藤本健のソーラーリポート
世界で一番細長い太陽光発電所

~リニア実験線跡を活用した宮崎ソーラーウェアプロジェクト

 「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)


民間企業が作ったメガソーラー発電所

 先日お伝えした川崎市にある広大な土地を活用したメガソーラー、浮島太陽光発電所。7MWと国内のメガソーラーの中でも大規模なものであったが、こうしたメガソーラー発電所は、各電力会社によって、ここ1、2年のうちに数多く誕生する予定だ。

 その一方で、電力会社の動きとはまったく別のメガソーラー発電所もいくつか動き出している。その1つ、宮崎県にある世界一細長い太陽光発電所、宮崎ソーラーウェアプロジェクトに行ってきたのでレポートしてみよう。

リニアモーターカーの実験線跡を利用した太陽光発電所「宮崎ソーラーウェアプロジェクト」

 ソフトバンクの孫社長の提唱もあって、ますます注目を集めているメガソーラー発電所。そもそもメガソーラーの定義は、単純に「1MW=1,000kW以上の発電をする太陽光による発電所」というもので、実際の容量は施設によってそれぞれ。ただ一番小さい1MWだとしても、家庭用の太陽光発電システムは3~4kWが主流であることを考えると、非常に大規模なものであることがわかるだろう。

 福田康夫首相時代、2008年の洞爺湖環境サミットで打ち出された「福田ビジョン」によって各電力会社にメガソーラー発電所の建設が割り振られ、今ようやく現実のものとなってきたわけだ。電力会社が展開するもののほかにも、下水処理場やごみ処理場など、広いスペースを持つ公共施設に1MW以上の太陽光発電システムが設置されはじめている。

 また民間でもメガソーラーの設置例は出てきている。その多くは企業が工場の屋根などに設置するものであり、シャープ、ソーラーフロンティア、トステム……といった企業が、工場の使用電力の一部として活用している。そんな中、ちょっと変わった形態で作られたものが宮崎県にある宮崎ソーラーウェイプロジェクトだ。

リニアモーターカーの実験線を活用

 場所は宮崎市のちょっと北にある都農(つの)町。実は、ここはその昔にリニアモーターカーの実験線が走っていた場所なのだ。以前は、よくテレビなどでもリニアモーターカーが走る姿が放送されていたので、記憶に残っている方も多いだろう。リニア実験線としての役目は1996年に終了していたため、ある意味、負の遺産的に高架線だけが残っていた。

 それを新たなシンボルとして生まれ返させようと、2008年、都農町と宮崎県が共同で太陽電池を設置するメガソーラープロジェクトのパートナーの公募を行なったのだ。その結果、決まったのが東証一部上場企業であり、航空写真測量をコア事業として展開する国際航業ホールディングスだった。最終的には都農町、宮崎県、国際航業ホールディングスの三者でメガソーラーパートナーシップ協定を締結するとともに、国際航業ホールディングス100%出資の子会社、宮崎ソーラーウェイ株式会社を設立。同社の事業としてメガソーラー発電所を建設、運営しているのだ。

 でも、なぜ国際航業が太陽電池を? と不思議に思ったのだが、実は国際航業は、2009年にドイツにある太陽光発電事業を手がけるゲオソル(Geosol)グループの株式の80%を取得をするなど、ソーラーを事業として展開していたのだ。太陽電池を作るという事業ではなく、発電するという事業をドイツ、スペイン、イタリア、チェコの4カ国で23カ所で展開。合計55.4MWものメガソーラーを持っている企業だったのだ。

 その国際航業ホールディングスの日本の子会社として宮崎ソーラーウェイを設立。宮崎ソーラーウェイプロジェクトの運営を行なっている。といっても、いきなりメガソーラーを作り出したわけではない。まずは試験用の発電所として都濃(つの)第1発電所を建設し、2010年4月から運転を開始。リニアモーターカーの宮崎実験線は海沿いを直線に南北7kmに渡って連なる高架線だが、その一番南側、約260mの範囲で50kWのシステムを設置したのだ。

宮崎ソーラーウェイの代表取締役、前川統一郎氏

3種類の太陽電池から発電量の多いものを採用

 でも、どういう意味で試験用なのか。宮崎ソーラーウェイの代表取締役、前川統一郎氏に伺ってみた。

 「都農第1発電所では、3種類の太陽電池を設置し、どの程度の発電になるのかを調べてみたのです。具体的には多結晶シリコン太陽電池として京セラのパネルを20kW、薄膜シリコンとしてカネカのパネルを10kW、そしてCIS太陽電池としてソーラーフロンティア(旧昭和シェルソーラー)のパネルを20kW設置しました。総パネル枚数としては442枚で、33基の架台の上に設置し、発電量を比較していったのです」とのこと。

メーカーや種類の異なる3つの太陽電池を設置し、実際の発電量を比較した

 いずれのパネルも設置角度は南向きに10度の傾き。理論的にいえば、太陽電池のパネルの角度は緯度と同じ(宮崎なら31度)に設置するのがベストであるが、あえて10度にしたのにはいくつかの理由がある。1つ目は強度の問題。角度を大きくすると、風の影響が大きくなり強度を上げなくてはならないため、無難なところでとどめたのだ。また角度を大きくすると、影が大きくなるため、設置できるパネル数が少なくなるという問題とともに、周りの田園に影ができるという問題もあった。

 影をなくすという意味では、地面に水平に置くというのも手だが、そこには別の問題もあった。太陽光パネルにはさまざまなホコリが付着するが、雨が降ることによって自然に洗い流してくれる。しかし、そのためにはある程度の角度が必要ということで、10度になったという。

 気になる検証結果だが、3種類のうちソーラーフロンティア(旧昭和シェルソーラー)のCIS太陽電池の発電量が最も高かった。そこで、最終的にCIS太陽電池が採用された。ここから、本来の目的であるメガソーラー、都農第2発電所の建設が始まった。

 「都農第2発電所はリニアモーターカー実験線のうち、都農町側の約3.6km区間を用いた世界にも例を見ない細長い太陽光発電所です。2010年9月に着工し、今年2月に完成しました」と前川氏。

ソーラー12,520枚でちょうど1,000kWの発電所

 実際、見学に行った当日はあいにくの雨の中ではあったが、その景観は浮島太陽光発電所とはまったく違う壮観なものだった。視界が多少悪かったことも影響しているのか、とにかくまっすぐに続く高架の上に、遥か彼方まで太陽電池パネルが並んでいるのだ。1基の架台には48枚のCISのソーラーパネルが取り付けられており、総数261基の架台が3.6kmに渡って並んでいる。総数にして12,520枚でちょうど1,000kW、メガソーラー発電所というわけだ。

線路の上に延々とソーラーパネルが続く景色は壮観だ1基の架台には48枚のCISのソーラーパネルが取り付けられている
10枚のパネルを直列に接続したものをまとめる総合集電盤

 こちらも設置角度は都農第1発電所と同様に10度の傾き。20年以上の運用を続けていくためだけに、大型台風にも耐えられる強度、サビや腐食に強い耐久性を持った設計となっているそうだ。

 このように膨大な数のソーラーパネルが並んでいるわけだが、10枚のパネルを直列に接続したものを1回路とし、それを接続箱、総合集電盤でまとめた上でパワーコンディショナー(パワコン)へと送って交流を生成している。この辺の基本的な考え方は家庭用の太陽光発電システムとまったく同じだが、当然パワコンの容量は家庭用のものと比較すると非常に大きく、また出力電圧も420Vと高いものとなっている。

 ただ、これを電力会社の配電網に送り出すために、さらに昇圧して6,600Vにする変電所が設けられている。都農第1発電所に1つ、都農第2発電所では250kWずつ計4つの変電所があり、ここを介して送電線へと送られているのだ。

 当日は大雨だったために、せっかく1MWもある規模だが、モニターではたった4kWしか発電していないという状況だった。このモニターは見学者用に用意されたもので、ここには高架線の上に登るための階段や、見学者用ステージも設置されている。この見学施設には小中学校などが遠足などで訪れるほか、各地から見学者がやってくるという。

 その案内などで都農町の職員がやってくることはあるものの、発電所は無人で運転されており、その状況は常に遠隔地でモニターされるようになっている。まだ発電がはじまって間もないわけだが、3月、4月の発電量は計画値と比較してかなり上回っているようだ。

メガソーラー発電所でも天気には勝てない。当日は大雨で、発電量はたったの4kWだった見学者用に設けられたステージ発電状況をまとめたグラフ。青い棒グラフが計画値、赤い棒グラフが実際の発電実績。赤い棒グラフが青い棒グラフを上回っている

収益よりも、まずは実績作り

 さて、ここで気になるのは、果たしてこの宮崎ソーラーウェイプロジェクトの採算性がどうなのか、という点。これが明らかに儲かる事業であれば、民間でもどんどんメガソーラーを設置する動きが出てきそうだが、この点について前川氏に聞いてみた。

 「ドイツやスペインにおけるメガソーラーの事業では、確実な収益が得られる体制となっていますが、残念ながら日本はまだそういう状況にはありません。ヨーロッパと比較して設置コストがかなり割高であるという問題とともに、売電単価が安いという問題があるからです。そのため、この宮崎ソーラーウェイプロジェクト自体では収益を生み出せるものとは考えていません。ただ、今後の展開のための実績作りという位置づけで展開しています」とのこと。

 やはりなかなか難しそうだ。家庭用では現在42円/kWhでの売電ができるようになっているが、それについても聞いてみたところ、正確な数字は明らかにしてもらえなかったが、グリーン電力証書での収益も合わせての売電単価が15~20円/kWhとのこと。家庭用の半分から1/3程度であることを考えると、確かに元をとって、利益を出すというのはなかなか厳しそうだ。

発電した電気は九州電力ではなく、工場などに電力を供給する特定規模電気事業者(PPS)に売る。宮崎ソーラーウェイプロジェクトでは、PPS大手のエネットという会社に売電しているという

 なお、ここ宮崎は九州電力が管轄するエリアだから、九州電力に売電しているのだろうと思ったら、そうではないようだった。送電線そのものは九州電力のものを借りるが、売り先は「特定規模電気事業者(PPS)」になるのだそうだ。

 これまで電力は地域ごとに国から許可された電力会社のみが行なってきたが、2000年にできた法律によって、工場など大規模な電気を必要とするところに対してのみ、電力供給の自由化がされ、それを行なうのがPPSという企業になるのだ。

 逆にある程度の規模の電力の売り先としてもPPSが入ることになり、宮崎ソーラーウェアプロジェクトで検討した結果、PPS大手のエネットという会社に売電しているという。また、その売電とは別に前述のとおり、グリーン電力証書を発行して売ることでも利益を得ているという。


宮崎ソーラーウェイプロジェクトを空から見たところ

 以上、世界一細長い太陽光発電所、宮崎ソーラーウェイプロジェクトを見てきたがいかがだっただろうか。

 収益の面で難しいという大きな問題はあるものの、とても夢を感じるメガソーラーであることは確かだった。この宮崎ソーラーウェアプロジェクトに限らず、宮崎県では太陽光発電に対して産官学連携でさまざまな取り組みを行なっている。

 年間の日照時間が2,116時間と全国第3位、年間の快晴日数が53日と、これまた全国2位をマークする太陽の恩恵を多く享受する宮崎県ならではの政策だ。次回は、宮崎県ならではのソーラーへの取り組みについて紹介しよう。





2011年6月29日 00:00