やじうまミニレビュー

コクヨS&T「遺言書キット」

~残された家族を守るための強力なツール
by 伊達 浩二


やじうまミニレビューは、生活雑貨やちょっとした便利なグッズなど幅広いジャンルの製品を紹介するコーナーです


身の回りに書いた人がいない「遺言状」

コクヨS&T「遺言書キット」

 ある程度の年齢になったためか、身の回りで相続問題に関する事例が増えている。

 例えば、「故郷で一人暮らしをしていた家族が亡くなり、その家に誰も住む人がいなくなったので売却して、兄弟で分割した」とか、「まだ現役で仕事をしていた人が亡くなってみたら、思っていた以上に負債と資産が分散していて、家族が処理に追われた」という話が、ここ数年で立て続けに起こった。

 幸い、私の周辺で起こった数件については、どれも丸く収まったのだが、そこにたどり着くまでの手間と時間は膨大なもので、携わった人々は皆、「こんなに手間がかかるとは知らなかった」と言う。

 やり終えてから振り返って見ると、相続のルールは本当に知られていない。話し合いの場では、「えっ、そうなの」という言葉が何度も聞かれる。そして「こんなことなら、遺言状を一枚書いておいてくれれば。楽だったのに」という愚痴も良く聞かれるのだ。

 しかし、ざっくり思い返して見ると、自分の祖父母を始めとする親戚で、遺言状が書いてあったという事例は思い出せない。最年長の親戚は90歳代で元気に暮らしているが、遺言状を書いている形跡はない。

 私の実家は、なにかと言えば「どうせ人間、いつかは死ぬのだから」というセリフが行き交い、リアルというか、あけすけなところがある家だったが、誰も遺言状は書いていない。口では軽く「死ぬ」とは言っても、本当に自分がいなくなったときのことは考えるのが怖いのだと思う。

 そういう遺言状を書くための製品は、いくつか出ているが、今回はコクヨS&Tの「遺言書キット」を紹介する。


メーカーコクヨS&T
製品名遺言書キット
希望小売価格2,415円
購入場所Amazon.co.jp
購入価格1,191円

 

高齢者だけでなく、若い人もターゲットに

 「遺言書キット」は、ごく薄いパッケージで、「遺言状・虎の巻」という小冊子、遺言状用紙、遺言状下書き用紙、封筒、台紙などが入っている。

 まず、虎の巻を手にとって見る。50ページほどの小冊子で、オレンジ色を基調にした表紙だ。ドーンと暗い威圧感を持った色ではないので、リビングのテーブルに置いてあっても、びっくりしないですむ。

小冊子、用紙、台紙、封筒が入っているパッケージ内容物一覧導入部分は3本のマンガが用意されている

 導入部分は、見開きのマンガで、遺言状を書くべき3つの状況が紹介される。「夫婦2人暮らしの場合」、「夫婦と小さな子供2人の場合」、「定年した夫婦と成人の子3人の場合」だ。

 最初のマンガの主人公は38歳と37歳、次が35歳と29歳、最後が65歳と、一般に想像される遺書を書くべき年齢よりもずっと若い。ふつう、この分野の書籍では、最後のマンガのように対象年齢を60代以上に置いている場合が多いが、このキットではもっと若い層に手にとってほしいと思っていることがわかる。つまり、「財産のない自分には関係のないこと」と思っている人を対象としている。

 マンガの内容は、「夫婦だけで子供がないと、親族も相続人になる」、「子供が未成年者の場合、特別代理人が必要で手間がかかる」、「子供同士で相続で揉めないように遺言状を残す」という内容だ。

 相続に関する本などでは、最後の相続争いに力点を置いたものが多いが、この本では対象年齢が若いこともあって、スムーズに家族に財産を残すという点にテーマが置かれている。対象としている、家族の範囲も、やや狭く設定されている印象を受ける。

 このマンガのあとには、そのケースに適した遺言状の文例と「まとめポイント」が記載されており、マンガの状況に共感した人に、すぐ役に立つようになっている。

ケースに即した文例まとめポイントの例よくある相談例として「愛犬に財産を相続させたい」というのも掲載されている

 虎の巻は、マンガが主体の「事例」に続き、「遺言状の基礎知識」、「遺言状の作成と保管」、「用語・文例・その他」、「各種一覧」という5つの章に分かれている。

 それぞれの説明は、図版を多めに使い、文字数を制限したゆったりとした作りで読みやすい。一通り、読むと、遺言状の書き方や財産分与の基礎知識などは分かるようになっている。とりあえずの入門編として推薦できる。これをひと通り読んで、もう少し知識が欲しい人は、最近多く出ている「遺言」「相続」などを表題にした新書を読むと良いだろう。基礎的なことがわかっているので、他の本も読みやすいはずだ。

用紙や封筒にコクヨならでは工夫

「自筆証書」を法的に有効にするためのポイント

 このキットで作成する遺言状は、「自筆証書」という種類の遺言になる。自筆証書が有効になるためには、いくつか条件があるが、虎の巻ではうまくまとめて解説している。

 基本ルールは、「自筆」「作成した日の日付」「署名」「捺印」なので、自分自身で手書きで書く必要がある。また、修正には細かいルールがあるので、間違えた時には全部書きなおすように指示されている。

上が「遺言状下書き用紙」、下が「遺言状用紙」。「下書き」と書かれているので間違えることはない

 上記のようなルールがあるため、このキットでは「遺言状下書き用紙」が2枚用意されている。用紙のサイズはA4だ。

 これに、遺言状の内容を書き入れていく。相続する人を指定する場合は、特定できるように生年月日を書かねばならないし、預金についても支店名や口座番号なども書くように指示されているので、けっこう調べることがある。土地や建物があると、さらに手間がかかるだろう。最初のうちは、文面が固まらないことが多いので、シャープペンシルなど修正ができる筆記用具をお勧めする。

 日付、書名、捺印などの欄は独立しており、書き忘れしにくいようになっている。専用キットならでは配慮だ。

 文面が固まったら、「遺言状用紙」に書き写す。これはボールペンや万年筆のような消えない筆記用具で間違いないように書かねばならない。書きなおすことを見越して用紙は4枚用意されている。

遺言状用紙はコピーすると文字が浮かびあがる特殊な用紙を使っている

 また、この遺言状用紙はコピーすると「COPY」という文字が浮かび上がる特殊な用紙が使用されている。どれが原本であるかを明確にするための配慮だ。

 遺言状が書き終わったら、書名と日付を確認し、朱肉を使う印鑑で捺印する。こういうのは実印でなければいけないのかと思っていたが、手元の三文判でもいいそうだ。

 描き上げた遺言状は、専用の保管用の台紙というかホルダーに挟み、これも専用の封筒に入れて保管する。封筒は一度開封すると元に戻せない専用のものだ。

遺言状用紙専用のフォルダー遺言状を四隅に差し込むようになっている
台紙は専用の封筒に入れて保存する封筒の裏側には、取り扱い方の注意が書かれている

 なお、1つの封筒には1人分の遺言状しか入れられないので、夫婦2人で書く場合は、別売の「遺言状用紙・封筒キット」(682円)を利用する。このキットには、遺言状用紙6枚、遺言状下書き用紙2枚、封印用封筒2枚が入っている。最初から2人分の封筒や台紙が入った、夫婦用セットもあると良いと思う。

 遺言状は、わかりやすい場所に保管し、家族に場所を知らせておくようにしたい。また、自分で書いた自筆証書が有効になるためには、家庭裁判所に持参して状態を確認してもらう「検認」という手続きが必要となる。その場で封筒を開けず、必ず検認してもらうようにと伝えることも忘れないようにしよう。

 この遺言状キットは、さすがに専用キットであるだけに、よくできている。特に、下書き用紙を用意する配慮や、コピー防止処理された用紙、開封されると戻せない封筒などは、文具に強いコクヨの特徴が生かされている。

残される人に伝える手段の選び方

 ちょっと気になるのは、「虎の巻」の内容だ。

自筆証書と公正証書の比較。このビジュアルだと、公正証書にネガティブな印象を持ちやすいと思う

 1つは、このキットで作成するのが「自筆証書」のためか、公証役場で作成する「公正証書」についての説明がネガティブな感じになっていることだ。公正証書は、手間とお金がかかるという点が強調されているが、内容に間違いがなく、原本が公証役場で保管され、家庭裁判所での検認の必要もないという利点もある。

 せっかく「公正証書遺言について」という解説で2ページ、全国公証役場一覧で8ページも割いているのだから、もう少し、公平な感じで紹介した方が良いと思う。こういう場合は、公正証書を検討しましょうという目安が書いてあると判断しやすいだろう。

 もう1つ、全体に感じられるのが、これは遺言状でなくても良いのではないかという内容があることだ。つまり、遺志を伝えるという意味では、遺言状のほかにエンディングノートや遺書という選択肢もある。

 簡単に言えば、遺言状は法的に有効な状態で財産の処分などについて意志を伝えるためのものである。遺書は自分の志や気持ちを遺族に伝えるためのもの。エンディングノートは、もう少しゆるやかでカジュアルな形で、知っておいてほしい情報を記したものだ。

 つまり、遺言状に書くべき内容は、お金や物に対する分配の遺志であり、それを明記することで、家族を守るということが目的だ。たとえば、感謝のメッセージを伝えるだけであればエンディングノートの方が書きやすいかもしれない。こうしたいのであれば、こういう手段がいいですよというガイドが、もう少しあれば良かった。

 不慮の事故や病気などで、自分が居なくなったときのことを考えるのは愉快なことではない。そうであれば、それを前提として考えなければならない、遺言状を書くという仕事も、できれば避けたいというか、やらずに済ませたい仕事ではある。しかし、遺言状は相続に対して自分の遺志を伝える、ほぼ唯一の手段なのだ。また、残された家族を守るための強力な手段なのだ。

 とりあえず、「虎の巻」に掲載されている入門のマンガは、製品情報のページでも公開されているので、こちらを読んでほしい。ああ、自分にも当てはまるなぁと思った方は、このキットを試して見ることをお勧めする。

 遺言状というのは、家族の誰かが病気のときなどは話題にしにくいものだ。みんなが健康なときこそ、こういうことを考えておくべきだろう。





2012年 10月 9日   00:00