなり10kmの距離を「通勤」してみたわけだが、次回はこの経験を経て見えてきた、モビエイト、ひいては電動アシスト自転車の乗り方について紹介する予定だ。普通の自転車とはちょっと違う、電動アシスト自転車ならではの「作法」があるのだ。



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2012年5月14日 00:00