大河原克行の「白物家電 業界展望」
スリムイオンファンでプラズマクラスター事業は新たなフェーズへ
シャープ 健康・環境システム事業本部プラズマクラスター機器事業部 鈴木隆事業部長 |
「2012年度からプラズマクラスター事業は、新たなフェーズに入ることになる」
健康・環境システム事業本部プラズマクラスター機器事業部の鈴木隆事業部長はこう切り出した。シャープは、5月15日から高濃度プラズマクラスター25000を搭載した「プラズマクラスタースリムイオンファン」と、高濃度プラズマクラスター7000を搭載した「プラズマクラスター扇風機」2機種をそれぞれ発売するが、これらの製品がプラズマクラスター事業において新たな位置づけを担うものになると語る。
一方で、1月に新設した健康美容事業推進センターによる理美容分野での展開、海外事業の拡大、そして、当然のことながら、プラズマクラスター搭載空気清浄機やイオン発生機を中核としたラインアップの強化が、2012年度の重点課題になるとする。新製品への取り組みを通じて、シャープのプラズマクラスター事業の今を追った。
スリムタワーファン「プラズマクラスタースリムイオンファン PF-ETC1」(想定売価:4万円前後) | 「プラズマクラスター扇風機 3Dファン PJ-B2CS」(想定売価:22,000円前後) |
■「健康性能」を搭載した新たな製品展開
プラズマクラスターイオンは、2000年にシャープが開発。今年で12年目を迎えた。
空気中にプラスとマイナスのイオンを放出することで、カビや菌、ダニなどのアレル物質や、ウイルス、臭いなどを分解および除去。ここにきて、肌の保湿にも効果があることが第三者機関による実験で実証されている。
そうした中、健康・環境システム事業本部プラズマクラスター機器事業部の鈴木隆事業部長は、「これまでプラズマクラスター機器事業部が取り組む製品は、空気清浄機およびイオン発生機を中心とした提案であったが、これからは、融合型あるいは市場創造型の製品、そして、健康に貢献する製品としての役割が重要になるだろう」と語る。
その象徴ともいえるのが、5月から発売する「プラズマクラスタースリムイオンファン」、および3Dファンとハイポジションリビングファンの2製品で構成される「プラズマクラスター搭載扇風機」である。
従来の扇風機は、涼しいという機能性が評価のポイントだが、シャープの提案は、涼しいという要素だけには留まらない機能を前面に打ち出そうとしている。
それは「健康性能」といっていい。
日本においては、エアコンの普及によって、扇風機は補助的な使用方法がもともと多かったが、節電意識の高まりなどに伴い、昨年来、扇風機を長時間利用するといった使い方が増えている。
シャープは、2011年6月に、プラズマクラスターを搭載した扇風機を発売。この市場に10年振りに再参入し、この5月には第2弾製品を発売する。
この新製品では、節電指向の高まりによって扇風機を長時間使用するといった用途や、有害物質などが外から侵入する不安を背景に、窓を閉め切って生活するといった人が増えている状況を捉え、「健康性能」という観点での強化を図っているのが特徴だ。
「プラズマクラスタースリムイオンファンは、新たに採用したエアロダイナミックフォルムにより、広い部屋の遠くところまで、しかも体にやさしいやわらかな風を届けることができるのが特徴。直接風を当て続けていても、体の熱を奪わないため、長時間使用しても健康に配慮することができる」とする。
本体正面 | 送風口から本体前面の吹き出し口までの送風経路を、少しずつ広げることで柔らかな風を遠くまで届ける「エアロダイナミックフォルム」を搭載する | 風向きは横方向に約60/90/120度調節可能 |
また、「高濃度プラズマクラスターの最適運転を自動設定できるイオンモードを搭載しており、閉め切った室内を清浄したり、衣類の部屋干しの際にも脱臭できるといった使い方ができる」と語る。
送風ファンには、トンボの羽根形状を応用したネイチャーウイングを採用しており、17dbの静音性で風がスムーズに流れ、扇風機として利用しなくても、部屋中にプラズマクラスターイオンを広く放出することができる。
「押し出す力で、やさしい風を、遠くまでとばすことができるというプラズマクラスタースリムイオンファンの風は、まさに、プラズマクラスターイオンとの相性がいい」と鈴木事業部長は語る。
そして、同時に発表したプラズマクラスター扇風機では、3Dファンと、ハイポジションリビングファンの2種類を用意。3Dファンでは、直進性が高いアホウドリの羽根の形状を参考にしたネイチャーウイングの採用により、上90度下10度、左右で90度の上下左右の3次元自動首振りによって、部屋全体に高濃度プラズマクラスターを届ける。
プラズマクラスター扇風機 3Dファン PJ-B2CS | PJ-B2CSの羽根 | PJ-B2CSの羽根には、アホウドリのような細く鋭い翼形状を採用 |
ハイポジションリビングファンでは、数千kmもの海を渡るアサギマダラ蝶の羽根形状を応用したくびれの形状を持った羽根7枚で構成。一般的な形状をした14枚羽根相当のやわらかい風を生むことで、送風のムラが少なく、広がりがあるなめらかな風を生むことにつながっているという。
リビングファン「PJ-B3CXH」 | PJ-B3CXHの羽根のモデルとなったのは、海を越えて飛ぶ「アサギマダラ蝶」 | 全体的にくびれているが、これにより羽根の外周部や中央付近から効率良く風が送れるという |
■扇風機というカテゴリーの枠からは外す
鈴木事業部長は、これらの製品を、むしろ「扇風機というカテゴリーの枠からは、外して捉えたい」とする。
新製品を扇風機としながらも、製品名には「ファン」という呼称を用いていることもその姿勢の表れだ。
「涼しくするだけの機能であれば扇風機という呼称でいいが、健康性能を加えたシャープの扇風機は、これまで日本にはなかった『ファン』という製品領域を作り上げるものにしたい」と意気込む。
そして、あえていまの製品領域で分類するならば、「プラズマクラスターイオン発生機のなかに分類される製品になるだろう」とも語る。
ファン(扇風機)の風を利用して、プラズマクラスターイオンを室内に放出するという点では、確かにイオン発生機と発想は同じだ。
もちろん、新製品はこれからの季節は扇風機売り場に置かれることになるだろう。しかし、それと同時に、プラズマクラスターイオン発生機が展示されているような空気清浄機関連製品の売り場のほか、新たなデザインの採用により、薄型テレビと親和性が高く、低騒音で邪魔にならない特徴を生かすことで、液晶テレビ「AQUOS」の売り場にも連動展示できると見込んでいる。
「とくに、プラズマクラスタースリムイオンファンは、扇風機のような季節商品としてではなく、1年間に渡って販売することができる製品へと育てあげたいと考えている」
その点でも扇風機とは異なる「ファン」という新たな製品カテゴリーの製品とし、むしろ、1年間に渡って販売できるイオン発生機と同じ製品特性に位置づけようともしている。
振り返ってみれば、空気清浄機分野でシャープが高い評価を得はじめたのは、空気清浄機にプラズマクラスターイオン機能を搭載してからだ。
もともと空気清浄機の機能は、タバコの煙を吸収したり、脱臭するという用途が中心だった。しかし、プラズマクラスターイオン機能を搭載して以降、アレル物質やインフルエンザへの対策用途としての需要が高まり、健康を意識した使い方が増えていった。健康性能の評価が高まることによって、空気清浄機市場が拡大したという経緯がある。
これと同様に、プラズマクラスタースリムイオンファンおよび2種類のプラズマクラスター扇風機も、これまでの扇風機とは異なる新たな需要を喚起する狙いがあるともいえそうだ。
■重点分野を担う健康美容事業推進センターとは
実はこうした製品づくりの考え方は、プラズマクラスター搭載製品全体に広がっている。
鈴木事業部長は、これまでのプラズマクラスターイオン搭載製品が空気清浄機やイオン発生機といった空気の浄化に特化した製品に搭載したり、冷蔵庫、洗濯機、エアコンといった白物家電のメジャーアプライアンスの差別化機能として搭載してきた時期を第1フェーズに位置づける一方、今回のプラズマクラスタースリムイオンファンをはじめとする製品群の投入を、第2フェーズと位置づけ、今後の製品ラインアップの方向性を示す。
つまり、既存製品とプラズマクラスターとの融合によって「健康性能」の強みなどを訴求するのが、新たなフェーズでの提案となる。
その戦略的組織となるのが、2012年1月16日付けで、プラズマクラスター機器事業部内に新設した健康美容事業推進センターである。
もともと別部門で担当していたプラズマクラスター搭載ドライヤーを、プラズマクラスター機器事業部に移管した組織だが、同事業推進センターでは、今後はドライヤーだけでなく、健康および美容に関する製品群において、プラズマクラスターを搭載した融合型製品を開発することになる。
「理美容事業推進センターではなく、健康美容事業推進センターという名称にしたところに意味がある。健康性能を重視した、市場創造型製品の創出を狙っていく」と、自ら組織名を命名した鈴木事業部長は、その意図を語る」
プラズマクラスタードライヤー IF-PB1 |
プラズマクラスター搭載ドライヤーも、単なるドライヤー機能だけではなく、プラズマクラスターイオンによって、髪の毛をケアするという健康性能を持つ。日差しの強い夏場に痛んだ髪に、プラズマクラスターイオンの効果が発揮されるというわけだ。
「健康美容事業推進センターにおける取り組みは、2012年度における重点分野の1つ」と語る鈴木事業部長は、もともと現場主義を貫いてきた。「わからないことがあったらすぐに現場に行くことを繰り返してきた」と自らも語る。しかし、健康美容事業推進センターで企画開発する製品は自ずと女性向けのものが多くなる。そこで、鈴木事業部長は、男性ではなく、これらの製品の現場に直接タッチすることができる女性を事業推進センター長に抜擢。さらに女性の構成比が多い組織とし、「現場型」体制を維持することにこだわった。
「新たな企画が出てきたときに、それを製品化するための技術やプラットフォームを用意しておくのが私の役割。1年目となる2012年度にどんな製品をラインアップできるか。これが、今後の健康美容事業推進センターの成長に影響するだろう」とする。
もともとプラズマクラスター機器事業部も、事業推進センターからスタートし、事業部へと昇格した経緯がある。健康美容事業推進センターも、今後3年程度で事業部へと昇格することが、1つの目標となりそうだ。
■海外事業の強化にも取り組む
インドネシア向けのヘルメット用プラズマクラスターイオン発生機 |
2012年度におけるもう1つの重点分野が、海外戦略である。
鈴木事業部長も、「プラズマクラスターイオンをグローバルに拡大するのは、この製品に関わるモノづくり、営業、マーケティング全員に共通した課題」と語る。
すでに実績があるASEAN地域では、シャープ全体として、個展、合展といった日本での実績を背景にした販促施策を展開しており、これが説明型製品あるいは体感型製品と位置づけられるプラズマクラスターイオン搭載製品の販売に、追い風ともなっている。
また、プラズマクラスターイオンを搭載した洗濯機などのほか、ヘルメットの除菌、脱臭などを行なうイオン発生機といった、ASEAN市場に特化した製品投入も始めている。
ASEANに続くターゲット市場となっているのが中国だ。
「中国では空気に対する関心が高まっており、これがプラズマクラスターイオンを搭載した空気清浄機の販売増加につがっている。2011年度下期(2011年10月~2012年3月)には前年同期比で2倍以上の販売実績になっている」という。
中国の空気清浄機の市場規模は、年間70万台程度とまだ小さく、市場も北京や上海などの大都市圏に限られているが、2012年度は1.5倍以上の市場成長が見込まれ、さらにその後も継続的な成長が想定されている。
その背景にあるのが、昨今、中国において話題となっている「PM2.5」の動きである。
PM2.5とは、直径2.5ミクロン以下の微粒子のことで、これが大気中にどれぐらいあるのかといった数値が中国などで公表されはじめている。結果として、中国が大気汚染にさらされており、ぜんそくなどが発生しやすい状況にあるといった指摘が出はじめているのだ。
こうした動きのなかで、シャープの加湿空気清浄機は、中国政府衛生部から「空気消毒機」としての認証を獲得。政府からの「お墨付き」がシャープの空気清浄機の販売を後押ししている。
「海外では、一気に事業を拡大するというよりも、アカデミックマーケティングなど、日本で成功した取り組みを海外に展開し、認知度を高め、効果や効能を理解していただけるような訴求を行なっていく」としている。
■空気清浄機分野でも進化を遂げる
もちろん、空気清浄機やイオン発生機も、プラズマクラスター機器事業部における2012年度の重点分野の1つになる。
この領域について鈴木事業部長は、現時点では詳細な中身については言及を避けたが、例年、夏以降に新製品が発表されることを考えると、その時期になにかしらの製品投入を期待してもよさそうだ。
「夏になれば、2012年度の方向感を明確なキーワードとして示すことができる」と鈴木事業部長は、次の製品に対して新たな取り組みを計画していることを明かす。
果たして、どんな製品が出てくるのか。今年度もシャープの動きが注目されることになりそうだ。
2012年4月26日 00:00