家電製品ミニレビュー
形だけじゃない! かまど炊きを超えた60周年記念モデルの炊飯器に感動
by 神原サリー(2015/1/23 07:00)
日本初の自動式電気釜から60年かけて実現した夢の炊飯器、その実力やいかに!?
高級炊飯器という言葉が誕生してすでに10年近くなる。「かまどで炊いたごはんを目指しました」という合言葉のもと、10万円を超える価格、材質や形にこだわりぬいた内釜など、どのメーカーも贅を尽くした炊飯器を開発し、もはやこれ以上のものはないのではとさえ感じていた。
ところが2014年の秋も深まったころ、東芝が年明けにかまど炊きのおいしさを実現した炊飯器を発売するというリリースが届いた。いったいどんなものなのかを知るべく、東芝の炊飯器開発一筋の“釜仙人”をはじめとする商品開発チームに取材をしたのが年末。そこで知らされたのは、日本で初めて同社が自動式電気釜を作り上げてから60周年、その集大成ともいえる夢の炊飯器だということ。
家事の負担軽減から始まった電気釜から、かまど炊きに近づけるべくおいしさへの追求へと変化し、ついにたどり着いたのが、発売されたばかりの真空圧力IHジャー炊飯器「備長炭かまど本羽釜」なのだ。詳しくはインタビュー記事を参照していただくとして、今回はその実力を確かめるべく、ひと足お先に実機をお借りし、ごはん三昧の日々を送ったので、その様子をご紹介したい。
メーカー名 | 東芝 |
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製品名 | 備長炭かまど本羽釜 RC-10ZWH |
購入場所 | Amazon.co.jp |
購入価格 | 134,136円 |
“羽釜”そのものが炊飯器にすっぽり収まったIHかまど釜
「備長炭かまど本羽釜」の特徴は何と言っても、内釜の形状にある。その名のとおり羽付きの形状で、羽の上も5cmほど高さがあり、底のほうに近づくにつれて丸みを帯びているという“羽釜”そのものの形をしているのだ。
炊飯器本体にセットした際にも、羽が本体に引っ掛かり、さらにその上に内釜の上部が付き出すため、見た目のインパクトがものすごい。この高さこそが、内部の空間をたっぷりと取り、沸騰時に連続加熱・連続沸騰を続け、お米の持つ旨み成分であるおねばをたっぷりと引き出すポイントになるのだという。
内釜の底を見てみると波状になっており、これは釜の中で沸騰力を高め、中心部までムラなく熱を行き渡らせるためにあるという。
従来の炊飯器よりも上ぶたの部分に厚みがあり、重さもあるため、勢いよく開き過ぎないようにダンパー機能が搭載されている。60度くらいの角度までは一気に開くが、その後はゆっくりと上に向かうようになっているので安心感がある。
東芝の炊飯器は、真空圧力IHという炊飯方式を採用しているため、内ぶたに真空吸気口や圧力調整ボールなどがついている。ただし、一体化されているため、全体としての部品の数は少なく、後は上ぶたの天面に蒸気口がついているだけとシンプルだ。内釜内に十分におねばが循環できる空間が設けられているので、蒸気口もとても小さい。
存在感のある内釜を内蔵するだけあって、確かに本体は大きいけれど、ホワイトのベースにうっすらと入った横じまのデザインが木目を思わせ、少し凹みを持たせている帯の部分がアクセントになってすっきりと美しい。
1つ注文をつけるとすれば、内釜を取り出しにくいことだろうか。本体上部の両側には内釜の羽の下に指を入れられるようにと溝が作られているのだが、深さが足りないのかしっかりと指は入らず、爪の部分が引っかかってしまうのだ。この部分の形状をもうひと工夫してくれるとさらに使い勝手がよくなるように思う。
「かまど名人」コースで炊いた白米が甘い!
それでは、まずは白米を「かまど名人」コースで炊いてみよう。
この「備長炭かまど本羽釜」の天面はフラットで、炊飯時以外は操作ボタンが何も表示されない仕様だ。こうしたデザイン性にこだわったものは、得てして使いづらかったりするものだがどうだろうか。
天面右下にある丸い輪の部分に指で触れるとメニューが一斉に浮き上がり、お米の種類とコースを選んで指で押す。LEDで浮き上がるのに、タッチパネル式ではなくて、上下ボタンなどで操作する場合もあるが、これは見た文字をそのまま押せばいいのでストレスなく使える。これなら、デザイン性と操作性を両立させていると言っていいのではないだろうか。
わが家は長年、秋田県の「大潟村あきたこまち生産者協会」から独自の方式を採用した無洗米を取り寄せている。無洗米は、普通の白米に比べて味が落ちると言われがちだが、このお米は決してそんなことはない。むしろ、洗う手間が要らず、エコなうえにおいしく食べられるので重宝しているのだ。
ということで、お米の種類は「無洗米」を選び、「かまど名人」コースをタッチ。この「かまど名人」には「しゃっきり/ややしゃっきり/ややもちもち/もちもち」と4段階の食感が選べるようになっている。
ここだけは「しゃっきり」「もちもち」の表示をタッチし、インジケーターの点滅を確認して選択する仕組みなので、慣れるまで注意が必要。取扱説明書によると「ややしゃっきりをお試しいただいてから、お好みやお米の種類によって炊き分けてください」とある。好み的にも「ややしゃっきり」が合いそうなので、それに従って炊いてみることにした。
お米の種類、コースと4種類の炊き分け設定を終えると同時に炊飯時間の目安が出るため、待ち時間がわかるのが便利だ。今回は「60分」と表示されたが、無洗米でなければ5分ほど短いようだ。取説によると、どのコースで炊いた場合も無洗米の場合は、白米コースに比べて5分ほど長めになると書かれている。これ以降の炊飯も、玄米以外はすべて無洗米で炊いたので、炊飯時間を見るときにはそれを考慮していただきたい。
炊飯の前半は「真空」の表示があり、真空ひたし(吸水)や真空うまみ引き出し(減圧によるうまみ成分のひき出し)を行なっていることが確認できる。後半は圧力の表示に代わり、“真空圧力IH”の炊飯器なのだなとわかる。
さて60分後、ふたを開けると、つやつやのご飯が炊けている。真中が凹むこともなくまっ平で美しい。ところどころにカニ穴も出来ている。しゃもじを入れてみると、さっくりとした感じがしゃもじを通じててのひらに伝わってくる。粒感がある証拠だ。
茶碗によそって、一口食べてみる。甘い! しゃっきり感を残しながらも噛むと弾力があり、おかずがなくてもどんどん食べられるおいしさ。さすがだ。
この深い釜で0.5合のごはんがおいしく炊けるって本当?
年末のインタビュー取材時に「温度センサーがあるので、0.5合でも5合でも炊飯量にかかわらずおいしく炊けますよ」という話に驚いてしまったのだが、こんなに深い内釜でわずか0.5合のごはんがおいしく炊けるものなのだろうか。0.5合=1膳分を「かまど名人」コースでじっくり炊いたらどうなるのかを試してみることにした。
少ないお米だからこそ、水加減が大事と慎重に左右の目盛を見て確認し、OKとなったところで3合のときと同様に「ややしゃっきり」でセット。当初、炊飯時間は60分と表示されたが、途中で修正されたようで、実際は50分程度で炊きあがった。
ふたを開けると底のほうに張り付くように白いごはんが炊けている。でも、よく見るとカニ穴らしきものもあり、ムラもない。茶碗によそうとちょうど1膳分。たったこれだけのごはんを、羽釜のような形状のこの炊飯器で炊いたのだと思うと何だか感慨深い。
さて、味はどうだろう。やはり甘い。3合の時の感激と同じ。粒感もねばりも素晴らしい。お見事!
翌日、今度は0.5合を「そくうま」コースで炊いてみる。というのは、1膳分、つまり1人分のごはんを炊くというのは1人で食べるということ。おかずの準備から考えても、1時間近く待っていられないという人のほうが多いのではないかと思ったからだ。「そくうま」コースはだいたい30分弱で炊きあがり、昨日と比べると断然スピーディな印象。
ふたを開けるとぱっと見は変わりないものの、しゃもじを入れるとさっくり感がなく、やや水っぽい感じがする。実際に食べてみたところ、決してまずいわけではないのだが、表面がべたつき、粒感に欠ける。甘みもやや少ないようだ。
じっくり時間をかけて炊き上げる「かまど名人」コースの偉大さにあらためて感じ入る。1膳分のごはんを50分かけて丁寧に炊き上げることの贅沢さ。それだけの甲斐があるおいしい炊きあがり。つまり、この炊飯器は1人暮らしの人でもおいしいごはんにこだわりたいなら、おすすめできるということだ。
おこげの楽しみやふっくら玄米のヘルシー食生活まで
かまどで炊くごはんの楽しみのひとつに、おこげがある。底のほうにできる香ばしいごはん。これが「備長炭かまど本羽釜」では可能なのだ。「おこげ」コースはかまど名人コースよりもさらに長い時間をかけて炊き上げて、底におこげを作るというもの。
取説によると、おこげの色を濃くするには、お米1カップあたり小さじ1杯の日本酒を加えるといいとある。せっかくなので、2合=小さじ2杯の料理酒を加えて、おこげコースで炊いてみた。
75分かけて炊いたごはんやいかに? 見たところ、かまど名人のとき以上に、艶々としたごはんが炊けている。底にぐっとしゃもじを入れると、見事なきつね色のおこげごはんが顔を出して香ばしい香りもしている。大成功!
さっそくお味噌をのせて口に運ぶと、まるで焼きおむすびのようなおいしさ。なんと幸せなことだろう。ちなみにこの「おこげコース」で炊いたごはんは、おこげがない上の部分も甘みやねばりなどが極上。時間がある休日の楽しみとして、とっておきのコースになりそうだ。
玄米もカニ穴ができた!
玄米はどうか。炊飯時間は約110分と2時間近くかかるが、浸水の時間が不要なので手軽に炊くことができる。炊きあがりはカニ穴が出来ていて、口に運んでみても、ふっくらと食べやすい。
白米のおいしさを追求した炊飯器だが、かまど炊きだからこその玄米ごはんもなかなかのもの。食卓に上手に取り入れれば、メリハリのある健康的な食生活が送れそうだ。
もしかしたら白米以上かも! 絶品の炊き込みごはん
炊飯メニューは全部で9種類とシンプルな炊飯器だが、もう1つ試してみたかったのが炊き込みごはんだ。調味料の配合や、具材の分量などにもよるのだろうが、味そのものはちょうどよくても、べたついたり、ぱさついてしまったりと、ごはんそのもののおいしさはなかなか引き出しにくい。
今回は冷蔵庫にあった食材(ブラウンえのき、人参、ちりめんじゃこ)と、乾物の芽ひじきで炊き込みごはんを作ってみた。取説をみると「具はリング状にのせてください」とある。これまで具は上にのせてかき混ぜない、ごはんに混ぜ込むなどの方法は炊飯器ごとに違っていたが、リング状にのせるというやり方は初めてだ。
乾物の芽ひじきは洗っただけで、戻さずにそのまま投入するやり方のせいもあり、どんなに端に寄せても真ん中に浮いてきてしまい、けっこう大変だったがなんとかリング状にして「炊込み」コースで炊飯スタート。途中の様子を確認すると、炊き込みの場合も真空や圧力機能が働いているようだ。
炊きあがるまで50分。ふたを開けると具はいくらか中央に寄っている。かき混ぜるときにびっくりしたのが、しゃもじがさっくりと入り、ごはんがちっともべたついておらず、1粒1粒がはっきりとしていること。炊き込みごはんでこのしゃもじの感覚は珍しい。そして、この深いお釜が上部にたっぷりの空間を生み出すため、炊き込みごはんをかき混ぜる際にとてもやりやすいのも新しい発見だった。
かき混ぜた時の印象は、食べた時の食感にもつながるもので、家族に「これは絶品! うまい!」と言われたほどの見事な炊き上がり。味のバランス云々ではなくて、炊き込みごはんなのに、粒感が感じられて、でもパサパサしているわけではなく、かむほどにちょうどよい粘りがあるのだ。この感動は白米の甘みを超えているかもと思ったほど。この炊飯器を手に入れた方は、ぜひ炊き込みごはんも試してほしい。
お手入れ楽々、炊くたびに気分が上がる炊飯器
最後に普段のお手入れについてふれておきたい。この炊飯器は蒸気口(ケースは2分割できる)と内ぶた、そして内釜と部品数がとても少ないので、お手入れが簡単だ。炊飯後、本体や内釜がある程度冷めたら、内ぶたと蒸気口を取り外して水洗いする。内ぶたの内釜側についているフィルター部も毎回指でひねって外して洗うようにしたい。
羽付きの内釜は、大きいものの重さをはかったところ約1.5kgなので、思ったよりは軽めの印象だ(予想では2kg程度あるかと感じていた)。しかも羽があるため、ここに手をかけられるので、シンクで水洗いする際にも洗いやすく、手首に負担がかかりにくい。
取説には1週間に1回程度、煮沸クリーニングをすることが推奨されている。そのやり方は1.5合の水位線に合わせて内釜に水を入れ、そくうまコースで炊飯スイッチを押すだけと簡単だ。保温になったら、スイッチを切って本体が冷めるのを待ち、いつものとおりにそれぞれのパーツを水洗いすれば終了。炊き込みごはんの後にこれをしておくと、ニオイが残らず、気持ちよく使える。
羽釜のような形の内釜が、炊飯器本体にセットした際に上に顔を出す様子を見ると、なんだかうれしくなってごはんを炊くたびに気分が上がるということ。白米はこれまで以上にぐんと甘みが増し、ついついごはんを食べる量が増えてしまった気がする。
少人数家族であっても、この炊飯器なら0.5合から5.5合までどんな量でも自在に炊きあげるので、置き場所が許すなら買って損はないと思う。
炊きあがりを見て笑顔になり、ごはんを口に運んでもっと笑顔になる。60周年の集大成というその名に偽りなしの炊飯器だ。