そこが知りたい家電の新技術

10秒測定・iPhone連携など女性が女性のために開発した婦人体温計

オムロン ヘルスケアの「婦人用電子体温計 MC-652LC」と、iPhone用アプリ「リズムノート」

 「基礎体温」をご存じだろうか。一言で言うと、女性の体の周期を知るために計測する体温のことだ。基礎体温を測定することで、女性のホルモンバランス、排卵の有無、生理周期などが把握しやすくなる。

 しかし、この基礎体温を測定するには様々な条件がある。

・毎日測らなくてはならない
・口の中、舌の裏側に体温計を入れて測らなくてはならない
・ベッド(あるいは布団)から起き上がる前に測らなくてはならない
・測るだけではなく、体温の変化を記録しなければならない

 条件を挙げただけでも、かなりハードルが高いことが分かるが、婦人科などで基礎体温の提示を求められることも少なくない。「必ず測らなくてはいけない」というものではないが、自分の身体のことをよく知りたい、特に妊娠を希望している女性にとって基礎体温は切り離せないものなのだ。

 面倒な基礎体温の測定を、少しでもやりやすく、便利にと考えられたのが、今回紹介するオムロン ヘルスケアの「婦人用電子体温計 MC-652LC」だ。女性が女性のために開発したというこの製品。担当者にインタビューしてきた。

基礎体温が続かなかったという自身の経験から続けられる製品を目指した

オムロン ヘルスケア 商品事業統括部 ライフリズム事業部 プロダクトマネージャー 鈴木草也香さん

 お話を伺ったオムロン ヘルスケア 商品事業統括部 ライフリズム事業部 プロダクトマネージャー 鈴木草也香さんは、この製品の開発のきっかけを次のように語る。

 「女性にとって、基礎体温を測るということは“自分を知る”ということにつながるんです。女性ホルモンの分泌や身体のサイクルを知ることは、健康管理という意味でもメリットがあります。基礎体温のことを知れば知るほど測った方が良い、というのは理解できていたのですが、実はこれまで2~3回挫折しています。毎朝測るというのももちろんですが、記録するのも面倒で……働く女性にとって朝の時間というのはとても忙しいですから。そんな私でも使い続けられるような製品をと考えました」

 忙しい女性でも、使い続けられるようにと開発された「婦人用電子体温計 MC-652LC」だが、この製品の特徴は、大きく分けると3つある。まず1つは10秒検温、2つめはiPhoneとの連携、3つめはデザインだ。

二度寝しない10秒予測検温

 まず、1つ目の10秒検温というのは、2012年モデルに初めて搭載した「日本初」の機能だ。10秒の予測検温というのは、婦人体温計だからこそ、必要な機能だったという。

 「婦人用体温計と普通の体温計では使われ方が全く違うんです。普通の体温計ならたとえば、計測に60秒かかっても特に不満は感じないかもしれません。しかし、婦人用体温計は、朝ベッドの中で横になったまま測定するというのが大原則。朝、ベッドの中で横になったまま60秒もそのままだったら、寝てしまいませんか? オムロンではこれまでも色々な婦人体温計を展開していますが、『計測中に寝てしまう』という声がとにかく多かったんです。2005年には30秒予測検温機能を搭載したモデルを発売していますが、それでも寝てしまうという声はありました。10秒予測検温モデルを出してからは『10秒だったら耐えられる』という声を頂きました」

 ある調査によると、女性が婦人体温計に最も求めることの第一位は「素早く測れること」だったという。毎日、しかも朝の忙しい時間を割いて行なわなければいけないので、短時間で測れるというのは使い続ける上で大事なポイントだった。

ユーザーからの強い希望で実現したiPhone連携

 MC-652LCでは、Android、iPhoneと連携する機能も備える。これは基礎体温を測る上で重要な「記録」をカバーするものだ。基礎体温とは、体温の変化から月経の周期や排卵の有無などを判断するために計測するもので、一定期間連続して計測すること、毎日の体温変化を記録することが不可欠。

 それをMC-652LCでは、iPhoneやAndroidなどスマートフォンのアプリで管理できる。計測した体温のデータは約40日間分まで本体で記録、そのデータをBluetoothあるいはNFC通信機能でスマートフォンに転送すると、検温値をグラフで確認できる。

 オムロンが展開するスマートフォン用アプリ「リズムノート」では、月経周期日数や体温の変化パターンとともに、基礎体温から体の状態を分析して表示する「マイリズム」機能も備える。基礎体温の状態によっては、婦人科への検診を促すメッセージなども表示される。

スマートフォン用アプリ「リズムノート」のトップ画面。生理日などを入力できる項目もある
マイリズムでは、基礎体温の状態から見た身体の状態を分析。アドバイスなども表示される

 同様の機能は、従来機種「MC-642L」にも搭載されていたが、従来はiPhone非対応だった。

 「スマートフォンとの連携機能は、お客様から非常に好評をいただいております。やはり、基礎体温は変化の様子を見ることに意味があるので。ただ、そんな中で、『MC-642Lを使うためだけにAndroidのスマートフォンを、iPhoneとは別に購入した』『iPhoneとも連携してほしい』という声は根強くありました。実際、30~40代の女性のiPhone支持率は40%を超えておりますし、お客様のことを第一に考えるのならやはり対応すべきだと思いました」

 オムロンに限らず、日本の家電メーカーはスマートフォンとの連携機能を強化しているが、対象機種がAndroidに限られている場合は多い。それは、例えば自社でAndroidスマートフォンを展開しているなど、「大人の事情」があったりするわけだが、これだけiPhoneが普及している中で、対応スマートフォンがAndroidのみというのはやはり違和感がある。オムロンでは、「ユーザーの使い勝手」を第一に考えて、今回、iPhone対応に踏み切った。

婦人科などに基礎体温の変化を見せる時に便利なグラフ。パソコンにデータを転送すれば、プリントアウトも簡単にできる

 またパソコンへのデータ転送にも対応する。

 「婦人科では、基礎体温を測っているというと、グラフデータの提出を求められることがありますが、お医者さまにスマートフォンの画面を見せるのは気がひけるという声もあったんです。パソコンならば、大きな画面でグラフを確認できるほか、グラフをプリントアウトして、そのまま病院に持って行くことができます。これも、お客様の声にヒントを得た機能です」

ベッドサイドに置いてあっても違和感のないデザイン

 MC-652LCのもう1つの大きな特徴は、そのデザインだという。実は、これは少し意外だった。体温計、しかも寝室でしか使わない婦人体温計のデザインをそれほど、気にするのだろうかと感じたのだ。

 「女性が基礎体温のことを意識し始めるのは、妊娠を希望するタイミングであることが非常に多いです。実際には、妊娠だけではなく、女性の身体にまつわる様々な情報を得ることができるのですが、まだまだ基礎体温=妊娠を希望しているというイメージが強いのが実情です。デリケートな問題でもあるので、一目で婦人体温計と分かるようなデザインは嫌だという声も多かったのです。そこでオムロンではベッドサイドに置いてあっても『基礎体温を測っているんだな』とわからないような、クールでシンプルなデザインを採用しています」

 実際、本体はパッと見には何かわからないほど、シンプルなデザイン。普通の体温計なら、見た目で体温計であることが分かった方が便利だが、用途や使い方を意識してあえてデザインを変えるというのは、まさに女性ならではの配慮だ。カラーもあえてパステルカラーを外し、ブラウンなど落ち着いた色味を採用する。

パッと見ただけでは体温計とは分からないシンプルなデザイン
使う時は上部のフタを外す

 「この婦人体温計は社内横断プロジェクト『オムロン式美人』で、開発を進めた製品なんです。オムロン式美人とは、20~30代女性のオムロンの認知度が低いことを問題視して、社内の女性社員が自主的に集まってスタートしたプロジェクトです。働く女性として、本当に欲しい商品とはどういうものか、女性が中心となって徹底的に話しあっています。今では、コピーライターやデザイナー、ディレクターなど社外からのサポートも受けて『オムロン式美人課』として、機能しています」

 話を伺っていて、印象的だったのが基本的な機能は全て「ユーザーからの声」を基に開発しているということ。オムロンでは、ユーザーのグループインタビューなどを行なうのはもちろん、Amazonレビューのチェックまでユーザーのニーズをとにかく大事にしている。

 「オムロン式美人課で心がけているのは、自分達が本当に使いたいものを作るということです。実際、これまで何度も基礎体温で挫折していた私も、MC-652LCを使い始めてからは、毎日測定できるようになりましたから(笑)」

 ライフスタイルが多様化する中で、ユーザーのニーズはますます多様化する。それら全てに応えることはできないが、婦人体温計のような性別、年代ともに限られた層が使うような製品であれば、よりユーザーのニーズに沿った製品作りができる。MC-652LCはそのお手本のような製品だと感じた。

阿部 夏子