家電製品ミニレビュー

象印マホービン「南部鉄器 極め羽釜 NP-SS10」

~南部鉄器の釜でおこげも作れる、定価13万円の炊飯器のおいしさとは
by 正藤 慶一
象印マホービン「極め炊き NP-SS10」

 希望小売価格136,500円。とはいっても、テレビやパソコンのことじゃない。今回紹介する象印マホービンの最高級炊飯器「南部鉄器 極め羽釜 NP-SS10」の価格だ。

 実際にはこの定価のまま販売される例は少なく、量販店などでは10万円未満で販売されていることが多い。しかしそれでも、10万円近い実売価格は、庶民には手が出にくい。というか、安い炊飯器なら1万円以下でも買えるし、ガスや電子レンジで炊くグッズならもっとてっとり早く購入できる。「高すぎ」「もっと安いのでもいいでしょ」という反応は、ある意味では当然だ。

 しかし、この炊飯器で炊いたごはんを食べたら、そんな反応はできない。ごはん本来の甘みがあり、食感は弾力と柔らかさを兼ね備えてまったく崩れていない……要は、ものすごくおいしいごはんが味わえるのだ。「高いから当たり前」というツッコミもあるだろうが、否定はしない。本当においしいごはんが、毎日、当たり前のように炊けてしまうのだ。

 この炊飯器は、普及品の炊飯器とどこがどう違い、どこに「おいしさ」と「13万円」の秘密があるのだろうか。実際に使いながら、この5合炊きの炊飯機「極め羽釜 NP-SS10」の特徴を紹介していこう。

メーカー象印マホービン
製品名南部鉄器 極め羽釜 NP-SS10
希望小売価格136,500円
購入場所ヨドバシカメラ
購入価格89,800円


おいしく炊くための機能が満載

炊飯方式はIH式

 このNP-SS10には、ごはんをおいしく炊くための技術がいくつも搭載されている。まずは、加熱方式が「IH方式」で、「圧力炊飯機能」な点だ。

 小容量タイプや安価な炊飯機では、「マイコン加熱方式」といって、電熱ヒーターで釜を加熱するものがある。でもこのIH方式では、電磁誘導加熱で釜全体を加熱するため、ごはんの炊きムラができにくいという特徴がある。また「圧力炊飯」は、炊飯器の釜の内部に圧力を掛けることで、ごはんのα化(糊化)を促進して甘みを引き出す効果がある。この時点で、おいしさを引き出すための技術が2つ備わっていることになる。

 とはいえ、IH式はもはや一般的だし、圧力機能を備えた炊飯器は市場にたくさんある。価格も実売2万円~5万円程度のものが多く、NP-SS10の実売10万円には届かない。つまり、NP-SS10にはほかの炊飯器にはないエクストラな機能がまだまだある。

 最も特徴的なのが内釜だ。内釜は「南部鉄器 極め羽釜」というもので、釜の側面の真ん中部分が盛り上がった、かまどの釜のような独特の形状をしている。本体内にはこの“羽”部分だけを温める専用のヒーターがあり、底部のIHヒーター、上部のふたヒーターとともに、釜全体を包みこむように高火力で炊く効果があるという。

 この内釜の素材には、岩手県の伝統工芸品・南部鉄器を使用。何でも南部鉄器はIH方式との相性が良く、釜内部に熱を効率良く伝えて、大火力でごはんが炊けるという。鉄なので頑丈そうなのは良いが、約1.8kgと、かなり重い。

岩手県の伝統工芸品・南部鉄器を使用した「南部鉄器 極め羽釜」重さを測ってみると、約1.8kg。ずっしりと重い

 また、外フタには「トルネード大型蒸気口」というものもある。これは、炊飯中に発生したネバネバッとした汁“おねば”の泡をすりつぶし、吹きこぼれを防ぐことで、かまどで炊くような連続沸騰が可能という。

 このほか、沸騰前から蒸らし時まで圧力を掛ける「パワー圧力」機能や、内釜と本体の間に火力を閉じ込める「空気断熱層」も設けている。NP-SS10には、ごはんをおいしく炊くための機能が豊富に備わっているのだ。

外フタの蒸気口取り外せる中には「トルネード大型蒸気口」がある。おねばの泡を擦り潰す効果があるという
圧力式のため、内蓋には安全弁が付いている異物が詰まるのを防ぐ「雑穀フィルター」も備わっている

これで炊けば間違いない! 90分の価値がある熟成炊きは至高のおいしさ

 とはいっても、最終的においしいごはんが炊けなければ意味はない。さっそく炊飯を炊いてみよう。

カップは白米用と無洗米用の2種類が用意される

 本体に付属のカップで、米の量を測って内釜に投入する。カップは白米用と無洗米用の2種類が用意される。

 炊飯モードはいろいろ用意されているが、まずは一番おいしいごはんが炊ける「熟成炊き」で炊いてみた。これは予熱に時間をかけてじっくり米に水を吸水することで、甘み成分をアップするという調理モード。時間は85分と長いが(説明書によれば約75~85分と幅がある)、味を重視するなら間違いなくコレだ。

 炊飯ボタンを押して運転をスタートすると、本体からは「ガチャッ」という圧力を掛ける音が鳴り、その後に「ウィーン」という機械音が続く。恐らく、吸水の段階から圧力を掛けているのだろう。この状態はしばらく続くが、40分くらい経った後は、蒸気の吹き出し口から「シュー」と熱い風が吹き出る。運転音は大きめに感じられた。

炊飯中の蒸気口のようす。シューシューと蒸気の音がする。手で触れるともちろん熱いので触れないように
熟成炊きのできあがり。これは本当においしい!

 しばらく待って、「キラキラ星」のメロディが流れれば、運転は終了。フタを開けると、中にはホカホカの“銀シャリ”ができあがっている。

 食べてみると、普通のごはんとの違いははっきりわかる。米の1粒1粒がしっかり炊けており、潰れていない。弾力があり、柔らかすぎない食感は、オーバーかもしれないが、口の中でとろけるような感覚さえある。ごはんの甘みもあり、おかずなしでもそのままでおいしさが感じられる。これは本当においしい! 絶品だ!

 このNP-SS10の広告には、ごはんが評判の定食屋「げこ亭」(大阪府堺市)の店主が登場している。私もこの店に行ったことがあるが、店主には申し訳ないがNP-SS10の方がおいしく感じられた。というか、店主も象印のホームページで「(テスト機のごはんを食べて)本当に素晴らしいですよ」と褒めているじゃないか!

家族で食べ比べをしてみたが、口をそろえて「おいしい」との意見

 「いや、こんなにおいしいのはおかしい!」と思い、実家に持って行き母と姉に感想を聞いてみると、私とまったく同意見。実家では、象印の圧力IH式炊飯器の小容量タイプ「NP-RB05」を使っていたが、それよりもおいしいとのことだった。試しに家に眠っているマイコン式炊飯機と食べ比べてみようとすると「そんなことするまでもない!」と断られてしまった。

 ちなみに、通常モードでも炊飯してみたが、やはりこの「熟成炊き」の方が断然おいしい。確かに通常でもおいしいことはおいしいのだが、味も食感も、熟成炊きの方が数段上のような感じがする。調理時間は通常炊飯は約1時間なので、熟成炊きの方が30分も長いが、それだけの価値は間違いなくあるだろう。


こんがりおこげを作る「かまど極め」モード

 NP-SS10には「熟成炊き」以外にも、特徴的な炊飯モードが付いている。それが、“おこげ”を作る、「かまど極め」モードだ。南部鉄器の大火力を利用することで、釜の底をパリッと、中はふっくらと炊くことができるという。

 かまど極めモードでごはんを炊くには、特別な準備は不要。炊飯モードで「かまど極め」を選択し、スタートボタンを押すだけ。内釜やごはんに特別な準備をする必要はなく、通常通りで構わない。炊飯時間は約1時間と、熟成炊きよりも短いが、それ以上に蒸気の吹き出す勢いが強い。

 できあがったごはんは、表面上はふつうの仕上がりだが、釜の底をひっくり返すと、こんがりとしたキツネ色のおこげができている。これは見事。食感もカリッとしており、これは正真正銘のおこげだ。

かまど極めモードの炊き上がり。表面はあまり特徴がないしかし、底にはキツネ色のおこげが!

 ただし、ごはん自体の味は、正直熟成炊きの方がおいしい。おこげを作るために相当量の水を蒸気として飛ばしているのか、単純に炊飯時間が短いからか、おこげ以外の食感や味は、特筆するほどのものではない。もちろん、おいしいことはおいしいが、熟成炊きに勝るほどではなかった。


おこげをより楽しむなら「湯の子」モードで

 さて、本製品ではこのおこげを利用した調理モードも用意されている。それが「湯の子」モードだ。湯の子とは釜の底に焦げ付いたごはんをおかゆにして食べる、昔ながらのメニューらしい。恥ずかしながら湯の子というものの存在を知らなかったが、ここは一度作ってみよう。

 本体に付属のレシピには、4種類の湯の子メニューが載っている。今回はその中から、「豆腐チゲ湯の子」に挑戦することにした。

 調理方法は、まずはわずか1/2カップの米を「かまど極め」で炊く。炊き上がったら取り消しボタンを押し、釜の中に水と甜麺醤(テンメンジャン)、豆腐と春雨を入れて、「湯の子」メニューでもう一度炊飯する。約15分で同メニューが終了した後は、これとは別に炒めておいた、コチジャンをすりこんだ豚肉、きのこ、キムチを釜の中に入れて混ぜればできあがり。あとは器に盛れば完成だ。

湯の子メニューでは、まず1/2という少量の米を「かまど極め」で炊く炊き上がりはこんな感じ裏側はしっかりとおこげができている
その後、水と調味料、豆腐と春雨を入れて、「湯の子」メニューでもう一度炊飯湯の子モードはわずか15分と短い
湯の子モードが完了したところ。ごはんが水を吸ってふやけているこれに、別途炒めていた肉と野菜を入れれば、豆腐チゲ湯の子の完成
歯ごたえのある湯の子と、辛いスープの相性が抜群。これはうまい!

 食べてみると、これがとてもおいしい。言ってみればおかゆなのだが、おこげの堅い食感が残っており、いわゆるおかゆよりも歯ごたえがあっておいしい。辛いチゲ鍋との相性は抜群だ。まさか炊飯機でこんな料理まで作れてしまうとは驚きだ。今回は1人分の分量で作ったが、意外とボリュームがあり、1人では食べきれなかったほど。米が1/2カップで大丈夫かと思ったが、まったくの杞憂だった。

 というわけで、非常においしく、お腹いっぱいにいただけたこの湯の子メニューだが、欲をいえば、レシピをもう少し増やしてほしかった。とてもおいしいのに、レシピに載っているパターンが4つしかないというのは寂しすぎる。もっと手軽に作れるメニュー、あるいはさらに手を掛けた“グランドメニュー”的なものもあると、よりこのモードが楽しめそうだ。


蒸気セーブもできるけど、味は落ちる

 このほかにもたくさん炊飯モードがあるが、今回はその中の蒸気セーブメニューを使ってみよう。これは本体からの蒸気をカットするモードだ。最近の炊飯機は、安全のため蒸気の吹き出しをカットする“蒸気レス”がひとつのトレンドになっている。

蒸気セーブモードは蒸気の放出量が少なく、蒸気口手で触れても熱くなかった【注意】あくまで実験のため蒸気口に触れています。蒸気セーブモードでも蒸気は放出されます。また説明書では蒸気口に手を触れることを禁じています

 このモード、確かに炊飯中は蒸気があまり出てこない。説明書によれば、蒸気はまったく出ないわけではないとしているが、蒸気吹き出し口の近くを触っても、熱すぎることはない(注:説明書では蒸気口に手を触れることは禁じられています)。熟成炊き、かまど炊きでビュービューと蒸気を吹き出していたのがウソみたいだ。

 ただし、できあがりのおいしさは、熟成炊きよりもかまど炊きよりも、標準モードよりも落ちる印象。どうも火力が弱いせいか、固く、水っぽく感じられてしまった。せっかくおいしいごはんを食べるための高級炊飯器で、この味はちょっと残念だ。

 なお、本製品には消費電力を抑える「エコ炊飯モード」というものもあるが、こちらも蒸気レスモードと似たような感じで、蒸気を抑える一方で、仕上がりはやや固めだった。

 このほかにも、しゃっきり~もちもちで仕上がりを5段階に変えるモードや、おかゆ・玄米モードなど、多彩な炊飯機能が用意されている。すべて試すことはできなかったが、炊飯に関するひと通りのことはカバーしているようだ。

 なお、これは圧力式の炊飯機では当然の話だが、炊飯後は毎回、内釜に加えて内フタとフタカバーを洗う必要がある。これを忘れると、フタに蒸気の跡などがくっついてしまい、取れにくくなる。パーツは簡単に取り外せるので、ちょっとの手間でも忘れずにやっておこう。


おいしい炊飯機が家で待っている安心感。外食が減った!

 ひと通りこの炊飯機を使ってみたが、結論としては「もうコレ以外の炊飯機ではごはんが炊けない!」という結論に至った。おいしい米も普通の米も、熟成炊きでもっとおいしく炊けてしまう。

 外食するよりもあきらかにおいしいごはんが食べられるため、食事を家ですることが多くなった。この「我が家にはごはんをおいしく炊くスゴイ奴が待っている」という安心感は心強い。家に帰れば、はずれなしの夕食が食べられるのだ。それを考えると、毎日自炊する方はもちろんのこと、外食中心の方にも向いているかもしれない。

 はっきりいって大変満足しているが、より改善できる点を挙げるとなると、蒸気カット時の味の向上か。“蒸気がなくて味もうまい”というのはかなり難しい要求だが、業界の流れは蒸気なしの方向へ向かっている。それを考えると避けては通れない道。象印の開発陣も、頭を悩ませているところだろう。

 実売約10万円という価格は確かに高いが、外食で高いお金を払い続けるのが減ることを考えれば、そこまで痛い出費にはならないはず。量販店のセールやポイントサービスなどを利用して、ぜひ一度、熟成炊きの味を体感していただきたい。きっと生活が良い方向に変わるはずだ。






2012年6月5日 00:00