【Green Device 2009】寿命5万時間の“蛍光灯型”LED照明など

Green Device 2009とFPD International 2009の案内看板

 低炭素社会を支える電子デバイス「グリーンデバイス(Green Device)」に関する展示会「Green Device 2009」が10月28日~30日にパシフィコ横浜で開催されている。

 低炭素社会とは、二酸化炭素に代表される地球温暖化ガスの排出を低減した社会を指す。太陽光発電や風力発電、水力発電などの二酸化炭素を排出しない、クリーンな電力を利用する。あるいは工場やオフィス、家庭などで電力消費そのものを減らす。あるいは内燃機関を電気モーターに代替する。こういった動きを支援する電子デバイスが、グリーンデバイスと呼ばれる。

 そしてグリーンデバイスの展示会が「Green Device 2009」ということになる。今年が初めての開催となるこの展示会は、薄型ディスプレイの展示会「FPD International 2009」と合同で催されている。「FPD International」は液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの薄型ディスプレイの展示会としては国内最大の規模を誇る。台湾の大手薄型ディスプレイメーカーが毎年のように「FPD International」で新技術を披露するほど、力を入れている展示会だ。

 現在はテレビ受像機といえば液晶テレビ、あるいはプラズマテレビを意味する。パソコンのディスプレイといえば液晶ディスプレイを指すだろう。しかしどちらも、数十年前にはブラウン管だった。ブラウン管から液晶への移行は、厚くて重いディスプレイを薄く軽くしたのはもちろんのこと、大画面化と低消費電力化にも大きく寄与した。薄型ディスプレイも、グリーンデバイスの仲間と言える。

 こうなると、薄型ディスプレイとグリーンデバイスを区別することは難しい。そのせいかどうか、「Green Device 2009」の展示会場と「FPD International 2009」の展示会場には明確な区別がない。一体となってレイアウトされている。展示会場のレイアウトを詳しくみると、長方形の会場の中央よりに「Green Device 2009」の出展企業が配置されていることが分かるものの、展示会場を歩いていて両者を判別することは不可能だろう。

展示会場の風景。Green Device 2009とFPD International 2009は区別されていない

 そこで本レポートでは、「FPD International 2009」の出展社を含めて代表的なグリーンデバイスの展示をご紹介する。具体的には「LED(エルイーディー)照明」、「有機EL(イーエル)照明」、「電子ペーパー」の展示を中心に据えた。LED照明と有機EL照明は照明器具の省エネルギー(消費電力低減)に大きく貢献し、電子ペーパーはディスプレイの省エネルギーに大きく貢献するとされるからだ。

LED照明:5万時間と長寿命の蛍光灯形LED

 LED照明で目新しかったのは、蛍光灯形のLEDである。エコリカと東神電気がそれぞれ出展していた。いずれも既存のグロー式およびラピッド式の蛍光灯器具に、そのまま取り付けられる。

 エコリカが出品したのは40W型の蛍光灯に相当する蛍光灯形LED「ECL-L40WH」である。すでに市販を開始した。ECL-L40WHは154個と数多くの白色LEDチップを直線状に並べている。白色LEDチップを単純に並べるとチップ間の出力ばらつきが発光のムラとなる。そこでエコリカでは、あらかじめ白色LEDチップを選別し、出力が均一なチップだけを並べて蛍光灯形LEDに仕上げた。エコリカの説明員によると、消費電力は蛍光灯の7割~8割くらいという。

 ECL-L40WHの寿命は5万時間で、電球形LEDの4万時間よりも長い。蛍光灯の裏側に相当する部分を放熱構造として電球形LEDよりも放熱性を高めたため、LEDの寿命が延びたという。なお蛍光灯の一般的な寿命は6,000時間~10,000時間である。

 ところで家庭用には直線タイプ蛍光灯形LEDだけでなく、サークルタイプの蛍光灯形LEDが開発されることが望ましい。この点を説明員に質問したところ、現状ではサークルタイプは技術的に難しいとの回答だった。

左が従来の40W型蛍光灯、右がエコリカの蛍光灯形LED蛍光灯形LEDの外観。円筒の半面が発光面、半面が放熱面となっている

 東神電気が出品したのは40W型と20W型の蛍光灯形LEDである。製品名は「美蛍(びけい)」。40W型は108個、20W型は54個の白色LEDチップを搭載した。寿命はいずれも4万時間。

手前が従来の20W型蛍光灯、奥が東神電気の蛍光灯形LED。LEDチップは発光源が点なので、LEDチップの並んでいる様子が外からでもうっすらと分かる東神電気は数多くの蛍光灯形LEDを縦に並べて展示していた
色温度を7通りに変えられるLEDモジュール「色温度可変モジュール」。右上で光っているのがモジュール。5個のLEDチップを搭載した。スタンレー電気が出品

 白色LEDの特徴に、発光色の色温度を調整できることがある。スタンレー電気はこの特徴を活かし、色温度を7通りに変えられるLEDモジュール「色温度可変モジュール」を開発した。たとえば化粧の映え具合は、照明の色温度によって変化する。外出先の照明に合わせた色温度の照明で化粧をすることで、映え具合をあらかじめ確かめられる。

 「色温度可変モジュール」で設定できる色温度は2,000K(ロウソクの炎)/2,800K(電球色)/3,500K(温白色蛍光灯)/4,200K(白色蛍光灯)/5,500K(晴天の正午における太陽光)/6,500K(曇天)/7,000K(覚醒光)である。電源電圧は9V、消費電流は240mA。

 また電球や蛍光灯などと違い、LEDチップは1cm角以下と非常に小さく軽い。そこで既存の照明器具を置き換えるのではなく、LEDチップの小ささを活かした薄い照明器具が登場してきた。

厚さが16mmしかない、ダウンライトタイプのLEDモジュール。ロームが参考出品した

 たとえばロームは、厚さが16mmしかないダウンライトタイプのLEDモジュールを参考出品した。大きさは98mm角である。既存の照明器具では天井に埋め込めない場合に、あまり邪魔にならずに取り付けられる。

有機EL照明:照明用有機ELパネルの量産が始まる

効率が45lm/Wと比較的高い照明用白色発光有機ELパネル。Eastman Kodakが参考出品した

 商用化と普及が着実に進んでいるLED照明と違い、有機EL照明はこれから商用化が始まろうとしている段階にある。有機ELの開発企業であるEastman Kodakによると、効率を高めること、発光寿命を延ばすこと、そしてコストを下げることが有機EL照明の課題だという。

 そのEastman Kodakは、効率が45lm(ルーメン)/Wと比較的高い照明用白色発光有機ELパネルを参考出品した。パネルの大きさは6インチ(約150mm)角。色温度は3,000Kである。実験データでは、効率が66lm/Wと高い白色発光有機ELが得られているという。

 日本国内では2008年5月に、照明用有機ELパネルの専業メーカーが誕生した。三菱重工業とローム、凸版印刷、三井物産、城戸淳二氏(山形大学教授)が出資して設立したLumiotec(ルミオテック)である。Green Device 2009でLumiotecは、白色発光有機ELパネルを照明器具に組み込んだ試作品を展示し、来場者の注目を集めていた。説明員によると、すでに一部の有機ELパネルを照明器具メーカー向けに量産中だという。

白色発光有機LEパネルを組み込んだ照明器具。Lumiotecの参考展示白色発光有機LEパネルを組み込んだスタンド。Lumiotecの参考展示
蛍光と燐光の両方を利用した白色有機ELパネル。ロームの参考展示

 またロームは、EL(エレクトロルミネセンス)の基本原理である蛍光だけでなく、燐光も併用した有機ELパネルを参考展示していた。りん光の活用により、発光強度が60%も高まったという。

電子ペーパー:携帯電話機のキーパッド表示に利用

 最も消費電力が低い薄型ディスプレイ技術が、電子ペーパー技術だ。消費電力が低い理由は大きく2つ。反射型ディスプレイなので光源を必要としないことと、不揮発性を備えているので表示を書き換えるときだけ電力を消費することである(電源を切っても表示が残る)。

米E Inkと台湾Prime View International(PVI)の共同出展ブース。ものすごい人だかりで、展示物の撮影に苦労するほどだった

 電子ペーパーの商用化で先行するのは、米E Inkと台湾Prime View International(PVI)である。PVIはE Inkの買収を2009年6月に決定しており、Green Device 2009では、E InkとPVIは共同で展示ブースを構えていた。

 電子ペーパーの利点はそのほか、視野角が180度と広いこと、柔らかなディスプレイを作れること、様々な形状のディスプレイを作れること、などが挙げられる。弱点はカラー表示と動画表示である。カラー表示のためにカラーフィルタを使うと表示画面が暗くなってしまう。そして画面を切り換えるのに必要な時間が数百ミリ秒かかるため、15フレーム/秒の動画表示も現状では困難である。電子書籍用端末に電子ペーパーが使われているのは、こういった弱点が目立たないことにもよる。

 E Inkは電子ペーパーの様々な応用事例を展示していた。電子書籍用端末、携帯電話機、USBメモリの残容量計、腕時計などである。

 中でも興味深かったのが、携帯電話機のキーパッド表示に電子ペーパーを応用した例である。Samsung ElectronicsがVerizon向けに開発した携帯電話機「Alias 2」に電子ペーパーを採用した。「Alias 2」は液晶ディスプレイを縦方向と横方向のどちらにも開けるようになっている。液晶ディスプレイを開く方向に合わせてキーパッド表示の方向が自動的に切り換わる。非常に便利な機能だ。

携帯電話機のキーパッド表示に電子ペーパーを利用した例。液晶ディスプレイを縦方向に開いたところ携帯電話機のキーパッド表示に電子ペーパーを利用した例。液晶ディスプレイを横方向に開いたところ。キーパッド表示の方向が変わっている電子書籍用端末の例。米Amazonの「Kindle DX」

 一方、PVIは電子ペーパーのディスプレイパネルを展示していた。9.7型で画素数が1200×825画素、画素密度が160ドット/インチ、階調が16階調(4bit)というのが代表的なパネルである。ガラス基板のパネルととプラスチック基板のパネルの両方が展示されていた。プラスチック基板の電子ペーパーは折り曲げられる。説明員によると、いずれも量産を始めているという。

 9.68型で2,048×1536画素と非常に高い解像度の電子ペーパーパネルも展示されていた。画素密度は270ドット/インチと高い。階調表示は16階調(4bit)。基板はガラス基板である。

9.7型の電子ペーパー。画素数は1,200×825画素。基板はプラスチック。PVIの展示品2,048×1,536画素の電子ペーパー。大きさは9.68型。PVIの展示品

 LED照明、有機EL照明、電子ペーパーは、発展段階の技術である。今後の展開がますます楽しみだ。





(福田 昭)

2009年10月29日 17:04