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【ダウン症児と私12】理学療法士と始めた「運動訓練」では、感情表現も
2016年 10月 12日 11:30
生後10カ月を過ぎても首がすわらず、「療育センター」へ通うことになったユキトくん。今回は、初めて理学療法士さんと運動訓練をした日のことを伺いました。体の筋肉が柔らかくおとなしいユキトくんへ、運動を促す早期療育が始まりました。
訓練前にまず「訓練前診察」、そして理学療法士と訓練室へ
Q.最初の訓練はどんな感じで、始まったのですか?
A.まずは受付を済ませ、熱を計り、当日の健康状態をお医者さんに診てもらう「訓練前診察」を受けました。「食欲はありますか?」「元気にしていますか?」という簡単な問診だけですが、訓練を始まる前には毎回「訓練前診察」があります。
Q.その後、いよいよ理学療法士さんとの訓練ですね。
A.はい。待合室で待っていると、理学療法士の先生が迎えに来てくださり、一緒に訓練室へ行きました。部屋には5、6人の子どもたちがそれぞれ先生と一対一で訓練を受けていました。理学療法士の先生から、ユキトのことについていろいろ質問を受け、妊娠出産のときのこと、家族のこと、ユキトの成長や発達などについて話をしました。
体の発達をチェックして、状況に合った運動訓練を開始
Q.運動訓練の時間は1回どのくらいの時間行なうのですか?
A.1回40分です。初日はヒアリングのあと、ユキトの体の発達状況をチェックしてもらいました。うつ伏せや仰向けの状態での動きや首のすわりを診てもらったり、寝返りを促してみたり、座らせようとしたりと、運動機能の発達状態を診てもらいました。ユキトは体がとても柔らかく筋力が弱いので、運動機能の発達は全体的に遅れていました。
Q.運動機能チェックの結果、どういう訓練を受けることになったのですか?
A.訓練と言っても、手で支えながらユキトの体をゴロンと寝返りさせたり、おもちゃを使って遊びながら楽しく体を動かすような内容です。初日は、先生や周りのお友だち、そしてこの場所の雰囲気に馴れることから始めました。理学療法士の先生が、ユキトを横向きにして自然に寝返りをさせたり、仰向けから足を交差させて手で体を支えながら寝返りを促してみたりを繰り返して、ユキトの体幹を鍛えていきます。うつ伏せのユキトの膝を立てて、ハイハイする動作を促したりもしました。まだ、ハイハイはできませんが、その日のユキトは、うつ伏にせさせると自分で肘をついて腕を伸ばし、のけぞっていました。
ゴロゴロすると楽しそうな笑顔が!動きによって感情表現も
Q.ユキトくんの反応はどのようなものでしたか?
A.ゴロゴロと体を転がす動作は、本人の力がいらないからか、ニコニコしながら楽しそうにしていました。一方ハイハイなど、自分の足を使うような動作は、サポートしてもちょっと困ったような顔をします。それまで自宅でしたことがないので知らなかったのですが、こちらから運動を促すと、ユキトが感情を表現してくれることに、そのとき初めて気が付きました。
Q.訓練中、ナナさんも理学療法士さんと一緒にやってみたのですか?
A.最初はほとんど理学療法士さんがやってくれて、私は最後の方に「ママも一回やってみますか?」というふうに、体験だけさせてもらいました。そして、「家でも同じようにすると、体の筋肉の発達にいいですよ」とアドバイスをいただきました。
楽しみながら体を動かす訓練で、体に刺激を与える
Q.ほかには、どのような訓練をしましたか?
A.運動訓練へ通い始めて数カ月から1年の間に、ユキトの発達状況に合わせて下記のような訓練を、追加していきました。
- 歌を歌いながら、ベビーマッサージ
- すべりり台でゴロゴロっと寝返り練習
- マットの上で寝返り、ハイハイの練習
- 歌を歌いながら、バランスボールに座る練習
- おもちゃを見せて興味をもたせ、腕を伸ばして取る練習
子どもはマッサージされると、自分の体を感じることができるようになると教えていただきました。ベビーマッサージは、理学療法士の先生が歌いながらしてくれます。少し大きめのバランスボールに座る練習は、体に刺激を与え、バランス感覚を養うのに役立つそうですが、ユキトは最初怖がっていました。歌を歌いながらするのは、子どもの恐怖心を和らげる効果があります。また、おもちゃを使った遊びもよくしました。ユキトの目線の20cmくらい先に、私がおもちゃを見せて興味を引き、だんだんと離れてユキトが自力で動くように促します。でもユキトはおとなしい性格なので、少し離れすぎると「もういいや」とすぐ無表情になってしまうことがあり、なかなか根気のいる練習でした。
Q.療育センターでの訓練を体験してどうでしたか?
A.訓練の内容によって、ユキトがいろいろな表情を見せることに気付きました。ニコニコしているユキトを見るのは嬉しかったです。これを続けることで、ユキトが自分でスムーズに寝返りをしたり、お座りができるように、そしてゆくゆくは、ズリバイ、ハイハイ、捕まり立ち、伝い歩き、一人での歩行ができるようにと思っていましたね。そこまでとなると、とてつもなく時間がかかりそうですが、まずはとにかく首がきちんと座るように、祈るばかりでした。
ダウン症の基礎知識12:外部の働きかけで全身の発達を促す
ダウン症児の成長のスピードは、ゆっくりで個人差があります。でも最後までまったくできないことは少ないので、周囲からの働きかけで発達を促すことが重要です。また0~2歳くらいの時期は、体の発達と認知の発達が密接に関係しているので、声掛けしながら運動することが、体と認知の双方の発育を促します。繰り返し語りかけたり歌を歌ったり、マッサージなどで子どもの体に触れるなど、外部から刺激を与えながら、体を動かすことが、全身の発達にプラスに働きます。早期療育のプログラムはこの考え方に基づき、一人一人に合わせて行なわれています。