大河原克行の「白物家電 業界展望」

家電市場に「新たな風」を吹かせたアクアの半年間の軌跡

~ハイアールアクアセールスの中川社長に聞く
by 大河原 克行
ハイアールアクアセールス 代表執行取締役社長 中川喜之氏

 家電市場に新たな風を吹かせることができた――

 ハイアールアクアセールスの中川喜之社長は、この半年の活動を振り返り、こう切り出した。AQUA(アクア)ブランドの洗濯機、冷蔵庫を発売するハイアールアクアセールスが、2012年1月に事業をスタートして約半年が経過した。

 三洋電機の洗濯機および冷蔵庫の開発、製造、販売していた三洋アクアの株式を、中国ハイアールグループが取得。これにより発足したハイアールアクアは、小泉今日子さんを起用したテレビCMを展開。そのなかで「家電に新しい風を」をキーワードに、新たな白物家電ブランドがスタートしたことを訴求し、一気に認知度を高め、今年4~6月でも主要分野において、10%を超えるシェアを獲得している。そのあたりが、中川社長がいう「新しい風を吹かせることができた」という言葉につながっている。中川社長に、ハイアールアクアセールスの日本における半年間の取り組みについて聞いた。

洗濯機で10%のシェアを超えたアクア

――ハイアールアクアセールスがスタートして半年を経過しました。初年度は売上高350億円、市場シェア10%を目標に掲げましたが、折り返し地点での手応えはどうですか。

中川:非常にいい手応えを感じています。この半年の取り組みによって、我々が目指した「日本の白物家電市場に、新たな風を吹かせる」という目標を達成することができたのではないでしょうか。2012年4~6月の市場シェアを見てみると、洗濯機市場においては、10.8%のシェアを獲得しました。また全自動洗濯機の市場においては、アクアのシェアが14.5%、ハイアールのシェアが4.5%となり、ハイアールグループとしては第2位のシェアとなっています。洗濯機市場においては、想定通り、いや想定以上の成果をあげています。

 また、冷蔵庫についても同様の成果が出ています。大型冷蔵庫のカテゴリーでは、5月の最終週で8.6%のシェアを獲得し、機種別でも10位に入りました。さらに、中型冷蔵庫のカテゴリーでは、アクアが17.5%、ハイアールが5.1%のシェアを獲得して第2位。小型冷蔵庫のカテゴリーでは、ハイアールの17.5%に、アクアの11.5%を加え、ハイアールグループでは国内トップシェアを獲得しました。

アクアの冷蔵庫。女性や年配の人にも使いやすい工夫が施されているというハイアールの冷蔵庫。一人暮らしの若者などをターゲットとしたシンプルなモデルコインランドリー向けの洗濯機

 一方でコインランドリー向けの洗濯機などの業務用分野でも、当初計画を上回る実績となっており、実は、生産が追いつかないほどの好調ぶりです。業務用分野では、三洋電機からアクアへのブランド変更による影響、これまで家庭用洗濯機を生産していた湖南電機で生産を行なうことによる影響、そして、サービス体制をパナソニックES産機システムへ委託したことによる新たな体制でのサービス品質維持という、3つの懸念材料がありましたが、アクアになっても、引き続きお取り引きをいただくパートナー、ユーザーが多く、そうした方々の強力なご支援により、計画を上回る実績となりました。

 7月には京都で、業務用製品の有力販売パートナー60社80人の幹部の方々に出席いただき、大規模な会議を開きましたが、今後の当社の業務用事業に対して、期待の声をいただきました。このように、洗濯機、冷蔵庫、そして業務用分野のすべての分野に渡って、数値上では予想以上の成果を収めています。半年の成果としては、極めて順調な出足だということをご理解いただけるのではないでしょうか。

小泉今日子さんの起用で認知度が高まる

アクアではブランド立ち上げ当時から小泉今日子さんをテレビCMに起用してきた

――アクアが、これだけの出足の良さをみせた理由はなんですか。

中川:正直なところ、なぜだかわからないというのが本音ですが(笑)、自己分析しますと、いくつかの要素があるといえます。1つは、AQUAのブランドに対する認知率が一気に高まったことです。

 2月以降に展開した小泉今日子さんを起用したテレビCMの効果もあり、3月に実施したブランド認知度調査では、51.4%の認知率にまで一気に認知度が上昇しました。認知率は、60%を超えると多くの方々に認識していただけるという水準に到達するようですが、その近くまで一気に到達しました。

 量販店店頭でも、商品には小泉今日子さんの写真を施したPOPを貼り、さらに表紙一杯に小泉今日子さんの顔が掲載されたカタログも用意しました。これによって、小泉さんのイメージから、アクアというブランドのイメージを身近なものとして認識していただいたという効果もあったといえます。小泉さんの効果は我々の予想以上に大きかったといえます。

 2つめには、日本市場に根ざした製品戦略が評価を受けた点ではないでしょうか。

 5月10日に発表したドラム式洗濯乾燥機の「AQW-DJ6000」は、日本で古くから使われていた洗濯板の構造の一部をドラム槽に採用することで、洗浄能力を大幅に引き上げることに成功しました。中国ハイアールの青島(チンタオ)の工場で初めて生産したドラム式洗濯乾燥機ですが、昨年、三洋電機最後のドラム式洗濯機として投入したAQUA AWD-AQ4500と比べても、最初の2週間の初速では負けていません。「洗濯」という本質機能の部分で価値が認められた結果だと判断しています。実は、これは意外な動きにもつながっているのです。

ドラム式洗濯乾燥機「AQW-DJ6000」ドラム槽内に配置した洗濯板の形状を再現したバッフル

 当社のドラム式洗濯機の課題をあげるとすれば、乾燥機能における省エネ性だといえます。その点では、ヒートポンプ方式などを採用している他社の方が、省エネ化が進んでいる。しかし、節電に対する機運が高まるなかで、乾燥機能はほとんど使わないようにしている、なかには、いまから乾燥機能を使わずに生活するための「練習」をしているという声もあります(笑)。

 いざとなったときには乾燥機能を使うが、普段は乾燥機能は使わないという人が想像以上に多い。そうなると、洗浄という本質的な機能でどれがいいのか、ということで製品を選ぶ人が増えている。当社のドラム式洗濯乾燥機を選んでいただいているお客様は、洗浄能力の高さに評価をいただいています。

 一方、冷蔵庫では、400Lの「AQR-SD40」が、計画の2倍の販売台数となっています。超大型クラスの機能を大型クラスで実現するという、日本のメーカーがあまり訴求しないところをしっかりと訴求したことが理由なのではないでしょうか。デザイン性や素材の高級感といった部分でも高い評価を得ています。

製品品質、営業品質、サービス品質を強化

――グローバル企業のハイアールとしての評価と、三洋電機のDNAを受け継いだ点のどちらが評価されているのでしょうか。

中川:これは両方でしょうね。量販店店頭では三洋電機の洗濯機、冷蔵庫事業を継承した会社であることを明確に示していただいていますし、それを販売店の方々が応援していただいていることも感じています。また、その一方で、中国で生産していること、中国のメーカーであることに対して、世の中全体が、自然に受け入れられるような機運が生まれはじめていることも感じます。

 中国で生産した製品の品質については、徹底した活動によって改善を行なっています。すべての製品について、湖南電機でチェックを行ない、そののちに日本の市場に投入しています。また、サポート体制の確立にも取り組んできました。当社に対して、「王道の黒船」という言葉を使う人もいますが、まさに正面から、日本で受け入れられるための製品を開発し、市場投入している点が評価されているのではないでしょうか。アクアによって、日本におけるハイアール製品の売れ行きが上昇し、またハイアール製品によってアクアの製品も注目を集めるという好循環が生まれています。

――一方で、半年間を経過して、課題といえるものはなにかありますか。

中川:1つは日本の製品サイクルにあわせて、さらに速い展開をしてきたいということです。当初の計画よりも、1カ月、2カ月早く製品を投入するといったように、いち早く市場のニーズに応えた製品を出せる体制を作りたい。

 もう1つは、品質重視の考え方を徹底するということです。ここでは商品品質や営業品質、サービス品質といった観点があります。商品品質では、中国での生産でも日本が求める品質を徹底して追求する体制を確立しています。これは終わりがない課題です。ドラム式洗濯乾燥機についても、4月の段階から量産の準備をはじめ、日本向けに特別な生産ラインをつくり、それに向けて、日本から社員が現地に張りついて、徹底した品質確保を行ないました。ここはむしろ、日本の品質を、ハイアールのなかに定着させたいという姿勢で取り組んでいます。さらに、日本でも全量チェックをしてから出荷する体制としました。現時点で、製品品質に関して大きな問題は発生していないと認識しています。

 また営業品質については、従来からの15法人の量販店などを対象にした販売支援体制の強化に加えて、地域に密着した店舗での販売網へも、さらに販路拡大を図りたいと考えています。大変ありがたい話なのですが、アクアの製品を扱いたいという声が、ここにきて増加しています。いまは、1,500店舗との口座がありますが、今後は1,700店舗との取引を行なう規模にまで拡大する可能性があります。これが実現すれば、三洋電機時代を超える規模になります。

 販売店を訪問するラウンダーは、約80人。競合他社の3分の1以下です。それでも少数精鋭の体制を構築して、他社に負けない営業品質を実現している。「少数」というのはすぐにできますが(笑)、問題は「精鋭」であるかどうかという点です。精鋭であることを維持するための取り組みは、これまで以上に徹底していきたいと考えています。

 そして、サービス品質に関しては、ハイアールジャパンセールスの19カ所のサービス拠点から対応していますが、これらの拠点から提供されるサービス品質の向上に向けて、さらなる見直しを図っていきたい。拠点を増やしたり、ハイアールアクアセールスのなかにサービス体制を移管するといったことは考えていませんが、今夏以降は、今の体制のなかで、サービス品質の向上をいかに実現するかといったことが、当社にとっての大きな取り組みの1つになると認識しています。

来年には超大型冷蔵庫の投入も検討へ

――下期はどんな施策を打ちますか。

中川:下期は市況の悪化が見込まれます。そのなかで、闇雲に事業を拡大するという戦略を打ち出すのは得策ではありません。もちろん、我々の事業は止まることは許されません、成長に向けた努力はこれまで以上に行なっていきます。ただ、市場環境の変化を捉えながら、それにあわせた展開を考えることが必要になってきます。

現在アクアでは、600L以上の大型クラスの冷蔵庫は取り扱っていない。写真は400Lクラスの冷蔵庫

 また、新たな製品投入に向けた仕込みもやっていきたいですね。例を1つあげるならば、来年以降、超大型冷蔵庫の市場投入も前向きに検討していきたいと考えています。600Lを超える超大型クラスは、日本の冷蔵庫市場の中でも約半分を占めていますから、そこで存在感を高めることは重要なことです。営業支援体制、サービス体制などを、さらにしっかりさせた上で市場参入を考えていきたいですね。また、個人的な意見ですが、将来的にはロボット家電のようなものもやってみたいという気持ちはあります。これはかなり先の話ですが(笑)

――エアコン市場への参入は計画していますか。

中川:それはありません。この分野は、専業メーカーも参入する厳しい市場であり、製品面、営業面、サポート面でも、これまで以上に強化した体制を作らなくてはなりません。まだまだそれには時間がかかりますね。

 ただ、家電メーカーである限り、規模の追求というのは重要な課題です。日本で受け入れられるような価値の高い製品を開発していくという姿勢は、洗濯機や冷蔵庫に限らず、幅広い製品のなかで考えていく必要があります。

350億円、シェア10%獲得に強い手応え

――2012年度の目標としている売上高350億円、シェア10%の獲得についてはどうなりますか。

中川:上期は約150億円の売り上げ目標に対して、それを上回る結果になりました。またシェア10%の目標も達成することができました。現在のこの勢いが続けば、下期の200~250億円の売上高目標も達成できると考えています。そして、年間を通じてシェア10%という数値も達成できるのではないでしょうか。今は、そうした手応えを強く感じています。

 アクアは、上期において、家電市場に新たな風を吹かせた。下期もこの新たな風を吹かせ続けたいと考えています。私にとっては、社員のモチベーションがあがっていることが非常に心強い。半年間の成功体験も社員の自信につながっています。白物家電市場において、アクアのブランドイメージを定着させ、さらに存在感を高め、足下を固めて、次のステップへと踏み出していきたいですね。






2012年7月25日 00:00