三菱電機、空調やスマートグリッドを重点事業に設定

~2010年度の経営方針を発表

“三菱にはポテンシャルがある”――2010年度は営業利益率5%以上が目標。


三菱電機の山西健一郎社長
 三菱電機は5月24日、2010年度の経営方針について発表した。

 2010年度の連結業績予想は、売上高が前年比3.8%増の3兆4,800億円、営業利益が48.5%増の1,400億円、税引前純利益は71.3%増の1,100億円、当期純利益は約2.5倍の700億円を見込んでいる。

 三菱電機の山西健一郎社長は、「2010年度の営業利益率は4%だが、社内的には2011年度に営業利益率5%以上の達成を目標に取り組んでいる。2007年度には6.5%という営業利益率を達成したことがあり、三菱電機にはそこまでのポテンシャルがあると考えている。三菱電機の経営目標は、シナジーを活かした強い電機・電子事業の複合体。営業利益率5%以上、ROE10%以上、借入金比率15%以下を達成すべき経営目標とする」とし、なかでも営業利益率5%の達成に、強い意志をみせた。

 また家庭電器事業については、2009年度の実績では、売上高が前年比9.5%減の9,157億円、営業利益が86.2%減の48億円の減収減益となったが、2010年度では、売上高が3.1%増の8,500億円、営業利益は約3.8倍の180億円と、増収増益を見込んでいる。山西社長は家電事業について「1つの本部が担当するという点では、最大規模の事業。この事業に手を抜くことはなく、今後も力を入れていく」とした。

2010年度の業績予想セグメント別の見通し経営目標として「営業利益率5%以上、ROE10%以上、借入金比率15%以下」を掲げる

空調やスマートグリッドなど8事業が重点。海外売上比率40%を目指す

 

“高い成長性”を重視した環境関連事業と社会インフラシステム事業の強化を目指す
 山西社長は、2010年度の経営方針について「新たな成長に向けた再チャレンジする年になる」と指摘。成長戦略の1つとして、環境関連事業/社会インフラシステム事業の強化を掲げ、電力の需要と供給を自動で最適化する電力網「スマートグリッド」をはじめ、空調システム/パワー半導体/FAシステム/自動車機器/交通システム/電力システム/宇宙システムという8つの事業について、重点的に取り組むとした。

 さらに、バランス経営を実践し、高い収益性と効率性、健全性をベースに、従来以上に高い成長性を追求する。


現場重視、連携重視という2つのフレームワークを設定
 「バランス経営の実践のための経営フレームワークとして、現場重視として、ものづくり力強化と、営業・サービスの競争力強化を、さらに連携重視として、製造と販売ネットワークの強化、事業セグメント間のシナジー効果、コーポレート・サポート機能の充実/強化と事業部間の連携強化、グローバル経営の推進に取り組む。この“2現場4連携”によって、成長戦略、経営体質強化、財務体質を改善する」(山西社長)

 また、高い成長性の追求も掲げ、その実現に向けて、低炭素社会・循環型社会を見越した環境関連事業の強化、社会インフラシステム事業の戦略的強化を推進していく。加えて「グローバル戦略なくして、大きな成長をは見込めない」として、海外売上高比率40%に向けた施策を展開する姿勢を示し、「景気回復期の業績拡大を加速する」とした。

 成長戦略としては、エアコンなどの空調・住設機器、パワー半導体、交通システム、電力システムなどの強い事業をより強くする「VI戦略」と、スマートグリッドやデジタルサイネージ、トータルセキュリティソリューションなどの強い事業を核としたソリューション事業の強化を図る「AD戦略」を推進。2021年を目標年とした「環境ビジョン2021」を柱に、スマートグリッド関連事業、太陽光発電事業などの環境関連事業の成長を図る。

 また、前述の8事業について、環境関連事業・社会インフラシステム事業の強化に向けた柱とし、それぞれの事業を加速する姿勢をみせた。さらに、3Dテレビを今年夏に発売する計画も明らかにした。

強い事業をより強くする「VI戦略」と、強い事業を核としたソリューション事業を図る「AD戦略」を推進VI戦略とAD戦略の概念図

省エネ技術搭載エアコンで、海外販売ルートの拡大を目指す


空調システム事業では、海外向け製品にも省エネ技術を投入するなど、世界市場への展開を加速する
 空調システム事業に関しては、「環境・省エネの開発加速により、グローバル事業集団としての勝ち残りを目指す」とし、エアコンで開発強化と海外販売ルートの拡大による事業強化をあげ、環境・省エネをキーワードとした開発の強化、地域対応での機種開発の加速、海外販売体制の強化に取り組む。

 山西社長は「グローバル強化として、欧州・中国における販売機種の拡大と、販売体制の強化による事業規模拡大、インド、ベトナムなとの新興国市場での事業基盤の確立、国内機種で採用している省エネ技術について、グローバル市場への展開を加速する」と語った。

 日本では省エネ、リニューアル需要の徹底した取り込みや省エネ性能の一層の向上を図る一方、欧州市場向けには、2010年秋をめどに、省エネ性能、デザイン性を向上した機種の拡充を図るという。また中国市場に対しては、普及モデルにおける省エネ機能の強化、マルチ市場に対応した現地生産機種の拡大に取り組む。米国市場に対しては、省エネ補助金制度対象機種の投入を加速するほか、アジア、中東向けにはタイの製造拠点を活用したコストダウンの推進、現地の販路拡大などに取り組む。

 なお、Air to Water(ヒートポンプ)事業については、欧州地域における密着体制による事業拡大に取り組む姿勢をみせ、営業、サービス、技術サポート力の強化や、販路拡大に向けた人員の積極投入を予定している。


スマートグリッド設備を自社内に構築。“あらゆるケース”を捉えた実験を行なう


国内3地区に実証実験設備を構築。約70億円を投資し、あらゆるケースを想定した実験を行なう
 スマートグリッド事業に関しては、2020年以降の送配電網を想定した実証実験設備を、自社内に構築。尼崎では送配電網の将来像を想定した電力流通システム全体に関わる実証、和歌山では太陽光発電システムに関する広域監視の実証、大船では実証ハウスを設置し、システム連携によるエネルギー管理の実証実験をそれぞれ行なう。

 「3地区においては、自社設備のメリットを生かして、どんなことが起こるのかといったことを想定し、将来予想されるであろう、あらゆるケースを捉えた実証実験ができる。70億円を投資し、電源のベストミックスによる化石エネルギーの削減、エネルギーの見える化による省エネ効果、需要家での電化率の向上を実現する」(山西社長)


電力損失を約90%減少する「低損失インバーター」の開発を加速


 パワー半導体事業については、戦略製品として、自動車向けのEV・HEVインバーター用IPM、エアコン向けなどに使用されるインバーター家電用DIPIPM、太陽光発電用PV-IPMおよび風力発電用New-MPD、鉄道車両向け制御装置のHV-IGBT、産業機器用のIGBTおよびIPMを位置づけた。

 「インバーター家電用DIPIPMでは、グローバルトップシェアの強みを生かして、中国、韓国向けのエアコンなどのほか、冷蔵庫、洗濯機などにも搭載し、インバーター家電需要の拡大に対応していく」(山西社長)

 また、通常のインバーターに比べて電力損失を約90%減少する「低損失SiCインバーター」の開発も加速する考えで、2011年度までに約135億円を投資して、開発および設備の強化を図る。

 「低損失SiCインバーターは、すでに月産3,000枚の量産試作ラインを設置しており、2010年度中には少なくとも、一部サンプル品を含めた製品が出荷できる。鉄道車両用/FA機器/自動車/エアコン/太陽光発電システム用パワーコンディショナなどに採用できるだろう」(山西社長)

パワー半導体事業では、鉄道車両/自動車/家電用を戦略製品に設定通常よりも電力損失を約90%減少する「低損失SiCインバーター」の開発も加速する




(大河原 克行)

2010年5月25日 00:00