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【和菓子歳時記23】ぷるんと透明「葛桜」と「葛粉」を使った夏の和菓子

夏が近づくと、和菓子業界で「水菓子」と呼ばれる透明感のある生菓子が並びます。今回は、ぷるんとした独特の食感が人気の「葛(クズ)」を使った「葛桜(クズザクラ)」をご紹介します。もっちりぷるんとした葛独特の食感は、寒天のつるんとした歯切れ良い食感とは対照的。葛粉を材料にした水菓子は、夏の和菓子店の店頭に個性と彩りを添えてくれます。また、葛まんじゅうや葛餅、水まんじゅうなど、葛を使った和菓子についてもご紹介します。

 

葛の皮であんを包んだ、夏の和菓子「葛桜」

水で溶いて甘味を付けた葛粉を火に掛け、透明になるまで練ってから蒸して作った透明な「葛」。この葛で小豆のこしあんを包んだものを、葛まんじゅうと言い、さらに桜の青葉で巻いたものを「葛桜」と呼びます。葛のもっちりとした食感、桜葉の香り、透明な葛と青葉の見た目と、五感で楽しめる夏の和菓子です。春の桜餅は塩漬けの桜葉を使いますが、葛桜は桜の青葉をそのまま使うことが多く、葉は食べません。

 

そもそも葛、葛粉ってなに?

葛はマメ科クズ属の多年草で秋の七草の1つにも数えられている日本人に馴染み深い植物です。葛の根は漢方薬「葛根湯(カッコントウ)」の原料で、古くから民間治療薬として使われていました。その根に含まれるデンプンを精製したものが「葛粉」で、古くから和菓子や日本料理の材料に広く利用されています。現在の葛粉は、収穫量が少ない高級食材になってしまったため、代わりに片栗粉などほかの植物のデンプン粉や海藻由来の成分で代用することも多くなっています。

 

透明な「葛餅」と関東の「くず餅」は違うもの?

葛桜以外に葛を使った夏の和菓子に「葛餅(クズモチ)」があります。葛粉を使用した透明感のある和菓子で、四角く切ってきな粉や黒ミツを掛けていただきます。ただし、関東地方で一般的に「クズモチ」と呼ばれているのは、葛餅とは違う和菓子。小麦のデンプンを発酵させた乳白色の発酵食品で、「くず餅」「久寿餅」の商品名で販売されています。こちらも、もっちりとした食感で、きな粉や黒ミツで食べる食べ方は同じです。呼び名が同じなのに、材料や製法が違った全く別のお菓子もあるのは面白いですね。

 

「水まんじゅう」と「葛まんじゅう」や「葛桜」は違うもの?

「水まんじゅう」は、「ぷるんとした透明なものであんを包んだまんじゅう」の総称で、材料や製法に明確な定義がなく、多様な素材・製法のものが売られています。葛粉が高価なことから、片栗粉などのデンプン粉や海藻由来の成分で透明な皮を作るお菓子が増えてきたことで、現代では「葛桜」や「葛まんじゅう」より聞き馴染みのある夏の和菓子の名前になっています。

 

まとめ

葛は生薬として使われていた歴史もあるので、夏の体調の悪いときや滋養強壮に、葛粉をお菓子やお料理に加えてみても良いでしょう。少し高価な食材ですが、スーパーの製菓材料売り場やネットで手に入りますよ。また「葛」は、冷蔵庫で冷やすと白濁して固くなる性質があるので、お菓子を手作りするときは流水や氷水で冷やすようにして、なるべく早めに食べ切るようにしましょう。 

 

 

石原マサミ(和菓子職人)

創業昭和13年の和菓子屋・横浜磯子風月堂のムスメで、和菓子職人です。季節のお菓子や、和菓子にまつわる、歳時記などのご紹介を致します。楽しく、美味しい和菓子の魅力をお伝えできたら、嬉しいです。石原モナカの名前で、和菓子教室も開催中。ブログはこちら