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“第二の創業”を掲げる44歳ハイアール アジア インターナショナル社長の戦略とは

ハイアール アジア インターナショナル 代表取締役社長 伊藤嘉明氏

 ハイアール アジア インターナショナルは、新たな代表取締役として就任した伊藤嘉明氏の記者懇談会を開催した。ハイアール アジア インターナショナルは、日本を含むアジア地域の統括本社として、ハイアールグループが2012年1月5日に設立したもので、日本並びにアジア地域向けの商品開発及び、販売を行なっている。現在日本では、高付加価値製品を扱う「AQUA」と、スタンダードでベーシックなエントリーモデルを扱う「Haier」のダブルブランドで展開している。

 ハイアールグループは1991年に中国・青島で設立、以降、白物家電を中心に世界各国で展開。販売台数シェアで世界1位を獲得する世界的な家電ブランド。

 ハイアール アジア インターナショナルは、杜 鏡国(と・きょうこく)氏が、ハイアールグループ副総裁と兼任して、代表取締役社長を努めていたが「家電先進国の日本及び今後大きな成長が見込まれる東南アジアでの事業をさらに発展させるため」に社長を交代した。

 新たに代表取締役社長に就任した伊藤嘉明氏は、1969年生まれで、現在44歳。タイのバンコクで生まれ、米国オレゴン州コンコーディア大学マーケティング学士号及び米国サンダーバード国際経営大学院でMBA 国際経営学修士号を取得。

 その後、タイでのサーブ自動車のブランドロンチからキャリアをスタートさせ、日本コカ・コーラ、Dell、レノボ、アディダスジャパンなど様々な業種を得て、2009年からはソニー・ピクチャーズ エンターテイメントで業務執行役員シニア・バイプレジデント ホームエンタテイメント部門 日本代表を務めてきた。

“Japan Quality is no1"を踏まえて“第二の創業”を目指す

 伊藤氏は今回の抜擢について「私のミッションはハイアールをグローバルカンパニーとして、トップブランドにふさわしい会社とすること。いわば第二の創業と考えている」と語る。代表取締役社長に就任してから、まだ日が浅いが、この5週間、国内外の拠点を自ら訪れてきた。

 「私のポリシーとして、1対1の面談が大事だと思っている。人となりを理解するのにとても大切なことだと。実際、この数週間で国内外の主要な幹部とは面談をしたが、日本の社員、海外の生産拠点で働く現地スタッフともに感銘を受けた。特に海外の現地スタッフは、三洋の諸先輩方の指導が行き届いており、感動した。とても優秀で、これは今後を牽引する力になると思っている」

 今後の方針としては「やはり“Japan Quality is no1”だと。この部分を評価したからこそ、ハイアールが三洋を買収したのだと。今後は三洋電機のDNAをハイアールのDNAとして手法を徹底して、展開していきたい」と語る。

 ハイアール アジア インターナショナルでは、日本以外のアジア各国に向けても商品開発及び、販売を行なう。

 「基本的には、日本、タイ、ベトナム、インドネシア、マレーシア、フィリピンの6カ国を販売拠点として、残りの新興国をカバー」していくという。伊藤氏はこの6カ国を3つの市場に分ける。

 「重要市場」として掲げるのは、タイとインドネシアだ。「どちらも経済成長が見込める国。特にインドネシアは人口が2.4億人と多く、伸びしろが感じられる」

 「成熟市場」は、日本とベトナムを挙げる。「日本は熾烈な競争もあり、消費者の目も肥えている。数字をがむしゃらに追うというよりは、身の丈にあった健全な経営を目指す。ベトナムに関しては、既に30%超のシェアを獲得しているので、このまま維持していきたい」

 マレーシアとフィリピンは、「成長市場」と位置づける。「製造拠点がないので、今後伸ばしていきたい場所」

従業員500人、身の丈にあった経営を

 会見中、伊藤氏が何度も口にしたのは「身の丈にあった」という言葉だ。これは世界で3万人の従業員を掲げるハイアールグループとしてではなく、従業員500人のハイアール アジア インターナショナルとして動くことが大事だということだ。

 「とにかく、新しい会社に生まれ変わると思っていただきたい。これまでのやり方ではなくて、人員の見直しや再配置も進める。例えば職席1つとっても現在は多すぎると感じる。今後は1ケタ台として、階層の少ないフラットな形を目指す」

 同氏のこの姿勢は、就任時に社員に発表した5つのキーワードにも表れる。

 「変革に慣れて」「スピード」「Roughly Right(だいたいで良い)」「Bad news first(悪いニュースを最初に伝えて)」「Owner ship Leader ship(責任感、指揮を意識)」というものだ。中でもユニークなのが、Roughly Rightというキーワード。

 「100%ではなく、60%の段階でGOサインを出す。もしそれが間違っていても、残り40%が残っていれば、修正は可能。もちろん、品質やコンプライアンスは大前提としてあるが、それくらいのスピード感が必要」だという。

グローバルカンパニーとして公用語は英語に

 また、グローバルカンパニーとして、「英語を公用語」にすることも視野に入れる。

 「従来のやり方であれば、海外の生産拠点に日本人が駐在していたが、元三洋電機がそれはやってくれた。そのおかげで現地には素晴らしい人材が育っている。今後グローバルカンパニー化していく上で、優秀なローカル人材を積極登用していきたい。そのために、日本での変革を進める上でも、英語の公用語化をすすめたい」

 今後の具体的な計画としては、18~24カ月先を直近のゴールに設定する。

 「大きな会社では5カ年計画、3カ年計画を掲げるが、私は5年先の状況は読めないと思っている。そこで、まずは18~24カ月を直近のゴールとして計画を進めていきたい。日本市場に関しては、具体的な数字は差し控えるが、アジア市場に関しては年間二桁成長を目標とし、真のグローバルカンパニーを目指す」

 目標達成のために、チーフマーケティングオフィサーの創設、80億円以上を投資したR&Dセンターを埼玉に新設、生産拠点については、タイ、ベトナム、インドネシアを核として、サプライチェーン全体の見直しを進めていくという。

キャリアゴールを実現

 今回の就任について伊藤氏は「自分のキャリアゴールだった」と語る。

 「タイで生まれ育ったので、日本人でありながら、日本を外から見てきた。私は日本人と同時に自分をアジア人だと思っている。日本、アジア、それぞれに貢献できる仕事をしたいと思っていたので、これはチャレンジしがいがある、運命だと思った」

阿部 夏子