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ダイソンの若手エンジニア向けアワード、国内第1位は赤ちゃんの脱水状態を検知するスマートおしゃぶり

 一般財団法人・ジェームズ ダイソン財団は、「問題解決のアイデア」をテーマにした、学生~若手エンジニア向けの国際エンジニアリングアワード「ジェームズ ダイソン アワード 2018」(James Dyson Award、以下JDA)の選考結果を発表した。同コンテストは、2006年から毎年開催され今年で13年目を迎える。

「ジェームズ ダイソン アワード 2018」日本国内の審査を通過した受賞者

 JDAは、エンジニアリングやデザインを専攻している学生(専門学校、高等専門学校、短期大学、大学、大学院)、または卒業後4年以内の人を対象にした、国際エンジニアリングアワード。国際最優秀賞の受賞者には賞金3万ポンド(約435万円)が贈られ、未来のデザインエンジニアを称え、育成を支援するという。

 テーマは「問題解決のアイデア」で、日常生活で直面する不満から世界の飢饉といったグローバルな問題まで、幅広く募集した。2018年は27の国と地域から、1,300を超える作品のエントリーがあった。各国にて国内審査を通過した81作品より、国際TOP20が選出され、そこからさらに国際最優秀賞と国際準優秀賞が決定する。

国際最優秀賞はイギリスの学生2名。都市型風力タービンを開発

 国際最優秀賞は、イギリス・ランカスター大学の学生2名が開発した、都市型風力タービン「O-wind Turbine」に決定。幾何学的なベントが付いた25cmの球体で、固定された軸の上に設置して使う。多方向からの風を受けて回転し、歯車で駆動する発電機が風力を電力に変換する。直接の動力源として利用することも、電力網に供給することも可能としている。

 「O-wind Turbine」を開発したニコラス・オレリャーナ氏は、高層ビル群などにより強い風が吹く都市部において、風という資源が有効に活用されていないことに着目。都市を吹き抜ける風をビルの間で捕らえるには、急激に無秩序な状態に陥るため、従来のタービンは活用できないという。

 今回開発した「O-wind Turbine」は、シンプルな幾何学的形状で多方向からの風を受けて回転し、風の強い日でもエネルギーを生み出せるように設計。今後は、ビルの側面や巨大な建造物、バルコニーなど、風速が最大となる場所への設置を目指すという。

国際最優秀賞は、イギリス・ランカスター大学の学生2名が開発した都市型風力タービン「O-wind Turbine」

 このほか国際準優秀賞は、開発途上国におけるマラリア治療向上を目指す診断装置「EXCELESCOPE2.0」(オランダ・デルフト工科大学チーム)と、車椅子を使う人の飛行機利用の負担を軽減するイス「Air Chair」(アラブ首長国連邦・シャルジャアメリカン大学)が受賞した。

日本国内第1位はスマートおしゃぶり「YourPacifier」

 12月7日には、日本国内審査においてTOP3に選出された作品の表彰式を開催。受賞者のほか、審査員を務めたデザインエンジニアの緒方 壽人氏やデザインジャーナリスト・川上典李子氏、ダイソンでデザインエンジニアを務めるサム バロウズ氏が登壇した。

 国内第1位は、赤ちゃんの脱水状態を検知して親のスマートフォンに通知する、スマートおしゃぶり「YourPacifier」。大阪大学 大学院工学研究科 機械工学専攻・山蔦 栄太郎氏を中心とした6名が開発した。チームメンバーがアジア太平洋諸島の病院を訪問した際に、下痢で脱水状態になった子どもたちが入院している状況に問題意識をもったことをきっかけに開発したという。

 デバイスではまず、赤ちゃんの唇の湿度をセンサーで計測し、脱水状態と判断した際に水分補給を促し、保護者の取るべき行動をサポートする。国内最優秀賞には、賞金2,000ポンド(約28.5万円)が贈られる。

赤ちゃんの脱水状態を検知して親のスマートフォンに通知する、スマートおしゃぶり「YourPacifier」
大阪大学 大学院工学研究科 機械工学専攻・山蔦 栄太郎氏を中心とした6名が開発
1枚の紙で構成されたロボットハンド「Origami-hand」

 国内第2位は、東京都立産業技術高等専門学校 ものづくり工学科・手塚 蒼太氏が開発した、1枚の紙で構成されたロボットハンド「Origami-hand」。人手不足や重労働を背景にロボットの導入が進む一方で衛生面やコスト面が壁となり、適用することがまだ難しい環境も多数存在することを課題と捉えて開発された。

 紙などのシート状部品のみを使用しており、複雑な動作ができる点が特徴。1枚の紙でできているため低価格を実現し、使い捨ても可能としている。

1枚の紙で構成されたロボットハンド「Origami-hand」
自然な動作を実現した5指義手「F3Hand」

 国内第3位は、軽量かつ柔軟な把持を実現した5指義手「F3Hand」で、大阪工業大学大学院 ロボティクス&デザイン工学研究科 ロボティクス&デザイン工学専攻・根本 裕介氏が開発。湾曲型空気圧人工筋を骨格兼アクチュエータとして用いており、軽量で柔軟な把持と自然な動作を実現したという。

5指義手「F3Hand」

 最後に、ダイソン デザインエンジニア・サム バロウズ氏が登壇し、プロダクト開発についてコメント。

 「開発のうえで大事なのは、まずはスタートすることです。人と話す、行動を取るなどまずは始めることが肝心です。次に大事なのは、リアルプロブレムの解決、実際に困っている人の問題を解決するということです。そして最後に、最も重要なのは失敗を恐れないこと。間違いや失敗には、必ず学びがあります。失敗を恐れないことがより良い開発につながりますので、ぜひチャレンジを続けてもらいたいです」

ダイソン デザインエンジニア・Sam Burrowes氏
実際に困っている人の問題を解決するということが大事だという