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足が不自由な人でも歩行できる支援機器がダイソン・国際エンジニアリングアワードを受賞

日本チームが2年連続で国際準優秀賞を獲得

筑波大学 在学 江口洋丞氏と清谷勇亮氏が開発した支援機器「Qolo」。国際準優秀賞を獲得

 ダイソンは、同社が提携している教育慈善団体 ジェームズ ダイソン財団(英国ウィルトシャー州マルムズベリー)主催の、「日常の問題を解決する」作品を募集する国際デザインエンジニアリング アワード「ジェームズ ダイソン アワード 2014」(James Dyson Award、以下JDA)の選考結果を発表した。同コンテストは、2006年から毎年開催され今年で9年目を迎える。

 JDAは、エンジニアリングやプロダクトデザインを専攻している大学生、または卒業後4年以内の人を対象にした国際デザインアワード。「日常の問題を解決するアイデア」をテーマに、今年は4大陸18カ国から600を超えるエントリーがあった。昨年に引き続き、日本チームの作品が2年連続で国際選考で準優秀賞を獲得した。

国際最優秀賞を獲得した保育器「MOM」(イギリス)

 国際選考で最優秀賞に輝いたのは、早産児が利用する最新の保育器と同じ性能ながら、安価で持ち運びができる保育器「MOM」(イギリス)。世界中の新生児の10人に1人以上が早産児であり、安価な治療法があれば早産による死亡の75%は防げると言われている。“従来の保育器は途上国や災害地域での使用にまでは至っていないが、「MOM」は数多くの命を救う可能性のあるシステムを作り上げた”と評価された。

 日本からは、筑波大学に在学中の江口洋丞氏と清谷勇亮氏が開発した、足が不自由な人が座る・立つ・歩くの動作が行なえる支援機器「Qolo」が国際準優秀賞を受賞。作者には、賞金5,000ポンド(約85万円)が授与される。

 このほか国際準優秀賞には、紫外線に反応するインクで肌に字や絵を描き、色が変わると日焼け止めを塗り直す必要があることを知らせてくれるマーカーペン「Suncayr」(カナダ)と、身体の一部の感覚を失った障害者のために負傷場所を発見するスーツ「BRUISE」(イギリス)が受賞している。

座った状態での生活は、人の尊厳に関わること

 国際準優秀賞であり、日本国内最優秀賞に輝いた作品「Qolo」は、足が不自由な人が起立・着席の動作を行なえ、さらに立った状態で移動できる支援機器。

 上半身を前に傾けることで立ち上がり、後ろへ傾けることで座る動作が可能なシステムを実現している。全自動で身体を支えるのではなく、動作を支援しながらも使用者の身体に残った運動機能を引き出し、日常生活の基本的な動作を行なえるように開発された。

上半身を前に傾けて立ち上がれる
「Qolo」を開発した筑波大学 在学・江口洋丞氏(左)と清谷勇亮氏(右)

 12月1日には都内で表彰式が開催され、受賞者による作品のプレゼンテーションが行なわれた。「Qolo」を開発した江口氏は、製作について次のように語った。

 「足が不自由になると座った状態で生活することが多くなり、高いところに手が届かないなど物理的な問題があります。また、目線が低くなることでコミュニケーションに影響し、その人自身の尊厳にも関わると思いました。そういった方々にも、自らの意思で自由に座ることや立つこと、歩くように移動できる装置を作りたいと思ったのがきっかけです。」

 立つ・座るの動作は、足から腰までをしっかり支えるコンパクトな外骨格をベースとしている。足首と膝にかかる力はバネを使って打ち消し、重心の位置を変えることでこのような動作を実現したという。立ったまま移動する動作については、腰部分に角度計を内蔵した。これにより胴体の姿勢を取得し、身体が前後に傾けば前後速度、身体がねじれていれば旋回速度に割り当てて、手を使うことなく移動できる。

 デザインを担当した清谷氏は、「デザインの目標は、対人親和性を向上させることでした。メカニカルな部分を効果的に隠し、機械が与える恐怖心を緩和させることを狙っています。ただカバーするだけでなく、機能性と造形性を両立させひとつの乗り物としての完成度を高めました。介護用ロボットとしてではなく、私達が日常で使っている自動車や自転車などと同じような感覚で使っていただけたらと思います」と述べた。

 今後は機能とデザインの両方にさらに磨きを掛け、数カ月以内の完成を目指して製作を進めるという。

コンパクトな外骨格で足から腰までを支える
歩行は腰部分に角度計を内蔵
デザインではメカニカルな部分を効果的に隠したという
歩行の実演
身体が前後に傾けば前後に動く
ねじることで旋回の動きになる

 審査員を務めたデザインエンジニアの田川欣哉氏、フリージャーナリスト・コンサルタントの林信行氏も登壇した。

 「今までさまざまなアワードの選考をしてきましたが、JDAの特徴は1つ1つのエントリー作品のクオリティが高いということです。他のアワードと比較しても非常に重みがあります。その中で世界に発信できるものが、日本から作られているということは非常に価値のあることです。日本に優秀な若者がいると感じ取ってもらえ、自分もこの道にチャレンジしてみようと思う若手が増えるきっかけになればと思います」(田川欣哉氏)

 「2年連続で、日本の作品が国際準優秀賞を獲得したのは凄いことだと思います。JDAの授賞式にいる若い方が、今後の日本の家電メーカーの在り方のヒントになるのではないかと思いながら審査をさせていただきました」(林信行氏)

デザインエンジニアの田川欣哉氏
フリージャーナリスト・コンサルタントの林信行氏

国内上位3作品は、世界トップ20に選出

国内2位を獲得した小型リハビリアシスト装置「Raplus」

 このほか、日本国内の審査において上位入賞した作品も発表された。

 第2位に選出されたのは、既存のリハビリ用歩行器具に取り付けて使用する小型リハビリアシスト装置「Raplus」。加速度センサーで歩行のタイミングを検出し、膝の曲がり具合に応じた力で膝を補助、振り出し時にはトルク制御で関節をフリーにし、自然な歩行をアシストする。クラウド化も予定しており、同装置で計測された歩行データを共有することで、リハビリのさらなる効率化と使用者同士の交流を可能にする開発を進めている。桑沢デザイン研究所に在学中の菅原祥平氏と、東京工業大学大学院 在学の北野智士氏による作品。

 第3位は、紙の上で多様な図形を描けるコンパス「COMP*PASS」。“コンパスで四角形が描けたら、人はどのような感覚を受けるのだろう?”という疑問から開発された。同作品のコンパスを回すと、ペンを持つ足が動的に制御され、四角形や星形、ハートなどの図形を紙の上に描画することができる。慶應義塾大学大学院 卒業の中垣拳氏の作品。

 なお、「Qolo」、「Raplus」、「COMP*PASS」の国内上位3作品は、国際選考においても世界トップ20に選ばれている。

小型の「Raplus」。膝の曲がり具合に応じた力で補助する
ワンタッチで取り付けられる
国内3位の「COMP*PASS」
四角形や星形、ハートが描ける

西村 夢音