長期レビュー
象印「極め羽釜 NP-ST10」その2
象印の最高級炊飯器「圧力IH炊飯ジャー 極め炊き 南部鉄器 極め羽釜 NP-ST10」。今回は炊飯モードや保温機能にスポットを当てる |
今月は、希望小売価格が13万円の象印の最高級炊飯器「圧力IH炊飯ジャー 極め炊き 南部鉄器 極め羽釜 NP-ST10」について、3回に渡ってその能力を検証するレビューをしている。
連載第1回目では、南部鉄器の内釜で炊いた「かまど極め」モードでおこげごはんを楽しんだり、ふつうモードでごはんを炊いてその味をさまざまな測定器を用いて味や歯ざわりを検証した。
第2回目では、さまざまなバリエーションが用意されている炊飯メニュー、そして進化した保温機能を検証してみよう。
[第1回目はこちらから]
■炊飯メニューは17通り。しゃっきりからもちもちまで5段階をバッチリ炊き分ける
すべてのメニューが見渡せるという使い安さもポイントの1つ。ドットマトリクス液晶では、矢印ボタンを押し続けなければメニューを見渡すことができない |
まずは炊飯メニューについて紹介していきたいが、本製品では17通りものメニューが用意されている。バリエーションは豊富だが、その全てがごはんを炊くことに注力したものとなっている。
ディスプレイの左側はお米の種類、右側には炊き分けの種類が表示され、選択中のメニューは点滅表示されるため、常に全メニューが把握できるようなっている。時刻や炊き上がりまでの時間の表示も文字が大きく、ブルーの文字で表示されるので読みやすい。
筆者が注目したのが、「しゃっきり」「ややしゃっきり」「ふつう」「ややもちもち」「もちもち」という、5段階の炊き分けだ。どれだけきちんと炊き分けられ、いずれのごはんもおいしく仕上がるのだろうか。
というのも、筆者はラーメン屋のライスのような、しゃっきりとしたごはんが好きだ。さっき近所のラーメン屋のオヤジに聞いてきたのだが、たいていはチャーハンを同じごはんで作るため固めに炊いているという。
だが、家族は柔らかめのごはんがお好み。自分の好きなしゃっきりで炊くと家族から文句が出る。これまで使っていた炊飯器では、3段階しか設定できなかったため、微妙に水加減を調整して、「ふつう」と「しゃっきり」の間の落としどころでごはんを炊いていた。
しかし、この極め羽釜では、しゃっきり、ややしゃきり、ふつう、ややもちもち、もちもちと5段階に炊き分けられる。家族の“落としどころ”となる硬さが、楽に設定できそうだ。
まずは炊き上がりのごはん粒の様子から比較してみる。
しゃっきり | ややしゃっきり | ふつう |
ややもちもち | もちもち |
炊飯器によっては、炊き分けでごはん粒の形が変わってくるものがあるのだが、極め羽釜の場合はどれも似たり寄ったりで区別がつきにくい。そこで歯ざわり測定器を使って、それぞれの硬さを調べてみた。
まずは、「しゃっきり」~「ふつう」の歯ざわりを見てみよう。
「しゃっきり」「ややしゃっきり」「ふつう」の食感比較。横軸は噛み切るまでの時間、縦軸が圧力(弾力)を表す |
グラフの横軸は、噛み切るまでの時間となっている。しかし、なにぶんチープな測定器のため(測定器については前回の記事を参照)、時間はあまり気にせず降下する曲線のカーブに注目して欲しい。
青い線の「ふつう」で炊いたごはん粒は、0.08秒ほどまで圧力が高くなっているが、これはごはんのもちもち感からくるものだ。歯でかんだ瞬間は弾力があり、0.1秒を過ぎた辺りからプチ! と噛み切れている。
これに対して、オレンジの「しゃっきり」は0.14秒あたりで、2つめの山ができている。これは中心部にコリッ! とした芯が残っているためで、それを通り越すとすぐに噛み切れている。この中心に残った歯ごたえが、シャッキリ感のようだ。
緑の「ややしゃっきり」は、2つめの山はできていないものの、「ふつう」に比べると0.12秒で急激に噛み切れていることが分かる。これは軽い弾力の後に歯がスッ!と入り、しゃっきり感になっているようだ。
では測定器の結果と、家族が実際に食べてみた感想を比較してみる。
炊き分け | 食べた感想 |
しゃっきり | ラーメン屋で出るライスの食感。気持ち固めで、口に入れるとパラリとほぐれる。 タレをつけた餃子を一回ご飯の上に乗せて食べると、すごくうまそうなご飯。 筆者はこれに1票! |
ややしゃっきり | しゃっきりとふつうの間なのかはよく分からない。 ただしゃっきりよりは、ふつうに近い感じの食感 |
ふつう | 口に入れるとホロホロとほぐれる。硬さもちょうどよく、甘みがある。 家族の5人のうち4人がここに集中 |
測定器の結果と家族の感想はほぼ一致しているようだ。しゃっきり感は、ごはん粒の中心にある若干硬めの部分がポイントになっているようで、硬い部分がない「ややしゃっきり」は、「ふつう」に近い食感として感じるらしい。
ここで、糖度計で測定した口に入れた瞬間の甘みを見てみよう。
炊き分け | 糖度 |
しゃっきり | 12% |
ややしゃっきり | 13.5% |
ふつう | 15% |
口に入れた瞬間に甘いごはんは、「ふつう」で炊いたものが一番だ。しゃっきり系は、ごはん粒の芯までしっかり火をいれないため、α化が進まず、あっさりとした甘みになる。ただし口に入れた瞬間の甘みはないものの澱粉が多く残っているので、噛めば噛むほど甘いごはんということだ。
しゃっきりは澱粉が多く残っているので、ヨウ素液をたらすと大部分が紫色に染まる | ややしゃっきりは、しゃっきりよりも薄い紫。澱粉が少し糖分にかわっているようだ | ふつうは、糖分5割、澱粉5割と言った感じ |
つぎにもちもち系を比較してみよう。
「もちもち」~「ふつう」の食感比較 |
先のしゃっきり系と同じように青い線が「ふつう」で炊いたごはん粒の食感だ。赤い線の「もちもち」は、ふつうで炊いたごはんより柔らかいようで、小さな圧力で噛めるのがわかる。時折スッと圧力が下がったり、少し圧力が戻ったりしているのが、もちもち感として感じられるのかもしれない。紫の「ややもちもち」は、ほとんど「もちもち」と同じようなカーブを描いているので、食感も同様だろう。
実際に家族で食べた感想は、次のようになった。
炊き分け | 食べた感想 |
もちもち | 網焼き餅の柔らかい中身のような触感。口にいれた瞬間はそうでもないが、 2、3度噛むだけで甘みが広がる。 ふつうよりはもちもちだが、甘みがふつうと変わらない |
ややもちもち | ごはん粒がベトつかないのに、もちもちの食感なのが不思議。 大福餅(もしくは柔らかめの白玉)のような触感で、かなり甘く感じる |
先の食感のグラフでは、「もちもち」と「ややもちもち」はほぼ同じ食感という結果だった。しかし家族の感想によれば、「もちもち」は焼きもちの中心部、「ややもちもち」は大福餅の皮のような感じという。これを同じと見るか違うと見るかは判断が難しい。しゃっきり好きの筆者が試食した感じでは、どちらも同じで判断が付かないというところだった。
唯一の違いは、もちもちは口に入れた瞬間はどそれほど甘みを感じないもの、少し噛んだだけで甘みが染み出るような感じがした。これを糖度計の値と澱粉の状態で見てみる。
もちもち(左)の断面は、ややもちもち(右)に比べると若干紫色が薄めで糖分に変わっているようだ |
糖度を測ってみると、「もちもち」が18%と非常に甘く、「ややもちもち」は「ふつう」と変わらない15%という結果だった。
このように象印の極め羽釜は、しっかりと5段階の炊き分けができるようだ。とはいえ「ややしゃっきり」「ややもちもち」については、同時に食べ比べしてみなければ分からないかもしれない。
また「しゃっきり」と「もちもち」では、糖度に5%の差が出るので、あっさりとした甘さが好みの場合はしゃっきり系で、甘くごはんそのものの味を楽しむならもちもち系で炊くといいだろう。
炊き分け | 特徴 |
もちもち 系 | ごはんの甘さが際立つので、おもに和食向き。 焼き魚や漬物と一緒に食べるとおいしいそう。 時間が経つと水分が抜け安いので、炊きたてを食すことをお勧めする。 |
しゃっきり 系 | ごはんはあっさりと甘いので、ソースなどの味を楽しむ洋食系や中華にピッタリ。 水分が多めなので、お弁当に入れると昼頃にふつうで炊いたごはんぐらいになり おいしく食べられる |
■圧力の掛け具合と時間で炊き分ける秘密
しゃっきり~もちもちの炊き分けを見てきたが、さらにしゃっきりのすしめしや、硬い玄米を柔らかく炊き上げる玄米モードも備えているため、実際には7通りの炊き分けが可能だ。しかし冒頭の炊飯一覧を見ると、どの炊き分けを使ってもほぼ1時間で炊飯が終わる。加熱時間で炊き分けていないとなると、圧力を変えることで、炊き分けていることになる。その圧力は、大気圧と同じ1気圧~1.3気圧までとごくわずかだが、炊飯には十分のようだ。
極め炊きが圧力を掛けている工程。沸騰中は蒸気の圧力を使うが、沸騰前と蒸らしの段階では蒸気が出ないため、加圧エンジンで圧力をかけて炊飯する |
コンロにかける圧力鍋は、水が沸騰してその水蒸気で圧力がかかる。一方でこの炊飯器は、加圧エンジンを搭載しているので、澱粉が糖に変化するα化が始まる100℃以下から圧力がかかる。さらに蒸らし工程でも圧力をかけることで、余分な水分を飛ばし、ごはんがベタ付かない程度に理想的な粘りを持たせる効果もある。
連載第1回で、他社製炊飯器のごはん粒との比較をしたが、どちらも甘く中まで火が通ったごはんなのに、象印の極め羽釜は一切べたつかず、口に入れるとホロホロとほぐれるのは、この加圧エンジンによるものだったのだ。
そして炊き上がりを大きく左右する圧力を制御しているのは、上ブタにある圧力弁と、内蔵された7つの各種センサー、そしてマイクロチップ。温度センサーにいたっては、気温も考慮しているという。
とはいえマイクロチップはソフトウェアがなければ、おいしいご飯を炊くことができない。その点、象印は昭和40年ごろから保温機能もついた本格的な炊飯器を作ってきた長年のノウハウがあり、いわば炊飯のスペシャリスト集団。この記事では完成した製品のレビューをするだけで10kgの米を炊いたが、開発は桁が違う。聞いたところではトン単位を炊いて実験するとか。おいしいごはんを炊くソフトウェアは、凄い技術ではなくどれだけトライアンドエラーを繰り返し、地道に蓄積したデータを持っているかが勝負となる。生活家電は数あれど、データが性能を左右するというのは炊飯器ぐらいのものだろう。
■通常の炊飯は激しく蒸気を出すが、蒸気を大幅にカットするモードもある
通常の炊飯モードでは、盛大な蒸気を機関車のように吹き出す |
さて圧力の話が出たので、炊飯器から出る蒸気(湯気)についても合わせて説明しておこう。第1話でも軽く触れたが、この炊飯器は圧力IHジャーなので、圧力を開放したときにどうしても蒸気がでてしまう。メーカーによっては蒸気まったく出さないしくみを備えているものもあるが、極め羽釜はかなり蒸気の出る炊飯器に分類されるだろう。
ふつうモードで炊飯した以下のムービーを見てもらえば、それが分かるはず。圧力を高めるためにバルブを閉じて、必要に応じて大きく開放するため、その瞬間に人の背丈ほどまで蒸気が立ち上がる。フタ上部には蒸気を少なくする機構も備えているが、そこで処理できなかった蒸気が出てくるというわけだ。
ふつうモードでの炊飯のようす。蒸気が勢いよく吹き出ている |
蒸気セーブモードでは、一気に圧力を抜かないので蒸気は少ない |
ただ、蒸気を少なくする蒸気セーブモードも備えており、このモードで炊飯すると蒸気を80%カットできる。このモードではバルブをわずかに開け、細く時間をかけて圧力を開放するので、フタ上部にある蒸気を抑える機構の容量をオーバーすることなく、蒸気を少なくしている。
この点をふまえて、次の蒸気セーブモードのムービーを見てもらうと、違いが分かりやすいだろう。
蒸気セーブモードならば、蒸気はかなり抑えられる |
さてこのようにして蒸気を80%カットするモードを備えているものの、加圧して炊き分けしている極め羽釜だけに、通常の炊飯とは味や歯ざわりが異なってしまう。
第一の違いは、炊飯する際の水が通常炊飯より少し少ない点だ。おそらくこれは、蒸らし工程で加圧して余分な水分を飛ばすことができないため、水を少なくしているのだろう。
固めのすしめし、消費電力を抑えるエコ炊飯、蒸気セーブは3合で1mmほど水位が低くなった目盛りになっている | 蒸気セーブで炊いたごはん粒はやや小さめ | ふつうモードで炊くと水分を多く含み膨らんでいる |
炊き上がったごはん粒の様子も少し違い、ふつうモードで炊いたものと比べるとごはん粒はやや小さめ。歯ざわり測定器で調べると、違いは一目瞭然で、蒸気セーブモードで炊いたごはん粒はやや芯が残った状態(グラフでいくつか山ができている。ここは他に比べると硬い部分)となり、しゃっきり系のごはんとなる。
蒸気セーブモードで炊いたごはん粒には硬い部分があるので、グラフにいくつか山が見られる |
ふつうモードで炊いたごはんは、ごはん粒に硬いところがないので滑らから曲線を描く |
澱粉質についても見てみると、蒸気セーブモードで炊いたごはん粒は、ふつうに比べてやや紫が強く、澱粉質が多く残っているようだ。そのためふつうは糖度が15%なのに対して、蒸気セーブは12%と、「しゃっきり」並みのあっさりした甘さとなっている。
ふつうのごはん粒(左)は紫色が薄く糖度が高め、蒸気セーブ(右)は紫がやや濃く澱粉質が多く残っているので甘さは控えめ |
家族の意見は「基本的にふつうと同じだが、わずかに甘みがすくなく、食感もちょっと違う感じ。ふつうモードに比べると、口の中に入れたときにボソッとする感じ」という。糖度の低さも指摘し、水分量が少ないためボソっとする感じも見分けられるとは、中学生のお姉ちゃんの舌はなかなか肥えていると感心させられる(笑)。
筆者のようにしゃっきり系のごはんが好きな人は、蒸気セーブもウェルカムだが、もちもち系が好みの場合は、通常通りの炊飯モードを使うべきだろう。
■消費電力が少ない「エコ炊飯」でもおいしいが、節電効果はさほどなし
前項では蒸気をセーブして炊飯するモードを紹介したが、最近の炊飯器は蒸気以外にも、電気をセーブしてごはんを炊くモードを備えているものが多い。当然火力が弱くなってしまうので、炊き上がりのおいしさにも影響してくるが、どれだけおいしさを維持したまま、消費電力をセーブできるのかを見てみよう。
まず火力が違うので、炊き上がりから見てみよう。火力が弱ければ米がそれほど対流しないので、炊き上がりの状態が変わってくるはずだ。
ふつうモードで炊いたごはんの写真。お米が立っていて、おいしさの特徴である“かに穴”がたくさんある | エコ炊飯では、お米が寝た状態でカニ穴も少ない。これは火力の違いが影響しているのだろう。 |
ごはん粒を見てみると、ふつうモードで炊いたごはんは、水分を多く含んで大きい | エコ炊飯はごはん粒がやや小さめ |
見た目はやはりふつうモードで炊いたごはんの方がおいしそうだが、家族の感想をまとめると「ふつうモードと遜色ない炊き上がりだが、わずかに口に入れたときの甘みが少ない。噛んだときに少し食感がボソッとしている」ということだ。ただ筆者としては、まずくはなく十分に合格点。歯応え測定器の結果は、ほぼふつうと同じような食感となっている。
エコ炊飯とふつう炊飯の、食感の違い。家族によると、やや食感がボソッとしているらしい |
家族の感想にあったボソっとしているというのは、どうやら食感ではなく水分が少ないためのようだ。蒸気セーブモードで説明したとおり、エコ炊飯も水を少なめに入れて炊くようになっている。また糖度はふつうの15%に比べ、エコ炊飯では13.5%と、家族の感想に合致しているようだ。
残るは炊き上がりまでの消費電力だが、効果はそれほどでもなさそうだ。
炊飯モード | 消費電力 | 電気代換算 |
ふつう | 0.22kWh | 4.84円 |
エコ炊飯 | 0.13kwh | 2.86円 |
ここでは従来の1kWhで22円として計算しています。
消費電力はふつうモードのおよそ半分となった。しかしふつうモードで炊いても1回の炊飯代は4.84円、エコ炊飯だと2.86円になるとしても、省エネ効果はそれほどなさそうだ。1日2回炊飯するとして1カ月の電気代の差に換算すると118.8円。こうなると冷暖房や冷蔵庫の温度を調整した方が、よっぼど省エネ効果は高いだろう。
■深夜に帰るお父さんのごはんは、高め保温、6時間以内で
保温モードは高めと低めが用意されている。好みに応じて使い分ける。結果を先に言えば、高め保温で6時間以内に食べるのがベストと思われる |
ここまで炊飯機能を中心に見てきたが、炊飯器には毎日使うもう1つの機能がある。それは保温機能だ。象印は魔法瓶の保温性を電子化して炊飯器に取り入れ、電子ジャー炊飯器※を世に知らしめた会社だけあって、保温機能にもこだわりがあるようだ。
※今では当たり前のようにある保温機能だが、当時は炊飯したあとに保温もできることから「電子ジャー」という冠がついていた。なお「ジャー」とは保温器のこと。
極め羽釜の保温機能は、2つありそれぞれ次のような特徴がある。
保温 モード | 特徴 |
低め 保温 | 24時間まで保温可能。ごはんの劣化が少なく乾燥、変色を抑えるが、 長時間保温すると独特の臭いが出る |
高め 保温 | 12時間まで保温可能。保温時どくどくの臭いを抑える。 ただし高い温度で保温するため、若干電気を消費する |
保温モード | 家族の感想 |
低め 保温 | 鼻の効く奥さんが言うには、ノドを通ったときに独特の臭いがあるという。 上あごにも臭いが残るらしい。 |
高め 保温 | 低温保温よりおいしく食べられる。ただし、7時間を過ぎたとたんに臭みが感じられ、 食感もネットリとした感じに。低め保温よりまずくなってしまう |
どうやら帰宅の遅いお父さんにおいしいご飯を食べさせてあげるには高め保温をしたほうがいいようだ。ただ7時間を境に風味がかわるようなので、保存時間が長くなりすぎる場合は注意して欲しい。
ではデータ上ではどうなっているかを見てみよう。
右は比較用の炊きたてのごはん粒、低め保温(中央)の見た目は炊き上がりとさほど変わりないが、高め保温(右)は若干水分が抜けているようだ |
保温すると、糖度も若干落ちるようだ。炊き上がりは15%だったが、高温で6時間保存すると10.5%に、低温で6時間保存すると9%となった。
変化が顕著に現れるのは食感だ。
炊きたてと6時間保温後の食感の比較 |
炊き上がりはもちもちの食感だが、低め保温で6時間経過すると、もちもち感が損なわれ、歯がすぐに入る柔らかいごはんになってしまう。高め保温だとさらに食感が柔らかくなっているのが分かる。ただ0.03~0.05秒にかけてグラフが平らになっているところがあり、低め保温に比べるとやや弾力(もしくは芯)が残っているような感じだ。
またごはんの温度も調べてみたところ、炊きあがりは85℃、低め保温で69℃(2時間経過後)、高め保温で72℃(3時間経過後)となっていた。およそ5℃の温度差しかないのに、保温でも食感や味が大きく変わるというのは驚きだ。
左から炊き上がり、低め保温(2時間経過後)、高め保温(3時間経過後)の温度となっている |
なお保温機能の付加機能として「あったか再加熱」という機能があり、保温中のごはんをアツアツに加熱する機能がある。しかし加熱に5~8分もかかる。これは電子レンジを使った方がよさそうだ。
■今回の一品「山菜おこわ」
白米を使った炊き込みごはんが作れる炊飯器は多いが、もち米で使ったおこわを炊ける炊飯器は数少ない。そこで今回はレシピブックにあった山菜おこわを作ってみた。
まずもち米を洗って30分ほどザルに上げて給水させる。あとは炊き込みご飯と同じで、水を張りみりんと塩で味付け。最後に山菜を乗せて、おこわモードで炊飯するだけだ。ただちょっとレシピと違うのは、家族が山菜好きなのでレシピの倍を入れてしまった点。
30分給水させたもち米と山菜を炊飯器に入れる。欲張って山菜入れすぎ(笑) |
ちょっと柔らかくなってしまったので、しばらくかき混ぜて水分を飛ばす | もちもちの食感がたまらない山菜おこわのできあがり。もちろんお赤飯も作れる |
炊き上がったおこわは、山菜から水分がでてしまい少し柔らかめとなったが、味はデパ地下のおこわやさんと同じように、上品な味わいのもちもちおこわができた。これなら高いデパ地下のおこわを買わないでも、自宅で安くいろいろなおこわを楽しめるだろう。
■どんな炊き分けでも、甘くておいしいごはんが炊ける炊飯器に間違いない
今回は毎日使う機能を中心に、家族が試食した感想に加え数値的なデータも合わせて見てきた。その結果5段階の炊き分け機能は、しゃっきり~もちもちまでしっかり炊き分け、自分好みの固さのごはんを安定して炊けるということが分かった。またあっさり、しゃっきりした洋食向けのごはん~和食向きの甘いもちもちごはんが炊けるので、おかずやお弁当向けというように手軽に炊き分けられる。
さらに蒸気セーブやエコ炊飯という圧力や大火力を使えない炊飯モードでも、ふつうに炊いたごはんと遜色ないおいしいご飯が炊けるようだ。
さてここで1つのデータをまとめてみてみたい。それは口に含んだときのごはんの甘さ(糖度)だ。しゃっきり~もちもちの炊きわけは、言ってしまえば、水の量を微調整すればどんな炊飯器でもできてしまう。しかしごはんの甘さは、自分で調整することはほとんどできず、炊飯器の性能に左右される。そこでこんなグラフを作ってみた。
モード別による、ごはんの甘さ比較のグラフ |
「三洋おどり炊き 匠炊きメニュー」とあるのは、我が家がこれまで使っていた、2009年に約4万円で買った三洋の炊飯器「ECJ-LG10」において、一番甘みがでるという炊き方で炊いたもの。これまでに象印の極め羽釜で炊いたごはんと比較してみると、その差は最大で7ポイント以上も開いている。極め羽釜でもっともあっさりした「しゃっきり」や「蒸気セーブ」モードほどしかないのだ。炊飯器のカタログを見ると、どのメーカーでも「ごはんが甘い」ことを謳っているが、これほど違うものだとは今回実験してみるまで筆者も知らなかった。
保温機能については、人が年老いていくのと同様に、ごはんのおいしさも時間にはかなわない。しかし、18時にお母さんと子どもで夕食をとっても、高め保温を使えば、12時ごろに帰ってきたお父さんでも炊き立てに近いごはんが食べられる。ただし、本文中でも指摘した通り、7時間を境に味も食感も悪くなる点はご注意。
ちなみにこちらは、みそ味の炊き込みごはん。炊き込みご飯はたいていの炊飯器で作れてしまう。「今回の逸品」から漏れてしまったが、絶品! |
■娘がごはんの炊き方をリクエストしてきた!
しばらく使い続けて驚かされたのが、中高生の娘たちが、ごはんの炊き方にリクエストをつけてきたことだ。どちらもお弁当を持って学校に行っているが、ある日「明日のごはんは、もちもちで炊いてね♪」「あっ!私もお弁当はもちもちがいい! でも晩御飯はおこげのヤツ!(極めかまどモードのこと)」というのだ。
こんなことを書くと「メーカーからいくら貰ってるんだよ!」と疑われてしまうかもしれないが、この記事はニュートラル。娘たちの言葉もホントだ。まるでお弁当や今夜のおかずをリクエストするように、ごはんの炊き方を指定してくるとは驚きだ。筆者自身こんな経験ははじめてだし、読者の中でも同様の経験をしている人は少ないだろう。
さて来週の最終回では、まだ試していない玄米や雑穀米の炊飯、そして急速炊飯や熟成炊きといったモード、さらにはメンテナンス性についてを紹介しよう。そして、たかが炊飯器、されど炊飯器に定価136,000円という大枚をはたく価値があるのか? という大きなテーマに結論を付ける。
なお、ここまでの2週間の実験で、10kgの米を全部炊いてしまったので、筆者はこれから追加の米を買いに行ってきます!
2012年9月26日 00:00
「長期レビュー」は1つの製品についてじっくりと使用し、1カ月にわたってお届けする記事です。(編集部)