ニュース
家電を手ごろに、環境も守る。パナの家電再生とリサイクル現場を見た
2025年11月10日 08:05
最近は家電の買い方の幅が広がり、店頭やネットで購入するだけでなく、サブスクリプション(サブスク)として月額料金を支払い、一定の料金に達すると所有(購入と同じ)扱いになるサービスや、要らなくなったら返却しやすいレンタルを使っている人もいることだろう。
そこに登場したのが最近耳にする「リファービッシュ」だ。これまでの「リサイクル」や「リユース」とは、何が違うのか?
特にリファービッシュ品の販売に力を入れているメーカーの一つがパナソニック。同社のリファービッシュとリサイクル、2つの工場を取材してきたので、その最新動向をお伝えしたい。
新品同様でも価格は手ごろ? 「リファービッシュ品」は実際どんなものか
今回紹介する「リファービッシュ品」とは、初期不良やサブスクの途中解約などでメーカーに戻ってきた製品を、修理して、製品として使えるようにしてから再販売するものを指す。
これまでアウトレットモールやメーカーホームページなどで「アウトレット品」や「ワケあり品」として販売していたものに近いイメージ。撮影や展示などの貸し出しで何度か使うなど、少し傷はあっても実用上はまったく問題ない製品も多い。
従来はメーカーが修理した後、改めて保証を付与してからアウトレットとして販売するものもあれば、キズなどは修理せずその分価格を下げて販売するなど、対応はバラバラだった。
リファービッシュ品は、さらに新品に近いものだ。細かい傷はリペアし、故障箇所は修理、また利用して汚れてしまった部分は新品並みに清掃や部品交換し、新たに保証を付けて再販売する。日本語では「整備済み製品」や「再生品」ともいわれる。
リファービッシュ品よりも有名なのが、「リユース品」や「リサイクル品」と呼ばれるもの。「リユース品」はヤマダ電機なども力を入れているが、専門業者などが中古品を引き取って、独自に清掃したり動作チェックをするなどして、完動品を確認して再販するシステムだ。リファービッシュのようなメーカー保証はないが、業者独自の保証が付く場合もある。
一方の「リサイクル品」は、「リユース品」と同じ意味で使われることもあるが、多くの場合は買い取った中古品の動作確認だけをして、清掃やメンテナンスせずに販売する場合が多い。業者は家電や電気のプロじゃないところもあるので、とくに「バッテリー駆動式家電のリサイクル品」は要注意。なぜなら動作チェックでは、バッテリー寿命までは調べることが難しく、購入して間もないのに極端に動作時間が短い場合もあるからだ。
このように「リユース」や「リサイクル」よりも安心して購入しやすい「リファービッシュ品」は、実際はどういった工程を踏まえて、安心安全を担保して再出荷されるのか? 工場で取材してきたので見ていこう。
業者にはマネできないオーバーホールで修理/清掃/部品交換
リファービッシュを積極的に行なうメーカーは、国内ではまだ多くないが、栃木県にあるパナソニック宇都宮工場を例に見てみよう。ここではテレビを中心に、同工場で扱っている洗濯機やカメラ、食洗器を紹介する。
フィルムを剥がした後は、粘着剤を溶剤で溶かしてきれいにしてから、最後に新しい偏光フィルムを貼る。このフィルムは、電気を必要としないので配線などは不要。
さらに本体の故障部分などをチェックする。工場ではマイスター制度を設けており、目視や専用の測定器の結果から故障個所を診断できるマイスターが修理を担当する。
なお本体に傷がある場合は、バフがけして傷を取り、最後に動作チェックと付属品を梱包してリファービッシュ完了。パナソニックのホームページでは、リファービッシュされて新品同様の製品が手ごろな価格で販売されている(通販のみ)。
業者が中古の完動品を仕入れて、清掃して再販するリユース品とは異なり、リファービッシュ品は分解修理やリペアを行ない、ほぼ新品として再販売する。それゆえ手間がかかり、販売価格や処理能力が今後の課題になるという。
工場では、テレビ以外にもレコーダーやデジタルカメラ、ドラム式洗濯機や空間除菌脱臭機(ジアイーノ)、食洗器なども扱っており、ほぼ新品に近いリファービッシュ品を提供している。
「素材を再利用」するリサイクル 冷媒も
リサイクルとは完動品を再販売する「リサイクル品」だけではない。それは家電としてではなく「素材としてのリサイクル」だ。この分野を担当するのは、茨城県にあるパナソニック エコテクノロジー関東という拠点だ。
ここの工場では廃品として回収した冷蔵庫や縦型洗濯機、エアコンやテレビ(ブラウン管含む)のリサイクルを担当している。基本的にネジを外して部品単位(素材単位)にバラしていくが、テレビやエアコンの室内機のように筐体が樹脂でできているものは、プレス機にかけて殻を割るようにして中身を取り出す。荒業にも思えるがコストダウンと作業時間短縮には適した策だ。
樹脂や鉄板に分けるだけでなく、銅やアルミ、基板やガラス、鉄板と鋳型で成形したもの(大きく粉砕できない)に分けていた。さらに鉄と銅線に分解するモーターは、別に分別しているようだ。
素材単位に分解できなかった部分は粉砕機にかけられ、色々な素材が混ざったチップになる。このチップに風を当てて重さで分別したり、磁石にくっつけて鉄系を分離したり、誘導電流を使ってアルミや銅などを分類する。分類方法は科学の実験のオンパレードといった感じだ。
実はリファービッシュの始まりはリサイクルにある。まだまだ使える新品に近い製品がこの工場で解体される姿が見ていられず、「状態のいいものは引き上げて再生したい」という技術者の思いが始まりだという。
そんなリサイクルの中でも分離が困難なのが、エアコンに使われている「冷媒」と呼ばれるガスだ。環境破壊するフロンが使われているエアコンもラインに混ざっていた。フロンの代替となるガスも何種類かあり、環境への影響は少ないが、同種のガスを漏れないように分別回収している。
ガスはエアコンの室外機の中に高圧で封入されているため、これまでは人手でガスの吐出口と吸入口にガスを抜くための管を接続して手動で抜いていた。
しかし工場には、パナソニック製だけでなく他社製の製品も続々と入ってくるためメーカーはおろか、モデルごとにガスの種類も管を接続する場所も違う。そのためラインを増やし人海戦術で対応に当たっていた。
それを日本で初めて試験的に完全自動化したのがこの工場だ。ガスごとに分けられた室外機が、自動冷媒回収ラインに入るとカメラで管の接続箇所を判定。2本の管をロボットアームで確実に差し込んで冷媒を抜くようになっている。
まだ実験機の段階だが完成度は高く、実際のラインへの組み込みと、高速化が今後の課題だという。接続する管を間違えると、回収タンクに他のガスと混じってしまい、タンクごと破棄しなければならない事態を考えると、ロボット化による自動回収は作業が早くなるだけでなく、単純ミスの防止にもなる。
リファービッシュやリサイクルの観点から設計変更も
パナソニックは全社をあげて環境配慮の「GREEN IMPACT」に取り組んでいる。持続可能な地球環境を目指した、CO2の削減と「サーキュラーエコノミー」の実現だ。その具体的な取り組みが宇都宮の「リファービッシュ」であり、茨城の「リサイクル」だ。
これまでどのメーカーも生産性向上を目指し「生産技術」を発展させてきた。これは「製品の作りやすさ」や製造工程を簡易化するための技術で、工場の現場改革だけでなく、開発段階の図面や素材まで戻って最適化を行なっている。
リファービッシュやリサイクルに関しても「再生のしやすさ」が注目され、実際に開発までフィードバックした見直しなどもされているという。日本人の細かい気づかいや気づきが「生産技術」を発展させ世界的に「KAIZEN」を知らしめた。これからは「リサイクル技術」の「KAIZEN(改善)」で世界をリードしてものづくり日本の底力を見せてもらいたい。