そこが知りたい家電の新技術

開発者に聞く、ニッケル水素電池「eneloop」がやっぱりスゴい理由

by 藤山 哲人
エネループのデザインは、発売当初のものが今も受け継がれている

 2005年11月14日。三洋電機からニッケル水素電池が発売された。電池のデザインは、各社とも強さやハイグレード感を出すために派手なデザインが多い中、そのニッケル水素電池は白地に青い文字で「eneloop」(エネループ)とだけ刻まれていた。

 発売から6年が経過した今、エネループ電池はすっかり一般ユーザーに普及した。三洋の調べによると、現在エネループの国内普及率は31%にまで広がっているという(2011年9月時点)。つまり、日本人の3人に1人がエネループを使っているということになる。

エネループ電池の進化の歴史。グッドデザイン賞など、数々の賞を受賞してきた

 性能の進化も止まらない。発売当初は繰り返し利用回数が1,000回だったが、2009年に発売した第2世代では1,500回繰り返し使えるようなり、今年11月には、1,800回繰り返し使えて、しかも自然放電の抑制性能も向上した、3世代目のエネループが発売された。

 さらにラインナップも、廉価モデルの「eneloop lite」に、大容量タイプの「eneloop pro」が追加。この11月には、より安全機構にこだわった「eneloop plus」も仲間に新たに加わった。

 しかし、数あるニッケル水素電池の中で、なぜエネループはユーザーに選ばれ、成長し続けているのだろうか? 現在、多くのメーカーが乾電池サイズのニッケル水素電池市場に製品を送り出しており、家電量販店やスーパーでも、いろいろな種類の電池がある。それなのに、2005年の誕生から6年経った今も継続して発売され、進化続けるほど愛されているのはなぜだろう。

 そこで、エネループの開発に携わった、三洋電機のエナジーデバイスカンパニー グローバルCRM事業部 市販事業統括部 グローバル営業企画部の吉成章善氏に、「エネループの電池はなぜスゴいのか?」をテーマに、新たに発売された第3世代のエネループの特徴や、あまり知られていない性能、12月に発売されたばかりの「eneloop plus」などについて、話をうかがってみよう。

繰り返し1800回使えるようになった、3世代目の新エネループ(写真右)。パッケージにも大きく謳われているシリーズに新たにラインナップされた「eneloop plus」。3世代目eneloopと同じ性能に加え、ショートしても発熱しないようになっている

 なお、同社のモバイルバッテリー「エネループ モバイルブースター」については、先日、吉成氏にうかがっている。こちらのリンクより参照していただきたい。


3代目の新エネループでは、自然放電をより抑制し、繰り返し利用回数が1,800回に

三洋電機 エナジーデバイスカンパニー グローバルCRM事業部 市販事業統括部 グローバル営業企画部 商品企画課 吉成章善 課長

 まずは吉成氏には、11月14日に発売された3世代目の新エネループについて、その特徴を解説していただいた。

 「新しいエネループは、自然放電がより抑えられる点が特徴です。これまでのエネループでは、満充電した後、1年間放置した電池容量の残存率が85%、3年後が75%でしたが、新しいエネループは1年後で90%、3年後で80%、そして5年後でも70%まで残っています。非常用の常備電池としてもお使いいただけます」

 エネループは自然放電を抑制し、1度充電した電池が長持ちする点が特徴だった。新製品では、それをさらにグレードアップしたことになる。

11月に発売された、3代目のエネループ充電式の電池は、乾電池に比べ自然放電しやすい。しかしエネループは、自然放電を極力押さえているので、買った電池を充電せずにそのまま機器に入れても使える。新しい三代目エネループでは、その自然放電抑制技術が向上した点が特徴だ
新エネループでは、1,800回の繰り返し使用が可能になった。1回使用当たりのコストの目安は約2.2円

 「また、従来のエネループは1,500回の繰り返し利用が可能でしたが、新しいエネループは1,800回、繰り返して利用できます。これにより、ランニングコストが安くなりました。充電にかかる電気代や電池自体の価格、充電器の価格も合算し、1,800回で割った値は、1本当たり2.2円になります」

 電池は100円ショップでも4本入100円で安価に買えるが、1本当たり25円。エネループはその1/10以下のランニングコストというわけだ。大げさかもしれないが、ランニングコストは“タダ同然”と思えるほど安い。


水素を貯める格子のサイズを適正化し、自然放電を抑制。繰り返し回数の秘密は……

 しかし、新しい電池の中では、従来からどのような進化が起きているのか? まずは、自然放電がより抑えられるようになった理由について聞いてみた。

従来のエネループでは、水素を封じ込めるための格子のサイズが少し小さかったため、水素がはじけ飛んでしまっていた(左)。新エネループは、格子のサイズを適正化して、水素が長く安定して閉じ込められる、イコール自然放電が少ないということになる(右)

 「エネループはニッケル水素電池で、その中に“水素吸蔵合金”という金属が使われています。この金属は格子状になっていて、その中に水素を閉じ込めています。従来のエネループは、右図のように、格子が水素より僅かに狭く、長年放置しておくと水素分子が逃げてしまっていました。例えて言うなら、格子が小さすぎて分子がポーンと飛び出してしまう感じですね。これが自然放電の原因です」(吉成氏)

 この水素吸蔵合金に吸蔵された水素を使って、ニッケル水素電池は電気を作る。つまり、水素が長く蓄えられること、イコール自然放電が抑制できているということになる。

 「新しいエネループは、この格子のサイズを水素分子がピッタリ収まるようにしたので、水素吸蔵合金が長期間、安定して水素が貯蔵できます。つまり自然放電が少ないということですね」

 電池の中では、こうした細かいレベルでの研究・改良が行なわれていたのだ。

 では、1,500回から1,800回について繰り返し性能が強化できた理由について伺ってみた。リリースには「電極材料の改良」としていたが、それは一体何なのか? しかし、ここからは企業秘密。吉成氏によれば「添加物を加えることで利用回数を増やしています」とのことだ。


気付いた人いる? 実はデザインも少しずつ進化していた

 新エネループでは、性能以外にも、見た目でちょっとした違いがある。性能にはあまり関係はないが、アップデートしている部分があるというのだ。

 「ここからはマニアックお話をしましょう(笑)。新しいエネループのプラス端子をよく見てください。真ん丸になってますよね。でも従来品は、プラス端子は四角いし、端子の根元に穴が開いているんです。これは“端子が四角だったり、穴があるとカッコ悪い”ということでこのようにしました」

左の電池が新しいエネループで、右の電池が第2世代前半までのエネループ。プラス端子の形が、従来モデルはやや四角形のように角張っているが、新製品では真ん丸だこちらも同じく、左の電池が新しいエネループで、右の電池が第2世代前半までのエネループ。新エネループにはプラス端子の根元に穴がないが、従来品には穴がある

 なんというこだわり……でもニッケル水素電池には、この穴が絶対必要だ。

 「充電しすぎて性能が落ちる『過充電』や、空の電池とフル充電の電池を同時に使うなどで、空の電池が過放電された場合、または電池がショートした場合などでは、電池内部にガスが発生するので、ガス抜きの穴は必要不可欠です。でも、この穴、見た目がカッコ悪いんです。だからガス抜きの穴を横に伸ばして、絶縁リング(プラス端子にかぶっている白いカバー)の下に隠しているんです」

 ちなみにこの真ん丸でガス抜きの穴が開いていないプラス端子は、第2世代の後半から採用しているということだ。

 もう1つ、エネループの世代を見分けるための細工がほどこされている。

上が新エネループ、下が従来品。王冠のデザインが変わっている。また、シルバーの文字が光って見えるのが分かる

 「電池外装ラベルに印刷されている冠のマークも違います。従来品は、普通に冠のマークですが、新製品は冠の下にラインが入っています。また、よーく見ると分かるのですが、文字の色も従来よりちょっと光っています」

 “どれが第3世代のエネループだっけ?”と迷ったときには、王冠のラインの有無で見分けるのが良いだろう。



あまり知られていないエネループの特徴 その1:安定した電圧

 新しい3代目エネループについては以上の通りだが、吉成氏にはまだまだ伺いたい話がある。それは、自然放電性能や繰り返し回数以外にも、従来、あるいは他社のニッケル水素電池よりも優れた性能が隠されているのではないか、ということだ。

 その答えとして吉成氏は「(1)安定した電圧」、「(2)過放電に強い」、「(3)優れた低温性能」を挙げた。この3点が、ほかのニッケル水素電池よりも優れているというのだ。

 まずは、(1)安定した電圧から話を伺った。

 「エネループは従来のニッケル水素電池に比べると、電圧の安定性が高くなっています。ほかの電池には、1年も2年も長く使わなかったり、繰り返し使っているうちに出力電圧が下がってしまうものもあります。電圧が下がれば、電子機器は動かなくなったり不調になったりするでしょう。でもエネループは、常に高い電圧を維持し続けられます。これがエネループが従来のニッケル水素電池と違う点です」

 これは筆者も思い当たる節がある。以前、他社のニッケル水素電池をデジカメで使っていたことがあったがが、繰り返し利用回数まで達していないのに、すぐに電池切れしてしまったことがあった。今ではその電池を諦め、エネループに乗り換えているが、以前使っていたニッケル水素電池よりも充放電を繰り返しているものの、劣化を感じたことがない。どうやら、繰り返し使える回数や電池容量だけで語れないのがエネループの秘密らしいのだ。

 「繰り返し利用回数や容量も確かに重要なことなんですが、高い電圧を長く出し続けられるというのが、本当意味でのエネループの特徴です。ですから多くの電気製品で乾電池の代わりにエネループを使っていただけます」

 電池の瞬間的なパワーだけで言えば、乾電池の方がニッケル水素電池よりも高い。もともと電圧に大きな差があるからだ(ニッケル水素電池は1本の電圧が1.2V、対する乾電池は1.5V)。しかし、乾電池も使っているうちにやがて1.2Vまで電圧が下がる。一方のエネループは、1.2Vを長時間、しかも繰り返し使っても長期間に渡って出し続けられる。なので、多くの機器で乾電池の代わりに使えるというわけだ。

 ここで素朴な疑問を吉成氏にぶつけてみよう。なぜニッケル水素電池の電圧は1.2Vだけなのか? 1.5Vのものは開発できないのか?

 「電池は2つの物質の持っている電位差(電圧)を利用してします。ニッケル水素電池の場合は、ニッケルと水素吸蔵合金を使っていて、この2つの電位差が1.2Vなのです。もし1.5Vのものを作ろうとするなら、ニッケルと水素吸蔵合金以外の物質を使うことになりますから、それは“ニッケル水素電池”ではなくなってしまうのです」

 1.5Vのニッケル水素電池ができれば究極の電池になると思っていたが、どうやらそれは根本から無理な話だったというわけだ。逆に1.2Vでも、ほとんどの機器で乾電池替わりに使えることのだから、今のエネループで特に問題はないだろう。


あまり知られていないエネループの特徴 その2:過放電に強い その3:優れた低温性能

 (2)の「過放電に強い」については、一般ユーザーにはピンと来ない話かもしれないが、たとえば懐中電灯で明かりがまったく点灯しなくなるまで電池を使いきっても、ほかのニッケル水素電池より性能が落ちにくい、ということになる。

 過放電とは、電池の残量がない状態で、さらに電池を使い続けること。1.2Vのニッケル水素電池の場合、電池残量がなくなったとされる電圧の基準は1.0Vと定められており、これを下回って電池を使い続けると、繰り返し使える回数が短くなったり、フル充電しても満タンにならなくなったりと、その後の性能が大きく落ちてしまう。

 「ですが、エネループは過放電に対して非常に強いという特徴があります。私たちが行なった試験では、エネループを機器に入れて60℃ぐらいの温度で使い、1週間も2週間も放置し、ほとんど0V近くまで過放電させたのですが、充電すると100%回復して性能がほとんど劣化しません」

 これには思わず「マジっすか!?」と声を上げてしまった。ほかのニッケル水素電池で同じことをしたら、致命傷になるはずだ。

 さらに意外だったのが、(3)の「優れた低温性能」だ。これは、普段の暮らしの中ではあまり気づきにくい。なぜなら、気温が0℃未満になることはほとんどないので、気づく機会がない。

 「エネループの特徴として低温での性能も安定しているというのがあります。常温で使用するより劣りますが、マイナス20℃でも性能を発揮できるんです」

 乾電池は0℃になると劇的に性能が落ちる。もしかしたら、スキー場などでなかなかストロボがチャージできないなんて経験をした人もいるかもしれない。かたやエネループなら、マイナス20℃でも性能を発揮できるので、北海道の原野の中で一瞬のシャッターチャンスにかける、という過酷な撮影でも十分に使えるというわけだ。

乾電池よりも安上がり。通常使用でも同等、デジカメやストロボならそれ以上に活躍

 ほかのニッケル水素電池との違いは分かったが、それでは乾電池と比較した場合、どのような違いがあるのだろうか。

 「乾電池をお使いの場合、エネループに変えていただいてその性能をはっきりと体感できるのは、デジタルカメラやストロボでしょう。電力消費の多い機器でエネループを使うとその差は歴然とします。

 例えばカメラのストロボで比較すると、400回発光させたときのチャージ時間は、アルカリ電池が76.5秒かかるのに対して、エネループは3.3秒で完了します。乾電池は400回ですでに電池切れといった感じですが、エネループならチャージ時間はほとんど変わらずに600回発光できます。大容量のエネループ プロの場合なら、800回以上も発光できるのです」(吉成氏)

三洋のWebページから抜粋した、アルカリ電池とエネループの性能比較。グラフでは、乾電池は200回発光した時点で、チャージ時間が20秒もかかっている。かたやエネループは、電池切れする約600回まで、3秒でチャージできている。大容量の「eneloop pro」なら、さらに長持ちすることになる

 400回ストロボを発光させても、わずか3.3秒でチャージできるというのだから、まさに“シャッターチャンスを逃さない”という言葉がふさわしい。

 なお、オススメの製品としては以下の表の通りとのこと。◎はエネループ推奨機器、○は普通に利用できる機器を示す。推奨されていない製品でも、ほとんどの場合は乾電池の代わりとして使えるようだ。

機器名エネループ乾電池
デジタルカメラ
ストロボ
シェーバー
電動歯ブラシ
液晶テレビ
健康機器
ICレコーダー
電子辞書
理美容機器
音楽プレイヤー
機器名エネループ乾電池
ラジコン
ゲーム機
懐中電灯
トランシーバー
ポータブルオーディオ
携帯ラジオ
リモコン
時計

 乾電池との性能比較は分かったが、それではコストの差ではどうか。序盤に“乾電池よりも1/10ほど安くなるという話を伺ったが、実際の製品では、どれだけ安くなるのか。すると吉成氏は、ひとつの表を見せてくれた。

 「この一覧(下の表)は、当社のアルカリ乾電池と新しいエネループを比較したもので、3年間利用した金額の差をまとめたものです。エネループのコストは、電池と充電器の初期費用と充電したときの電気代も含めていますが、どれだけ乾電池より経済的かというのがお分かりいただけると思います」

【3年間使用し続けた場合の乾電池とエネループのコスト比較】
利用機器利用頻度エネループのコスト
(初期費用+電気代)
3年間の
乾電池の購入代金
3年間の
差額
デジカメ
単3×2本
100枚/週約4,200円約45,000円約40,800円
100枚/月約10,000円約5,800円
電動歯ブラシ
単3×1本
6分/日約3,600円約16,000円約12,400円
9分/日約25,000円約21,400円
懐中電灯
単3×2本
1時間/日約4,300円約92,000円約87,700円
2時間/日約18,000円約175,700円
音楽プレイヤー
単3×1本
1時間/日約3,600円約6,100円約2,500円
2時間/日約12,000円約8,400円

 エネループのコンセプトは「繰り返し使えて環境にもやさしい」だが、実は「財布にもやさしい」ということも言えそうだ。


11月に発売されたばかり「eneloop plus」はなぜ安全なのか?

12月に発売されたばかりのeneloop plusは、通常のエネループよりも安全性能を高めた点が特徴

 ところでこの11月、エネループのラインナップに、新たな製品が加わった。それが、eneloop plus(エネループ プラス)というものだ。せっかくなのでこの「plus」についても、吉成氏に特徴を伺っていこう。

 このeleoop plus、1,800回の繰り返し利用に、5年後の残存率は70%と、新型のエネループと基本スペックは同じ。では、どこが「plus」になっているのだろうか?

 「大きく違う点は、誤って利用した場合でも電池が熱くならないようにしています。お子さまのおもちゃで誤使用した場合のために配慮しました」

 電車や車の模型など、モーターを使ったおもちゃは、子供が無理やり車輪を止めたりすると、電池が発熱して熱くなる恐れがある。またオモチャ箱に電池を裸のまま入れ、おもちゃの飾りに付いている金属などが、電池のプラスとマイナス極に当たってショートしてしまうと、異常に加熱する恐れがある。

 そこでエネループ プラスは、電池の温度が上がり始めると、自動的に電流を抑える機構を内部に持っている。そのため、異常な発熱を抑え、もしもの時の安全性を高めているのだ。

 「エネループ プラスには、ポリマーPTC(Positive Temperature Coefficient)という素子を使っています。この素子は、常温であれば抵抗値はほとんどありませんが、素子が一定の温度に達すると急激に抵抗値が大きくなり、流れる電流を抑えるという特徴があるのです。言うなれば、一定の温度を越えると電気を遮断するブレーカーのようなものです。身近なところですと、自動車のパワーウィンドウの巻き込み防止などに使われています」

 ここで筆者が思い出したのが、コタツの安全装置として使われていたサーモスタットだ。コタツのサーモスタットでは、熱による膨張率が異なる2枚の金属板を貼り付け、機械的にスイッチをON/OFFして、温度制御をしていた。しかし、エネループプラスの場合、直径数センチの小さな世界で温度を制御しなければいけない。一体、ポリマーPTCはどのようにしてON/OFFのスイッチを切り替えているのだろうか?

吉成氏による、PTCの解説。左は常温時のポリマーPTC内部の様子で、導電性物質同士が触れ合う面積が広く電気が流れやすい。右は高温時でポリマーが溶けた状態。導電性物質が触れ合う面積が減るため電気が流れにくくなる

 「ポリマーPTCの中には、ポリマー(樹脂)に導電性のある粉を混ぜたものが封入されています。これが常温だと、多くの炭素同士が触れ合ってほとんど抵抗はありません(図左)。しかし温度が高くなるとポリマーが溶け出し、導電性物質同士が触れ合う面積が非常に少なくなるので、抵抗が大きくなるのです(図右)。その結果、エネループ プラスは、たとえショートさせても50℃ほどしか熱を出しません。」

 このポリマーPTCによる制御のメリットは、ヒューズのように切れないことだ。高温になることで自動的に遮断される一方、再び常温まで下がると、自動的にまた電気が通る。ブレーカーやヒューズのように、一度OFFになったら再度外部からONにし直す必要もない。安全なうえに賢い仕組みになっているのだ。このポリマーPTCは、ホットカーペットの加熱防止などにも使われているという。

 電池自体の価格もエネループより数百円高い程度なので、ランニングコストはエネループとほぼ同じ。それでより高い安全性が得られる電池が、eneloop plus ということだ。


通常のエネループに「lite」「pro」そして「plus」の4ラインナップ。どう使い分ける?

 このエネループ プラスが発売されたことで、エネループのラインナップは、通常の「eneloop」、廉価モデル「eneloop lite」、大容量モデル「eneloop pro」、安全性の高い「eneloop plus」という4つのラインナップとなる。

 さてこの4シリーズが揃った今、どのエネループをどんな機器に使うと良いのだろうか?

 「エネループ全体としては、消費電流 が大きい機器がお勧めです。アルカリ乾電池と比べても、利用時間はほとんどがそれ以上、または同等となっています。エネループライトの場合、デジカメ、電動歯ブラシは乾電池よりもパワフルに使えますが、懐中電灯や音楽プレーヤー、掛け時計などは、乾電池の方が長持ちします」

【エネループ4シリーズのスペック・特徴】

エネループ

エネループ
プラス

エネループ
プロ

エネループ
ライト

容量
(※1)
単1:5,700mAh
単2:3,000mAh
単3:1,900mAh
単4:750mAh
単3:1,900mAh単3:2,400mAh単3:950mAh
単4:550mAh
自然放電
(残存率)
1年後:90%(※2)
3年後:80%(※2)
5年後:70%(※2)
1年後:90%
3年後:80%、
5年後:70%
1年後:75%1年後:85%
3年後:75%
繰り返し
利用回数
1,800回1,800回500回2,000回
特徴乾電池代わりの
オールラウンダー
加熱防止機能があり
子供のおもちゃなどに
長時間利用が
可能なプロユース
省電力機器や
エントリーユーザー
向け
おもな
用途
デジカメ、ストロボなど
電子機器全般
おもちゃ
ラジコンなど
デジカメ、ストロボ
長期観測機器など
リモコン、時計など
省電力向け

※1:最低(Min)保証値  ※2:単3、単4の場合

 ちなみに、エネループとエネループプラスは、電池としてはまったく同じ性能を備えているが、安全性については前述の通り、プラスが優れている。子供が触れる機器には、プラスを選ぶのが良いだろう。

エネループシリーズが、どんな機器でどれだけ使えるかを示したグラフ。右側から左側にかけて、機器の消費電力が多いものとなる

 さらに11月には、発売6周年と累計出荷2億本達成を記念した限定モデルが発売を発売している。「eneloop tones chocolat(エネループ トーンズ ショコラ)」だ。

 「エネループは発売以来、60カ国以上の国や地域で使われており、2011年10月末時点で累計出荷本数が1億9千本に達しました。そこでもうすぐ2億本を達成する限定モデルとしてエネループ トーンズショコラを、11月14日に発売しました。性能は新型エネループと同じですが、手に取るだけでチョコレートの香りがしそうなデザインになっています」

eneloop tones chocolatは、以前に発売したeneloop tonesのチョコレート(ショコラ)をテーマにしたデザインとなっている。確かに食べられそうだ(笑)充電器とのセットも2012年1月中旬ごろに発売される予定


おしえて開発者さん! エネループの賢い使い方

 さて最後は、前回のモバイルブースターの記事と同様、吉成氏直伝による、エネループを賢く使うためのテクニックをご紹介しよう。

(1)高温の場所に置かない

 「リチウムイオン電池もそうですが、エネループも高温になる場所に置かない方が長持ちします。たとえば夏場の車のダッシュボードの上やストーブの近くです。保存する場合は、常温の場所に保管してください」

(2)過放電しない

 「先ほど、エネループはほとんど0Vになるまで過放電しても大丈夫とお話しましたが、過放電しないに越したことはありません。何度も過放電させるとダメージを受けます。たとえば、懐中電灯などで使っている場合は、電球が消えるまで使うのではなく、少し暗くなったと感じたら充電するといいでしょう。またラジコンなどで使っている場合は、速度が遅くなったと感じたら充電するようにしてください。」

(3)購入したら2~3回使って慣らし運転する

 「エネループは太陽光発電を使ってフル充電してから出荷していますが、一度使い切ってフル充電すると、内部の物質が活性化します。時間があれば、購入後は2~3回ほど使っていただくと、本来の性能を発揮するようになります。」

(4)裸で持ち歩かない

 「電池を裸のままでバッグに入れるという方が非常に多いのですが、金属などでショートしてしまう場合があります。電池は必ずケースに入れて持ち歩くようにしてください。 

 電池を裸でお持ちになるお客様のために、新型エネループの発売を期に、エネループとデザインをあわせたケースも発売することになりました。エネループのパッケージも電池ケースとしてお使いいただけますが、このようなケースを使うとショートは発生する危険性もなくなります」

新エネループとともに発売された、エネループの電池ケース。単3電池は横向きに4本入る単4電池は縦向きに4本、さらに単3電池1本を横向きに入れられるカバー表面にも、eneloopのロゴが入っている


“究極の目標は、自然放電を0%にすること”

 エネループのスゴさを全編に渡ってきたこの記事だが、そんな完璧に見えるエネループにも、吉成氏によれば、まだまだ課題があるようだ。

 「究極の目標は、自然放電を0%にすることですね。何年保存してあっても、フル充電の状態が理想です。少しでも自然放電を少ないエネループに近づけるよう、私たちはこれからも開発し続けます」

 三洋電機はニッケル水素電池はもちろん、前回のエネループ モバイルブースターに代表されるリチウムイオン電池など、充電式の電池を常に最先端で研究し続けてきたメーカーだ。性能はもちろんのこと、2005年の発売当初から「電池らしからぬデザイン」を採用し、今も「かっこ悪いから改良する」というその精神は、“エネループ魂”が込められていると言ってもいいだろう。






2011年12月26日 00:00