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シャープ、東南アジア向けの白物家電が好調

~現地で企画された冷蔵庫や洗濯機を披露

ASEAN地域向けのシンプルなエアコン

 シャープは、東南アジア諸国連合(以下、ASEAN)地域における白物家電事業が順調に拡大していることを発表。2017年3月期には年間の売上を3,000億円にすることを目標に、事業拡大を目指すという。

 ASEANなど東南アジア諸国では、経済成長が頭打ちの先進国とは対照的に、近年ではGDP(国内総生産)が伸長し、実質的な経済成長率が高く、人口も増加している。それにともない人々の生活が豊かになり、世帯あたりの可処分所得が5,000~35,000ドルの「中間層」と呼ばれる市民が増加している。

 反面、白物家電の普及率は未だ低く、インドネシアやフィリピン、ベトナムでは冷蔵庫、エアコン、洗濯機の2012年の普及率が50%以下に留まっているという。

ASEAN地域とインド、スリランカ、バングラデシュでは、GDP(国内総生産)が伸長し、実質的な経済成長率が高い
人口は2010年から5年で8%増加すると見込まれている
経済成長に伴ない、中間層や富裕層が増加すると予測されている
テレビの普及率に対して、冷蔵庫やエアコン、洗濯機といった白物家電の普及はまだ十分ではないという。なおテレビはCRTから液晶へ移行している段階

 シャープではこうした現状を踏まえて、アジア・パシフィック向けの事業拡大に取り組む。同地域における2013年の売上高の見込みは、2009年の約2倍に伸長。今後のASEAN地域における売上高として、2017年3月期に3,000億円という目標を掲げる。

2017年3月期には売上高3,000億円を掲げる
シャープのアジア・パシフィック組織体制。アジア・オセアニア各地の生産会社9社、販売会社10社を傘下に置く
近年、マレーシアの本部機能を強化してきた
2009年から、人員は1.2倍に増える一方で、売上は2倍に増えている

 シャープでは、ASEAN地域への取り組みの拠点として本部をマレーシアに置き、アジア・オセアニア各地の生産会社9社、販売会社10社を傘下としている。近年はASEAN各国でのシェアを伸ばすため、本部機能を強化しながら、生産販売会社の意思統一やサポートを計ってきた。

 2010年から2012年にかけてのASEAN地域におけるメーカー別の売上の伸び率を見ると、白物家電と液晶テレビの合計ではシャープがトップを獲得した。

 特にシャープがシェアを獲得している国がインドネシアだ。インドネシアの人口は2億4千万人で、ASEAN人口の40%を占めている。同国において、テレビ、冷蔵庫、洗濯機の販売台数で、シャープはそれぞれシェア1位を獲得。背景には、同社が早くからインドネシア市場に参入したことや、インドネシア向けの製品の生産と販売を同じ会社が手掛けているため、市況を反映しやすいといったことがある。このインドネシアの成功例を他国にも広めていくという。

シャープの白物家電と液晶テレビを合わせた売上高の伸び率は、他社よりも高い。2位、3位は日本のメーカーではないという
シャープ製品は、インドネシアで特に好調なシェアを誇る
マレーシア、タイ、ベトナムといった各国でも金額ベースのシェアを高めている

 今後ほかのASEAN地域でシェア拡大を目指すにあたり、シャープが取り組むのは地域のニーズに合わせたローカルフィット商品の企画だ。実際に各国の一般家庭を調査して、商品企画のベースにし、今後はよりASEAN地域のユーザー目線で、「こんな物があったらいいな」という製品の開発に力を注いでいくという。

 一方で、ASEAN地域とひと括りにしても、各国で細かなニーズの違いもあるという。シャープの藤本登 常務執行役員 アジア・パシフィック代表は、「タイは付加価値のついた家電が売れる。冷蔵庫なら容量300L以上。一方でインドネシアは安い商品、300L以下の製品が売れ筋。付加価値の付いた高い製品はタイからインドネシアに出荷している」と説明する。

以下、大阪の発表会会場に展示されていたASEAN地域向けの家電を紹介する。インドネシア向けの冷蔵庫「サムライ」シリーズ。取っ手に刀のデザインを採用
水圧が低くても使える温水シャワー
インドネシアやベトナム向けの炊飯器。現地では冷蔵庫の普及率が低いぶん、炊飯器で保温保存する人が多く、最大72時間保温できる機種も用意しているという
左からタイ生産の丸型全自動洗濯機で、フィリピン、インドネシア、中国などに各国に出荷している。中央の2台は二槽式洗濯機で浄水機能を搭載したモデル、右はフィリピン向けの錆びない樹脂ボディを採用した低価格モデル。脱水機能を省いて店頭価格を約9,500円に抑えた。現地は気温が高く、衣類を軽くしぼるだけで、すぐに乾くという
インドネシア向けウォーターサーバー。ガロンタンクを本体下部に取り付ける同社独自の仕様を採用し、使いやすいという
ASEAN地域では、ブラウン管から液晶テレビへの過渡期を迎えているという。電波の弱いところがあるため、全モデルにアンテナブースターを搭載している
2012年発売のフィリピン向けポータブルオーディオ
フィリピン向けのカラオケオールインワンシステム。液晶モニターを搭載している

 また、低価格競争に立ち向かうため、販売企画部として「OEM/ODM専任部隊」を設置し、OEM/ODMを積極的に活用している。これにより、コストの削減やラインナップの拡大が可能になる。ASEAN地域向けの白物家電のOEM/ODMモデル数は、2009年の65モデルから、2012年には229モデルへ、約3年で3.5倍に増加した。同社では引き続き白物家電のラインナップを強化するほか、オーディオ機器も投入していくという。

地域に合わせた家電を企画している
OEM/ODMモデルを増やすことでラインナップを強化し、シャープブランドの浸透を図る
地域密着型の製品の開発や、OEM/ODMの活用によるコスト削減とラインナップの拡大に力を入れるという

 こうしたASEAN地域での需要増加を受け、シャープがインドネシアに建設中の白物家電工場は、当初の予定を前倒しして、今秋に操業することになった。年間の生産台数は、冷蔵庫が264万台、洗濯機が168万台となる見込み。こうした現地向けの製品を現地で企画販売まで一貫して行なう「地域完結」のビジネスモデルは、為替変動の影響を受けにくいというメリットもあるという。

このほかマーケティング活動としては、日本式の合同、個別展示会を開催するほか、日本流の売り方を活かした販売会社や販売店への研修なども展開し、事業の拡大を図る。

 シャープは、ASEAN地域の各国へ展開する中で、LG電子やサムスンなど韓国メーカーとシェアを競っている。藤本アジア・パシフィック代表は、韓国メーカーの強さについて「LG電子やサムスンは、東アジアだけでなく、日本を除く全世界で強い。日本のメーカーが欧米に攻勢をかけていた頃、彼らは我々に先んじて南米や途上国に仕掛けていた。また、日本企業では考えられないほど莫大な予算を宣伝費に投じている。これが良い循環を生んでいるのではないか。韓国メーカーの製品は、現在は品質も良く、価格も日本メーカー製と同程度で競っている」と状況を説明した。

急増する需要に応えるため、インドネシアに建設中の白物家電工場の操業を、前倒しする。設備投資の金額は土地購入から建屋まで約100億円ほどかかっているという
合同、個別展示会を頻繁に開催し、製品紹介の場を増やしている
販売会社や販売店への研修を通じて、シャープファンの増加に繋げたいという
インドネシアでは移動サービスステーションによる販売促進活動も展開。これまで都市中心だった販促活動を地方に広げる
シャープが1965年に始めた、販売店と共に販促活動を行なう営業部隊「ATOM隊」を現地にも適用。現地人のATOM隊を育成し、現地に即したマーケティングを展開する
ミャンマーやスリランカにも4月に駐在所を設置し、事業展開を加速させる

小林 樹