カデーニャ

ハッカソンから生まれたIoTけん玉「電玉」――製造は国内、2018年は海外へ【キーマンズインタビュー】

 株式会社電玉が開発した「電玉(でんたま)」は、スマホと連動した新しい遊び方ができるIoTけん玉。電玉をコントローラとして使ってゲームをプレイしたり、世界中の電玉ユーザーと対戦できたりするのが特徴だ。Maker Faire Tokyo 2017にも出展しており、ブースでは電玉を楽しそうにプレイする子どもの姿が絶えなかった。

 電玉は、2016年4月に「Makuake」でクラウドファンディングを開始し、2017年4月には一般販売を開始したばかり。昔からあるおもちゃをITによって進化させた製品はこれまでにもあったが、「けん玉」という着眼点はそのなかでもユニークなものに感じる。なぜけん玉なのかなど、その開発や起業について、株式会社電玉の代表を務める大谷宜央さんにうかがった。

きっかけは「高齢者の楽しみを増やす」ためにハッカソンで考案

 電玉のアイデアが最初に登場したのは、ガジェット専門ウェブメディア「Engadeget 日本版」とKDDIが共催した「au未来研究所ハッカソン BE PLAYABLE」でのことだ。大谷さんもそこに、ひとりの参加者としていた。

 「なんでも自由にやっていいというテーマだったので、はじめは高齢者の楽しみを増やそうというところを目的にしました。最初にアイデアとして出てきたのは、勝手に散歩に連れて行ってくれる杖だったんですよ。でも、実現性とか、アイデアとしてイケているのか、というところで考え直した」

 「実際に公園でお爺ちゃんに話しを聞いているときに、伝統的なおもちゃで遊びたいけど子ども達は興味がない、という声があった。そこで、伝統的なおもちゃにゲーム性を持たせたら、お爺ちゃんも子どもも楽しめて、世代を超えて遊べるんじゃないか、と考えたのがきっかけ」

 これが2015年8月のこと。そこから大谷さんは、このけん玉のアイデアを事業化することを決意し、ハッカソンで知り合ったメンバーとともにコンセプト開発を進めた。そして、2016年2月に株式会社電玉を設立と同時に、Makuakeにて「電玉」のクラウドファンディング募集を開始した。

 「最初は、ハードウェアで面白くすることを考えていたんです。皿がぐるぐる回るとか、剣先が引っ込むとか。ものづくりという意味では、楽しかったんです。でも、いろいろ調べていくうちに、それは違うかもしれないと」

 「けん玉って、今の形で充分なんです。グリップを上げるとか、バランスがとかあるんですけど、形としてはこれで完成なんです。そこで、けん玉の形はそのままに、アプリの方で楽しませるというコンセプトに落ち着きました。それに5カ月くらいかかった」

 そのコンセプトを元にクラウドファンディンにて出資者を募り、100人を越えるサポーターから約120万円の支援を受けることに成功。そこから本格的な開発をスタートさせた。

 「簡単にプロトタイプは作れましたけど、そこから量産に持っていくまでに、いろいろ変えましたね。実現できるかどうかコンセプトモデルを作って、そこから量産に向けてブラッシュアップして行った。製品は、千個作って千個動いてくれないと困るので、そういうクオリティを担保するところが大変でした」

 実際の開発において難しかったのが、いかにけん玉らしさを残したままセンサーやバッテリなどのデバイスを内蔵するかという点だった。

 「ボールと剣の重さとかバランスとか、いろいろこだわるポイントがあった。やっぱり、ちゃんとセンシングができて、遊べるところまでにするのが、とにかく大変でしたね」

 なかでも大きな課題となったのが、玉を皿に載せたときのセンシングだったという。電玉は、玉の表面に金属がメッキしてあり、皿の内部のコイルに近づくことで発信周波数の変化によって、皿に載ったことを検出している。

 「プロトタイプでは玉にアルミホイルを巻いてセンシングしていたんですが、量産では最初蒸着メッキにしたら反応しなかった。蒸着メッキだと金属の膜厚が薄すぎたんです。結局、錫ニッケル合金メッキにドブづけすることで解決できたんですが、それまではヤバイ、ヤバイ、ヤバイって(笑)」

 また、玩具であるがゆえの安全面も重視しなければならない。特にけん玉は、そもそもの遊び方のため、頑丈さなどへの配慮が特に必要になる。

 「結構、みんな落とすと壊れるんじゃないのとか、気にしますからね。特に最近のけん玉事情で、派手な技とか格好いい技が増えている、より壊れないことが求められている。バッテリーも、温度が上がりすぎないようにしたり、安全なように鉄板で囲ったりしています」

「手を切ったりする形状は全部避けて、極力全部、面を付けるようにしている。あと、縁とかも手が挟まったり、引っかけたりしないような分割の仕方をしているんですよ。その辺は、やっぱりおもちゃなので気を付けてますね」

 量産に欠かすことができない要素が、製造工場だ。実は電玉は、国内で製造している。クラウドファンディングが成立した当初、製造は中国の工場に依頼しかけた。

 ところが「担当者は日本人だったのですが、お互いコミュニケーションを疎かにしてしまって十分な信頼関係を構築できなかった」という。例えば、電玉のキーポイントとなるメッキの素材構成や膜厚がいつまでも不明なままだったことなどが原因で「うまく製造できるイメージが持てなかった」のだ。結局中国への発注は止めて、国内に切り替えた。「だから、金型だけは中国ですが、製品自体はメイド・イン・ジャパンなんです」。

 「たまたま小ロットでも作っていただけるところを見つけた。なによりエレキもわかってくれていて、メカもわかってくれて、信頼できるところです。小ロットでもできて、アセンブリも全部国内なのに、値段もそんなに高くなかったんですよ」

 「一番良かったのは、コミュニケーションが早いことですね。あとは、明日欲しいって言ったら届くっていうのも大きい。それで結構助かりました。代理店とかに営業に行って『○○日までに欲しい』って言われても、『出せます』って答えられるから」

 ハッカソンでアイデアを思いついてから、コンセプト開発、プロトタイプ作成、そして量産化と、いくつもの課題をクリアして電玉は2017年4月ようやく販売へとこぎ着けた。

電玉の「次」と海外展開のために必要なこと

 ひとまず製品出荷を迎えた電玉だが、すでに「次」を考えているという。

 「もっと改良しないといけないところは多いんです。(今のモデルは)本当の巻き線のコイルが入っているんですけど、それをプリント基板にして、組立をもっと簡単にしたり、小型化してけん玉大会でも使えるようなサイズにしたりしたい。今は中座(持ち手部の皿)がずんぐりしていて、できない技があるんですね」

 「目標としては、もっと精度を上げて、木のけん玉よりもやりやすいフォームにしようと。もっと、遊びやすく、難しい技でも簡単にできちゃうのが目標」

 また、考えているのは製品のバージョンアップだけでない。すでに海外展開も視野に入れている。

 「2017年6月に、ソードアートオンラインとのコラボバージョンの予約を始めたんです。アメリカやヨーロッパからもこれから受け付け開始予定で、2018年2月以降に発送の見込み。そこからグローバル展開を始めます。そうやって販路を確立して、イベントも仕掛けつつ広げて行きたい」

 そのためにも今は人材など会社としての体制強化も図っている。

 「人も増やしたいんですよね。いままさにグローバルに広げたり、サービスを拡張するとかは、人を雇わないと行けないんですけど、お金がないので、資金調達をしているところ。調達にあたって、ビジネスモデルを伝えないといけないし、そのビジネスモデルを実現するための人員の構成とか、いろいろ考えることは多いです。今は営業もいないし、アプリ開発のためのデザイナーも内部に欲しい」

 大谷さんは、もともとある企業でソフトウェアエンジニアとして働いていた。だが、その職場では、面白いものが作れないと不満を感じていて、それがハッカソンへ参加した動機でもあった。

 「前の会社はずっと赤字で、なかなか面白いものを世に出せなかったんです。なので、おもしろいものをとにかく作りたいなっていうのがあった」。それが、ハッカソンを経て、具体的に形として見えた。そして、周りを見渡してみれば、製品開発にしても、起業にしても、さまざまな環境が整っていることに気がついた。

 「今は本当になんでもできるようになって来ている。3Dプリンタもありますし、ラズパイもArduinoもあるし、あとはビジネスにするにあたって、どうすれば市場が作れて、お金が作れるかというアイデア勝負。アイデアさえあればどうとでもなる。我々のけん玉にしても、ただ光だけだったらつまらないけど、アプリケーションで繋がって、世界の人と一緒に遊べるとか戦えるとか、いろんなことができる。掛け合わせることでいろんなことができる」

 電玉も、まだ世に出たばかり。製品にしろ、アプリにしろ、ビジネスにしろ、これから発展していく段階だ。ハードウェアスタートアップがやりやすい環境が整ってきたとは言え、そこで本当に良い製品を作り、会社を成長させていくのは、容易ではない。

 だが、電玉と大谷さんには、製品のアイデアがあり、さらにそれで世界に打って出ようというモチベーションがあり、また世界的なけん玉ブームという追い風もある。2018年の本格的な海外進出が楽しみだ。

この記事は、2017年8月24日に「カデーニャ」で公開され、家電Watchへ移管されたものです。

青山 祐輔

1974年生まれ。フリーランスライター/編集者。ITによって人と社会とが変化していく、デジタルトランスフォーメーションの現場を追いかける。 Twitter:@buru