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三洋電機時代のノウハウを活用したハイアールアジアの新たな研究開発拠点
(2015/3/24 00:00)
三洋電機時代のノウハウを活用した「ハイアールアジアR&D」
ハイアールアジアは、埼玉県熊谷市に、新たな研究開発拠点「ハイアールアジアR&D」を開設。3月19日に行なった開所式にあわせて、ハイアールアジアR&Dの内部の様子も公開した。
白物家電の研究開発に関わる各種試験を実施する設備が新たに導入されており、それは、ハイアールアジアの品質へのこだわりを証明する施設だともいえるだろう。そして、それらは、三洋電機時代から培ってきたノウハウを活用したものでもある。
ハイアールアジアR&Dは、JR熊谷駅から徒歩15分ほどの距離にあり、6階建ての事務棟、5階建ての実験棟で構成されるが、これとは別に2つの試験棟を持っている。
ひとつは、包装試験棟。ここでは、輸送時の振動シミュレーションを行なうことが可能であり、条件を変えることで、日本だけでなく、海外の輸送ルールに準拠した試験もできるという。
輸送時に振動によって不具合が発生し、着荷不良とならないよう事前に試験を行なうもので、トラック輸送などを考慮して、縦横、上下方向への揺れを再現。これによって、振動を与えた時の課題を解決する。三洋電機時代にも同じ試験設備を持っていたが、当時のものに比べて、上下方向への揺れを追加するなどの進化を図っている。
また、冷蔵庫を吊し上げて、上から落下させる試験や、水が入ったタンクを冷蔵庫の上に載せて、耐久性を検査するといったことも包装試験棟の中で行なっている。
もうひとつの試験棟は、騒音試験棟と呼ばれ、無響音室および半無響音室で構成されている。無響音室では、コンプレッサーやモーターなどの音を測定。静音性を実現するための改善を行なうほか、ねじ位置の変更やネジ数の増減による音の変化といった細かい部分までを測定し、開発部門にフィードバックすることもできる。半無響音室では、音の検査とともに、本体から発生する微妙な振動も測定することが可能であり、設計上の問題なども事前にチェックできる。
一方、写真撮影が非公開となった過酷実験室は、5階建ての実験棟の1階部分にある。
温度30℃および湿度80%の環境で稼働実験を行なう高湿室、43℃の環境で試験を行なう高温室のほか、1日1万回の開閉試験が行なえる扉開閉ロボット試験室を設置。「扉の開閉テストは、製品によっては5万回を実施。ものによっては10万回の開閉テストを行なうことになる」という。見学時には5台の冷蔵庫が、アームロボットを使った開閉試験を実施していた。
子供が力いっぱい開けた場合などの耐久性や低温に対する耐久試験などは別の施設で行なっているという。
また、化学実験室では、フレームやゴムなどの冷蔵庫に使われる部品の耐久性を検査するほか、使用する部品に有害物質が含まれていないかどうかも検証する。有害物質への対応は輸出時においても重要な課題であり、将来的には、ここで設計された製品が輸出される場合を想定した試験を盛り込んでいるという。さらに、ここでは、使用される素材の磨耗性などについても実験を行なっている。冷蔵庫のような長年使用される家電製品には不可欠な試験だといえる。
そのほか、化学実験室に隣接する複合サイクル試験室では、JISで定められた基準に合致するための耐腐食性について実験しているという。
なお、3Dプリンターも導入しており、冷蔵庫で使用するトレイなどの試作品を作ることで、迅速な開発体制を実現するとともに、コスト削減効果や品質向上にもつなげることができるという。
こうしてみると、新設した熊谷のハイアールアジアR&Dは、日本における研究開発に、積極的な設備投資しているのがわかる。
ハイアールグループが本気で取り組んだ研究開発拠点
ここまでの投資を行なっていたことに対しては、ある種、驚きの部分があったのも正直なところだ。
伊藤社長は、「この研究開発拠点には70億円を投資したが、この投資規模は、ハイアールグループが本気で取り組んだ研究開発拠点であることを証明するものである」としたが、数多くの最新鋭試験設備を導入しているという点では、まさに、ハイアールアジアのモノづくりに対する本気ぶりを感じることができたといえる。
一方、今回の開所式にあわせて開催されていたアイデアソンの様子も見学することができた。
ここには、ハイアールアジアの社員のほか、大学生、社会人など33人が参加。それぞれが「思わず家族が集まりたくなる家電のアイデアとは」をテーマに、アイデアを出し合い、発表した。
参加者が1人あたり3つのアイデアを出した上で、それらを参加者全員が客観的な判断で、いいと思ったものには星印をつけ、約100個のアイデアのなかから、6のアイデアに絞り込んだのちに、どのアイデアに参加したいかという観点からチームを再編成。さらにアイデアを絞り込んだり、実際に造形するといった作業を通じて、プレゼンテーションを準備。各グループが、それぞれプレゼンテーションを行なった。
今回のアイデアソンを運営したHackCampの矢吹博和取締役副社長は、「一般的に、メーカーの技術者が入ると、『そんなことはできないよ』とか、『そうはいってもね』というような会話が出てきやすいが、ディスプレイ付き冷蔵庫や、スケルトン洗濯機などのユニークな発想をするハイアールの技術者が参加することで、盛り上がりをみせたアイデアソンになった。まずはアイデアを誉めることが重要。それによってアイデアの質を高めていくことが大切である。実際に、星のマークを付けてもらうことで、周りがどんな評価をしているのか、どんなものを求めているのかといったことを知る機会にもなる。一押しのアイデアよりも、2番目、3番目のアイデアの方が、評価が高かったということもよくある話。今回のアイデアソンは、リスク分析やビジネスモデルといったところまで踏み込むものではなかったが、今回、選ばれたアイデアが製品化されることにも期待したい」と語った。
ハイアールアジアの伊藤社長は、「メーカーの技術者や開発者が、すごいことをやろうと思う場合、むしろ、思いこみによって、範囲をせばめてしまうことが多い。それを避けるためにも、熊谷の研究開発拠点を、オープンイノベーションの場として活用したい。ハイアールアジアと一緒になにかをしたいと思った会社にフロアを貸して、いろいろな化学反応を生みたい。実際、企業に部屋を貸すこともできるように、部屋もたくさん作っている。1月の戦略発表会後に、約20社からお声掛けをいただいた。そうしたコラボレーションの場としてここを活用してもらってもいい。また、異なる業界の企業と結んだ『国際結婚』の場になることを考えている。そして、インキュベーションへの取り組みも考えていきたい」などと述べた。
熊谷に新設した研究開発拠点は、伊藤社長が宣言した「ハイアールアジアは、家電業界に革命を起こす」という言葉を具現化する上で欠かせない拠点となりそうだ。