藤本健のソーラーリポート
最新の太陽電池が集う「PV Japan 2011」を見る(後編)

~太陽光発電所の自作キット、売電で収益を得る投資サービスなど

 「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)


会場のようす。幕張メッセで開催されている

 昨日に続き、千葉の幕張メッセで開催されている太陽光発電に関する総合イベント、「PVJapan2011」のレポートをお届けしよう。前編では大手太陽光発電システムメーカーを紹介したが、後編となる今回は、それ以外で面白かった中小メーカーのブースを紹介していこう。


ソーラー発電所の自作キットが登場。ただし土地が余っている人に限る

ベンチャー企業の株式会社Looopのブース

 PVJapanの会場には、さまざまなベンチャー企業の出展も見られた。そのうちの1つ、東京都文京区の株式会社Looopは、今年4月にできたばかりの小さな会社だ。設立当初は東日本大震災の被災地に赴き、独立型のソーラー発電システムの無償設置やNPO施設への設置などを行なっていたようで、8月以降は、楽天市場やAmazonなどのネット通販サイトで、独立型太陽光発電のセット販売などの事業をスタートさせている。

 そのLooopが、PVJapan開催に合わせて発売したのが「大容量DIYソーラー発電所キット」というもの。これは、12kWのソーラー発電所をユーザー自身で組み立てて作ろうというもの。12「W」ではなくて12「kW」だから、設置にはそれなりに広い土地が必要。スペース的には縦16m、横7.5mの、120平方mの面積とのことだから、都会というより、田舎に住んでいて、かつ土地が余っている人が対象になるのだろう。

 このキットには、ソーラーパネル、パワコン、架台の3つが付属する。ソーラーパネルには、カナダのECOSOL社製の単結晶太陽電池パネルを使用。1枚250Wのパネルが48枚セットで、計12kW分となる。パワコンは容量10kWのものが1台。架台は、12kW分が載るLooopオリジナルのアルミ架台となる。このほかにも、電気ブレーカーなどの機材もそろえて、合計315万円とのこと。すでに楽天市場での発売がスタートしている。

「大容量DIYソーラー発電所キット」に採用される、出力250Wのソーラーパネル。これが48枚セットとなるキットにはLooopオリジナルのアルミ架台も付属する

 特徴的なのが、架台に基礎がない点だ。これまでいくつかのメガソーラー発電所を見学してきたが、パネルを設置する架台には、すべてコンクリートの基礎が使われていた。しかし本製品では、アルミの棒を約5mほど埋める形で固定するという。こうして設置した“太陽光発電所”は、電力会社の電線と系統連携すれば、もちろん売電をすることが可能になる。電力系の工事を行なうためには、資格が必要となるが、架台の設置やパネルの取り付けなどは、DIY好きな人なら誰でもできる。楽しみながら太陽光発電所が作れるというわけだ。

Looopでは大容量DIYソーラー発電所キットの発売前に、山梨県北杜市に自社発電所を作っており、すでに発電を開始しているという

 Looopでは本製品の発売前に、山梨県北杜市に自社発電所を作って、すでに発電を開始しているとのこと。そのシステムは、今回発売のものよりも少し大きい16.6kWで、推定発電量は年間で約19,000kWhとなる模様。かなりの大容量だ。ここに、本製品と同じ12kWの発電施設を設置したとすると、約13,750kWhとなるそうだ。

 標準キットは12kWだが、20kW発電所キット、50kW発電所キットもある。必要に応じて増設も可能とのことだ。

売電専用の太陽光発電所を作って利益を得る、太陽光の投資サービス「おひさま農場」

 「土地はあるけど、さすがに自分で発電所を作るのは無理……」という人には、株式会社インターアクションによる、出力22.8kWの非住宅用の太陽光発電システムはいかがだろうか。発電した電気を自宅で使わずに、すべて売電し、その売電額で収益を得る、投資のようなサービスだ。

株式会社インターアクションのブース「おひさま農場」という、太陽光発電の投資サービスを実施。テレビ番組でも取り上げられたことがあるらしい

 「おひさま農場」と銘打たれたこのサービスでは、出力190Wの単結晶パネルを120枚設置するとともに、パワコンなど一式を提供。先ほどのLooopのDIYキットと比較しても倍近い規模となるが、気になるのが740万円という価格。kWあたりの単価でいえば33万円と、DIYキットに比べるとやや高いものの、一般的な住宅用に比べると圧倒的に安い。

 こちらの同社のブースで大きく掲げてあったポスターには「8年間で償却可能」という文字があった。投資として太陽光発電が見合う、ということのようだが、住宅用のシステムばかりを見ていると、にわかには信じられない。そこで、投資金額を償却するそのカラクリを聞いてみた。

 現時点での非住宅における余剰電力の売電単価は40円/kWhで、10年間その単価で固定という制度になっている。この契約ができるのは来年3月31日までとなるが、この単価で売電を行なった場合、インターアクションの試算によれば、年間売電収入額は横浜で102万円、仙台で100万円、福岡で98万円と、どこでも100万円程度なるという。そのため、8年あれば投資額の740万円が回収できるという計算だ。

初期投資は「8年間で償却可能」という年間売電収入額は横浜で102万円、仙台で100万円、福岡で98万円と、どこでも100万円程度という

 来年4月以降単価が変わるほか、7月に施行される再生エネ法によって非住宅用は全量買取に切り替わる。そのときに単価がどうなるかはまだ分からないが、大きく変わらないとすれば、8年償却の理論は今後も続くというわけだ。12年間で90%、25円で80%の出力保証もあるとのことなので、日照条件さえよければ、また土地代を無視すれば、投資先の1つとして太陽光発電を考えることもできそうである。


アメリカより上陸、フレキシブルに使えるシート状の太陽電池

 もっと小規模で、独立型の太陽電池パネルを売り出していたのは、大阪大学内に本部を置き、産学連携で事業を行なっているというエコホールディングス株式会社。同社はアメリカのPowerFLEX(パワーフレックス)という化合物系のCIGS太陽電池を扱っているのだが、シート状のため、フレキシブルである点が特徴だ。

エコホールディングス株式会社のブースに展示されていた、シート状の太陽電池
緑っぽい色が特徴。フレキシブル型なので、テントに付けるなどいろいろな使い方ができそうだ

 CIS/CIGSというと、ソーラーフロンティアやホンダソルテックのような真っ黒なパネルを思い浮かべるが、このPowerFLEXの太陽電池は、緑っぽい色をしているのだ。製造方法が大きく異なるため、このような色になっているとのこと。会場内では幅50cm、長さ6mというタイプと、幅50cm、長さ2mという2タイプの販売受付を行なっていた。

 担当者によると、出力1W当たりの価格は350円。6mタイプのものが出力280Wとなるため、1W当たり350円×275W=約9万円という金額になるそうだ。もっとも、実際に使うためにはこれにパワコンを取り付けたり、充電システムを接続する必要があるので、システム金額としてはもう少し高くなる。

【お詫びと訂正】初出時、上記の計算式に誤りがありました。訂正してお詫びさせていただきます。

 ただ、フレキシブル型であるためテントに取り付けたり、ビニールハウスの屋根に取り付けるなど、自由度は高いし、持ち運びも簡単。いろいろな利用法が考えられそうだ。

TAKASHIMA U.S.Aが輸入する、シート状のアモルファス薄膜太陽電池

 同じくアメリカ製のPOWERFILMという会社のフレキシブルタイプの太陽電池を扱っていたのは、輸入販売元であるTAKASHIMA U.S.A.という会社。これもやはりシート型になっているのだが、アモルファスの薄膜太陽電池となっている。

 出力は40Wタイプと60Wタイプがあり、60Wタイプは太陽電池単体で15万円とのこと。単価だけで比較してしまうと、1W当たり2,500円となるため、PowerFLEXと比較するとかなり割高ということになる。ただ、こちらは安定化装置付のバッテリーとのセット販売もしているので、導入すればすぐに使えるというのがメリット。容量160WhのBaby Gennyという蓄電池が12万5千円で、これと40Wの太陽電池をセットにしたものが18万円とのことだった。


シートを広げたところ。出力は40Wタイプと60Wタイプがあるセットで販売される蓄電池

キレイな色素増感型の太陽電池が実用化されるのはいつ?

日立造船の色素増感型の太陽電池。透明でカラフルという点が特徴

 会場を見て回っていて、そのキレイさで目を惹いていたのが、色素増感型の太陽電池。

 まだ実用段階までは来ていないとされる色素増感型だが、赤、オレンジ、黄色、緑、紫など色がキレイなため、窓に取り付けるなどしてインテリアとしても利用できそうという点で注目を集めている。その色素増感太陽電池にかなり昔から取り組んできたというのが日立造船だ。

 造船会社がなぜ? とも思うのだが、同社は古くから精密機械事業を展開しており、その中でFFPD(フラットパネルディスプレイ)および半導体・電子部品関連ならびに太陽電池関連分野において、レーザ加工装置、研磨装置などの製造装置を手がけている。そうした関係もあって、自らも太陽電池開発に取り組んできたというのだ。

近寄ってみてみると、パネルの向こうが透けて見える

 展示されていた、ステンドガラスのような色素増感太陽電池に近づいてみると、確かに透き通っているのがわかった。ただこの太陽電池は、あくまでも参考出品ということで、実用化はまだ先とのこと。NEDOのロードマップで色素増感太陽電池の実用化は2017年とされているが、日立造船ではそれよりも少し早く、2013~2014年ごろには商品化していきたいと話していた。

 同じく色素増感型太陽電池の展示を行なっていたのは、医薬品、化学製品、火薬などを本業として取り組んでいる日本化薬。やはりさまざまな色の太陽電池を作っているのだが、同社としては要請があればいつでも製品化していくことができるという。しかし問題は、この色素増感太陽電池をどう利用するか、という点。出力自体はシリコンやCISなどと比較して圧倒的に小さいため、見た目を生かしながら、どう活用するかが課題なのだとか。

 アイディアの1つとして、ガーデン用テーブルが展示されていた。外に置いても見た目はキレイで、庭にいながら携帯電話の充電などができるというわけだ。

日本化薬の色素増感型太陽電池。「要請があればいつでも製品化していく」とのことだが、利用法がまだ定まっていないというアイディアのひとつとして展示された、ガーデン用テーブル。庭にいながら発電できる


シャボン玉石けんでパネルを洗浄、異常も見つける保守サービス

太陽光発電のメンテナンスサービスを行なう太陽光サポートセンター株式会社のブース

 PVJapanでブース出展していたのは、何も太陽電池のメーカーや商社、販売店などだけではない。サポート、サービスに特化したところもいろいろあった。

 その1つが、太陽光発電のメンテナンスサービスを行なう太陽光サポートセンター株式会社。同社が展開するのは、太陽光発電システムを取り付けた一般住宅へ保守・点検サービス。契約時に73,500円を払うと1年目、5年目、9年目の計3回自宅に来てくれて、洗浄、点検、計測の3つのサービスを行なってくれるという。

環境負荷の少ない「シャボン玉石けん」を用いてモジュール表面の洗浄を行なうという

 洗浄では、環境負荷の少ない「シャボン玉石けん」を用いてモジュール表面を洗い、パネルの汚れを取り除くというもの。また点検や計測は、各部の目視点検を行なうとともに、絶縁抵抗値の測定やパワーコンディショナの作動状況のチェックをする。またモジュール発電量に関して、系統ごとにI-Vカーブ(電流・電圧特性)の計測なども実施し、異常があればかなりの確率で見つけ出すことができるという。

 一般的にどのメーカーの太陽光発電システムも10年保証、あるいはそれ以上となっているので、設置時に契約をすれば、保証期間内の故障を見付け出して、メーカーに無料修理させることが可能になるというわけだ。同社では全国展開を行なっているとのことだが、基本的には太陽光発電の設置業者を通じてのサービス提供となっているようだ。


配電盤にセンサーを付けるだけで、電気が“見える化”できる「エコめがね」

 最後に紹介するのは、先日サービスをスタートさせたばかりのNTTスマイルエナジーの「エコめがね」というサービス。これはエネルギーの見える化を行なうユニークなサービスで、太陽光発電による発電量や実際の電気の使用量、また売電量、買電量を測定するとともに、クラウド型のシステムを通じてパソコンや携帯電話などでその情報をリアルタイムに確認できるというものだ。

 となると、そうしたシステムに対応したパワコンなどが必要になりそうに思えるが、太陽光パネルを設置した家の配電盤にセンサーを取り付けるだけでOKとのこと。ここから無線LANで情報を飛ばし、インターネット経由で情報をクラウドに上げることができるようになっているのだ。また、この測定結果から得られる情報を元にCO2の削減量に応じたポイントがもらえ、商品などに変えることができるというのも面白いところだ。

発電したエネルギーを見える化する、NTTスマイルエナジー「エコめがね」サービスのブース必要な作業は、太陽光パネルを設置した家の配電盤にセンサーを取り付けるだけとのこと

 実はこのエコめがねについては、先日NTTスマイルエナジーの社長にインタビューを行なっている。改めて紹介する予定だ。


 以上、2回に渡ってPVJapanについてみてきたがいかがだっただろうか?もちろん会場には約600小間という膨大なブースがあるため、紹介できたのはほんのわずかではあったが、最近の太陽電池業界の動向などを感じ取っていただけたら幸いだ。






2011年12月7日 00:00