藤本健のソーラーリポート
民間各社の買取価格アップによる、太陽光発電の“電力自由化”
by 藤本 健(2015/2/26 07:00)
住宅用の屋根に設置した太陽光発電システムで発電した電気のうち、家庭内で使わずに余った電力は、固定価格で売れる制度になっている。2014年度に設置した人なら37円/kWh、2013年度に設置した人なら38円/kWh、2011年・2012年度は42円/kWh、それ以前は48円/kWh(いずれも税込)で、10年間売電できるようになっている。
ところが、その決められた価格よりも高い値段で売電できる手段があるというのをご存じだろうか? 太陽光発電を設置している人、またこれから設置しようという人にとっては、とても嬉しい話なのだが、本当なのだろうか?
そもそも、そんなことがなぜ実現できるのかも不思議なところだ。そこで、この辺の状況について紹介するとともに、その仕組みについても考えてみることにしよう。
+1円、+α円の買取価格を実現する民間各社
再生可能エネルギー法によって、実質的な産業用としての太陽光発電ができるようになったのは2011年7月からだが、住宅の屋根に設置する10kW未満のシステムについては、以前から少し高い価格で売電ができるようになっていた。
具体的には2009年11月からであり、当時の家庭用の電気代の単価24円/kWhの倍である48円/kWhで売電できる制度がスタートし、それ以前に設置していた人もみんな48円/kWhで10年間固定価格で余剰電力の売電ができるようになったのだ。
その単価は徐々に下がってきており、今年度である2014年度は37円/kWhとなり、来年度は36円/kWhくらいになるのでは……と言われているところだ。36円/kWhとなっても、買電単価よりはある程度高いし、そもそもの設置金額がかなり安くなってきたので、10~15年程度で元が取れると言われている。
でも、その単価よりも高い金額で売電できるとしたら乗り換えたいという人もいるだろう。そんなことをしている会社が、現在複数登場してきている。たとえばソフトバンクの「SBパワー」やエナリス、パナソニック・エプコ エナジーサービスのような大手企業。またエコスタイルの「エコの輪」など太陽光設置業者などが、現状+1円で買い取る制度を打ち出しているほか、先月NTTスマイルエナジーは、さらに+1円よりも高い価格で買い取るプランを発表したのだ。
各社、細かな点で違いはあるのかもしれないが、いずれにも共通するのは、38円/kWhとか39円/kWhといった単価が決まっているのではなく、現在の売電価格を基準にして+1円とか+α円といっている点。ここが、どうもしっくりこないところだ。
普通に考えると、誰から買おうと同じ電気なのだから、価格は一律のように思える。もし49円/kWhで買ってくれる余力があるなら、昔の設置者だけでなく、今年設置した人にもその単価を提示してくれれば、5、6年で元が取れてしまいそうだが、そうはいかないようなのだ。
高値買取のヒントとなる「再エネ発電賦課金」とは
でも、どうして、現在の売電価格が基準になっているのか。その謎を解くカギとなるのが、「再エネ発電賦課金」と「費用負担調整機関」という存在だ。
普段あまり気にしていないかもしれないが、「電気ご使用量のお知らせ」といった電力会社からの検針伝票を見ると、この中に「再エネ発電賦課金」という項目がある。これはいわゆるサーチャージであり、電気の使用量に応じて徴収され、これが太陽光発電などの再生可能エネルギーを高く購入するための原資となっているわけだ。
ただ、この再エネ発電賦課金は各電力会社が勝手に決めているわけではなく、費用負担調整機関という公の機関が調整を行なっている。流れとしては、電力会社が徴収した賦課金がいったん費用負担調整機関に集まり、それを再分配しているのだ。その再分配は、通常は電力会社を通じて、太陽光発電の設置者へと分配されるわけだが、経由するのが従来からの電力会社に限らないというのがポイント。
そう、ソフトバンクやエナリス、NTTスマイルエナジーといった会社が「Aさんに支払うため」と費用負担調整機関に請求をすれば、Aさんがいつ太陽光発電の設置をしたという情報を持っているので、それに応じた差額分を分配金として支給してくれる仕組みになっているのだ。そのため、各社の電力買取金額が固定ではなく、+1円とか+α円となっているわけである。
では、各社は太陽光発電の設置者から電気を買って何をしているのか? それも各社それぞれではあるが、自身がPPS(新電力会社)として電気の販売を行なっていたり、PPSに卸していたりもする。また日本卸電力取引所(JPEX)における市場取引を利用しても、平均14円/kWh程度での売電も見込めるので、これで商売をしようというわけだ。
これからの電力自由化に向けて、PPSの活動が活発化してきているが、現在、発電所を持っているのは既存の電力会社がほとんどであり、電気の仕入れ元が少ない。とくに付加価値を持つグリーン電力に関する需要は高まっているため、PPSがある程度の高値で購入してくれるために、ビジネスが成立するというわけなのだ。
もちろん、住宅の屋根に設置したものだけを対象にしていては、規模も小さく、あまり大きな電力を集めることができない。そのため、筆者もやろうとしている50kW未満の小規模な低圧連系の太陽光発電所、さらにはメガソーラーを含む大規模な太陽光発電所に対しても、まったく同じスキームでの買取を行なっているのだ。
そうした中、太陽光発電の買取価格を+1円とするのが相場となってきていたのだ。相場といっても、エナリスが発表したのが2014年11月で、ソフトバンクが発表したのは12月と、比較的最近のことだが、どこも+1円と右へならえの状況だったのだ。
さらに高値の買取価格を打ち出した「エコめがねPlus」
そこに新たな手を打ってきたのが、太陽光発電のモニタリングサービス、「エコめがね」を展開するNTTスマイルエナジーだ。同社が1月末に発表した「エコめがねPlus」というしくみでは、+1円にさらに+αするというのだ。太陽光発電の設置ユーザーとしては、その+αがどんなものなのかが一番気になるところなのだが、そこがやや複雑なものとなっている。
まず条件となっているのは、ユーザーがエコめがねのシステムを設置していること。住宅での設置の場合、まずここで大きく絞られてしまいそうだが、最近はエコめがねを導入している比率が結構高くなってきているようなので、対象者も少なくないだろう。
では、その+αを含めた金額が直接、太陽光発電のユーザーに支払われるのかというと、そうではなく、販社、つまり太陽光発電の設置業者に支払われるというのが特異なところ。これをNTTスマイルエナジーでは「インセンティブ」と呼んでいたが、+数円の金額が販社に行くので、「それをどうするかは、販社とユーザーの間で決めてくれ」と言っているのだ。
そのインセンティブの使い方に関して想定される2つの例を挙げた。1つ目はそのインセンティブすべてをユーザーに還元するという方法。そうすれば+1.5円とか+2円といったことも実現しそうだが、これを「売り文句」として販売することで、販社としての魅力を打ち出せるというわけだ。
もう1つは、+1円程度に抑えつつ、点検や保守などほかのサービスのための原資にするという手法だ。これは住宅用というよりも、主に産業用をイメージしたものだと思うが、ユーザーにとっては無料で保守を受けられるとすれば、それは大きなメリットになりそうだ。
ここで、多くの人が期待するのは、このまま待っていれば、こうした業者が+2円、+3円という引上げ競争を行なうようになるのでは……という点だと思う。筆者もそれを期待したいところだが、そう簡単にはいかなそうでもある。そもそも、なぜNTTスマイルエナジーが+αを実現できたのか、という点について考えてみたい。
「エコめがねPlus」が+αを実現できたワケ
太陽光発電であろうと、火力発電だろうと、出てくるのは同じ電気なので、価値は同じもののように思えるが、一般に太陽光発電は発電能力が安定しないので、扱いづらいと言われている。確かにグリーンエネルギーとしての付加価値はあるけれど、突然やってきた雲によって影ができると、出力が急低下するなど、不安定であることは確かだ。
ところが、それは1つの太陽光発電所を見た際のものであり、もっと広いエリアにおける発電を束ねたら状況は大きく変わってくる。実際50kWの設備1基の日々の発電量はすごくバラつきがあるけれど、西日本エリア全体(計5000基)を束ねると、非常に安定したものとなる。仮にどこかで集中豪雨で発電がゼロになるような場所があったとしても、全体でみれば、季節の状況や天気予報などから十分予測可能な電力ということになる。「太陽光発電は不安定で予測不可能な電源だから、よくない」といった主張をよく見かけるが、このように広いエリアで捉えれば、決して不安定なものではないわけだ。
こうした予測情報をセットにして広域から集めた電力をPPSに売るとすると、PPS側から見ても、より価値の高いものとしてみなすことができる。その結果、普通に太陽光発電による電気を売るよりも高く買い取ってもらえるのだ、とNTTスマイルエナジーの代表取締役、谷口裕昭氏は説明する。それがあるからこそ、+α部分が実現できているというわけなのだ。
また売り先であるPPSも、NTTグループであるエネットであるという点も有利に働いている可能性はありそうだが、谷口氏によればエネットに限らず、ほかのPPS、さらには直接電力の需要家へ向けての販売も含め、今後幅広く展開していきたいとのことだ。以上の通り、他社よりもさらに高い単価が出せるのは、エコめがねを設置しているユーザーだから、発電状況をリアルタイムにモニタリングでき、より正確な発電量の予想が立てられるからでもあるわけだ。
自宅屋根に太陽光発電システムを設置しているとともに、近いうちに50kWの小規模発電所の設置を計画している筆者にとっても、これは非常にうれしい話だ。50kWのシステムの場合、単純計算で年間約50,000kWh程度の発電量が見込めるため、仮に+2円で買い取ってもらえれば年間で10万円、20年間なら200万円も多く買い取ってもらえるわけで、その差額はかなり大きい。
こうした点を見ると、太陽光発電ユーザーにとって、電力の自由化はすでにスタートしている。売り先をどう選ぶかで、収支も大きく変わる重要なポイントになってきているのである。