老師オグチの家電カンフー

仕事と恋と殺人と

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです

 別にネタ切れしたわけじゃないが(本当だもん!)、スマホの中の写真を見て3本ショートショートを書いてみた。唐突ですが、お楽しみいただければ幸いです。

イナズマのような死

 警部:うーむ、これは酷いな……。死因は何だ?
 検視官:頸部が強く圧迫されたことによる損傷のようです
 警部:ヒモのようなモノが落ちているが、これで引っ張ったのか
 検視官:おそらく
 警部:しかし、相当強い力が加わったんだな。皮膚は大きくはがれ、中が丸見えだ
 検視官:ええ、でも比較的よく見られる損傷ですね
 警部:よくある、だと。オレには強い殺意が感じられるのだが
 刑事:警部!
 警部:なんだ?
 刑事:第一発見者の話によると、ガイシャは首から煙が出ていたようです
 警部:煙だぁ?
 刑事:よく見てください。皮膚が焦げていませんか?
 検視官:確かに。軽く焦げ臭さがあります
 刑事:他殺じゃないかもしれませんよ
 警部:バカな、人体自然発火現象とでも言うのか。そんなオカルト話にはついていけんな!
 検視官:いや、すべて物理の法則で説明はできます
 警部:そりゃ頼もしい
 刑事:しかし、火事にならなくて良かったですね
 警部:火事、それもよくあるというのか?
 検視官:条件が重なれば考えられますね
 警部:で、結局これは自殺なのか、他殺なのか?
 検視官:直接的には自殺のように見えますが、環境や他者が引き起こした死とは言えるでしょう
 警部:うーん、よくわからん
 刑事:しかし、もうちょっとガイシャが若ければなぁ
 警部:若かったら、何だ?
 刑事:正規品で保証期間内なら、Lightningケーブルは無償で交換してくれるそうですから

負担のかかりやすい首の部分がパックリ

仕事への誇り

 被害者ぶりたくはないが、少し愚痴を言わせてほしい。これまで、会社のため家族のために生きてきた。決してキレイな仕事じゃない。「清濁併せ呑む」という言葉があるが、どちらかというと濁、汚れた空気ばかりを吸ってきた。ひと昔前のヤクザじゃあるまいし、おいしい思いもしていない。もちろん労働時間は昔よりも増えている。

 ブラック企業? そうかもしれないな。業界には仁義も何もあったもんじゃない。新しいアイデアを苦労して実現したとしても、すぐに真似されて安く出されてしまう。そりゃ、腹黒くもなるさ。俺はそれでも、まだ溜め込まないようにやってきたほうだぜ。溜め込むと仕事の効率は下がるからな。そういう所は合理的なんだ。

 地を這うようなキツイ仕事だが、それでも、世間の人や家族が少しでも楽になると思えば少しは報われると考えてきた。少しは労ってくれてもいいじゃないか。風呂で背中を流してくれとまでは言わないが。最近は妻に言われるよ。「他の家庭ではもっと家事を分担している」ってな。

 無理なものは無理だ。だってオレ、ロボット掃除機だもん。

背中の誇りは男の勲章(たまに掃除してあげてください)

裏切りの空気

 「汚れている……」

 スマホをチェックしたユウコはつぶやいた。男はみんなそうだ。最初の頃はキレイなことを言っていても、だいたいは裏切られる。一緒に生活をしていくと、お互いに空気のような存在になってしまう。相手がいかに一生懸命働いていようが、あまり意識しなくなる。お互い、それが役割なんだからと気にしなくなる。それが間違いの元だ。

 タカシのヤツ、悪いクセが復活したな。せめて自宅ではやめてくれと言ったのに。私が外にいるからバレないとでも思ったのだろうか。甘すぎる。そもそも清潔な男など存在しない。汚れている前提でつきあうべきなのだろう。そして、汚れはどんどん蓄積していく。それは定期的に交換するしかない。
「とても汚れている…」

 ユウコは確信した。メッセージアプリを開き、怒りながら文字を打つ。

 「部屋の中でタバコ吸ってるでしょ!」

ダイソンの空気清浄機はアプリで部屋の中の状態が確認できる。フィルターは定期交換しよう

小口 覺

雑誌、Webメディア、単行本の企画・執筆、マンガ原作、企業サイトのコンテンツ制作を手がけるライター。日経MJの発表した「2016年上期ヒット商品番付」では、命名した「ドヤ家電(自慢したくなる家電)」が前頭に選定された。

Webページ「有限会社ヌル/小口覺事務所」
http://nulloguchi.wix.com/nulloguchi