そこが知りたい家電の新技術

パナソニックのシェーバー「ラムダッシュ」は、なぜ“5枚刃”に増えたか

by 正藤 慶一
パナソニックが4月に発売した高級シェーバー「ラムダッシュ ES-SV61」。外刃が5枚という、他社でもあまり見られない構造が特徴だ

 2011年4月、パナソニックの高級シェーバーブランド「ラムダッシュ」から、他社とは明らかに異なる電気シェーバーが発売された。外刃に5枚の刃を設けた“5枚刃”の「ES-SV61」など、2011年モデルの全5機種である。

 これまでの電気シェーバーでは、外刃の枚数は4枚が最多だった。5枚刃のメリットとしては、刃の設置面積が拡大することで、肌に掛かる負担を減らし、さらに、くせヒゲを捕えやすい刃を追加することで、シェービングスピードもアップするという利点があるという。


5枚の外刃のアップ写真。なぜ、他社でもやらない「5枚刃」に挑戦したのか?

 しかし、外刃の数が5枚というのは、他社と比べても多い。パナソニック以外のシェーバーで、外刃が3枚刃を超える機種はあまり見られない。というか、これまで最多だった“4枚刃”も、2007年に発売されたラムダッシュが初めてだった。つまり、パナソニックだけが、シェーバーの外刃を増やし続けていることになる。

 パナソニックはなぜ5枚刃のシェーバーを作ったのだろうか? その背景を探るために、滋賀県彦根市にある、パナソニックのシェーバーの開発を担う、パナソニック電工 彦根工場に足を運んだ。


当初は5枚刃のシェーバーを作る話はなかった。しかし、ある刃の誕生が流れを変えた

 彦根といえば、国宝の彦根城、戦国武将・石田三成の居城として知られる佐和山城跡、“ゆるキャラ”のひとつである「ひこにゃん」などが有名だが、同社の彦根工場も2月で創立50年を迎える伝統の工場。シェーバーをはじめ、ドライヤーや美顔器などの理美容家電、ソファー形のマッサージチェア「マッサージソファ」、パナソニック独自のイオン技術「ナノイー」なども、ここで開発されているという。

 取材の場所となったのは、創業50周年を記念して、同工場内に10月オープンした展示施設『KIZUNA(きずな)館』。施設内には、シェーバーやドライヤーなど、彦根工場で生産した歴代の製品が展示されている。一般の見学も可能だが、事前の申し込みが必要になるとのことだ。

彦根といえば「彦根城」「佐和山城跡」「ひこにゃん」などが有名(写真はJR彦根駅)JR彦根駅と南彦根駅の中間にある、パナソニック電工の彦根工場。シェーバー部門を担当する
今回の取材の会場となった、彦根工場内に作られた展示館「KIZUNA館」KIZUNA館の中には、彦根工場で製造した商品が多数展示されている。過去の古い家電製品も多く存在する

 さて、今回のテーマは「5枚刃のラムダッシュがなぜ生まれたのか」。さっそくその疑問を、パナソニック電工のビューティ・ライフ事業部 商品企画グループ 技師の依田裕希氏にそのまま投げかけてみた。

パナソニック電工 ビューティ・ライフ事業部 商品企画グループ 技師 依田裕希氏

 「はじめから5枚刃のシェーバーを作ろうという話ではありませんでした。新しい外刃『くせヒゲリフト刃』ができ、それを採用する流れで、5枚刃となりました」

 初めから“5枚刃ありき”で作られたシェーバーではなく、新しい刃ができたことで5枚刃が採用された。しかし、その新しい外刃が5枚刃に結びつくというのは、正直あまりイメージしづらい。その新しい刃とは一体何なのか。

 「これまで3、4枚刃のラムダッシュを発売したことで、お客様からはからは、深剃り性能、肌へのやさしさで、かなり高い満足度を頂いていました。次に強化させるべきなのはどこかを考えたところ、剃り時間の短縮や、アゴの下のくせヒゲのカット性能の改善がまだ残っていることに気付きました。電気シェーバーの“くせ毛が剃れない”というイメージを覆すシェーバーを作るために、『くせヒゲリフト刃』の開発が始まりました」

 どうやら“5枚刃”という答えにたどり着くまでには、もう少しこの「くせヒゲリフト刃」を理解する必要があるようだ。


5枚刃を採用したのは、「くせヒゲリフト刃」で従来との性能差を一気につけるため


5枚刃の構造。新採用の「くせヒゲリフト刃」が2枚搭載されている

 新製品で採用された外刃「くせヒゲリフト刃」。この刃の最大の特徴は、従来の外刃では捕えきれなかったヒゲをすくい上げて、しっかりとキャッチする点とのこと。剃り残しが多いのどやアゴ下もしっかりとカットできるという。

 くせヒゲリフト刃がそのような高いカット性能を備えている理由は、刃の薄さにある。

 「従来のラムダッシュの外刃には、厚さ60μm(マイクロメートル。1μmは1/1000mm)と41μmの刃を組み合わせた『フィニッシュ刃』を採用していました。今回のくせヒゲリフト刃では、このフィニッシュ刃に、さらに薄い30μmの刃も組み合わせています。これによって、さらにヒゲを捕える性能が向上しました。特にアゴの下や、首に生えている寝ているヒゲを取り込む性能が大きくアップしています」

こちらが従来から採用する「フィニッシュ刃」の模型。ヒゲが入る穴の一部に、厚さ41μmの薄い刃を採用。ヒゲをより深くカットする構造になっているこちらが、新採用の「くせヒゲリフト刃」の構造。左のフィニッシュ刃と比べると、厚さ30μmのとても薄い刃を備えている点が特徴「くせヒゲリフト刃」を裏から見たアップ写真。写真中央がくせヒゲをすくい上げる部分になる

 電気シェーバーは、外刃の穴に入ってきた毛をカットすることでヒゲを剃る。そのため、外刃が厚いと、その厚み分だけ、短くカットできない。逆に薄ければ、肌に近い所でヒゲがカットできる。これだけを考えると“薄ければ良い”というふうに考えがちだが、薄すぎるのはそれはそれでまた問題のようだ。

 「まず、刃を薄く加工することが難しいです。また、薄くすることで刃の寿命や強度にも影響がでてきます。薄くしすぎると、肌に当てたときに刺激があります。外刃は肌に直接触れるので、なめらかな形状の方が当然肌にやさしくなります。どういう形にするのか、何μmなら問題がないのかなどを検討したうえで30μmとしましたが、これを狙い通りに加工するというのは非常に困難でした」

くせヒゲリフト刃は、フィニッシュ刃よりもさらに薄いため、よりヒゲを捕えやすくなったくせヒゲリフト刃にヒゲが入り込むイメージ。ここで捕らえたヒゲを、内刃でカットする

 新しいラムダッシュでは、5枚の外刃のうち、外側2枚にフィニッシュ刃、その内側2枚にくせヒゲリフト刃を搭載している。中央には、長めのヒゲが取り込みやすいようスリット構造とした「スリット刃」を備えている。

 この新5枚刃を採用することで、くせヒゲリフト刃がない、前年度の4枚刃タイプに比べると、シェービング時間は2/3に短縮したという。

 「4枚でも剃り時間は短かかったのですが、5枚刃の新製品ではそれよりも短く、早く剃れるようになりました。また、剃り時間を短縮することで、肌にシェーバーを押し当てる時間も短くなり、肌へのダメージも減らすことに繋がります」

 しかし、くせヒゲリフト刃を採用するには、別に5枚刃ではなく、4枚刃でも導入できたのではないだろうか。しかし、これを5枚刃にすることが、くせヒゲリフト刃の性能をより引き出すためには重要だった。

 「今までの4枚刃の1枚をくせヒゲリフト刃に取り替える、という案もありましたが、くせヒゲリフト刃が市場に与えるインパクトを最大限に高めるために、一気に2枚載せることを選択しました。シェービング時間が従来の2/3に短縮できるのも、くせヒゲリフト刃を2枚搭載することによるものです。従来との性能差を一気につけることで、“高性能でよくそれるシェーバーはパナソニック”という印象をアピールしたいという思いがありました」

 かくして、5枚刃のシェーバーが誕生した、といいたいところだが、実はこの5枚刃を実現するには、乗り越えるべき大きな壁があったという。


もう十分に小さいモーターを、どうやってさらに小さくする?

 “5枚刃でいく”という方針が決まったものの、刃だけでシェーバーは機能しない。ヒゲをカットする内刃を動かすためのモーターが必要になる。新製品では、このモーターをよりコンパクトにする必要があったという。

 「5枚刃とすることで、外刃を備えるヘッド部分のサイズが前後に大きくなるのは避けられません。ですが、ヘッドが上下方向に大きくなるのは、なるべく抑えたいと考えていました。というのも、前の4枚刃タイプは非常に頭の大きなデザインになっており、今回の5枚刃でそれがさらに大きくなると、シェーバーに大きな塊が乗っかったデザインになってしまいます」

 モーターをコンパクトにしなければいけない理由は、デザイン面以外でも理由がある。ラムダッシュの高級モデルの特徴である動くヘッド「密着トレースヘッド」を機能させるためだ。密着トレースヘッドは、前後左右にヘッドが動くことで、肌に当てるだけで外刃が肌に密着し、あらゆるヒゲを捕えやすくするという、パナソニック独自の機構だ。もし、モーター部分が大きくなり、モーターをグリップ内まで入れることとなると、この密着トレースヘッドが前後左右に動かなくなってしまう。

ラムダッシュシリーズは、ヘッドが前後左右に動くことで、肌に当てるだけで外刃が肌に密着する「密着トレースヘッド」も特徴のひとつしかし、モーター部をヘッドの中に収めないと、密着トレースヘッドが動かなくなってしまう

パナソニックのリニアモーターの変遷。1995年に誕生して以来、2011年で8世代目となる。年々、小型化が進んでいる

 しかし、モーターはすでに小型化が進んでいる。ラムダッシュに搭載されているモーターは、コイルと磁石が生み出す磁力で刃を横方向に動かす「リニアモーター」。1995年に開発されて以降、今回で第八世代となるが、すでにコイルも磁石もだいぶ小さくなっている。

 そこで目を付けたのが、モーター部の両サイドに付いているバネだ。リニア駆動のシェーバーでは、リニアの力で刃を横に動かした後、バネで元の位置に戻す仕組みになっている。その後、さらにリニアで逆方向に刃を動かし、さらに逆のバネで戻すことで、高速で往復運動を行ない、ヒゲをカットしているのだ。

 「新製品では、このバネを極力小さくするように改良しました。バネが小さくなっても、動く幅は従来と同じです。素材には樹脂による成形品を採用していますが、その強度を保つのに非常に苦労しました」

 樹脂バネの小型化に加えて、コイルと磁石も小型化を進めた。この結果、モーター部をヘッドの中に収めることができ、ラムダッシュ伝統の密着トレースヘッドも、継続して採用された。

 「モーターの小型化技術がない場合、ヘッドが前後に動くことはできても、同時に左右まで動かす、というのはできません。当社の高い技術力によって、他社との差別化が可能となり、新しい商品をこうして世に出せるのはうれしいことです」

小型化のポイントとなったのが、バネの部分。ここを樹脂による成形品とすることで、高さを抑えた第7世代のモーターとの比較。リニアモーターがより薄くなった

 “5枚刃”と聞いて刃にばかり注目が集まりがちだが、単に刃を載せただけでは機能しない。それを支えるモーターの進化によって、初めて実現できたものだったのだ。


“業界最速”毎分14,000ストローク……って、速いと何かいいことあるの?

リニアモーターによる内刃の振動は1分間に14,000ストロークとなった。同社では“世界最高速”を謳っている

 ラムダッシュにはこのほかにも、他社のシェーバーにはない特徴的な機能や機構を備えている。

 まずは、リニアモーターの左右の動きが、毎分14,000ストロークと高速な点だ。同社では“世界最高速”を謳っている。しかし、内刃の動きが速いことで、どんなメリットがあるのだろうか?

 「電気シェーバーは、外刃の穴に入った毛を切るわけですが、毛が入った瞬間に刃が来ないと、毛はそのまますり抜けてしまいます。ストロークが早ければ早いほど、一度捕えたヒゲが逃さずカットできる、つまり、確実に剃り時間が短くできます」

 内刃のストロークを高速化するメリットは、時短だけではない。カットするパワーもより強くなるのだ。

 「例えば、木を斧で切る場合、早く斧を動かしたほうが、切断のエネルギーは高くなります。ヒゲも同じで、太くて堅いヒゲが入ってきた時、ゆっくりだと刃が途中で止まり、ブレーキがかかることになります。こうなると、ヒゲが刃に挟まって、肌が引っ張られ、グイッと抜かれるような痛さを感じることがあります。しかし、ストロークが速ければ、一気にスパッと切れるので、なめらかに剃れる、ということになります」

 同社が初めてリニアモーターを搭載したのが、1995年の「リニアスムーサー ES881」。この当時は毎分12,000ストロークだったが、1998年の「リニアスムーサー3D ES8003」で毎分13,000ストロークにスピードアップ。現在の14,000ストロークになったのは、2008年の「ラムダッシュ ES-LA90」からだ。

パナソニック電工 彦根工場の 小松照明工場長。もともとはシェーバーの開発に携わっていた

 この同社最初のリニア式シェーバー「リニアスムーサー」を開発していたのが、現在、彦根工場の工場長を務める、小松照明氏だ。リニアモーター導入以前は、回転式モーターを使っていたとのことだが、その速度は毎分7,000~8,000ストローク程度。さらに、回転式モーターの回転運動を直線運動に変えるという機構も必要になっていたという。

 「リニアスムーサーを開発した当初は、サイズが大きいし重いと言われていました。しかし、ここまでストローク数が上がれば、剃り味は格段に変わるということで発売しました。心配しましたが、お客様には“パワフル”“重量感がある”という声があり、評判は良かった。価格は3万3千円と、当時としては高かったものの、ヒット商品となりました」(小松工場長)

従来の回転式モーターは、本体内部のほとんどがモーター部分となっていたパナソニックが初めてリニアモーターを採用した、1995年の「リニアスムーサー」リニアスムーサーの内部構造
1995年の第1世代のリニアモーター(右)と、最新モデルの第8世代のリニアモーターの比較。同じものとは思えないほど小型化されている

 このように当時は“大きい”と言われていたリニア機構だが、最新のラムダッシュでは、先に紹介したとおり、同じものと思えないほど小さくなった。依田氏も、「回転モーターだとここまでの小型化は難しい。リニアモーターがあって初めてここまでの小型化が実現できた」と話す。


内刃は2002年から続く“鋭角30度”。他社が真似できない理由は、彦根工場の「技術力」

内刃には、2002年の第1弾ラムダッシュより継続して“鋭角30度”を採用

 ラムダッシュの特徴としては、内刃の角度が30度と鋭角な点もある。ラムダッシュでは、シリーズが始まった2002年以来、ずっと30度を維持している。

 「ずいぶん昔の製品になると、内刃が90度近いものもありますが、これはヒゲを引きちぎるようなイメージですね。刃の切断の断面を見ても、“スパッ”というよりも“ブチブチッ”というような感じです。剃り後肌触りもザラザラとしたものになると思います」(依田氏)

 この30度という角度も、くせヒゲリフト刃同様、肌への負担や刃の強度を考慮した上で設定されている。

内刃と外刃の模型図。外刃(白い刃)がヒゲをキャッチし、内刃(グレーの刃)が往復運動により、ヒゲをカットする内刃の断面の模型。一番右が30度で、順に45度、60度、90度となる

 しかし、なぜ他社ができない刃の角度を、ラムダッシュは実現できるのか。小松工場長はその理由として、彦根工場は刃の加工技術が特に優れていることを挙げた。

 「精密な刃を作るためには、精密な金型が必要になりますが、その金型を作るためにはまず精密な刃物が必要になる。しかし、そんな刃物は世の中に売っていないため、自社で作るしかない。まさに“技能”の世界。彦根工場にはそういう技術者がいます」(小松工場長)

 実はパナソニック電工では、旧松下電工時代の1970年代、フィリップス社の刃を使ったシェーバー「フィリシェーブ」を発売していた。しかし、「自分のところで作ろう」という機運が高まり、加工が難しいステンレスの刃の開発をスタート。1996年には、生産技術の研究開発などの功績を表彰する「大河内記念生産賞」に、シェーバーの刃の加工技術が表彰された。ラムダッシュで使用されている刃もステンレス製。ラムダッシュは、彦根工場が培ってきたステンレス刃の加工技術によって支えられているのだ。

 「彦根工場には、代々受け継がれてきたものづくり技術のDNAがあります。それは、新しい商品アイデアを確実に製品化する技術です」(小松工場長)

実は1970年代、松下電工時代にフィリップスの刃を使ったシェーバー「フィリシェーブ」を発売していたしかし、やがて自社で刃をつくろうという機運が高まり、ステンレスの刃の開発がスタートした。写真は1974年の「スピンネット」彦根工場は、シェーバーの刃の加工技術について、生産技術の研究開発などの功績を表彰する「大河内記念生産賞」を受賞している


売上も評判も好調。使って初めて分かる“肌へのやさしさ”

 これらの独自技術を採用した5枚刃のラムダッシュは、4月に発売された。同社によれば、売上は非常に好調とのこと。当初は毎月2万台の売上を見込んでいたが、実際は毎月2万1千台と、予想を上回る実績をあげている。また、既に累計で約15万台の販売を達成しているという。

パナソニックは11月3日、「同時に電気シェーバーでヒゲを剃った最多人数」のギネス世界記録に挑戦。合計で1,981人が、5枚刃ラムダッシュで同時にヒゲを剃った

 ユーザーからの評判も高い。11月3日に同社が実施した「同時に電気シェーバーでヒゲを剃った最多人数」のギネス世界記録挑戦では、同イベントの参加者によるアンケートにて「よく剃れた」が97%、「深剃りを実感」が95%、「やさしさに満足」が96%と、非常に高い満足度を得ている。このイベント以降、更に5枚刃の人気が高まっているという。

 依田氏によると、5枚刃のラムダッシュを使用した人がまず感じることは、肌へのやさしさだという。肌への接触面積が拡大することで、肌にかかる圧力が分散されるのだ。

 「5枚刃になって、肌にかかる圧力が分散される効果により、触れた時のソフト感はかなり向上しました。また、密着トレースヘッドの動きがさらになめらかになり、肌に当たればぴたっと密着します。当てた瞬間に“前のと違う”ということを感じた、という声を良く耳にします」

 4枚刃タイプのラムダッシュと比べると、肌に掛かる圧力が、平均で約13.2%ダウンするという。

5枚刃を採用することで、肌に掛かる圧力がソフトになったという4枚刃ラムダッシュと比べると、平均圧力が約13.2%ダウンしたという


5枚刃シェーバーの正しい使い方&お風呂剃りのメリットとは

 さて、読者の中には、既に5枚刃シェーバーを買った、あるいはこれから買う、という方もいるだろう。ここからは依田氏に、5枚刃シェーバーの賢い使い方について伺ってみた。

 まず、5枚刃シェーバーを理想的な剃り方だ。どのようにすれば、ベストなシェービングができるのか。

 「必ず注意していただきたいのが、刃の全部の面をキチンと肌に当てていただくこと。せっかくの5枚刃が当たらないと 効果が発揮できません。また、肌に押し付けすぎず、滑らせるように動かしてください。ポイントは、毛が生えている向きを意識して、それに逆らってシェービングすること。寝ている毛は外刃の穴に入りにくいです。頬のあたりは上から下に生えているので、下から上に動かしていただけば、きれいに剃れます。

 ただしアゴの下の部分は、毛の向きが人によってまちまちです。鏡でよく見ていただいたり、手で触ってザラッとする方向を意識していただければ、何度も何度も繰り返さなくてもよく剃れます。

 シェーバーを動かすスピードについては、ゆっくりすることをお勧めしています。速いと、ヒゲが捕えきれないことがあります。また、肌にダメージを与えてしまう恐れもあります」

ES-SV61については、大々的に「お風呂剃り」を謳っているが、そのメリットとは剃りやすくすることにあるという

 ところで5枚刃タイプでは、ES-SV61が“お風呂剃り”に対応したモデルとなる。これまではドライ剃りが基本だった電気シェーバーに、敢えてお風呂剃りを推すことのメリットは何なのだろうか。

 「お風呂で石鹸やシェービング剤と共に使うことで、シェーバーの刃と肌の摩擦が少なくなります。ということは、シェーバーを動かすときに、手に余計な力を入れずに動かせます。過剰に押し付けることが減るので、より肌にやさしくシェービングできます。これがドライ剃りだと、剃りにくい部分に無理に押し付けることで、その瞬間、刃の内部に皮膚が盛り上がって入ってくることがあり、肌を傷つける恐れがあります。

 このほかのメリットとしては、ヒゲが柔らかくなることで 太くて硬いヒゲが柔らかくなり、剃りやすくなる、ということも言えるでしょう」



求めたのは刃の枚数ではなく“ワンシェーブ・フィニッシュ”という本質

 新しいラムダッシュについてひと通り話を伺ったが、やっぱり気になるのが、5枚刃を実現した今、次の進化がどうなるのか、という点だ。やはり、次は「6枚刃」になるのだろうか。

 この点について依田氏に突っ込んでみたが、メーカー側でも刃の枚数に関して、いろいろな声を受けているという。

 「“次は6枚刃か”、“その次は7枚刃か”という声を、社内外からよくいただきます。当社のラムダッシュが4枚刃になったのは2007年ですが、その後は他社からも4枚刃があまり出ていないのに、何で5枚刃なのか、という声はやはりあります」

これまで1枚刃のシェーバーしか開発していなかったパナソニックが、初めて2枚刃を採用した「ツイン&フロート ES702」。これが1991年のこと2002年に登場した初代ラムダッシュは3枚刃だった4枚刃のシェーバーは2007年のラムダッシュからスタート。この4年後に、5枚刃のラムダッシュが登場したことになる

 しかし、問題なのは刃の枚数ではない。パナソニックのシェーバーが目指しているものは、あくまでもシェーバーの本質であるシェービング性能だ。

 「当社では、理想のシェーバーの在り方として“ワンシェーブ・フィニッシュ”というのをずっと掲げています。これは、“どんなヒゲでも一発で剃れる”ということを表します。これを実現するために、日々開発を進めていまして、今回の5枚刃も、“ワンシェーブ・フィニッシュ”に向かっての技術になります。当面のところは、今回発売した5枚刃モデルが、パナソニックとして現時点で最善のもの、ユーザーのニーズに対してお答えできるベストな形です。

 もちろん、将来お客様のニーズが変化し、それを実現するための手段が『6枚刃』ということや、新しく開発された技術を搭載するのに『6枚刃』がベストとなれば、その可能性もあるかもしれませんね」

 それでは、今回の5枚刃のラムダッシュは、“ワンシェーブ・フィニッシュ”という理想像に対して、どれほどの完成度に達しているのか?

 「完成度については、かなり高いところまで届いているとは思います。しかし、世の中にはまだ様々なヒゲの質、肌の質のお客様がいらっしゃることを考えると、個人的には完成度は7~8割くらいといったところでしょうか」

 この5枚刃のラムダッシュが、同社が現時点で提案する最高峰のシェーバーであることには間違いない。しかし、世界にはまだラムダッシュの剃り心地を実感してない人がたくさんいる。究極の“ワンシェーブフィニッシュ”のシェーバーにたどり着くまで、その道のりはまだ半ばなのだ。

 もしこれをお読みの方で、まだ5枚刃のラムダッシュを使ったことがないという人は、ぜひ一度使って、その剃り味を体験してほしい。もしかしたらこの5枚刃ラムダッシュが、日本人にとって究極の“ワンシェーブフィニッシュ”のシェーバーかもしれないからだ。






2012年1月5日 00:00