インタビュー
パナソニック「アラサー向け家電」の狙い
パナソニックの“アラサー世代”向け家電シリーズ「NIGHT COLOR(ナイトカラー)」。ラインナップは冷蔵庫/洗濯機/炊飯器/掃除機/オーブンレンジ/空気清浄機の6モデル |
このナイトカラーシリーズの特徴は、30歳前後のシングル層を中心とした、いわゆる“アラサー”世代向けの家電シリーズであるということ。学生などに向けた新生活家電というのは良くあるが、それ以外の世代向けというのは珍しい。しかも本体カラーは、生活家電では珍しい“黒”で統一されている。
この“黒い白物家電”の狙いとは一体何か。パナソニックのプロジェクトメンバーに話を聞いた。
●アラサー世代にフィットする家電は意外と少ない
――まずは、ナイトカラーシリーズを投入した意図を聞かせてください。
アプライアンス・ウェルネスマーケティング本部 商品グループ 商品企画チーム 主事 消費生活アドバイザー 井出国彦氏 |
井出 ナイトカラーは、晩婚化により増加傾向にある、30歳前後のシングル層の「アラサー世代」のための家電シリーズです。
従来までの生活家電は、夫婦と子供2人という、いわゆる“標準世帯”向けの商品が多く、これらの層をマーケティングしていれば、おおむね売れていたところがありました。しかし最近は晩婚化が進み、シングル層、DINKS層(子供のいない夫婦家族)という、少人数世帯が増えてきました。35歳になっても4割が未婚というデータもあります。
典型的な家族というものが、昔とだいぶ変わってきたため、その“アラサー”世代のライフスタイルを研究し、そこにフィットする家電を展開していこう、というのがナイトカラーの狙いです。
――きっかけとなったのは。
井出 もともとはアラサー世代の社員がアイディアを温めていました。自分たちにフィットする生活家電家電があるかと考えたら「意外にない」ということでした。
たとえば、新生活を始める際に購入した、低価格かつ単機能な家電が壊れた際に、また同じ製品でいいのかというと、違うと思います。かといって、500Lの大型冷蔵庫や、容量9kgの大型ドラム式洗濯機を、シングル・DINKSの30歳くらいの人が買うかというと、これも違うと思います。単機能からワンランク上の、ちゃんとその人たちのライフスタイルに合った製品があるのではないか、と。
そういうわけで、“自分たちが欲しい”家電を作ろうと、アラサー世代を中心にプロジェクトメンバーを組みました。まあ、私は35歳以上なんですが(笑)。
●アラサーは夜に家事をする
――アラサー世代にちょうどよい家電というと、どういったものになりますか。パナソニックが行なった調査では、仕事がある日の家事を21時以降に行なっているというケースが多かった |
また、ワンルームに住んでいる人にも置けるようなサイズ感や、デザイン性もこだわりっています。まとめれば、スペック、デザイン、サイズの3点が、ナイトカラーの3つの柱となります。
鈴木 デザインだけで選んだら海外ブランドだったり、デザイン家電メーカーさんからも出ていると思うんですが、デザインだけではなく、機能面も充実できるというのは、パナソニックだからこそできることではないかと思います。
――ナイトカラーの6製品について、どういった基準で選んでいますか。
アプライアンス・ウェルネスマーケティング本部 コミュニケーショングループ クリエイティブチーム 主事 鈴木拓也氏 |
スペック面で特にこだわったのが、結婚しても使えるもの、という点です。アラサー世代は結婚するかもしれないし、結婚しないかもしれないし、という中で揺れ動いていると思うんですが、結婚しても使えるのであれば、安心して購入していただけるのではと思いました。
井出 結婚しても、全部家電を買い直すのではなく、お互いの家電を持ち寄って使うケースが多くなっています。調査でも、半分ぐらいがそういう人という結果になりました。
鈴木 プロジェクトメンバーの中には、洗濯機は旦那さんが使っていたシングル向け洗濯機を使い続け、新調したのは冷蔵庫だけ、という者もいましたね。
●“生活家電に興味がない世代”に届くカラーが黒
――柱の1つとなるデザインについてですが、ナイトカラーは全機種が黒で統一されている点も特徴となっています。しかし、生活家電で「黒」という色を採用している例は、大手メーカーではあまり見られません。カラーを黒に決定するまでの経緯を教えてください。
デザインカンパニー HAデザイン分野 HA先行開発グループ グローバル企画チーム 主任意匠技師 三浦斉氏 |
そこで調査した結果、アラサー世代の特徴に“生活家電にこだわりを強く持っていない”というのが結果として出ました。自分の趣味に対するこだわりはあるんですが、家電ならコレでいい、というような感じで。そこでひとつの切り口として、前に出てくる色よりも“黒子”的なイメージのものが良いのではないか、ということで黒というアイディアが出ました。
また、アラサーのベーシックなライフスタイルや上質を求める価値観にフィットし、トレンドを先取りする色になるのではないかという考えも頭にありました。
生活家電は“白物家電”と言われるように、白やシルバーが多い傾向にあります。黒といえばAV家電が主流で、中には合わないだろうという声もありましたが、スケッチ画でアラサー世代の女性にヒアリングをしたところ、「高級感がある」など、我々が思うよりも反応は良かった。プロジェクトメンバー内でも「白よりもピンとくる」という意見があり、黒で攻めていこう、となりました。
鈴木 (アラサー世代は)AV家電にはこだわりを見せているんですけど(笑)。このほかにも、もともとBEGiNシリーズが白でしたし、“はじまりの白、ひとつ上の黒”というコントラストが付けられる、というのもありました。
製品を近くで見ると、部分的に細かい柄「小紋柄」が入っている |
三浦 黒に決めたのはいいですが、次に黒が持っている色の魅力をどう伝えていくのか、というのが課題となりました。というのも、家電製品はどうしてもプラスチックが主流になりますが、黒のプラスチックのままでは高級感を出しにくい。ただ、高級ランクの製品ではないので、これもしたいあれもしたいだと高額になってしまいます。
そこで着目したのがパターン(柄)でした。遠くから見ると黒だけど、近づいたら質感が見えるようなことはできないかと。
ナイトカラーで採用しているのは、日本伝統の「江戸小紋」に範を取った、オリジナルパターンです。江戸小紋の中には行儀小紋という、フォーマルにも使えてカジュアルにもなるといった柄がありますが、これを現代風にアレンジしています。冷蔵庫ではガラス扉に採用していたり、そのほかの製品では樹脂の上にプリントしたりなど、部分的に使用しています。
●デザイン部門とマーケティング部門が直接話し合うのは珍しい
――プロジェクトメンバーがどうやって組織されたか、という点も聞かせていただけますか。
アプライアンス・ウェルネスマーケティング本部 コミュニケーショングループ 宣伝企画チーム 岡橋藍氏 |
鈴木 商品開発の初期段階から3部門が加わっているのは珍しいやり方ですね。
井出 従来のやり方とは全然違います。通常の自分達の仕事に含まれない部分にも、全員が関わっています。例えば鈴木はコミュニケーション部門に所属していますが、通常はこういう洗濯機が出るからこういう広告を作る、というのがメインの仕事です。しかし今回は、掃除機やレンジや炊飯器など、すべての製品の初期段階から関わっています。デザインに対しても意見をぶつけ合いました。
岡橋 特に、デザイン部門とコミュニケーション部門が商品企画の早い段階で論じ合うのは珍しいですね。
井出 通常は、デザイン部門はBU(ビジネスユニット)という製品を作る部署と主にやりとりをしています。コミュニケーションとデザインで一緒にやるのはなかなかないです。
――デザインのダメ出しもしましたか。
鈴木 まあ、かなり(笑)
三浦 いただきましたね、ダサいとか(笑)。ただ、それは我々デザイン部門の人間にとっては良いことで、マーケティングは市場に一番近い意見を持っているので、指摘が当たっている部分が多かったです。できること、できないことを確認し合いながら、なんとか商品をまとめ上げていった、という感じですね。
――部署が分かれているので、集まって打ち合わせをするというのは難しかったのでは。
井出 三浦以外は東京に居るので……。
鈴木 三浦さんさえ来れば(笑)
三浦 デザインは開発現場側に拠点を置いているため、私は別の場所で勤務しています。生活家電のデザインのメンバーには、東京で貰った意見を私から伝えています。東京に来てはタタかれて、帰ればデザインのメンバーからタタかれてといった感じで(一同笑)。
デザインはプロジェクトメンバー全員で意見を出し合ったという |
●機能もアラサー向け。売り上げは昨年の同等商品の2倍に
――ここからはそれぞれの製品にスポットを当てたいと思います。まずは、ガラスの光沢が美しい冷蔵庫「NR-C379MG」から、特徴やポイントなどを聞かせてください。
ガラスのフラット扉が美しい冷蔵庫「NR-C379MG」。日本ではガラスを採用しているのは少ないという |
井出 容量は365Lです。冷凍食品が多く入るよう、冷凍庫の容量を大きめにしています。自動製氷機能もあるので、夜家事での時短に繋がると思います。
――掃除機はスティック型掃除機の「MC-U52J」ですが、一般的なキャニスター型と違って運転音が大きいため、夜の家事には向かないと思うんですが。
鈴木 掃除機は悩みました。スティック型は確かに運転音は大きめですが、部屋の片隅に置いておけるので、いつでも使えるという点を優先しました。
井出 気付いた時にササッとできるということで、これも時短を狙っています。
――炊飯器「SR-HA102」は5.5合炊きのIH式です。
鈴木 一週間分のごはんを炊いて冷凍するという用途を考え、5.5合炊きを採用しました。調査によるとアラサー世代の炊飯量の平均は3合だったので、余裕があった方が良いだろうということで決めました。
井出 炊飯方式がマイコン式でなくIH式なのは「おいしさ」を優先しました。“次に炊飯器を買うときは美味しいものを”という人が多くなっています。
掃除機はスティック式の「MC-U52J」。部屋に置いておきサッと使えるという“時短”効果を狙う | 炊飯器「SR-HA102」は、安いマイコン式よりも火力が強いIH式。5.5合炊きで、たくさん炊いた後に冷凍保存するという用法を想定している |
――続いて洗濯機ですが、洗濯乾燥機という選択肢もあったと思うんですが。
井出 それもニーズとしてあるのですが、価格面を重視しました。ただし、インバーターを搭載しているため静音で、洗濯時の運転音は約33dBと静かです。夜使われても気にならないと思います。また、クリーニングに出すような衣類も洗える「おうちクリーニング機能」も備えており、セーターやジャケットなどが洗えるので、クリーニングに出す時間がないという人にも向いています。
――オーブンレンジは、高級モデルと同じ「3つ星ビストロ」シリーズです。
岡橋 裏返さずに両面焼けるグリル皿や、スチーム機能が付いているので、シングル向けの電子レンジとは全然違うと思います。
井出 シングル向けの製品は、ごはんや冷凍食品を温めるだけですが、これなら魚や肉も調理できます。
鈴木 パンも焼けます。オーブントースターを置くスペースがないという人は意外と多く、パンをフライパンで焼いているという話も聞いています。そういう意味では、アラサーのライフスタイルに合った製品だと思います
――最後に、空気清浄機です。
井出 空気清浄機はアラサー世代では欲しい家電第1位なんです。家事が終わった後の癒し空間を作るという意味で、ラインナップに加えました。
岡橋 朝出て夜帰ってくるとなると、カーテンを開けることも少ないので、換気しないケースが多くなっているようです。また「ナノイー」も搭載しています。
洗濯機の「NA-FS60H1」は、インバーター搭載で夜でも使える静音性が特徴 | オーブンレンジ「NE-A262」は、高級モデル「3つ星ビストロ」と同じシリーズ。肉や魚を焼いたり、スチームを使ったヘルシーメニューも作れる | 実はアラサー世代で「欲しい家電No.1」という空気清浄機。F-PJD35は、「ナノイー」の発生機能も備えている |
――1月に冷蔵庫の販売がスタートし、これで全ラインナップが発売されたことになります(そのほかは2009年中に発売済み)。評判はいかがでしょうか。
井出 冷蔵庫と洗濯機はまだ販売したばかりなので、全ての数字が出揃っているわけではないですが、去年の同等商品と比べてだいたい2倍くらいの販売となっています。もともと立てていた計画通りに来ている感じです。商品別では、レンジと掃除機が特に好評ですね。
実は、プロモーションは2月1日からがメインです。(家電量販店など販売店での)集合展示もこれからとなっています。そのためこれからは、もっと販売が加速していけるんじゃないかな、と思っています。最終的には、去年の同等商品と比べて3倍くらいの売上を目指したいです。
●夜の渋谷ジャックにTwitter、小山田圭吾――アラサーに届くプロモーションも
――先ほど話に出たプロモーションの話についても聞かせてください。
岡橋 いままでの家電では、ファミリー層に届くようお茶の間に情報を届けていたと思うんですが、この世代はそもそもお茶の間にいないと思うので(笑)、その人たちの行動範囲で届けるような、新しいコミュニケーション戦略を狙っています。
鈴木 2月1日から渋谷で始まるキャンペーンでは、店舗が閉店した後のシャッターに、ナイトカラーの広告が出るようにしています。また、24時から25時にかけては、渋谷駅前のビジョンに、ナイトカラーのイメージ映像が流れます。
――流行りのTwitterを使ったキャンペーンもやっていますよね。
岡橋 Twitterを使って、夜家事に関するアンケートを取っています。渋谷駅周辺のショーウインドウの展示に、Twitterのつぶやきを表示するモニターも用意しています。
鈴木 ぜひフォローしてください(笑)
2月1日から渋谷で始まったキャンペーンでは、閉店後のシャッターにナイトカラーの広告が展示されている。写真は東急百貨店のシャッター | 24時から25時にかけては、渋谷駅前の全ビジョンにナイトカラーのイメージ映像が流れる | ショーウインドウには、ナイトカラーの製品のほか、夜家事に関するTwitterのつぶやきを表示するモニターも用意されている |
――プロモーション面といえば、ミュージシャンのコーネリアス(小山田圭吾)さんによる、家電の運転音を使ったテーマ曲を用意されていたのには驚きました。
鈴木 個人的にファンだったというのもあるんですが、家電の運転音を使って音楽を作りたいと思い、小山田さんを起用しました。小山田さんはこの部屋(取材が行なわれた東京パナソニックビルの一室)で家電の音を録音しましたが、意外と家電に詳しかったです(笑)。
●ユーザーが何を求めているかを知り、どうやって提供していくかが重要
――ナイトカラーのように、ラインナップありきではなく、ターゲットに対して製品を投入するというのは新しい試みだったと思いますが、今回やられてみてどのような感想をお持ちですか。
井出 当たり前のことかもしれませんが、ターゲットが望むものを調査して、それに合った製品を展開していくことは、ものづくりをするうえで欠かせないことだと感じました。ユーザーのライフスタイルに合った企画というのは、どんどんやっていくべきだと思います。
ユーザーが何を求めているかを知り、どうやって提供していくかを突き詰めた結果、“黒い白物家電”が誕生した |
お客様が何を求めているかを知り、それをどうやって提供していくかということを、もっと研究して発売していかなければいけないと思います。そこに、デザインや宣伝などが連動してくれば、今までにない、もっと面白い生活家電を出していけるはずです。
――最後に、この記事を読んでいる“アラサー”世代に向けて、ナイトカラーを使うことでこんなメリットがある、ということを語っていただけますか。
井出 ナイトカラーは“どうせするなら素敵な家事を”がテーマです。いやいや家事をやるよりも、自分がワクワクするような家電を使って夜を過ごしていただき、次の日から元気にまた働いていただきたいと思います。
――本日はありがとうございました。
■冷蔵庫「NR-C379MG-CK」 製品情報
http://ctlg.panasonic.jp/product/info.do?pg=04&hb=NR-C379MG-CK
■スティック型サイクロン式掃除機「MC-U52J-CK」
http://ctlg.panasonic.jp/product/spec.do?pg=06&hb=MC-U52J-CK
■炊飯器「SR-HA102-CK」 製品情報
http://ctlg.panasonic.jp/product/info.do?pg=04&hb=SR-HA102-CK
■洗濯機「NA-FS60H1-CK」 製品情報
http://ctlg.panasonic.jp/product/info.do?pg=04&hb=NA-FS60H1-CK
■スチームオーブンレンジ「NE-A262-CK」 製品情報
http://ctlg.panasonic.jp/product/info.do?pg=04&hb=NE-A262-CK
■空気清浄機「F-PJD35-CK」 製品情報
http://ctlg.panasonic.jp/product/info.do?pg=04&hb=F-PJD35-CK
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