シャープのプラズマクラスターイオン、インフルエンザウイルス感染率の低減に効果

~“世界初”の臨床試験で確認

臨床試験でインフルエンザウイルス感染率を約30%低減

プラズマクラスターイオンの発生装置。シャープの空気清浄機やエアコンなどに搭載されている

 シャープは、同社の除菌・脱臭技術「高濃度プラズマクラスターイオン」が、臨床試験によりインフルエンザの感染率を低減する傾向があると発表した。

 プラズマクラスターイオンは、シャープのイオン発生機、および空気清浄機やエアコンなどの家電製品に搭載されている技術。水素のプラスイオンと酸素のマイナスイオンを空気中に放出することで、空気中に浮遊する細菌やカビ、ウイルスなどの表面で両イオンが結合、酸化力の高い活性酸素「OHラジカル」に変化する。これにより、化学反応で細菌などの表面のタンパク質を破壊し、ウイルスの感染力を抑えたり、ニオイを除去する効果があるという。

プラズマクラスターイオンが発生する仕組み。放電電極からプラスとマイナスのイオンを放出するこの2つのイオンが、ウイルスや菌の表面で反応。表面のタンパク質を破壊し、感染力を抑えたり、ニオイを除去する効果があるという

 今回の臨床試験は、東京大学大学院医学系研究科の大橋靖雄教授の監修のもと、国内44の病院の透析室に、プラズマクラスターイオンの発生装置を計745台設置、通院患者3,407名を対象に行なわれた。試験内容は、透析室内部をイオンありとイオンなしに分け、インフルエンザ発症件数を、2009年12月から2010年6月末までの約6カ月に渡って調査するというもの。試験は、臨床試験で一般的な二重盲検法(薬の効果を調べる臨床試験の方法。今回は、イオンありとなしの両方に装置を置き、イオンあり側にのみプラズマクラスターイオンを発生させた)を採用。試験自体は第三者機関の財団法人パブリックヘルスリサーチセンターが実施した。実験では患者のワクチン接種の有無も考慮されているという。

 この結果、インフルエンザ発症件数は、イオンありのエリアでは9件、イオンなしでは14件となった。統計的な手法で、偶然による変動を超えた傾向があるかないかを判別した結果、プラズマクラスターイオンにより感染率が約30%低減したことが確認されたという。この調査結果は、2011年1月に開催される日本疫学会にて、大橋教授が論文発表する予定という。

試験は、東京・神奈川の44カ所の透析病院にて行なわれた試験期間は2009年12月から2010年6月末までの約6カ月間試験エリアのイメージ。透析室を“イオンありエリア”と“イオンなしエリア”の2つに分け、双方のインフルエンザ感染件数を比較するというもの。両社の間には緩衝地帯も設けている
試験フロー図試験中には図のような観察項目が設けられているこの結果、イオンありエリアで9件、イオンなしエリアで14件の発症例があった

 なお、今回の実験に使用されたプラズマクラスターイオンの濃度は、1立方cm当たり10,000個。臨床試験においてインフルエンザウイルスに対する効果が証明されたのは、シャープでは“世界初”としている。

「30%」はうがいや手洗いと同等の“妥当な数値”

試験を監修した、東京大学大学院医学系研究科の大橋靖雄教授

 今回の試験の監修を務めた大橋教授は、今回の結果について「通常の3~4倍くらいインフルエンザが発生すると見越していたが、この冬は発症例が少なかった。そのため、断定的なデータは出なかったが、30%というのは妥当な数値。うがいや手洗いなどは40%とされており、日常の対策として期待できる。類似の試験がなされて初めて評価が確立されるため、今回の試験結果を以て、プラズマクラスターのインフルエンザに対する効果の評価が完全に確立したということは言えないが、効果を示唆するだけのデータは十分に得られた」と評価した。

 今回の試験に当たっては、透析室に入っている患者全員に対し同意を得ているという。「透析室にいる全員が対象となるため、(試験を行なうに当たって)患者の同意を得た。データ提出の拒否された方もいるが、合計で50名以下と少なく、試験後のアンケートも『また参加したい』と好評だった」(大橋教授)

 また大橋教授は、「プラズマクラスターと相性が良い」というカビや、ダニや花粉といったアレルゲン、感染症予防に関する臨床試験が実施されることについても期待を見せた。

試験結果のまとめ。発症件数自体が少なかったため、統計的に優位な水準には至っていないが、効果を示唆するデータは得られたという30%という数値は、うがい・手洗いのような日常対策として期待できるという


“本当に人間に効くのか”を確かめたい

シャープ 取締役 専務執行役員の太田賢司 東京支社長

 シャープの取締役 専務執行役員の太田賢司 東京支社長は、今回臨床実験を行なった理由について、すでに試験空間内でのインフルエンザウイルスの感染力低下に対する効果を実証しているが、実際に人がいる空間での効果を確かめる狙いがあったという。

 「人間への効果については、我々エレクトロニクスメーカーではなかなか分からない。しかし、文部科学省が進めている『橋渡し研究支援推進プログラム』(基礎研究から臨床研究への基盤整備を推進するプログラム)が東大で行なわれているということで、同プログラムで大橋先生を紹介してもらい、ご支援をいただいた」

 今後のプラズマクラスター技術については、「今後も臨床検証に重点をおいてやっていきたい。高濃度化することにより、さまざまなな効果を実証し、世界の人々の健康を守ることに貢献していきたい」との展望を示した。

インフルエンザウイルスに対する効果は、試験ボックスでは検証しているが、太田氏によれば、臨床での効果を確かめる必要があったというシャープは文部科学省の「橋渡し研究支援推進プログラム」により、大橋教授の紹介を受け、臨床試験に臨んだという




(正藤 慶一)

2010年11月9日 17:19