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【聴こうクラシック8】家族で楽しめる「ピーターとオオカミ」

いよいよ9月、到来する「芸術の秋」に親子でクラシック音楽を聴いてはいかがでしょう。今回ご紹介するのは、セルゲイ・プロコフィエフの「ピーターとオオカミ」という交響的物語です。交響的物語とは、ナレーション付きのオーケストラの曲のことで、物語と音楽が分かりやすく、子どもから大人まで楽しめます。

 

ロシア革命で亡命の旅へ、世界中で活躍した作曲家

セルゲイ・プロコフィエフは、ロシアで大地主の農場管理人をしていた父親と、ピアノの勉強をしていた母親のもとへ1891年に生まれ、1953年61歳のときに亡くなりました。子どものころ、母親はよくベートーヴェンのソナタやショパンのマズルカを弾いて聴かせました。5歳から作曲を始めたプロコフィエフ少年は、やがて作曲の才能を開花させ、夏休みに従兄弟たちと自作オペラの上演に熱中したと言われます。26歳のときロシアで革命が勃発し、彼はより自由な音楽活動を求め、27歳のときにアメリカへの移住を決断。シベリア鉄道で一路東へ向かい、太平洋を経由して、アメリカへ渡ります。アメリカやヨーロッパを転々としながら各地で成功を収めた彼が、祖国に帰還したのは、43歳のときでした。

 

「ピーターとオオカミ」登場人物と楽器の秘密

「ピーターとオオカミ」作品67は、祖国へ戻ったプロコフィエフが55歳のときに作曲した交響的物語です。ハ長調の作品で、全曲で25分から30分ほどの曲です。ナレーションが付いているだけでなく、物語に出てくるキャラクターごとに楽器が分かれていて、その見事な組み合わせが子どもにも分かりやすく、楽しめます。小鳥はフルート、アヒルはオーボエ、ネコはクラリネット、おじいさんはファゴット、オオカミはホルン、ピーターは弦楽器、鉄砲はティンパニーというように、それぞれのメロディを担当します。それぞれメロディが個性的で、大人もつい夢中になってしまいますよ。

 

ロシア民話「ピーターとオオカミ」の物語

もともと「ピーターとオオカミ」はロシア民話で、プロコフィエフが子どものころ、寝付けない夜に母にせがんで聞かせてもらった物語。作品のセリフは、彼自身が書いています。物語は、おじいさんと暮らしていたピーターはある日、庭のとびらを閉め忘れてしまい、庭で飼っていたアヒルとネコが逃げ出してしまいます。そこへ森からオオカミがやってきて、アヒルをひと呑みにしてしまいます。さあ、ピーターはどうやってオオカミを退治するのでしょう、というもの。楽曲はピーターがオオカミを退治するまでの物語を表現しています。のちにウォルト・ディズニーの映画にもなり、世界的に有名になりました。

 

放浪の末、晩年は祖国の大衆のために作曲したプロコフィエフ

プロコフィエフがロシアへ帰国した当時、ソビエト連邦の美術、音楽、文学分野では「社会主義リアリズム」という表現方法が公式とされていました。彼は政府、大衆、そして何より子どもたちに受け入れてもらえるように、この時代の文化に則って「ピーターとオオカミ」を作曲します。ピーターは労働者階級の子どもとして描かれ、オオカミと闘うピ―ターの姿には、ナチスやファシズムへの風刺が込められていました。どんなに政策に沿った作品であっても、彼が生み出す作品は「彼らしさ」を失うことはなく、個性的で洗練され、生き生きとしたメロディがあります。「ピーターとオオカミ」は今でも世界中で人気があり、日本では黒柳徹子さんや明石家さんまさんなどがナレーションしたこともあるんですよ。

 

日本の地に降り立った、初めての世界的作曲家

ロシア革命後、アメリカへの亡命を決意したプロコフィエフは、モスクワからシベリア鉄道で東へ向かい、福井県敦賀港へ上陸し、船便の都合で2カ月ほど日本に滞在しています。その2カ月間に、東京、横浜、京都、箱根、軽井沢などを巡り、奈良ホテル滞在中にはピアノ協奏曲第3番を作曲しています。その第3楽章は「越後獅子」をモチーフにしたという説もあるほどです。奈良から、友人作曲家のイーゴリ・ストラヴィンスキーに宛てて、ハガキも送っています。また、アメリカに渡ったあと、関東大震災が起きたときには、日本の友人を心配する手紙も送ったそうです。プロコフィエフは日本に初めて滞在した、世界的作曲家だったのです。

 

「ピーターとオオカミ」の演奏を聴こう

それでは、「ピーターとオオカミ」の演奏を聴いてみましょう。まずは、1946年に製作されたディズニー映画「Make Mine Music」からです。「ピーターとオオカミ」は30分22秒あたりからご覧いただけます。

 

 

 

弱冠26歳で不治の病のために表舞台から退いた伝説の女流チェリスト、ジャクリ―ヌ・デュ・プレ(1945〜1987年)が晩年、車イスでナレーションし、夫であり指揮者のダニエル・バレンボイム氏と共演した、貴重な録音がこちらです。1998年には、彼女の伝記映画「ほんとうのジャクリ―ヌ・デュ・プレ」も公開されています。

 

 

 

プロコフィエフが日本で作曲したと言われているピアノ協奏曲第3番第3楽章がこちらです。アルゼンチンのピアニスト、マリア・マルタ・アルゲリッチの1967年の演奏です。

 

 

 

プロコフィエフが影響を受けたと言われている、「越後獅子」はこちらです。2016年八雲インターナショナル長唄会での演奏です。

 

 

参考文献
音楽の366日話題事典 朝川博 水島昭男著 東京堂出版
大作曲家の少年時代 ウルリッヒ・リュ―レ 中央公論社
初めてのクラシック音楽 森本眞由美著 ダイヤモンド社
演奏家ショート・ショート 三浦敦史著 音楽之友社
クラシック音楽ガイド 後藤真理子監修 成美堂出版

 

 

あやふくろう(ヴァイオリン奏者)

ヴァイオリン奏者・インストラクター。音大卒業後、グルメのため、音楽のため、世界遺産の秘境まで行脚。現在、自然とワイナリーに囲まれた山梨で主婦業を満喫中。富士山を愛でながら、ヨガすることがマイブーム。