藤本健のソーラーリポート
最新の太陽電池が集う「PV Japan 2011」を見る(前編)

~パナソニックが多結晶を投入、パワコン不要のインバーター搭載パネルなど

 「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)


 太陽光発電に関する総合イベント「PV Japan 2011」が、12月5日~7日の3日間、千葉県の幕張メッセで開催されている。同じホール内には「第6回再生可能エネルギー世界展示会」が併設されており、非常に大きな展示会となっていた。その初日に参加したので、新製品や新発表品、また気になった製品、サービスなどをピックアップして、2回に分けて紹介していこう。

 なお、展示会は、登録入場制で無料だが、名刺が必要となる。Web上での事前登録もできる。

PV Japan 2011の会場となった幕張メッセ。同時に「再生可能エネルギー世界展示会」というイベントも開かれていた会場のようす

 今回のPVJapanは、昨年6月にパシフィコ横浜で行なわれたのに続くもので、通算4回目。出展者数は250、出展小間数は600、3日間での来場者数見込みが延べ5万人と、かなり大きな規模となっている。多くのブースが並ぶ中、やはり目立っていたのは大手太陽光発電システムのメーカーだ。それぞれ新製品などを出していたので、まずはここから紹介する。


国内メーカーは変換効率や出力、デザインが焦点に

住宅用太陽光発電システムとして“変換効率世界No.1”を謳う東芝のブース

 注目を集めていたのは、住宅用太陽光発電システムとして“変換効率世界No.1”を謳う東芝のブースだ。前面に展示していた240Wのパネルは、米SunPower社が開発した単結晶で、モジュール全体での変換効率は19.3%。中に縦12列、横6列の計72個が並ぶ。太陽電池セル自体の変換効率は22.6%と、いずれも量産レベルのものとしては世界最高を記録している。

 この高効率が実現しているのは、「バックコンタクト方式」という製法で、通常セルの表面にある銀色の電極や半田付けをすべて裏面に回すことで、受光部の面積を最大化しているのだ。実際、パネルを見ると、真っ黒でスッキリしたデザインになっている。

米サンパワー社が開発した単結晶の240Wのパネル電極や半田付けをすべて背面に回す「バックコンタクト方式」の製法を採用。パネルはっ黒でスッキリしたデザインになっている

 太陽電池の「黒」という特徴を前面に出した製品を発表したのは三菱電機。住宅用の「フルブラック」という製品は、単結晶シリコンのモジュールで、出力は200W。従来の単結晶の場合、それぞれのセルの角が欠けた形になるのが一般的だが、セルのカッティングの仕方を変更したことにより、セルがきれいに敷き詰められる形になっている。

 また、電極を裏面に持っていくのではなく、従来の20%に細線化することで、受光面積を拡大し、出力を向上させているという。黒い瓦(かわら)の日本の伝統的な町並みに調和する、というのが売りになっている。現時点では受注生産という形になるようだ。

太陽電池の「黒」という特徴を前面に出した、三菱電機の住宅用パネル「フルブラック」セルのカッティングの仕方を変更したことにより、セルがキレイに敷き詰められる形になっている

 京セラが参考出品していたのは、大型の産業用のモジュールで、出力325Wというもの。1,662×1,320×46mmで27.5kgと、家庭用のモジュールの倍近い大きさにはなるが、メガソーラーなど大規模発電用にすると、設置パネル数が少なくてすむというのが特徴。当面は海外のメガソーラー向けに出荷していくことを予定しているそうだが、もちろん国内での展開も予定している。1MWのシステムであれば従来製品とくらべてモジュール数を1,000枚以上減らせるので、コスト削減になるという。

京セラのブース出力は325W。家庭用のモジュールの倍近い大きさにはなるが、メガソーラーなど大規模発電用にすると、設置パネル数が少なくてすむという


パナソニックが多結晶を投入。シャープは高出力のバックアップ電源を開発

パナソニックというと、単結晶とアモルファスの“ハイブリッド型”の太陽電池「HITシリーズ」が有名だが、ブースでは多結晶タイプが展示されていた

 単結晶とアモルファスの“ハイブリッド型”の太陽電池「HITシリーズ」を展開するパナソニックでは、産業用の多結晶パネルを参考出品していた。

 出力240Wのモジュールで、変換効率は14.5%。京セラ同様、今後国内でも産業用に力を入れていく考えだが、もちろんその背景にあるのは来年7月からスタートする予定の全量買取制度だ。現在のところ、買取単価がいくらになるのかという点で注目を集めているが、その決定金額によっては企業での導入が加速することも考えられるだけに、より導入しやすい製品の販売を各社急いでいるようだ。


 一方、シャープも産業用、メガソーラー用の薄膜太陽光発電システムに力を入れているようだが、今回太陽電池そのものにおける新製品発表はなかった。

 シャープのブースで新たに発表されたのは、同社の太陽光発電システム「SUNVISTA(サンビスタ)」シリーズとして発売されるバックアップ電源システム。鉛蓄電池を使ったもので、重量が136kgと重たいだけに産業用の製品となっているが、出力は1.4kWと高く、いざというときには大きな力になりそうだ。

シャープのブース太陽光発電システム「SUNVISTA」シリーズとして発売されるバックアップ電源システム

 システムの図解を見ると、昼間は太陽電池を自立運転して充電し、夜間はこのバックアップ電源から電気を供給するという流れになっている。商用電源からの充電も可能であるため、通常は商用電源を使い、もしインフラが止まるような自体になったら太陽光発電、という使い方になりそうだ。

 メーカー希望小売価格が719,040円とのことなので、重さの問題さえクリアできるのであれば、家庭で使うという選択肢もありそうだ。

昼間は太陽電池を自立運転して充電もしインフラが止まるような自体になったら、太陽光発電に切り替えられる

 化合物系のCIS/CIGS太陽電池では、ソーラーフロンティアは今回特に新しい発表はないとのことだったが、それに対抗するホンダソルテックでは、効率を高めた新モジュールを参考出品した。現行製品においてはモジュール変換効率が11.6%であるが、それを13.5%まで上げている。住宅用と産業用のそれぞれを展開する予定であり、発売のタイミングは現在検討中。来年には出す予定のようだ。

 ホンダソルテックは、ソーラーフロンティアと比較すると、生産量がまだ非常に小さい。しかし、この変換効率13.5%の太陽電池が出ても、生産能力は現状から大きくは変えないという。ブースの係員によれば、発電効率で15%を上回ったあたりで、一気に規模を拡大させたいとのことだった。

化合物系では、ホンダソルテックが効率を高めた新モジュールを参考出品した住宅用と産業用のそれぞれで新製品を展開する予定


国外からは、インバーター搭載でパワコンを省く太陽光発電パネルが登場

 国外メーカーでは、中国の「サンテックパワー(SUNTECH)」が目についた。年間出荷量1.6GW、累積設置量5.0GWと、現在のところ世界一の太陽光発電システムメーカーとなった同社が、これから力を入れているのは産業用だ。会場では、産業用の2012年モデルを2種類発表。出力235Wと285Wの多結晶シリコンとなっている。

 日本法人であるサンテックパワージャパンは、2006年に買収した日本の中堅太陽電池メーカー、株式会社MSK(1967年設立)を母体にしており、そこから考えると日本国内で30年の歴史を持つメーカー。これまでは住宅用中心に展開してきたが、今後は産業用の比率を大きくしていきたい考えだ。

中国のメーカー「サンテックパワー」のブース出力235W(写真)と285Wの多結晶シリコンを展示していた。いずれも産業用

 本社がカナダ、R&D機関が中国蘇州にあるカナディアンソーラーが“業界初”として打ち出した製品が、パワーコンディショナ内蔵型三相交流出力モジュール「Commercial AC」だ。

 産業用として今後出していくというこの製品、表側は普通の多結晶モジュールとなっているのだが、パネル裏側の隅に、小さなインバーターを搭載。ここから三相で交流200Vの出力が出せるため、外部に大型のパワコンを設置する必要がなく、システムの効率を向上させるとともに設置を簡便にし、設計・設置コストが大幅に軽減できるという。価格は現在まだ検討中とのことだが、従来のようにパワコンを別途設置するよりも安くなる可能性が高いという。

パワーコンディショナ内蔵型三相交流出力モジュール「Commercial AC」。カナディアンソーラーの新製品だパネル裏側の隅に小さなインバーターを搭載。これにより、パワコンを設置する必要がないとのことだ

 また同社では、以前から太陽電池モジュールにおいて25年の出力保証というものを行なっているが、このインバーター内蔵タイプでは、インバーターとモジュールを合わせての25年保証が適用されるということ。この点でも大きな安心感につながりそうだ。

 同じくカナディアンソーラーが5日に発表した「ELPS Module」は、ELPSセル技術(Efficient[効率的な], Long-term[長期の], Photovoltaic Solution[太陽光発電ソリューション])というものを採用したモジュール、。単結晶シリコンのセルで最大19.5%、多結晶でも最大18%のセル変換効率を実現する。先ほどの東芝のセルと同様、電極を裏側に持っていくバックコンタクト方式を採用することで、集光率を3%、発電量を6.3%高めたという。

 近寄ってみると、ちょっとした幾何学模様のようになっているのが面白いところ。まずは産業用に発売されるが、来年の4~6月には住宅用の製品もリリースされる予定だ。

東芝のセルと同様、電極を裏側にしたバックコンタクト方式を採用した「ELPS Module」幾何学模様のような表面が面白い

影の影響を受けにくい縦縞の太陽電池、パネル自体を屋根にする車庫も

 ここまでは国内外のメーカーを紹介してきたが、ここからはほかには見られなかった面白い取り組みをしていた2社を紹介したい。

グリーンテックは新ブランド「XSOL」を発表。新製品「XSOL-SLIVER」も同時に披露した

 まずは、2001年に設立された日本の太陽電池商社で、自ら太陽電池そのものの開発および製造も行なっていたグリーンテックだ。今回のPVJapanの開催に合わせ、新ブランド「XSOL(エクソル)」を発表するとともに、非常にユニークな屋根材一体型の住宅用太陽電池モジュール、「XSOL-SLIVER(エクソルスライバー)」を発表した。

 現在特許申請中というこの製品、シリコンのカッティング方法を従来からまったく変えて、“輪切り状”としたことにより、CIS/CIGSのように並列接続するモジュールとなっているのだ。確かにセルに近寄ってみると、縦じまの格子模様になっている。この1つ1つが並列につながっているというのだ。

 各モジュールも並列接続していくため、最大のメリットは一部の太陽電池に影がかかっても、影響はその影の部分だけですむ。この点は、CIS/CIGSのメリットと同様であり、従来の直列で接続するシリコン系太陽電池と比較して、大きなアドバンテージになる。同社では、まず屋根材一体型のシステムに注力していくが、フィルム型の製品も参考出品しており、幅広く展開していく考えだ。

セルに近寄ってみると、縦じまの格子模様になっている。この1つ1つが並列につながっているという最大のメリットは一部の太陽電池に影がかかっても、影響はその影の部分だけですむ点だフィルム型の「XSOL-SLIVER」も参考出品されていた

 福岡にある国内唯一の太陽電池モジュール専業メーカー「YOCASOL(ヨカソル)」が出展していたのは、多結晶モジュール24枚、計3.72kWの出力を持つ発電する次世代型カーポート。

 これまでもカーポートに太陽電池を設置するという例はあったが、これはカーポートの屋根材そのものに太陽電池モジュールを使うという発想の製品。こうすることで、屋根面積を最大限生かすことができ、シンプルでスリムな外観を実現できる。また折半屋根がいらない分、材料費、作業費でコストダウンが図れるという。このようなカーポートへの太陽電池の設置も、住宅用の補助金の対象となっており、この製品も近いうちに補助金対象製品としての登録される予定だ。

太陽電池モジュール専業メーカー「YOCASOL(ヨカソル)」は、太陽光パネル自体を屋根にするカーポートを出展していた

 会場で展示されていたのは、モジュールが8枚だけ設置されたものだったが、実物は横幅が約3倍となり、クルマ2台が置けるカーポートとのこと。気になる価格は、定価は300万円だが、実売価格は200万円台になるという。この価格は太陽光発電システム、カーポートのすべてを合わせたものだが、補助金申請時には、太陽光発電システム部分だけの価格で申請できるため、補助金受給のための上限にひっかかることはないとのことだ。

 今回は太陽電池メーカーのブースを中心に紹介してきたが、次回はそれ以外のブースを紹介しよう。





2011年12月6日 00:00