日立、世界有数の社会イノベーション企業が目標

~スマートグリッド市場は2,000億円規模に
日立製作所 中西宏明社長

 日立製作所は31日、中西宏明社長が会見し、中期経営計画を発表した。

 最終年度となる2012年度に、売上高で10兆5,000億円、営業利益率5%以上、純利益で2,000億円台の安定確保を目標とし、D/Eレシオで0.8倍以下、株主資本比率20%も経営目標に位置づける。

 中西社長は、「日立は、2010年に創業100周年を迎え、ここが守りから攻めに転換するターニングポイントになる年。日立グループの総力を結集して、中期経営計画の目標を達成することで、世界有数の社会イノベーション企業となる。これにより、強い日立を復活させる」とした。

 また、「成長しない企業は駄目だという意識を社内に植え付けたい。成長しないと利益体質を強くできない」とする一方、「現在、日立には40の事業体があるが、厳しく採算性をみて、事業を絞り込む方向で運営したい。これまでにも売上高の3割相当を対象に強化/転換してきたが、これは継続的に検討する課題であり、今後も再編を続ける」とした。

 中期経営計画における経営戦略としては、「社会イノベーション事業による成長」と「安定的経営基盤の確立」を掲げ、「日立の強みを発揮するグローバルな成長戦略推進」、「社会イノベーション事業への経営リソース重点投入」のほか、コスト削減策の徹底、営業外損益などの改善、CSR先進企業を目指す「経営基盤強化による収益安定化」の3点から取り組む姿勢をみせた。

 さらに、グローバル、融合、環境の観点から経営をフォーカス。日立とグループ各社が持つ情報・経験・信頼を生かした展開、社会インフラとITによる社会イノベーションニーズの実現、環境先進技術と経験による環境システム構築力で、同社の強みを発揮できる体制を目指す。

2012年度の経営目標。営業利益率5%超を目指すもっとも注力される社会イノベーション事業「グローバル」、「融合」、「環境」がキーワード
守りから攻めへ転ずる。しかし、守りを忘れるわけではない海外売上高比率が50%以上になることを目指すすでに売上げの3割を占める分野でポートフォリオの見直しが行なわれた

 海外事業に関しては、「グローバル戦略は、成長のためのエンジン。最優先に推進していくもの」と位置づけ、2009年度実績で41%だった海外売上高比率を、2012年度には50%強へと拡大する姿勢を示した。

 現地主導による司令塔機能の強化、地域ごとのきめ細かな戦略展開により、グローバルな現地化の推進・拡大、パートナー連携による事業機会拡大、日立の強みを生かした新規事業拡大に取り組む。

 中国では家電や建設機械、昇降機などの拠点展開を進め、1兆円規模の事業規模に達していることを示し、「建設機器やエレベータやエスカレータ、ATMなどの個別事業の強化を進める一方、中国の要請である環境、省エネ技術による差別化によって環境システム事業の拡大を図る」とした。家電で浸透した日立ブランドを生かして、中国企業との合作プロジェクトにおいて、家電リサイクルなどにも取り組む姿勢を示した。

 欧州では老朽化が進む社会インフラのリノベーションに力を注ぐほか、北米ではストレージ事業を核とした差別化ソリューションの展開のほか、10年以上の歴史を持つ米国におけるコンサティング事業の強みを生かし、これをグローバルに展開していく」とした。

各分野のセグメント別ポジション。デジタルメディアと民生は遅れ気味ではあるが、現状よりも高みを目指すセグメント別の売上高。社会イノベーション事業が6割を占める2009年度実績と2012年度目標の比較。各指標で大幅な改善を見込んでいる

 一方で、今回の中期経営計画では、社会イノベーション事業を、今後の日立の成長の軸に据えるものになったともいえる。

 社会イノベーション事業は、情報・通信システム、電力システム、社会・産業システム、建設機械、高機能材料の5事業部門で構成され、2012年度には全社売上高の6割程度を占め、営業利益率は全社の5%以上を上回る7%を目指す計画だ。

 「日立の創業の原点である社会イノベーション事業が、全社を牽引していくことになる。2012年度までの3カ年で1兆円の設備/戦略投資、6,000億円の研究開発投資を行なう。これは、全社総額の7割、5割になる。研究開発投資は、さらに拡大していくことも考えられ、私も社内では電力分野への投資はこれでは足りないということをいっている。リーマンショック以降のリバウンドもある建設機械、高機能材料の伸びが高いが、社会イノベーション事業は、政府やIT分野のパートナーとの長年の地道な積み重ねが必要。花が開くのが2015年度と見ており、このときには全社売り上げの7割を占めることになるだろう」などとした。

 社会イノベーション事業において取り組むことになるスマートグリッドに関しては、「情報通信システムと電力システムの強みを生かしていける事業」とし、「スマートグリッドの技術基盤は同じだが、地域によって状況が異なる。日本では地域ごとに電力会社があり、米国では発電所とネットワークの会社が異なるなど運用形態が違う。また、新興国は効率的な送配電網を構築する必要があり、拠点や家庭も再構築しなくてはならない。一方で、日本のような効率的な送配電網が構築されているところでは、新たな系統と、どのようにみ合わせるかが重要になる。各々の事情に応じたスマートグリッドがあり、運用される形態が異なることが、むしろ日立のビジネスチャンスになる」とした。

 中西社長は、スマートグリッド事業に関する売り上げ規模は、今後、数年で1,000億円から2,000億円規模になると見込んだ。

 一方で、コンシューマ製品に関しては、「コモディティ化した製品は、ポートフォリオの見直しによって遠ざけたものとなっている。薄型テレビ事業は、パネル製造、テレビの海外自社生産を終了し、OEMおよび生産委託を活用する方針に切り替え、ローリスクモデルとした。数は出たが、価格面で厳しいビジネスであり、いまのままで継続していくべきかを見定める必要がある。だが、テレビとブロードバンド、情報処理がオーバーラップする部分も出てきており、完全に消し去ることは非現実的である。販売、生産、商品企画という点では、しばらくは体制をキープする。新たな事業の変容の行く末を見てやっていきたい」などとした。





(大河原 克行)

2010年5月31日 15:36