ぷーこの家電日記

第516回

ピンチはチャンス? 壊してしまった器を金継ぎで修復

私はとても暑がりだ。ご飯を食べるだけで暑くて汗が流れ落ちるし、ここ最近急に暑いくらいになり、早くも夏用のエアリズムを着ている。

寒がりな人のヒートテックと、私のような暑がりのエアリズムが混在するそんな季節。外の風は爽やかで気持ちがよく、これくらいの天気がしばらく続くと嬉しいなぁと思うのだけれど、丁度いい期間って本当に短い。もう少し春を満喫したいなぁ! そして、今からこんなに薄着で、夏が来たら何を着たらいいのでしょうかと少々焦っている私である。

さて、毎週楽しみにしている陶芸教室通い。先日作っていた作品が仕上がってきた。教室では毎月カレンダーに、窯で焼くスケジュールが書き出されているのだけれど、素焼き(土を捏ねて成型してから一度焼く)も本焼き(素焼きの陶器に絵や釉薬を付けてから仕上げに焼く)も、大体月に1回くらいの頻度。なので、作業のタイミングがズレると1カ月とか平気で仕上がりが遅くなる。この日に窯に火が入るから、いつまでにこれを仕上げて……。なぁんて一応考えたりもするけれど、思ったように作業が進むわけでもなく、大体間に合わない(笑)。1個作るのに数カ月かかったりするので、仕上がった時の感動はひとしおだ。

仕上がりをイメージしながら釉薬をつけるのだけれど、釉薬の厚さや撹拌や焼きの状況で仕上がりが変わってくるので、出来上がるまでどんな感じになるか正直分からない。仕上がった作品との対面は、毎回ドキドキと感動の連続である。

私は自画自賛タイプなので、どれもこれも「うわー! めちゃくちゃ可愛い!」と全部惚れ惚れしてしまう(笑)。失敗しても「味があっていい!」となるし、思った通りの仕上がりで帰ってきたら、「すごい! やっぱり可愛い!」となる。人の作品を見るのも大好きで、どれもこれも本当に全部素敵だし、「私もこんなの作りたい!」と創作意欲が湧いてくる。毎週通うのが楽しいけれど、作品が出来上がってくる日が1番楽しみな日だ。

今回受け取った作品は、特に色のバランスが我ながら上出来でテンションがグンと上がった。仕上がった作品を新聞紙で包んで紙袋に入れて持ち帰り、翌日夫に「ねぇ、見る? 見る? 新しく出来上がったの見るー?」と、自慢げに披露しようと包みを開くと……割れてるじゃないか!

身に覚えはなくはない。不注意で紙袋ごと軽くぶつけてしまったのだ。軽くだったので、割れてるなんて思ってもいなかった。が、現実パキッと綺麗に割れている。普段から自分の落ち着きの無さにはほとほと嫌気がさしているとはいえ、あまりのショックさに呆然となり、夫もかける言葉もないという感じでお互い無言(笑)。とりあえず静かにもう一度包み直してそっと棚に仕舞った。

数カ月かけて作って、数時間で壊してしまうなんてある!? と、我ながら信じられない。我が身に同居している創造と破壊の神々よ……。なんてくだらないことを考えながら、数日間寝込むほど落ち込み、そして本気で泣いた。もう少し丁寧に包んでいたら、紙袋を手に持つのではなくバッグの中にきちんとしまっていたら、後悔先に立たずとは言うけれど、まさに考えても仕方がないような、あの時こうしていればが頭の中をぐるぐる回る。

「諸行無常と言うじゃないか。形あるものはいつかは壊れるんだし」と自分に言い聞かせても「いやいや、いつかどころか瞬間すぎるじゃないか!」ともう1人の私がツッコミを入れてきて、全然納得できない。「陶芸で作ったものを即日割っちゃったんだよねー。あはは」なんてネタにするには消化出来ないほどに落ち込んだ。

落ち込むだけ落ち込んだけれど、数日後「よし、せっかくの機会だ! 金継ぎとやらをやってみるか!」と思い立った。金継ぎとは、割れたり欠けたりした器を、漆を使って接着して、金粉で装飾して修復する伝統的な技法である。壊れた器を、また新しい作品に生まれ変わらせる金継ぎは、見た目の美しさだけじゃなく、ものを大切に使う気持ちとか、ものへの愛着だとか、時間をかけて修復させたい気持ちだとか、そういう気持ちや手間もひっくるめて今非常に人気だという。

フリマアプリなどでは「金継ぎ用」として、割れたり欠けたりした食器も大量に出品されている。もはや金継ぎはアートであり、金継ぎ自体が創作でもあるようだ。早速すぐに使える道具や材料がセットになった金継ぎキットを買ってみた。初めて金継ぎをする人にも分かりやすく、全工程が写真付きで説明してあるリーフレットも付いていてとても良いセットだった。

書いてある通りにちまちまと作業していくと、「おぉー! なんとか仕上がった!」とちょっと感動さえした。こんな機会がなければ、おそらく手を出さなかったであろう金継ぎ。少し余った漆と金粉を使って、ヒビが入っていたお気に入りのガラスの酒器も補強した。見た目もちょっと華やかで可愛く、金継ぎにハマる人の気持ちが分かった。

また割っちゃってもいいやなんて気持ちにはもちろん全くならなかったし、もっと落ち着いて丁寧にものを扱わなければと反省はしているけれど、金継ぎという選択肢を持てた今、もしまたお気に入りの器を割ってしまったとしてもあんなに落ち込まなくてもいい心の保険のようなものを手に入れた気分だ。

同時に、ただでさえ増えて収集がつかなくなってきた食器棚は、これから増えていく一方で減ることがないのかという現実に、恐怖も感じているのであります(笑)。

徳王 美智子

1978年生まれ。アナログ過ぎる環境で育った幼少期の反動で、家電含めデジタル機器にロマンスと憧れを感じて止まないアラフォー世代。知見は無いが好きで仕方が無い。家電量販店はテーマパーク。ハードに携わる全ての方に尊敬を抱きつつ、本人はソフト寄りの業務をこなす日々。