パナソニックの理由(ワケ)あり家電~Panasonic 100th anniversary in 2018

かたまり肉を360度回転!? 新発売の「ロティサリーグリル」は焼き上がるまでの時間もおいしい新ジャンルの家電

2018年3月に100周年を迎えるパナソニック。国内の家電市場においてシェア27.5%を獲得するなど、名実ともに日本トップの家電メーカーだ。この連載では、パナソニックのものづくりに注目。100周年を迎える中で、同社がどのような思考でものづくりを続けてきたのか、各製品担当者に迫る

 堅実で、歴史ある総合家電メーカー、パナソニックのイメージからはかけ離れた、なんとも“らしくない”製品がこの11月に発売された。その名も「ロティサリーグリル&スモーク NB-RDX100」。「360度回転ロティサリーグリル」で、かたまり肉を炙り焼きできるという。これまでにない全く新しい調理器具は、どういう経緯で発売されたのか、商品を開発している滋賀県草津市のパナソニック アプライアンス社に聞いた。

ロティサリーグリル&スモーク NB-RDX100

インパクトのある面白い製品を作る!

 ロティサリーグリルの開発のきっかけは2つあったという。

 「まず1つは、女性の就業率が7割を超えており、共働き世帯が増えている中で、新しい食の提案をしたいというところです」(パナソニック 商品企画部 調理器商品企画課 主務 石毛 伸吾氏)

 2018年3月に迎える創業100周年を前にした会見においても、パナソニックはコアターゲットとして「共働き世帯」を掲げており、ロティサリーグリルも、100周年を記念した「Creative! SELECTION」にラインナップされている。

 「共働き世帯、いわゆるDEWKS(デュークス)は従来のファミリー像とは違ったニーズがあると考えています。まず1つはおいしさの追求です。多少お金をかけても美味しいものを食べたいという傾向が強いです。次に、時短のニーズです。時間がないけど、おいしい料理を食べたいというもの。我々としては、平日は時間がないので、手早く料理できる製品を、一方で週末は少し時間をかけてでもおいしい、家族の記憶に残るような料理を楽しむというような提案をしたいと思いました」(石毛氏)

メインのターゲットとしては共働き世帯、いわゆるDEWKSを挙げる。時間はないがおいしい料理を食べたいというニーズが強いという
その一方「作る」「ふるまう」を楽しめる料理に憧れがあるという

 そして、ロティサリーグリルの開発を進めた2つ目の理由は、インパクトのある新しい製品を出したいという想いだったという。

 「油を使わないノンフライヤーや、高価格帯のトースターなど、従来にない新しい提案をする調理家電が数年前から出てきて、パナソニックとしてもその存在は無視できないものでした。加熱調理系の製品は得意分野でもあったので、インパクトのある面白い製品が出せないかという想いがありました」(石毛氏)

 従来にはない新しい製品をイチから作りだすというプロジェクトだったが、その道のりは苦労の連続だったという。

 「実はプロジェクト自体は3年以上前に立ち上がっていたのですが、途中、なかなか良いアイディアが出ずに一回休止したりもしてます」(石毛氏)

パナソニック 商品企画部 調理器商品企画課 主務 石毛 伸吾氏

 “これまでにない新しい製品で、かつ、市場に驚きと期待を持って受け入れられる製品”の開発というのは、もちろんすぐにできるものではない。まずは、食のトレンドを調べ、消費者がどういう食に興味を持っているか、どのような製品が市場にあるのかなど、課題は多かった。中でも難しかったのが、どう「インパクト」を出すか、だ。

 「消費者の方が驚き、また欲しくなるような調理家電とはなにか。というところで、一回開発がストップしていたのですが、ある社員が海外旅行にでかけ、肉を回転させながら焼いているのを見て『これだ!』と(笑)。熟成肉や、インスタ映えするかたまり肉というのは、トレンドでもあったので、一定のニーズがあると考えました」(石毛氏)

 360度回転しながら肉を焼くというのは、一見、突拍子もないアイディアにも思える。だが海外、特にフランスでは一般的な調理法であり、ロティサリーというのは、フランス語で、回転させながら肉を焼く機器を指す。

 「会議で、かたまり肉を回転させながら焼くというアイディアを出したところ、これまでにない盛り上がりがありました。回転させながら焼くというのも日本の家庭用機器ではない、じゃあやってみよう、ということになりました」(石毛氏)

 そこから、製品化に向けて調査を進めていくと、回転させながら肉を焼くというのは、とても理にかなった調理方であることがわかった。

 「我々が思っていた以上に、おいしく、ジューシーに肉を柔らかく仕上げられるということが分かりました。見た目や機構としても十分なインパクトがあるし、完成したメニューもおもてなしにぴったりでした」(石毛氏)

おいしさの秘密は遠赤外線ヒーターと近赤外線ヒーターを組み合わせること

 ロティサリーグリルで行こうという方向性が決まってから、どう加熱調理するかというところまでは思ったよりもスムーズに進んだ。というのも、同事業部では、コンパクトオーブンや魚焼きグリル「けむらん亭」などを扱っており、ヒーター熱源に関してのエキスパートがいるのだ。熱機器商品設計課 主任技師 高麗敦氏は、ロティサリーグリルの加熱方法について次のように語る。

 「上が高温ゾーン、下を低温ゾーンとして、とにかくゆっくり焼き上げることです。遠赤外線ヒーターと近赤外線ヒーターを搭載しており、近火と遠火を繰り返して焼き上げます。加熱時間は、レシピにもよりますが約40~50分。時間をかけて焼き上げることで、肉を柔らかく、おいしく仕上げます」(高麗氏)

かたまり肉をしっかり、じっくり丁寧に焼き上げるには、回転速度と、遠赤外線ヒータ、近赤外線ヒーターがキモになるという

 肉をおいしく焼き上げる方法については、自社の知識に加え、大学の研究機関にもヒアリングして詰めていった。調理商品部 調理ソフト課 主幹技師 消費生活アドバイザー 平田由美子氏は、ロティサリーグリルの特徴について「ヒーターと食材の距離がものすごく近い」点を挙げる。

 「回転速度は絶妙な調整を重ねて、1回転約20秒ほどかけています。私達も色々試しましたが、1分間に5回転だと、早すぎて理想の焼き上がりにはなりませんでした」(平田氏)

熱機器商品設計課 主任技師 高麗敦氏
調理商品部 調理ソフト課 主幹技師 消費生活アドバイザー 平田由美子氏

 ロティサリーグリルで提案しているローストビーフや焼き豚といったレシピは、オーブンレンジなど、既存の調理家電でも調理できる。見た目や調理中のインパクトのほかに、どういった利点があるのだろう。

 「一番はかたまり肉全体を均一に加熱できるというところです。最新のオーブンでは様々なセンサーなどを搭載して、細かな温度調整が可能ですが、どうしても温度の変化というのが出てきてしまう。前後左右では温度帯が変わり、仕上がりにムラができてしまいます。ロティサリーグリルでは、ゆっくりと回転を続けることで、全面を均一に加熱できます」(平田氏)

遠近赤外線のW加熱で外をこんがり、中をあたためる。回転しながら加熱することで、かたまり肉を均一に加熱できるという

柔らかくジューシーな焼き豚

 今回は、焼き豚のレシピを実際に作ってもらった。あらかじめタレに4~5時間つけ込んだかたまり肉を付属のロティかごにセット。その後、約65分かけて焼き上げていく。用意していただいたのは、豚のかたまり肉600g。付属のロティかごでは、肉の厚さ最大で約6.5cmのものをセットできる。今回調理してもらった肉は厚み5cmほど。スーパーでオーダーしたという。

豚のかたまり肉600g。下味をつけたもの
付属のロティかごに入れたところ

 調理を開始するとすぐに、かたまり肉がゆっくりと回転し始める。ヒーターが庫内を明るく照らしている様子は、見ていて全く飽きない。

 「2018年3月に迎える100周年を記念した『Creative Selection』に入っているということもあって、社内からの注目度もかなり高かったです。偉い人を説得する必要があるときは、ロティサリーグリルと肉を持っていて、その場で調理しました(笑)。見て、食べてもらえればこの製品の魅力は伝わります」(石毛氏)

庫内にセットしたところ
約65分かけて、焼き上げていく

 今回の調理は、取材中に行なっていたのだが、実際インタビューしている間にも豚肉が焦げる良い香りが部屋中に広がってきて、気もそぞろ(笑)。肉が回転している様子がまた、食欲をそそる。焼き上がった焼き豚は、確かに、これまで家で食べていた焼き豚とは別次元の仕上がり。一番の特徴は柔らかさだ。中までしっかり加熱されているのに、ふんわりとジューシーに仕上がっていた。

焼き上がったところ。このビジュアルはすごい
実際に試食した。柔らかでジューシーな仕上がりだった

トーストを焼くのにベストな構成と、肉を焼くのにベストな構成は違う

 かたまり肉へのこだわりは分かった。しかし、そこで終わらないのがパナソニックだ。この商品では、ロティサリーグリル/グリル機能のほかに、2段階で温度調整できる燻製機能や、トースター機能、オーブン機能も備え、1台で4役を兼ねる。しかし、この1台で4役を実現するというところに、相当な苦労があったという。

 「トースター、グリラー、それぞれノウハウがあるので、それを1台に搭載するとなると、成り立たないところがあります。それを実現するために、試作機を作っては確認という作業を繰り返しました。4つある機能を全て最適化するために、庫内のサイズや、ヒーターの位置、ワットなど、何度も何度も調整を繰り返しました」(高麗氏)

ロティサリー機能、トースター、燻製、オーブンの1台4役を実現する

 1台4役を実現させるため、本体には、5本のヒーターを備え、選択したモードによってヒーターを使い分けている。例えば、燻製は下の1本だけを使っている。加熱する食材に対して、最適なヒーターの組み合わせというのがあるのだという。

 「例えば、トーストを焼くのにベストな構成と、肉を焼くのにベストな構成は違うんです。もっと言えばパンを焼くのにベストなヒーター構成もあります。普通のトーストを焼くだけだったら、遠赤外線ヒーターだけでいいですが、冷凍トーストをおいしく焼こうと思ったら、近赤外線ヒーターも必要。もちろん、ヒーターの数や種類だけでなく、熱を反射しやすい庫内構造も重要です。熱をうまく反射させることで、効率良くムラなく仕上げていきます。

 特にこだわっているのは、近赤外線ヒーターです。トーストの表面をパリッと焼き上げるのには、遠赤外線ヒーターだけで十分なのですが、中までしっかり温めるのは、近赤外線ヒーターが有効です。近赤外線ヒーターは、制御や調整が難しいということもあって、調理家電に使っているのは、パナソニックだけなんですが、それだけ仕上がりにこだわっているといえます」(高麗氏)

庫内の様子
トースター機能を使う時は焼き網をセットする

 もちろん、ただ多機能にしたわけではない。特にこだわったのが、魚焼きグリル「けむらん亭」に搭載して、大ヒットした燻製機能だ。

 「『けむらん亭と同じではなく、アップグレードしたものを』というリクエストのもと、最大で50mmの高さまで対応し、高温モードと低温モードの2段階の温度設定機能も用意しています。このアップグレードによって、燻製できる食材の幅はかなり広がりました。低温モードを搭載したことで、これまではチーズが溶けてしまうのでできなかった“カマンベールチーズ”の燻製ができるようになったほか、高さが高くなったことで、卵の燻製も従来は、うずらの卵しかできなかったのが、鶏卵でもできるようになりました」(高麗氏)

高温モードと低温モードの2段階の温度設定機能を搭載した燻製機能
燻製時は専用のケースをセットする。高さ50mmまで対応し、従来はできなかった鶏卵の燻製もできるようになった
ローストビーフ、焼き豚といったかたまり肉メニューに加えて、ロティサリーグリルを使って、とうもろこしやかぶなどの野菜丸ごとグリルも可能

“非日常”を演出する高級感のあるデザイン

 デザインでは、一般的なトースターとは一線を画す、円柱を押し出したデザインを採用する。

 「普通のトースターとは違うということをビジュアルでも分かってもらえるように、回転をイメージした円柱デザインを採用しました。本体カラーは、肉を焼いていてマッチするカラーを意識して、ブラックを採用しました」(石毛氏)

回転をイメージした円柱デザインを採用

 4つある機能を使い分けるために、操作部のデザインにもこだわった。

 「ロティサリーグリルが目指した高級感は失わないように、操作しやすいデザインを模索しました。機能の切替、温度設定、タイマー機能をダイヤル式とすることで、デザインの統一感を出しており、使い勝手も犠牲にしていません。オートメニューは独立したボタンを設けることで、迷わず操作できるようにしました」(高麗氏)

機能の切替、温度設定、タイマー機能をダイヤル式とすることで、デザインに統一感を出した
オートメニューは独立したボタンを設けることで、迷わず操作できるように配慮した

コミュニケーションを楽しむ家電

 ロティ機能以外の燻製やトースターなどの機能も備えているとはいえ、かたまり肉にフォーカスした製品を発売するということにどういう勝算があったのか。

 「我々の考えでは、そこまで振り切った製品だとは考えていないんです。というのも、ターゲットとしている共働き夫婦は、焼き豚やローストビーフを割と日常的に作っていました。これから季節ごとにクリスマスや年末など、パーティー需要もしっかり押さえられるように、例えばインスタ映えするようなレシピなども提案していきたいです」(石毛氏)

肉がゆっくり回転しながら焼けていく様子は確かに見ていて飽きない、幸せな時間だ

 インパクトや新しさだけを追求した製品ではなく、注目してもらいたいのは、肉が焼き上がるまでの過程なのだという。

 「もちろん、かたまり肉というインパクトやできあがりのおいしさも重要ですが、作っている過程をここまで楽しんでいただける製品はなかなかないと思います。ジュージューという音や、肉の焼ける香り、ヒーターに照らされたお肉は、その場の話題をさらうものであり、そこにコミュニケーションが生まれます。お肉だけでなく、その場に生まれる会話も楽しめる製品だと自負しています」(石毛氏)

阿部 夏子