そこが知りたい家電の新技術
世界初の掃除機を発売し、100年以上の歴史を持つ総合家電メーカー「エレクトロラックス」
by 藤山 哲人(2016/3/14 07:00)
「エレクトロラックスはスウェーデンの総合家電メーカーで、創業100年の歴史があります。世界で展開しているグローバルメーカーで、現在の売上高は世界第2位です。1912年に世界初の真空式電気掃除機を発売して以来、世界150カ国でさまざまな家電を愛用いただいています」
と、会社の歴史を説明してくださったのは、エレクトロラックスの車 壽子さんだ。
老舗といわれるパナソニックでも1918年創業、三菱でも1921年。時をほぼ同じくして1912年創業したシャープは、ベルトのバックルとシャープペンの元祖を作っていたころだ。そのころ、すでに世界初の家庭用電気掃除機を開発し、販売していたというから驚きだ。
「最初の掃除機は、下に空気が抜ける構造で、重くても持って使わなければならなかったそうです。今の床置き(キャニスター)式の元祖を作ったのもエレクトロラックスなんですよ」
と見せてくださったのは、ロールプレイングゲームの宝箱を彷彿させる木箱。中身を空けるとダイバーの酸素ボンベようなものが入っている。よく見ればコンセントの差し込みがあったり、ホースを挿すところがあり確かに掃除機なのだ! スゲー!
しかも本体には、取っ手がついていて持つこともできるし、床面にはソリが付いていて、部屋を自由に移動できる。ソリをキャスターに変えれば、今のキャニスター掃除機だ。
木箱の中には、隙間を掃除するためのノズルや、幅広の吸い込みなど、今の掃除機についている先端ツールがほとんど揃っている。違う点は、コードが掃除機の中にクルクル入っていかない(コードリールじゃない)程度ぐらいしかない。
昔、田舎のおばあちゃんの家には、これに似た掃除機があったが今思い起こすと水色に花柄だったと記憶している。モノクローム+革張りというセンスは、当時からエレクトロラックスのデザインセンスの高さを証明している。
生活スタイルが似ているスウェーデンと日本。掃除機の親和性もおのずと高い
さてスウェーデンと言えば家具店のIKEAを思い浮かべるだろう。IKEAの家具は、なぜか日本の家庭にマッチする。リビングソファやラグはもちろん、ダイニングセット、寝室の布団カバーやサイドテーブル、子ども部屋のクローゼットや勉強机など、部屋にマッチしない家具はないと言っていいほど。
その理由を説明してくださったのは、生活環境が近いからだという。
「実はスウェーデンの暮らしは日本と非常に似ていて、家の中では靴を脱ぐんです。部屋はフローリングで、ソファーやラグが敷いてあります。日本の家とほとんど替わらないんですよ。IKEAのショールームにある、部屋のコンセプトサンプルそのものなんですよ」
となると気になるのが掃除機。海外製の多くは、部屋で靴を履くため砂ゴミ中心となっている。もしかしてスウェーデンの掃除機は、海外製だけど日本製にすごく近いのだろうか? この疑問に答えていただいたのは、エレクトロラックス・ジャパン アシスタント・プロダクト マーケティング・マネージャーの林 慧梅さん。
「そうなんです。エレクトロラックスの掃除機は、綿ゴミやホコリ、フローリングや絨毯なども得意です。ただワールドワイドで展開していますから、砂ゴミにも対応しています」
実はエレクトロラックスの製品は、日本との親和性が高い。しかも日本の家電メーカー以上に歴史があり、それだけノウハウも持っているということだ。
世界初のコードレススティック掃除機「エルゴラピード」
ときは2004年。オリンピック発祥の地ギリシャで開催されたアテネ五輪の年に、エレクトロラックスが掃除機界に革新をもたらした。それが世界初のコードレススティック掃除機だ。
「エルゴラピード」と名づけられたその掃除機は、まるでモップのような形をしていて、床置きのキャニスター掃除機のように、ホースと後ろに引きずる本体がない。
シュッ! としたデザインと独特のカラーが特徴的で、国内でも人気を博す四角いロゴマークのスティック掃除機だ。実は世界で1,000万台売れているという、キング オブ スティック掃除機なのだ。
「最新モデルでは、バッテリーを一新しました。エレクトロラックスは環境に優しい会社として、連続9年にわたりグローバルなサスティナビリティ認証(Robecosam Industry Leaders)を受けています。掃除機本体も、リサイクルしやすさを設計段階から取り入れていますし、環境に配慮してリチウムイオン電池を採用しています」
筆者から補足するとリチウムイオン電池は充電や安全性を確保するのが難しく、コスト高になってしまうため、どうしても小型化が必要な電子機器か高級家電でしか使われていない。なにしろ電気自動車ですら、リチウムイオン電池を使う会社とそうでない会社があるほど。
とくにスティックやハンディ掃除機は、いまだにニカド電池を使っている製品が多いのだ。
イノベーションはお客様のため、それを生み出すための「Thinking of you」というフィロソフィー
「コードレススティック掃除機で12年の歴史を持っている会社はほかにはありません。また家電メーカーとしての長い歴史もあります。そんな私たちですが、大切にしている思想があります。それが「Thinking of you」ということばです。日本語にすると「あなたのことを考えて」となります。エルゴラピードも「Thinking of you」がたくさん詰まっています」
具体的にはどんなところだろうか?
「本来掃除は面倒なものです。ですから使う人がいかにストレスなく、楽しくできるかをThinking of youします。掃除機としてThinking of youした結果が、コードレスでナンバーワンの45分間も運転ができたり、フローリングでのゴミを98%除去できたりという機能性です」
スティック掃除機という分野や、本体から分離してハンディとして使える2in1、そしてお掃除を中断するときに立てておける超安定性も、thinking of youの結果なのだろうか。
「そのとおりです。「イノベーション(新機軸)」という言葉がありますが、エレクトラックスのイノベーションは、Thinking of youの結果です。お客様のためにあるイノベーションなのです」
つまり私たち顧客が楽しく、そしてストレスなく掃除できるように、掃除機というジャンルにコードレススティックという新機軸を作り、分離して階段や車、机の掃除ができるように2in1というイノベーションが生まれたというわけだ。
「今回のエルゴラピードには、ブラシの先に絡まった糸ゴミや髪の毛、ペットの毛などを取り除いて吸い込む『ブラシロールクリーン』機能があります。これもThinking of youの結果で新たなイノベーションになるでしょう」
ヘッドにはPRESSと示されたボタンがあり、これを踏むとブラシにブレードがあたり、絡んだ毛などを取り除いて吸い込むというものだ。
分解して内部構造をチェック!
またあまりにも安定性がいいので、特別に分解して紹介する許可をいただいた(編集部注:分解するとメーカー保証対象外になります。ご注意ください)。それが次の写真だ。
まずグリップの端には、前後のバランスを取るためにバッテリーを2本配置(メカに詳しい方には、カウンターウェイトと言った方が早いかも)。また、一番重いモーターはギリギリまでグリップ側に寄せ、モーターを囲むように残りのバッテリー3本を配置している。
モーターの先端には吸引ポンプ(透明の部分)が見えるが、通常ここは高速回転するので鉄やアルミで作る。しかしエルゴラピードは、先端部分を重くしないように、軽くで丈夫なポリカーボネイト樹脂で作ってある。厚みもかなり抑え、重量バランスを取っ手側に持ってきている。
※ポリカーボネイト:警察などが使うヘルメットのバイザーや盾に使われる樹脂。最近は透明度が長持ちしてきたので、自動車のヘッドライトのカバーやスマホ(iPhone以外)の液晶カバーとしても使われている
ほとんどのメーカーは、電池は配線を少なく生産性を上げるためにバッテリーパック式に、ポンプは他の掃除機の金属製の部品を流用しているだろう。しかしエルゴラピードはThinking of youとうう独自思想を持っているので、バランスの良さを徹底的に追求できている。
ただひとつ気になるのは、バッテリーが寿命になったとき電池交換をどうするのか? という点だ。工賃の問題もあるので価格も気になる。
「エルゴラピードはバッテリー交換ではなく、ハンドユニットそのものを交換する形になります。モーターやポンプも新品となるため、買ったときと同じ性能に戻ることになります。お値段は、14.4Vモデルが9,700円、18.8Vモデルが13,000円(税込)です」
これを高いと思うか安いと思うかは人それぞれかもしれない。しかし多くの家電を見た筆者から言わせて貰うと、この電圧のバッテリーパックの値段はおよそ10,000~12,000円。つまりパッテリーパックと同じ価格で、本体丸ごと交換できるなれば、安いと見ていいだろう。
しかもエレクトロラックスは先に紹介したとおり、環境に優しい会社として世界で認められている。
「回収した部品はすべてリサイクルできるように設計されています。世界150カ国で年間5,000万台以上の製品を販売するグローバル企業としての責任です」
交換した掃除機は部品ごとに分解されリサイクルされるので、「捨てる」という後ろめたさはまったくない。まさにThinking of youという言葉がピッタリだ。