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インドの住宅を電気火災からパナの「電材」が守る!? 海を越えた“安心安全”ものづくりを見た
2023年8月30日 09:05
パナソニックの「コンセント」や「壁スイッチ」などの電材は、日本国内シェアで80%を占めている、まさに“日本一の電材”だ。
国内にとどまらず、2023年現在は世界100カ国に電材を供給。なかでもASEAN諸国ではダントツに強く、台湾、フィリピン、ベトナム、インドネシア、タイの各国でシェア1位。その勢いはシルクロードを辿るようにインド(シェア1位)やトルコ(シェア1位)、サウジアラビア(シェア3位)まで広がっている。それゆえ今では世界第2位の電材メーカーまで登り詰めている存在だ。
パナソニック ホールディングスの品田正弘CEOによれば、電材事業は“勝ち筋が見えているパナソニックの中核事業”だという。
「パナソニック全体として2030年度までの中期ビジョンを達成する7つの事業があります。なかでも国内外の電材事業の強みを活かして、とくに海外電材は最重要事業のひとつです。もうひとつの空質空調事業とともにパナソニックをけん引します。また電材のエレクトリックワークス社(EW社)は国内電材も勝ち筋が見えているので、パナソニックを成長させる重大7事業のうち2つをEW社が担うことになります」(品田CEO)
EW社の大瀧 清社長によれば、2040年までに世界シェア1位を目指すとのこと。
「海外でも成長率の高いベトナムとトルコ、そしてインドを重要国として販路を広げます。2022年度の海外電材の売上は、EW社の全体の売上の24%でしたが、2030年度の目標40%を目指します。これによりパナソニックを世界ナンバー1の電材メーカーにします」(大瀧社長)
パナソニックの本気が感じられるが、あまりにも話が大きすぎて、聞いただけでは実感が湧きにくい。しかし今回インドを視察して、その自信の裏には確固たる裏付けと、戦略があることが分かった。パナソニックの大きな目標と、達成のためのパスを読み解いていきたい。
世界の出火原因はトップ3が電気火災。一方日本は……
総務省消防庁の調べによると「消防白書 令和4年版」において「世界各都市(地域)の火災状況」では、諸外国の火災の原因として上位3位に「電気」が入っている国が多数ある。しかし日本においては東京消防庁の調べによると「放火」「たばこ」「ガスコンロ」となっており、4位に電気ストーブが入っているものの少し意味が異なる。ようやく6位に「電気コード」が入るほどで、諸外国と傾向が違うのが分かる。
断言まではできないが、日本ではコンセントなど電気施設の安全性が非常に高い傾向にあるといえる。事実国内80%のシェアを誇るパナソニック製の電材は、難燃性の樹脂でできているため、もし異常に過熱しても発火しづらくなっている。また諸外国の電材の多くは電線と電材の端子部分が露出している製品が多く、ショートや漏電の原因になりやすいが、日本では露出部分がない製品が多い。
海外製の電材は電線をネジ留めするものが多くあり、工事士の技量が問われるが、日本製は電線を差し込むだけで確実に接続できるため、技量をさほど必要とせず工事の作業短縮と安全性が確保されている。また壁のスイッチにおいても、接点部分に特殊な金属が使われているため、負荷がかかっても経年劣化しづらくなっている。
万が一、家電がショートしてしまったり、1つのコンセントから電気を食う機器を同時に使ったりした場合なども、コンセントや配線を守るためにブレーカーが設置されている。その上で屋外や水回りで使う家電製品が水で濡れて漏電したときに大元の電気を遮断する「漏電遮断器」も必ず設置されている。実はこのブレーカーや漏電遮断器なども、国内シェアはパナソニックが1位の独壇場なのだ。
これらの電材だけで電気火災を確実に防止しているとまでは断言できないが、万が一に備えて何重もの安全性が担保されている。これが日本は世界的にみて電気火災が少ない原因のひとつになっていることは間違いないだろう。
電気火災からインドの人々を電材で守る!
世界の中でもとりわけ電気火災が多いとされているのがインドだ。その原因は慢性的な電力不足、送変電などの施設の老朽化、そして雑な工事ともいわれている。インドのムンバイ消防局の調べでは、出火原因の60~75%が電気によるものだという。日本やアメリカでは5~10%なので、その割合が突出しているのがよく分かるだろう。
それに拍車をかけるのが急激な人口増加と住宅不足だ。2023年の国連調べではこれまで1位の中国を抜いてインドの人口は14億人を超えたと推測されている。しかも首都デリーがある北部に人口が集中していて、人口を南部にも分散させるため、中低所得者層に住宅取得手当金のような支援をしている。
パナソニックEW社の南部工場最高責任者である加藤義行さんは、インド国内の工場の役割をこう説明する。
「すでにパナソニックは、インド北部(ハリドワール)と西海岸沿い(カッチ、ダマン)に工場を持っています。しかし電気を安心安全に使える電材の需要が急増しているため、南部東海岸(スリシティ)に工場を新設しました。ここでは主に大量生産の電材を生産し、北部工場は多品種少量の製品を人手によるラインを組み替えながら柔軟に生産していきます。さらに西海岸の工場では、これまで通り電線やLEDライトに加え電材も製造できる工場として役割分担します。加えてインド国内に素早く製品を届けられるように、各工場に在庫を分散、最適化するという役割も兼ねているのです」
一方インド南部の電気街でパナソニック製品の小売を担う販売店「スレッシュ・ エレクトリック・コーポレーション」のジャヤンティラル社長は、パナソニックの電材を絶賛する。
「とにかく信頼性が高くて壊れにくくて、10年使ってもまったく問題ない。それにシリーズ展開されているから、リフォームするときに壁の工事をしなくてもワンランク上の電材に交換できる。だから販売店としても売りやすいのがパナソニック製。他社にないのは、注文してから1週間以内に必ず届くっていう配送システム。うちとしても不要な在庫は抱えず、欲しいものがすぐに手に入るので驚いているよ」
新設した南部の工場は、日本の電材のマザー工場となっている三重県・津、ブレーカーのマザーとなっている愛知県・瀬戸工場よりも新しい生産ラインを導入し、さらに部品のストックから生産ライン、工程管理から製品の在庫管理まですべてをデジタル化している。加えて、経営資源や情報を集約して一元的に管理するERP(Enterprise Resources Planning)システムと連動したことで、製品の個数ではなく売上や利益といった金額で成果が分かる。
一方電気店からの受注システムもDX化を行ない、ネット経由で注文し在庫システムと連動させることで、機会損失を防ぎながら最適な在庫を確保できるようになっている。これらのシステムにより、日本の国土の9倍もあるインドで、かつ配送事情が悪くても7日間以内に届けるという他社にはないアドバンテージを得ることになった。
こうして複数の国でシェア1位の販売数となったパナソニックだが、安心安全、確実な施工や速達性だけでは、その国の国内電材メーカーと戦うことはできない。つまり適正な価格でありながら、これらを担保しなければならないのだ。そのためのフルオートメーションの工場や、DXが必要不可欠になる。
もちろん一企業なので利益を追求しなければならないのは事実だが、工場ありきの“売れ売れドンドン”ではないようだ。電気を安心・安全に使える社会にしたいという願いの元、皆が手の届く価格帯で製品を作るにはどうしたらいいかを考えた結果の新しい工場といえるだろう。
日本の「安全道場」がインドにも。無償の訓練校で学べる
パナソニックの創業者・松下幸之助の有名な言葉がある。「松下電器(パナソニックの旧社名)は何を作る会社か」と尋ねられたら「松下電器は人を作るところでございます。 併せて電気製品も作っております」というものだ。「モノを作る前にヒトを作る」という精神がインドでも継承されていた。
インドの各工場には「ANZEN DOJYO」という部屋が設けられ、全従業員がここで安全について学ぶ。工場にはさまざまな危険が潜んでいる。高電圧や高所作業、刃物に大型工作機械などだ。これらの危険を予測し自らの安全を確保することを学ぶ。もちろんこれは日本の各工場にある「安全道場」を継承したもの。
電材においては金属の端子や樹脂製のケースなど、金型の精度が製品の品質を決めるといってもおかしくない。インドの各工場では、津工場と同じように2人でペアを組んで若い人に技術を継承する姿なども見られた。そこで利用している工作機械は日本と同様の機械で、最後はヤスリやタオルで磨く姿など、まったく日本と同じ光景だった。
特徴的だったのは北部工場に併設されたパナソニックが運営する職業訓練校だ。パナソニック系列の工場で働くかどうかは別として、現地の若者が工作機械や家電のしくみや修理、プログラミング技術や組み立てラインでの実際を学べる場所となっている。学費もテキストや教材もすべて無償。ここで学んだ経験は就職や給料に大きく違いが出てくるという。
プラスチックの樹脂成型や、スマホのしくみ/修理を学ぶ講座は、みな真剣なまなざしで先生の話を聞き、実際に動く機械などを使って実習をしていた。
前述した通りパナソニックは「モノを作る前にヒトを作る」をモットーにしている。この考えは海を越えたインドにも確かに伝わっているようだ。
世界ナンバーワンに向けたパナソニックの道筋
ベトナムやトルコ、そして工場が新設されたインドの海外電材事業だが、パナソニックにはもうひとつ大きな願いがある。それは古い建物で古い電材が使われているヨーロッパをはじめ、インド同様に電力供給施設の老朽化や電力不足に加え安全性の低い電材を使っている中東、アフリカ大陸でも、安心安全に電気を使ってほしいというものだ。
2023年現在は世界第2位の電材メーカーとなっているが、これらの国々に安全な電材を供給できるようになれば、結果として世界のトップメーカーになる。一般の顧客にはわかりづらいかも知れないが、販売店や施工会社に対しては大きな強みになる。安心安全、長寿命で高い施工性のパナソニックが世界に認知されれば、より高い品質の製品を安定して供給できるからだ。
実は世界のトップメーカーになるためのロードマップはすでに計画されており、そう遠くはない2030年度を目標にしているという。
まずベトナム工場はシェア1位を持続するために、東南アジア各国に電材の安定した供給を図る拠点となる。すでに稼働中のトルコ工場は、古い建物が多いヨーロッパを中心に販路を広げ、将来的には北アフリカやロシアをはじめとする独立国家共同体も視野に入れているようだ。そしてインドはトルコとの間を埋める中東、そして南アジアを中心に販路を拡大。将来的にはアラビア海を超えて東アフリカへの上陸を目指している。
その昔「文明の十字路」と呼ばれたトルコを中心としてユーラシア大陸の東西を結ぶシルクロードと中国の絹織物が西洋に広がった。令和の今、日本とヨーロッパを結ぶ電材ロード(南回り線)が作られているといってもいいだろう。インドにはアフリカと交易する東インド会社があったが、パナソニックのビジョンは船荷を香辛料から電材に変えて、交易を始めようとしている。