マッサージチェアのフジ医療器が大阪の新工場を公開
マッサージチェアなど医療・美容機器を手がけるフジ医療器は、6月3日、同日稼働を開始した大阪府太子町の新工場を、報道関係者に公開した。フジ医療器といわれてもピンとこない人もいるかもしれないが、高機能マッサージチェアの分野では長い歴史と高いシェアを誇るトップ企業である。普段あまり目にすることのできない製造現場や同社のマッサージチェアの歴史なども含めレポートする。
■1954年よりマッサージチェアを作り続けてきたフジ医療器
第1号機を紹介する木原氏 |
工場内の製造エリアの内覧の前に、フジ医療器 会長の木原 定男氏が、同社の歴史や概要を紹介した。
まず木原氏は、フジ医療器のマッサージチェア第1号機を紹介する。これは創業者の藤本 信夫氏が1954年に作った世界初のマッサージ機だという。最初の試作には、体を揉む部分(通称「揉みボール」)に軟式野球の球を使ったり、揉みボールの上下動に軽自動車のハンドルを、駆動部に自転車のチェーンを利用するなどの苦労があったという。
昭和30年代(1955〜65年)当時、マッサージチェアは個人が購入するものではなく、銭湯や旅館、健康センターなどに置かれるものとして普及した。木原氏は当時のことを「煙突を探して営業に駆け回った」と振り返る。
木原氏は「10円で3分動くマッサージチェアは一斉を風靡した。どこの公衆浴場にもあり、これでマッサージチェアが市民権を得た」とし、さらに「このボディの赤い色にインパクトがある。ある年齢層の人ならばみんな知っているのでは。赤いマッサージチェアがフジ健康器の製品」と語り、同社の製品が広く普及していたことを紹介した。その後も公衆浴場などがマッサージチェア販売の中心で、昭和40年代(1970〜75年)にはトラックにマッサージチェアを載せ、全国を走り回ったという。しかしそうやってトラックで営業活動をしているうちに、個人から「家で使いたい」という要望も出始め、個人向けにも販売されたという。それにあわせ、当初は10円を入れて動くタイプだったところが、スイッチで動くようなタイプも作られるようになった。
10円玉を投入すると動くタイプ | 揉み/叩きがスイッチで変更できるタイプ |
ちなみに当時は「揉みボール」の部分がアームとして椅子から飛び出ているデザインだった。しかしアームが飛び出るのは衣類などに引っかかって事故につながるため、現在では認可されないという。
昭和60年代からの進化 |
その後も製品の改良は進むが、平成になって(1989年以降)からフジ医療器は、世界に先がけエアー(空気圧)を使った製品も開発した。エアークッションをふくらませたり縮めたりすることで、「ミルキングアクション(絞るような動き)」が実現している。その後はエアーだけでなく従来のメカによる「叩き」「揉み」も組み合わせた商品が登場した。このころから他社との開発競争に突入し、製品のレベルが上がったという。
最近の製品では体型センサーで機械が自動で使用者の体型に合わせる機能が搭載された。その後はこうしたインテリジェントな機能が強化され続けて今日に至るという。
木原氏は最後に「いま生活は厳しくなってきているが、心をマッサージすることができれば、という思いを持って、製品を進化させていきたい」と語った。
最新モデルの中でも売れ筋の「AS-830」 | 近年のモデルのセールスポイントである立体的なセンサとメカ | 「ひとりひとりの体と心にマッサージを」 |
■新工場はセル方式の採用で生産効率化を果たす
今回稼働を開始した工場は、大阪駅から車で50分ほどの郊外にある。従来から大阪にあった3つの工場に代わるもので、従来はばらばらだった調達・製造・物流を一元化しているという。
新工場の生産能力は、年間6万台となる(従来の大阪工場は年間3万6,000台)。これに継続して稼働する群馬県の工場を加え、フジ医療器全体では、合計9万6,000台の生産能力を持つことになる。
新工場での最大の特徴としては、組み立ての現場にライン方式ではなくすべてセル方式を採用したことが挙げられる。
工場内の製造エリア | 旧工場でのライン生産の模様 |
ライン方式とは、ベルトコンベアのラインに組み立て中の製品を流し、各工程の担当者はそのラインに沿って作業をする。フジ医療器でも、旧工場や群馬工場では一部がライン方式だった。
セル方式とは、各工程の担当者はラインを形成せず、ばらばらに存在する。各工程の担当者は別々に作業を進め、作業が終わった部材を次の担当者のいるエリアに運んで一時的にストックする。次の担当者はストックされた作業中の部材を持ってきて次の作業を行なう。製造中の製品・部材は台車に載せ、必要に応じてその台車のまま最後の行程まで移動していく。
ライン方式に対するセル方式のメリットは、柔軟性があることが挙げられる。たとえば、「ある行程だけ工数が多くて時間がかかる」といった場合、その行程の担当者を増やすことで、行程の停滞・ボトルネックをなくすことができる。また製品仕様が変わったときも、製造現場のレイアウトを変更することで簡単に対応できる。
製造エリアのレイアウト |
今回の工場公開時に製造されていた「AS-830」の場合、足をエアで揉む「オットマン」と背中をメカで叩き揉む「メカ」、電子部などを組み込んだ「ベース」でそれぞれ担当が別々に作業をする。それぞれが組み上げたパーツを、さらに別の組み上げ担当が組み上げ、さらに次の担当者がカバーをつけ、次の担当者が検査を行ない、これらとまったく別の担当者が製品の同梱品の組み立てをし、最後の担当者が梱包する。
オットマン担当が2名、メカ担当が2名、ベース担当が1名、いちばん工数が多い組み上げ担当が4名、カバー担当が1名、検査担当が2名、梱包担当が2名1組となり、工数によって担当者数が柔軟に配置されていた。
新工場の製造エリアはセル方式に対応するために、柱がない広いスペースで作られている。また固定された機材はなく、電源も天井からおろすなど、簡単にレイアウト変更ができるようにもなっていた。
このように製造エリアを広く取り、一部屋にまとめたことで、従来は別エリアで作業していたパートや障碍者も今回は同じエリアで作業できるようになったという。
脚部分のオットマンパーツの製造工程 | 背中部分のメカパーツの製造工程 | 心臓部にあたるベース部の製造工程 |
オットマン、メカ、ベースを組み立てる工程 | 背中部にカバーを取り付ける工程 | 検査工程 |
梱包工程。80kgもあるためクレーンが必須 | 付属品の製造工程 |
■「体感」を製品開発に最大限活かす「カンジニアリング」
商品開発の5つのこだわり |
フジ医療器 商品本部 商品部の真喜志 康樹氏は、同社の商品開発について5つのこだわりがあると説明する。
まず1つめがユーザーからのフィードバック。新商品発売後、ユーザーからの意見はすぐに次の商品に活かすという。
2つめは商品の味付け。マッサージチェアは人間が相手の道具だけに、人間の体感が重要になる。この点について真喜志氏は、「エンジニアリングではなく“カンジニアリング”、体で感じて製品に味付けしている」と説明する。
3つめは肩・腰・脚の3つのポイントをサポートすること。4つめはエアーを使ったマッサージ手法の工夫。マッサージチェアというと、「揉む」「叩く」がメインだが、フジ医療器では「伸ばす」という要素も取り入れている。そして5つめは体の構造に合わせたマッサージ思想。
マーケティング会社のGfK Japanのデータによると、現在フジ医療器はマッサージチェア市場でトップシェアを維持している。真喜志氏は「シェアナンバーワンだが、今後もフジ医療器にしかできない商品を作っていく」と語り、「カンジニアリング」の考えを実践する「マッサージチェア・マイスター」の同社 商品開発ユニット長 藤代 光明氏を紹介した。
マッサージチェア・マイスターの藤代氏 | マッサージチェアのマッサージを体感中の藤代氏 |
藤代氏はマッサージを「する」マイスターではなく、いわばマッサージチェアにマッサージを「される」プロだ。マッサージチェアに実際にマッサージされつつ、体感で製品の調整をする。
たとえばエアーのマッサージは、強さはユーザーが設定できるが、速度や時間はあらかじめフジ医療器側が調整したものとなる。空気を入れて体を締めた状態から空気を抜いてゆるめる状態に移行するまでの時間、今回はこの時間を調整するデモンストレーションが行なわれた。
現在のフジ医療器のマッサージチェアは、背中を叩く・揉む以外のほとんどの部分はエアーバッグによるマッサージとなっている。今回のデモンストレーション内容は、脚・腰・肩について、いずれかのみを標準と異なる時間で動かし、違和感があるかを指摘する、というものだ。しかし多くの報道関係者に囲まれるなど普段と異なる状況だったせいか、藤代氏は最初は正しい答えを指摘していたものの、ファイナルアンサーを求めたところ誤答するという場面も見られた。
筆者もこのデモンストレーションを体験してみた。最初に標準速度で動かしてもらい、そのあと速度を一部変えて動かしてもらう。筆者は「腰の時間が長くなってますね」と自信満々に答えたところ、正解は「肩の時間が短い」だった。
この時間は0.1秒単位で調整されるという。筆者の体感としては、そうとう熟練していないとはっきりとした違いは感じ取れない印象だ。フジ医療器では、実際の体感により、こういった細かいセッティングも「心地よい」と思えるものに調整しているという。
環境試験室での耐久試験の模様 |
このほかにも、環境試験室における耐久試験の模様も公開された。環境試験室では、製品の仕様上の限界環境でひたすら製品を動かし続け、必要な耐久性が確保されているかどうかを確認するというもの。今回の公開では、気温を35~40℃までで変動させている環境で製品のリクライニングやエアバッグを動かし続ける、というテストが行なわれていた。逆に低温での試験もしているという。
ちなみにこうしたテストは、開発中の製品や発売後に部品の仕様が変更された製品が対象となる。今回の公開では報道関係者が入るとあって、さすがに次期モデルなど未発売の製品のテストは行なわれていなかった。
(白根 雅彦)
2009年6月5日 15:04