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欧州基準の高圧洗浄機を日本で広めたケルヒャー・ジャパンの取り組みとは

ケルヒャー ジャパン代表取締役社長の佐藤八郎氏

 ドイツに本社を置くケルヒャーは、世界54カ国で業務用・家庭用を合わせて3,000種類以上の製品群を展開している清掃機器メーカーだ。ケルヒャー社の日本法人「ケルヒャー ジャパン」が設立されてから、今年で25周年を迎える。

 それを記念した日本向けモデルの高圧洗浄機「ベランダクリーナー」も今年3月に発売された。今回は代表取締役社長の佐藤八郎氏や家庭用プロダクトマネージャーの井野基史氏に、高圧洗浄機を日本に広めるまでの苦労やベランダクリーナー開発の経緯、修理センターでの取り組みなどについて、お話を伺った。

日本法人の企画が初めて通った「ベランダクリーナー」

 1988年に世界で18番目の現地法人としてケルヒャー ジャパンが設立されてから、今年で25周年を迎える。1994年には、本社ビルと工場を宮城県仙台市郊外に建設し、出荷や品質点検を一括管理する体制を整え、家庭用製品サービスセンターも敷地内に設けている。業務用製品のほか、家庭用では高圧洗浄、スチームクリーナーなどのホームクリーニング、ガーデニングの3つの製品群を展開中だ。

 「ヨーロッパでは『ケルヒャーする』という言葉が高圧洗浄をするという意味として辞書にも載っているほど広まっている高圧洗浄機ですが、日本では全く馴染みのなかった清掃方法。ですから、家庭用の高圧洗浄機の便利さや使い方などを知ってもらうのは大変でした。今では高圧洗浄機の競合製品も出てきてますし、ケルヒャーの認知度も5割以上になっていますが、広く知られるようになったのは、『ジャパネットたかた』のテレビ通販番組で髙田社長がきちんと説明してくれたからだと思っています」と代表取締役社長の佐藤八郎氏は振り返る。

 家庭の水道と電源で、手軽に洗車や外壁など家周りの洗浄ができる高圧洗浄機だが、25周年記念モデルとして今年3月に発売されたのは集合住宅のベランダ・バルコニーの洗浄をするというという新たな基軸の製品だ。

 「日本では家が密集して建てられていますので、高圧洗浄機の更なる普及のためには静音性が何より大切だと考えてきました。2009年に製品化されたK4.00では、これまでモーターの冷却に空冷式を採用していたものを、世界で初めて水冷式にすることで静音性を高めることに成功しています。ただ、振動を抑えるダンパーを搭載しなければならないなど、構造上の問題でどうしても本体が大きくなってしまったのです。ミドルクラスで大容量の高圧洗浄機K3.490と比較してみてもわかるように、とにかく大きい。日本市場、しかも都会での使用を考えるとコンパクトで静音性の高い製品の開発が急務でした」

左から今年3月発売のベランダクリーナー、静音性の高い水冷式モデルの高圧洗浄機「K4.00」、ミドルクラスで大容量の高圧洗浄機「K3.490」
共に水冷式で静音性の高いモデル、K4.00とベランダクリーナー(K2.900サイレント)の外側のカバー部を外したところ
水を通る回路などの内部構造を変えたことで、コンパクト化が実現し、防音材も小さくて済むようになっている
防音材を外した内部
K4.00では、鉄と樹脂で作られた溝を水が通ることでモーターを冷やしていた
ベランダクリーナー(K2.900サイレント)では、水をアルミダイキャスト製のフィンに通す仕組みに変更。熱の伝導率がよくなり、効率よく冷やせるようになっている

 現地法人販社が54社にものぼるケルヒャーでは、製品開発について世界中から要望が寄せられるが、「モーターを小さくしてスペースを取らなくてすむ構造にしてほしい」という日本からの要望は、当初プライオリティが低く、なかなか実現しなかったのだという。

 「“コンパクト化”という日本の要望は、世界市場においては特異なもの。当分無理だろうと思っていたのですが、アメリカに次いで日本は大きな伸びを示している重要な市場であるとドイツ本社からの判断がくだり、25周年のタイミングに間に合う形でコンパクトでしかも静音性のたかいベランダクリーナーが製品化されたのはうれしいことでした」

水を通る回路設計を見直し、静音かつコンパクトな高圧洗浄機に

 空冷式で大容量タイプK3.490、初の水冷式で静音性の高いK4.00と並べてみると、そのコンパクトさがよくわかるベランダクリーナだが、具体的にどのような設計で静音かつ、コンパクトな高圧洗浄機が出来上がったのだろうか。

 「K4.00では、鉄と樹脂で作られた溝を水が通ることでモーターを冷やしていたものを、水をアルミダイキャスト製のフィンに通す仕組みに変更。熱の伝導率がよくなり、効率よく冷やせるようになり、防音材も小さくて済むため、40%も本体サイズを小さくすることができました。モーターの体感音が50%も削減しているため、集合住宅でも近隣に気兼ねなく使用できます」

英字と数字を組み合わせた型番ではなく、用途がはっきりわかる「ベランダクリーナー」という名称を採用した

 さらに製品のネーミングについても佐藤氏は語る。

 「これまで本社の型番のまま、K3.490、K4.00というような呼び名で表現してきました。でも、それだと一般の人にはどんな製品なのかがわかりにくいのではないかと思ったのです。昨年秋に発売した『窓用クリーナー』も、以前のモデルでは『電動式窓用バキュームクリーナー』としていましたが、それをシンプルな『窓用クリーナー』としたことでぐっとわかりやすくなりました。今回も使用用途がはっきりとイメージできる『ベランダクリーナー』としました」

 水跳ねがなく、噴射音も低減するデッキクリーナーを標準装備し、収納カバーをつけてベランダでの保管もできるものを「ベランダクリーナー」として販売している。ベランダやバルコニー、網戸などの清掃のほか、浴室の洗浄にも洗剤を使わずにきれいになるので、おすすめだという。

ガレージや家周りの清掃に役立つ乾湿両用バキュームクリーナー

家庭用プロダクトマネージャー 部長の井野基史氏

 4月には業務用のノウハウを生かした家庭用乾湿両用バキュームクリーナーの最上位モデル「WD7.300」も発売した。この製品について、家庭用プロダクトマネージャー 部長の井野基史氏に説明を聞いた。

 「乾湿両用バキュームクリーナーというのは、都会ではあまり必要がないかもしれませんが、地方ではずいぶん重用されています。特に、これからの落ち葉の季節には、風の力で落ち葉を吹き寄せることができて便利です。本体には水分を含んだゴミもOKの吸引口と、反対に風を吹き出すブロア接続口が設けられているので、ホースを差し替えるだけで簡単に作業を切り替えられる仕組みになっています」

 独自のフィルター構造になっているため、湿ったゴミや水もフィルター交換しないで吸引ができる。このWD7.300では乾湿両用クリーナーのラインアップ初の合成繊維フィルターバックを採用しているため、細かいゴミも逃さず清掃できるのが特徴だ。

 「本体の下部にある黄色いコンテナ部分は容量が18Lあり、10Lの水まで吸引できます。ナノコーティング素材のエコフィルターにたまったチリは、本体の上部後方にあるボタンを3回押すだけで落ちるので、目詰まりを防いで吸引力が維持されます。業務用で培った技術を生かしているので、吸う力も申し分ない。落ち葉の清掃のほか、玄関先に水をまきながらの掃除や、作業場の木くず、ガレージなどあると便利なクリーナーですよ」と井野氏は語る。

家庭用乾湿両用バキュームクリーナーWD7.300
湿ったゴミや水も吸引が可能
ホースをブロア接続口に差し替えると落ち葉などの軽いゴミを集める吹き寄せ作業ができる
本体下部にゴミや水がたまる仕組みになっている
本体上部の裏
本体上部を開けるとフィルターが見える
乾湿両用クリーナーのラインアップ初の合成繊維フィルターバックを採用している
フィルターを外したところ
本体上部のボタンを3回押すと、フィルターにたまったチリを落として目詰まりを防げる仕様

“カスタマーセントリック”な修理センターでの取り組み

宮城県のケルヒャー ジャパン本社内にある家庭用製品修理センター。棚には修理用の部品が収められている

 今回、ケルヒャー ジャパン本社内にある家庭用製品修理センターにも取材したので、その様子も併せて紹介したい。

 同社の全世界に掲げる中期戦略のキーワードは「カスタマーセントリック(お客様中心)」。製品の充実だけでなく、サービスの提供にもより一層の力をいれていきたいとしている。この修理センターには、日本中の販売店などから修理を依頼する製品が送られてくるが、それに迅速に対応するために、棚一面にそれぞれの細かな部品が収められ、切らすことのないように、常に在庫の管理がされている。

修理依頼のあった製品が日本中から送られてくる
修理の終わった製品のチェックを行なっているところ
修理センターでの作業の様子
スチームクリーナーの部品
窓用クリーナーのカットモデル
窓用クリーナーの吸い込み口部分

 1日も早く修理して返送できるようにするのはもちろんだが、それだけでなく、返送品と一緒に、修理箇所から予測される今後の使い方のアドバイスの手紙も入れているのだ。これは「修理品を見るとどんな使い方をしたのかが予測できるため、今後、再び不具合を起こさず快適に使ってもらえるようなアドバイスをレターにしている」とのこと。製品の種類や修理状況に応じて、パターン化した雛型を準備しており、購入からの期間が短い人には、直接電話をして使い方の説明をすることもあるという。

 「実はこのレターの取り組みというのは、会社で決められたことではなく、修理センターが『自社製品を長く愛用してほしい。ファンになってほしい』という顧客に対する思いを込めて、独自で始めたものなのです。私の知人がケルヒャーの製品を修理に出した際に、同封されていたレターに感激して連絡してきてくれたため、こうした取り組みをしていることを知ったのです」と佐藤氏。“カスタマーセントリック”というスローガンが見事に結実した好例といえるだろう。

修理依頼があった顧客に送るレター
修理箇所に関連する取扱説明書のページもコピーして同封している

 今後はベランダクリーナーのような日本向けモデルの開発も積極的に行なっていく方針だ。競合する製品が出始めている中、製品とアフタサービスの両面でさらなるカスタマーセントリックな取り組みが期待される。

神原サリー