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【和菓子催事記8】秋の味覚・栗を包んだ「栗大福」と、栗と大福の歴史

やっと暑さも和らいで、いよいよ実りの秋になりました。今回は、秋・晩秋の季語にも使われる「栗」をまるごと1粒詰め込んだ「栗大福」をご紹介します。たくさんある秋の実りのなかでも栗の人気は高く、和菓子の世界でも秋のお菓子の主役と言えば栗です。皮剥きなどの下ごしらえに手間が掛かる栗ですが、その美味しさは、まるで作業のご褒美のようですよね。

 

日本人に愛されている身近な植物「栗」

栗は、縄文時代から主食用に栽培されていた日本人には馴染み深い植物です。日本と朝鮮半島南部が原産とされ、国内では北海道西南部から九州まで全国に渡って栽培されています。国内生産高は茨城県が1位ですが、古くから献上品として用いられてきた京都の丹波地方で取れる通称「丹波栗」は、大粒で良質と有名です。日本書記にも記載がある「栗」は、秋・晩秋の季語にも使われ、季節を感じる秋の花材としても好まれています。

 

甘いあんを餅で包んだ「大福」はバリエーション豊か

大福餅は、江戸時代後期ごろに販売されていた、甘い小豆あんを餅で包んだ人気のお菓子から来ているという説があります。豆と餅でできたお菓子は腹もちが良く「大腹餅(だいふくもち)」と呼ばれていて、その後吉字を当てはめて「大福餅」になったと言われています。現代の和菓子の世界では、小豆あんだけでなく、クリ―ムや果実などを餅で包んだものも「大福」または「大福餅」と呼ばれ、栗大福のほかにも「クリーム大福」や「いちご大福」などさまざまなバリエーションが生まれています。

 

実は秋だけじゃなく、通年売られる「栗大福」

秋になると和菓子屋の店頭には栗の実を使った和菓子が多く並びます。なかでも、大きな栗が丸ごと入った栗大福は、栗独特の甘みと風味が楽しめ、栗とあんと餅の3色のコントラストが美しい、秋に食べたくなるお菓子の1つ。中の栗は、皮を剥いた栗を丸ごと砂糖で甘く煮たもので「栗の甘露煮」と呼ばれ、色鮮やかに仕上げるために煮るときにクチナシの実を入れます。甘露煮は保存が効くので、栗のお菓子は実は一年を通して販売されていますが、やはり秋に食べたくなってしまいますね。

 

栗の甘露煮で秋の和菓子作りもお手軽に

和菓子の世界では、生の栗を使うことは少なく、甘露煮などの加工品を多く使います。ご家庭でも、蒸しパンなどに栗の甘露煮を加えるだけで、秋らしいお菓子に仕上がります。また生クリームやアイスクリームなどの乳製品とも相性がいいので、モンブランだけでなく、クリーム白玉ぜんざいのトッピングに加えるのもおすすめです。また、蒸したサツマイモを潰して砂糖、水少量を加えて加熱しながら練ったところへ刻んだ栗の甘露煮を加えると、おせち料理の「栗きんとん」の出来上がりです。

 

市販の栗の甘露煮をさらに美味しくするコツ

市販の栗の甘露煮を美味しく食べるには、使う前に蜜のまま弱火にかけて焦がさないように注意しながら2~3分沸騰させ、そのまま冷ましてみてください。この一手間で食感が柔らかくなり、より一層風味が増して美味しくなります。蜜が濃い場合は焦げやすいので、少量の水で薄めるようにします。加熱には殺菌の役割もあるので、開封してから時間が経っている場合などにもおすすめです。甘露煮の栗が使い切れず余ってしまった場合は蜜ごと冷凍し、使うときに蜜ごと加熱して解凍して使いましょう。

 

まとめ

栗は美味しいのですが、殻や皮剥きなどの下処理に大変な手間がかかるため、大粒の甘露煮は、和菓子素材のなかでも高級品です。キズのない見事な栗を使ったお菓子に出会うと、生産農家や加工業者の愛情を感じて嬉しくなってしまいます。食べるほかにも、個性的な外見のイガがついた枝は秋のフラワ―アレンジにもよく使われていますね。みなさんも美味しい栗のお菓子を食べて、秋を満喫して下さいね。

 

 

石原マサミ(和菓子職人)

創業昭和13年の和菓子屋・横浜磯子風月堂のムスメで、和菓子職人です。季節のお菓子や、和菓子にまつわる、歳時記などのご紹介を致します。楽しく、美味しい和菓子の魅力をお伝えできたら、嬉しいです。石原モナカの名前で、和菓子教室も開催中。ブログはこちら