カデーニャ

安いだけじゃない中国工場のメリットとは!? 【キキテーニャ】

 「ものづくりって何?」「そもそもハードウェアって?」という非ガジェット女子、レイナがインタビューをするコーナー、「キキテーニャ」。株式会社Cerevoの岩佐さんを相手に、中国深センの電気街「ファーチャンペー」と中国工場の秘密に迫る企画の最後は、一筋縄ではいかない中国工場との付き合い方について。さらに、安いだけじゃない、中国工場がいま熱い理由とは?

 第4回はこちら

 レイナ:指示通りに納品されない時や不良品がきた場合、どんなやりとりをしていますか? 中国の工場とうまく付き合うノウハウを知りたい人はいっぱいいると思うので、じっくり聞きたいです。

 岩佐:まずは「これは依頼したものと違うぞ」って交渉を始めるんですが、なかなか相手もすんなりとは聞いてくれなくて。

 レイナ:えー! 聞いてくれないんですか?

 岩佐:日本と違うのは「頑張ったんだけどこれが限界なんだよ、これ以上無理」と平気で言われてしまうことですね。日本人の場合はがんばって対応してくれるけれど、彼らは平気で音を上げる。「そんなに嫌なら他の工場でやってくれ!」みたいな。まあ、これは本当に文化の違いですね。ちょっと昔気質のオヤジがやってる日本の工場みたいです。

 レイナ:「無理」ってあきらめられちゃうと大変ですね……。

 岩佐:とはいえ諦められてはこまるのでここからはしっかり交渉します。ちゃんと交渉しないと「これでいいのか」と思われてどんどんクオリティーが下がるんです。だからどこまで交渉してやり直してもらうかというノウハウが必要になる。

 レイナ:コミュニケーション術が大事ですね。基本的に英語ですか?

 岩佐:はい。ただラインで働いている作業員さんはほとんど英語ができません。

  ・現場の工員(中国語のみ)
  ・ライン長(中国語のみ)
  ・製品を担当している責任者(英語がカタコトだけどできる)
  ・交渉を担当している営業のお姉さん(英語がそれなりにできる)

 という感じなので、だいたいは営業のお姉さんと話すんです。

 レイナ:それだと伝言ゲームになっちゃいますね。

 岩佐:そうそう。だから工員、ライン長、製品担当、営業さんの4名を前にして、「ほらここを見てくれよ、穴があるだろ? これが駄目なんだよ、だからこうしてよ!」といったことを身振り手振りで伝えつつ、リアルタイムで通訳してもらうんです。現場の工員もこっちが必死に頑張っているのをみると、言葉はわからないけど「ああ、ここがあかんのね」と理解してくれて。これを、会議室でやっているとぜんぜん話が進まないんです。

 レイナ:だから現地に行って交渉するんですね。

 岩佐:そうです、私は最近あまり工場には行かないですが、製品担当のエンジニアはよく行っています。で、その問題を起こした工員さんが仕事を覚えて不良率が下がったりするとまぁ中国語わかんないなりに「すごいよかったよ!」とか「おまえやるなぁ!」的な声がけをして仲良くなっていくわけです。

 レイナ:忍耐とコミュニケーションノウハウで信頼関係をつくっていくわけですね。

 岩佐:そう、忍耐ですね。教師や塾講師の仕事に近いです。「みんなで東大めざすぞがんばろう!」みたいな。理解の早い人も遅い人も不良もいい子もいる。けど、みんなが一定レベルにいかないと製品のレベルが担保できないんです。

安いだけじゃない! 中国の強みとは

 レイナ:なるほど。色々な困難がある中でも中国と仕事するメリットはやはり人件費と備品の安さですか?

 岩佐:実はコストだけじゃないんです。

 レイナ:え、そうなんですか?

 岩佐:まず、動きが軽くて対応が早い。日本は、作業が開始すると早いのですがそこまでが大変。仕事を始めるまでに「まず打ち合わせを」と言われて数日のロスになる。ぱっと価格も教えてくれないし。

 レイナ:コストだけじゃないというのは面白い!

 岩佐:なんなんですかね、あの日本の「値段言ったら負け」という常識は(笑)。日本人は比較されることに慣れていないんです。人口も少ないし島国で言語も断絶されているし。

 レイナ:それに比べて中国は合理的でぱぱっとしててやりやすいわけですね。

 岩佐:中国は世界レベルで戦っているので、インドの工場やバングラデシュの工場と勝負しているわけです。そうなると「これいくら?」で即答できなければすぐに逃げられる恐れがある。中国は一見、後進国っぽく思われがちですがテクノロジーの採用にものすごく熱心。なので、見積もりとかほとんどChatなんですよ。WeChatかAlibaba chat(正式名称TradeManager)です。

 レイナ:日本でいうLINEですね。

 岩佐:そうです。「これいくら?」には15分でぱっと見積もりが返ってくる。それだけじゃない。「お、5万円? じゃ、今すぐやってよ」と送ると、これまた15分で「いいよ、じゃここで払って」とPaypalやAlibaba paymentフォームが送られてくる。

 レイナ:はやっ!

 岩佐:1時間も経つ頃には、もう部材手配がはじまってる、なんてこともありますね。これが「まずはお打ち合わせを」ということで3日経ってしまったら、それはプロジェクトが3日遅れるということになります。それって実はすごく無駄なコストが発生しているんですよね。

 レイナ:それだけ対応が早いとトラブルもありそうですね。

 岩佐:もちろんトラブルはありますが、そのたびにチャットですぐやりとりできる。日本はしっかりと仕様を決めないと進まないけれどほぼ完璧なものがでてくるのに対し、中国はラフな仕様で進むけどトラブルがある。けれど、中国相手にちゃんと仕様を決めたとしてもやっぱりそれ通りに出てこなくて、結局トラブルが起きるんです。

 レイナ:結局トラブル(笑)。

 岩佐:これはコストやスピードのトレードオフですね。あとは、日本は選択肢が少ないので候補が3社しかないということがざらにあるんですが、中国だと候補を並べたらきりがないくらいある。A社と仕事しつつ、他のB社、C社、D社、E社のどれに切り替えようかなと考えることができるんです。

 レイナ:まさに中国は世界で戦ってるんですね。

 岩佐:そうですね。あと、交渉が可能なところも個人的には好きです。日本は書面や契約が全てですが、中国の工場はそういうところ超ルーズで「いいよもう、おまけでやってやるよ!」みたいなことも多い。

 レイナ:人間味がありますね。

 岩佐:何より中国が強いのは、数が増えてもどうにかなるところ。日本は工員不足で、500個受けてくれている工場にいきなり「やっぱ5万個で!」と要求するのは無理なんです。中国は工員さんがそこらじゅうを歩いているスーパー巨大工場町なんで結構何とかなるんです。まとめていうと中国は「早い、フレキシブル、そして安い!」

 レイナ:中国の工場は安いだけがメリットだと思ってたので、フレキシブルな面を知ることができて、面白かったです。

この記事は、2017年8月25日に「カデーニャ」で公開され、家電Watchへ移管されたものです。

Reina

非ガジェット女子。普段は哲学女子。nebulaを運営しています。