老師オグチの家電カンフー

この世から消えゆく白熱電球に投資してみる?

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです
少しずつ捕獲し始めた白熱電球。地方の電器店などにはデッドストックがありそう

ここ10年で、「駆逐してやる!! この世から……一匹残らず!!」という勢いで消されていった電気製品が、白熱電球です。地球温暖化防止のため、国も白熱電球の生産をやめるよう要望し、大手メーカーは2011~2012年に生産を終了しています。LED電球の低価格化が進んだことから、一般家庭やオフィスからは、ほぼ駆逐されました。ひっそり生き残ってるヤツもいそうですが、見つかり次第殺られるでしょう。

LED電球などへの置き換えがここまで進んだのは、人々の意識がグレタさん並みに高まったというより、経済性が理由です。電気代が安くなるので投資効果が大きい。得だから皆買う、皆買うから安くなる、もっと得になる、の市場原理。

「エコ」は意識高いけど、「お得」は意識低くてパワフル。その両面で普及したLED電球ですが、意識高い人からは欠点も指摘されています。CDが広まったときも、オーディオ好きは「CDは音域がカットされている」と、アナログレコードの優位性を主張しました。LEDも演色性が低いなどの欠点があり、こだわりを持つ飲食店などでは、あえて白熱電球を使っていたりします。

意識の高さは余裕から生まれます(詳しくは拙著「ちょいバカ戦略-意識低い系マーケティングのすすめ-」をお読みいただければ幸いですw)。それゆえに、趣味の世界ではお金になります。オーディオの世界では、アナログレコードと対をなすように真空管アンプの評価が高まりました。トランジスターの時代を経て、ハイレゾのデジタル音源が配信されるこの時代に、デッドストックの真空管が高額で取引されているんですよ。

白熱電球も希少価値が高まっていくので、投資対象になりうるんじゃないでしょうか。あと30年もすれば、「やっぱりナショナルの光は癒やされるね」「今日は記念日なので東芝の光ですごすか」なんて愛でられ方をしているかもしれません。

白熱電球、とくにフィラメントの見える透明なタイプは、その見た目自体も美しくあります。LED電球でも白熱電球を模した製品が増えていますが、やはり本物の方が高いお金を出す人がいそうです。

まだ白熱電球の生産自体はあるので、狙い目は、すでに生産を中止している東芝やナショナル・パナソニック、GEといったビッグネームの製品。個人的には、見つけ次第捕獲していこうと思います。まあ、ライバルは少なく、その名に反して白熱することもないでしょう。ただ、30年くらい寝かしておけば、値段が何十倍にはなるかもしれません。価値が上がらなければ、そうですね、嫌いな奴の電球をこっそり交換して電気代を上げる嫌がらせに使いますかね。真似する人もいないでしょうが、投資は自己責任でお願いします。

フィラメント電球を模したLED電球もあるが、エレガントさでは本物のフィラメントには敵わない

小口 覺

ライター・コラムニスト。SNSなどで自慢される家電製品を「ドヤ家電」と命名し、日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定された。現在は「意識低い系マーケティング」を提唱。新著「ちょいバカ戦略 −意識低い系マーケティングのすすめ−」(新潮新書)<Amazon.co.jp>