インタビュー無印良品のものづくり 後編
前回は、無印良品のものづくりのコンセプト、過程についてお話を伺った。今回は無印良品独特のデザインについて、更には今後の展望について、株式会社 良品計画の生活雑貨部エレクトロニクス・アウトドア担当MD開発 大蔵浩司氏に話を伺った。前編の記事はこちら。
■モノの原型を突き詰めたデザイン
生活雑貨部エレクトロニクス・アウトドア担当MD開発 大蔵浩司氏 |
――無印良品の家電というと、まずデザインに目がいきますが、デザインにはどのようなこだわりがありますか。
新しくデザインを考案するというよりは、その商品の原型というか、本来あるべき形を重要視しています。
商品の本質的な部分を突き詰めていくというのが基本的なコンセプトですので、無駄な装飾とか、派手なモノを極力なくしていきます。
「ものの原型」を突き詰めたデザインという同社の家電製品は、グッドデザイン賞を何度も受賞するなど評価が高い。写真はスチームファン式加湿器とハイブリッド式加湿器 |
――実際にはどのような手順でデザインを商品化していくのでしょうか。
まずは、社内でおおかたのデザインイメージを決定します。難しいのは、デザインを考えるよりも、デザインのイメージをデザイナーといかに共有して、製造担当メーカーさんに伝えていくかですね。
何度もお仕事させていただいているメーカーさんであれば、弊社のコンセプトもよくご理解いただいているので、スムーズにいくのですが、初めてのところとはそれなりに時間もかかります。
デザインを決めるのが難しいというよりは、機能面、コスト面とすり合わせて、最終的なバランスを取るのに苦労します。
――たとえば、御社の製品の中でも「LEDポリカーボネート懐中電灯」は形状がとても特徴的で、デザインコンセプトが主軸にあって開発されたように見えますが。
「LEDポリカーボネート懐中電灯」は、コンセプトありきで作られたまさにウチらしいコンセプト商品です。
一般的な懐中電灯って、本体色が赤やオレンジ色で、とても、部屋の中に置いておけるデザインのものじゃなかったですよね。それで、押し入れや引き出しの中にしまい込んでしまっている。ただ、そうすると停電や、災害時など本当に必要な時に探し出せなかったりして、本来の目的が果たせていないのでは? というの意見が多かったんです。
そこで、部屋の中にそのまま置いても違和感のない懐中電灯を作ろうというのがスタートでした。話しを進めていくうちに、懐中電灯としてだけではなく、ちょっとした間接照明のような使い方ができてもいいよねという意見も出てきて、シェードのように透けさせてみようか、とか置いておける形にしようかといったアイディアがでてきました。最終的には、足下も照らせて、安全性が高いもの、ということでこのようなデザインになったんです。
まず、コンセプトありきで開発が進められたという「LEDポリカーボネート懐中電灯」 | サイズや使い勝手、デザインはこれまでの懐中電灯のイメージとはかけ離れたものだった | 逆さまに置いて、間接照明器具として使うこともできる |
――御社の家電製品のデザイン監修には、プロダクトデザイナーの深澤直人さんが名を連ねています。深澤さんは競合である±0(プラスマイナスゼロ)のデザインもやっておられますよね。その点で特にこだわりなどはなかったのでしょうか。
弊社のアドバイザリーボードである深澤さんには弊社の家電製品を含む生活雑貨商品の監修をお願いしています。年2回の展示会の前に開催されるサンプル検討会にも深澤さんに参加していただき各商品についてアドバイスいただいていますし、商品によっては直接、深澤さんにデザインをお願いしているというケースもあります。
ご指摘の通り、深澤さんはオリジナルで±0というブランドを立ち上げていらっしゃるので、確かに競合でもあるんです。
ただ、弊社の場合はデザイナーの名前を前面に出した商品は作っていないんですね。これも考え方の問題なのですが、無印良品ではデザイナーが表舞台に立つことはないんです。
深澤さんが±0で新しい商品を作り、無印良品でも同じような商品を作っても、それは完全に別のモノと捉えてます。
■「照明といったら無印良品」といわれるような存在へ
――先ほどお話しに出た、「LEDポリカーボネート懐中電灯」以外にも、無印良品の照明器具は、ちょっと変わったデザインや素材を多く取り入れていますよね。
照明器具は、ほかの家電製品に比べると、デザインの自由度は高いですね。家電は中身がきまっているのでそれに合わせて外観を整えるといった作業になるわけですが、照明はイチからデザインを起こせますし、独自性も出せるので、自然に力が入るというところはあるかもしれません。
今後家電分野で特に力を入れていきたいのも、実は照明機器なんです。
電球形蛍光灯を光源としたインテリアライト「ガラス床置きライト」 | 触っても熱くなく、割れる心配もないシリコンを素材とした「シリコン多灯ライト」 | 陶器メーカーと直接かけあって実現したという光が漏れる白磁を採用した「白磁スタンドライト」 |
――具体的には?
まず取り組んでいるのは、白熱電球を使った照明器具の生産中止です。今後はLEDや電球形蛍光灯など省エネ性能が高い、次世代の光源を主力としていきます。
以前から電球型蛍光灯への切り替えとかLEDを光源に使った照明の開発には取り組んできていますが、以前はやはり価格がネックになっていました。それが、昨年あたりからLED電球でも比較的安価なものが登場してきたり、消費者の指向も変化してきているので、移行のタイミングとしては今かなと。
まず、白熱灯を使うものを止めようということになりました。具体的には今年の春の新商品から完全に移行となりますが、今は製品を整理して、具体的な置き換えプランを練っているところです。
――移行にあたって難航したとことはどんなところですか。
考え方についてはスムースにいきました。LEDの光自体はまだまだ未成熟な分野で、ダイニングやリビングに置く、メイン照明としては、光りの強さや拡散など、乗り越えなければならないハードルがあります。
そこで、メインではなくて、インテリア照明とか、LEDが得意な直下の光を使ってデスク周りのタスクライトとして採用していきます。光源の移行によって消えていく商品もありますが、そこは思い切って、割り切っていかないと変えられませんから。
電球形蛍光灯などに比べ光が弱いLED電球は、デスクライトなどスポット的に使用している「LEDスリムデスクライト」。2月中旬発売予定 | 「LEDデスクライトベース付」2月中旬発売予定。 | LEDフックライト |
――電球形蛍光灯やLED電球は今注目されている光源だけあって、今年は各メーカーが対応照明器具を出してくると思いますが、どう差別化されていくのですか。
市場の中でもリーダーシップが取れるぐらいのポジションを狙っています。
LEDや電球形蛍光灯をプラスポイントとして考えたときに、デスクライトだったらこれくらい、という価格のイメージがあると思うんです。そこの線になるべく近づけていくことですね。
現時点ではまだまだ割高感がある製品だとは思いますが、将来的にはもう少し安く販売できると思うんです。あとは、部屋に置いたときの印象であったり、光の漏れ方などのデザインにもかなり気を遣っています。
「照明器具を買おう」と思って、実際に行きたいと思う店舗がすぐに浮かびますか?
家電量販店だったり、インテリアショップだったり、色々選択肢はあると思うんですが、デザイン面や価格面を考慮すると、実は照明器具って結構迷う買い物だと思うんです。そこを、「まずは無印良品にいってみよう」と思っていただけるようなラインナップや価格を揃えていきたいですね。
LEDを光源とした「LED持ち運びできるあかり」 |
――デザイン面ではいかがでしょう。
基本的なコンセプトは家電と同じです。光り方はもちろん、日中の点灯していない時のたたずまいが、インテリアのノイズになっていないか、黒子のような、生活に溶け込むデザインというのを目指しています。
弊社では家具も作っておりますので、家具と素材感を合わせてスタンド部やシェード部に同一の素材を採用したり、形状に工夫をこらし組み合わせた時に、違和感がないようなことも気を遣っています。
■ユーザーの求める普遍的な商品を作り続ける
IKEAさんやニトリさんが強みとしているコストパフォーマンスについては、やはり我々も無視できないというのは正直なところです。そのために、弊社の内部の取り組みとして、工場と契約を結び、中間業者をなくして直接取引することによって、コストダウンを図り、工場に入り込むことでより精度の高い商品に仕上げていこうという動きがあります。
家電製品に関しては、まだその体勢までもっていけてないというところが正直なところですが、価格に対しての認識は厳しくもっています。
――無印良品に求められている家電製品というのはどういうものだと考えていますか。
そうですね、家電製品というのは大きく分けると、価格重視の商品と、すごく付加価値がついて高機能、高価格帯の商品があると思うのですが、意外とその中間の商品って、探すとなかったりするんです。話の始めにも出ました「これでいい」の「で」に繋がるんですが、そのちょうど真ん中の抜け落ちている部分に向けて、商品を作っていきたい。それが普遍的な商品になるのではないかと思っています。
一般のメーカーさんですと、カテゴリーの数やラインナップも多いですが、無印良品ではカテゴリー毎に最適・最小の品揃えを構築しています。それを磨いていく感じですね。商品は一度つくりあげても時代とともに新しい機能がお客様に求められたりして、スタンダードが時代とともに変わっていくものだと思いますので、常にそれに倣っていくという作業の繰り返しなのかなと思っています。
いまラインナップされている商品がブラッシュアップされて時代に合ったよりよいものになっていればいいなと思いますね。
2010年1月27日 00:00