老師オグチの家電カンフー

過去を振り返らない男が「おもいでばこ」を買った理由

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです

 思うところあり、バッファローのデジタルフォト・アルバム「おもいでばこ」を購入しました。

 ご存じですか? おもいでばこ。

 Wi-FiやSDカードスロットなどを経由して簡単にスマホやパソコン、デジカメの写真取り込みでき、テレビで再生できる製品です。PCに詳しい人に説明するなら、メディアプレイヤー機能付きのNASですね。NASだと考えると値段が高いので、これまで手を出さなかったのですが。

どうせ買うならと2TBの上位モデル「PD-1000S-L」にしてみた。購入価格は4万9,680円。10年ぐらい使えたらいいなぁ
箱を空けようとしたら……
リモコンは軽い。物理的にも

プライベート写真を家庭内アウトソーシング

 直接のきっかけになったのは、パソコンのストレージ容量不足。もともとメインマシンの容量が256GBと少ないのですが、これまでは不要不急のデータをクラウド(主にGoogleドライブ)や外付けHDDに移すことで、ストレージを確保してきました。

 断捨離ぐせが付いているので、使わなくなった仕事のデータは躊躇なく捨てるほうです。とはいえ、プライベートの写真は捨てるには忍びなく、クラウドやいくつもあるHDDに分散して保存しています。結婚18年目、2人の子持ちとなると、写真や動画もそれなりにあるんですよね。

 ある時、ふと「これらの写真は自分が死んだら発掘されることもないんだろうな」と思ったのです。先日、祖母の所有していたおそらく大正時代の写真をAIで自動着色してみたのですが、これも紙が手元にあったから存在に気づけたわけです。

 一方、HDDに大量の写真が入っていたとしても、100年後はおろか子供の世代にも完全に引き継げない可能性が高い。とはいえ、すべてをプリントするというのも手間だし邪魔じゃないですか。コストもかかるし劣化するし。

パソコンのストレージを圧迫していた写真はもちろん、外付けHDDに保存してあった写真もじゃんじゃん転送する

 デジタルデータのまま家族に受け渡せる、もっと言えば、「家族がらみの写真はおまえらに投げるから整理とか管理とか頼むわ」ってできると思ったんですよ、おもいでばこ。ビジネスっぽく言うと、写真管理の家庭内アウトソーシングですね。

 共有するならクラウドでいいという考え方もあるかもしれませんが、クラウドは通信速度やパスワードの壁が高い。自分の家族の写真を見るモチベーションってそんなに高くないですよ。特に思春期の頃なんて、過去の自分の写真とか興味ない(むしろ見たくない)じゃないですか。ましてや親の写真をや。外付けHDD以上に、次の世代に引き継いでいくことは難しいでしょう。

 リビングのテレビに接続されたおもいでばこなら、存在を忘れることはないでしょうし、思春期の娘だって自分のスマホに入っている友達との写真は大事だから使うはずです。物理的にモノが残っていれば、100年後であっても「なんか先祖の残したストレージがあるけど見てみるか」なんてシーンがあるかもしれない。まぁ、100年後のことなんてどうでもいいですけど。

スマホの動画も転送してスッキリ。スマホアプリは家族全員のスマホにインストールした

存在すら忘れていた写真・動画が発掘される

 で、導入しましたよ、おもいでばこ。細かい機能や使い勝手については、たくさんの記事がWebに出ているので、そちらを見ていただくとして、自分と家族に起こった変化を書きます。

写真やアルバムの整理はおもいでばこ上でできるので、まずはフォルダごと全部入れてしまうのが良いと思う

 まずは、パソコンや外付けHDD、クラウドにアップされていた家族関連の写真と動画をまとめて送り込むスッキリ感。パソコンのストレージも一気に空き容量を確保できました。

 おもいでばこに転送した写真や動画は、確認の意味も含めて見るんですが、撮ったことも完全に忘れているものも結構ありました。見れば当時を思い出すんだけど、見ないと一生思い出さないような思い出も多い。埋蔵された思い出の発掘ツールでもあるわけですな。

子供が生まれたときの写真は何度見てもいいよね

 おそらくガラケーで撮った、保育園の学芸会の動画が出てきました。解像度がむちゃくちゃに低く、顔のディティールなんて全然わからないんですが、自分の子供はどれかちゃんとわかる。友達の名前も思い出す。人間の認知能力ってすごいですね。思い出とはデータそのものじゃなくて、データにひもづいた記憶や感情なんでしょう。過去を振り返らない、というとカッコつけですが、過去を覚えていられないタイプの人間なので、これは結構新鮮な体験でしたよ。

 さて、過去の思い出は確保できたので、未来に生きますか(なにこのカッコつけ!?)。

ガラケーで撮った動画。こんな低解像度でも自分の子供はもちろん友達の名前も思い出せる。画素より思い出!

小口 覺

雑誌、Webメディア、単行本の企画・執筆、マンガ原作、企業サイトのコンテンツ制作を手がけるライター。日経MJの発表した「2016年上期ヒット商品番付」では、命名した「ドヤ家電(自慢したくなる家電)」が前頭に選定された。

Webページ「有限会社ヌル/小口覺事務所」
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