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スマホと3Dプリンタを活用した義手がダイソンエンジニアリングアワードを受賞

日本チームの作品が国際選考で2位を獲得

東京大学大学院を卒業した山浦博志氏、近藤玄大氏と、千葉工業大学大学院を卒業した小西哲哉氏が開発した筋電センサーを内蔵した義手「Handie」。国際選考2位を受賞した

 ダイソンは、同社が提携している教育慈善団体 ジェームズ ダイソン財団(英国ウィルトシャー州マルムズベリー)が、毎年開催している「日常の問題を解決する」作品を募集する国際デザインエンジニアリング アワード、「ジェームズ ダイソン アワード 2013」(James Dyson Award、以下JDA)の選考結果を発表した。その結果、東京大学大学院を卒業した山浦博志氏、近藤玄大氏と、千葉工業大学大学院を卒業した小西哲哉氏が開発した筋電センサーを内蔵した義手、「Handie」が国際選考2位を受賞。作者には、賞金1万ポンド(約135万円)が授与される。

 JDAは、エンジニアリングやプロダクトデザインを専攻している大学生、または卒業後4年以内の人を対象にした国際デザインアワード。「日常の問題を解決するアイデア」をテーマに、2003年から毎年開催しており、今年は4大陸18カ国から650を超えるエントリーがあった。日本人の作品が国際選考で上位入賞したのは今回が初めてとなる。

 なお、国際審査で1位を獲得したのは、リハビリなどで用いられる人の力を増大させる上半身用の外骨格「Titan Arm」(アメリカ)。同様の製品はこれまでもあったが、高額だった。Titan Armは3Dプリントとアルミニウムを素材をすることで、軽量かつ低コストに抑えていることが評価された。

 3位を獲得したのは、3Dプリントを利用した骨折補助用鋳型システム「Cortex」。従来のギブズ包帯の問題点だった、重さや防水性を解決した点が評価された。

国際審査1位を獲得した上半身用の外骨格「Titan Arm」
3位を獲得した3Dプリントを利用した骨折補助用鋳型システム「Cortex」

開発のきっかけは生まれつき右手がなかった友人の一言

Handie開発チーム。左から小西哲哉氏、山浦博志氏、近藤玄大氏の3名

 日本チームが2位を受賞した「Handie」については、都内でプレス発表が行なわれた。Handieは、3Dプリンタとスマートフォンを活用した利き腕を補助するための義手。失われた手の動きを残された筋肉の電気信号をもとに再現する「筋電義手」と呼ばれるもので、同様の製品はこれまでにもあったものの、1本100万円以上するなど、高額だった。

 会場で、プレゼンテーションを行なった東京大学大学院を卒業した山浦博志氏は「友人がある日ふと、言った『生まれつき右手がないのが普通だから、今更右手が欲しいとは思わない。でも、雨の日は傘に片手がふさがれてしまって大変だ』という言葉にはっとしました。高能性で、高額な筋電義手は必要なくても、傘をさして荷物を持ったり、ナイフとフォークを同時に使うなど“単純な動き”をサポートする義手への需要があることを知りました」と、開発のきっかけを語った。

 通常、人が腕を動かしたいと思った時は、まず脳で考え、指令を筋肉に伝え、腱をひいて動かす。一方、筋電義手では、脳で考え指令した時に筋肉が収縮する時に発生する微弱な電気信号をキャッチ、それを義手に伝えることで腕を動かす。同チームでは高額な筋電義手を安価にするために、3つのアプローチを行なった。

東京大学大学院を卒業した山浦博志氏がプレゼンテーションを行なった
開発のきっかけは、「雨の日は傘に片手がふさがれてしまって大変だ」という友人の一言だったという
価格を抑えるために3つのアプローチを行なった

 まずは、電気信号のキャッチにスマートフォンを活用。腕に付けたセンサーとスマートフォンをBluetoothで接続し、動きをHandieに指令する。従来は、高額な専用の機器を使っていたが、スマートフォンを使うことで、価格を抑えられるという。

 次にモーターを除く全ての部材を、3Dプリンタで作れるように設計した。通常、義手を作るには金型などを用いていたが、義手は量産するような製品ではないため、生産費用が高くなってしまっていた。

 3つめは、モーターの数を大幅に少なくした。従来の筋電義手は手の動きを再現するため、指の関節の数だけモーターを搭載していた。

電気信号の受信にスマートフォンを活用
リンクとバネを使うことでモーターの数を大幅に少なくした

 「指1本につき、3つの関節があるため、モーターの数は片手だけで15個のモーターが必要になってしまいます。Handieではリンクとバネを使った独自の機構により、モーターは6個しか搭載していません。でも、缶を握るなど単純な動きは十分再現可能です」(山浦博志氏)

Handieの動き

 審査員を務めたデザインエンジニアの田川欣哉氏、フリージャーナリスト・コンサルタントの林信行氏も登壇した。

デザインエンジニアの田川欣哉氏
フリージャーナリスト・コンサルタントの林信行氏

 「今回初めて、JDAの審査員を務めましたが、審査をすることで私自身勇気づけられる想いでした。非常にレベルの高い作品ばかりで、若い世代にマインドやスキルがあることがよくわかりました」(田川欣哉氏)

 「海外では、日本のデザインが注目されたりしているのに、実際に日本のデザイナーが活躍しているのは海外だったりすることが多く、残念な気持ちがありました。JDAは企業の枠にはまる前の学生を対象としているところが素晴らしいです。JDAが日本のデザインを世界に認知してもらえるような場になると非常に嬉しいです」(林信行氏)

日本審査の上位作品展示も

日本最優秀作品に選出された「The Bottle Pack」。水を運搬するための道具

 会場では、このほか日本の審査において、上位入賞した作品も展示されていた。

 日本最優秀作品に選出された「The Bottle Pack」は、発展途上国や災害地などで水を調達するための道具。従来は、水を入れたペール缶やポリタンクを頭に乗せたり、手で持ったりしていたが、The Bottle Packはペットボトルをバックパックのように背負うことで、最大24Lの水を楽に運搬できる。名古屋芸術大学 デザイン学部 卒業のFrederick Phuaさんの作品。

 2位に選出されたのは、ペットボトルを使った安全な注射針廃棄容器「ARESA」。糖尿病患者の増加によってインシュリンを打つ人が増えてきていることを背景として開発された。注射針専用のキャップを使うことで、針をペットボトルの中に閉じ込めることができる。名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科 在学の奥田勇さんと鶴見慎吾さんによる作品。

ペットボトルを使った安全な注射針廃棄容器「ARESA」
専用のキャップを使うことで、注射針をペットボトルの中に閉じ込めることができる

(阿部 夏子)