【ミラノサローネ2012】
太陽光パネルで“光合成”を再現――デザインや技術で文化を発信する日本企業

 ミラノサローネは椅子から時計、ファッション、車、発電所まで非常に幅広いもののデザインが提案されるため、その全体像を伝えることは難しい。まずは、開催前日にプレス向けに公開されていた展示の中から、いくつか印象に残った日本企業の展示を中心に紹介したい。

パナソニックは太陽光パネルを用いた“光合成”など、近未来のエネルギーと光を提案

パナソニックは“光合成”をテーマに、太陽光パネルのインスタレーション(空間芸術)「Photosynthesis」を展示した

 ミラノサローネに出展する日本企業と言えば、照明器具などで有名なパナソニックも常連だ。

 同社はこれまで、ミラノの中心街の一軒家などを借りた展示が多かったが、今年はミラノ大学の中庭と、その周りの回廊を貸し切り、展示を行なった。展示構成を手掛けたのは建築家の平田晃久氏。

 展示タイトルは「Photosynthesis(光合成)」で、中庭の中央に、木の葉のように上下左右バラバラな方向を向いて並べられた太陽光パネルによる構造物「Pavilion」が置かれている。これまで太陽光パネルは最も効率的という理由で平面に並べられることが多かったが、立体的に組み上げると下の空間も活かすことができ、太陽が動いても、常にどこかのパネルが太陽光を浴びて発電できる点が特徴だ。

 また、回廊(コリドー)を歩くと、LED電球によるシャンデリアが現れる。

 LED照明は本来、指向性が強く、一方向だけを照らす傾向が強かったが、上方向も含め全方向をまんべんなく照らす同社の「LEDクリア電球タイプ」を多数吊るしたシャンデリアとなっている。

 続いて、いくつか巨大バルーンによるシャンデリアが登場する。このバルーンのシャンデリアは2種類あって、1つはLEDを1灯に集積した“ワンコア”タイプの光源「LUGAショップLED」を搭載したもの。影の輪郭がくっきり出る点が特徴だ。光のフィルタを使って色を加えることもできる。

 もう1つは、明るさと光色が連動して変化する「シンクロ調色LED」を搭載したものとなる。これは回廊の反対側にタッチセンサー式のスイッチがあり、これを使って色を自在に変えることができ、それぞれの違いを比べながら楽しめた。

回廊にはクリアLED電球を採用。太陽光で発電した電気を使用する回廊には巨大なバルーンが設けられているが、これはLEDのシャンデリアだ

【2012/04/24 追記】夜の画像と動画を追加しました

「シンクロ調色LED」で調色しているところ
有機EL照明を用いたシャンデリア

 一方、回廊の入り口には、見られることを意識して背面まで美しくデザインしたという、有機ELパネルの立体的なシャンデリアが飾られていた。

 照明用のスイッチもいくつか展示されていた。目を引いたのが、スイッチを押した場合と単にタッチしただけの場合で、点灯する光の明るさが変わるスイッチ。さらに、電波を使って照明をON/OFFできるワイヤレススイッチもあった。携帯して利用する以外にも、スイッチを付け足したい場所に、両面テープを使って貼ることも想定されているという。

 このほか、玄関などに設置し、家の電気すべてを一斉に消すことができるALL OFF スイッチや、タッチして光の強さを調整したり、色を調整できるスイッチもあった。さまざまな素材のスイッチが飾られており、中には、日本家屋の塗り壁と同じ珪藻土のものもあった。

さまざまな照明スイッチも用意されていた写真は電波を使ったワイヤレスタイプ壁スイッチにはさまざまな素材が用意された。中には珪藻土もある
Lumiotecは、合わせ鏡で有機ELの照明空間を無限に広げる「Line Light fall」を展示していた

 なお照明関係では、同じく日本のLumiotecも、有機EL照明を中心とした展示を行なっていた。同社は昨年も組んだ建築家/デザイナーの三井直彦氏と再び組み、今回は「Line Light fall」というタイトルで有機EL照明が無限に続く、合わせ鏡の空間を作り出し、好評を得ていた。


キヤノンはピアノ線に光を放つ繊細な作品を展示

 ミラノサローネで毎回実感するのが、世界において日本のデザイナーがいかに注目されているか、という点だ。イタリアの高級家具のデザインなどでも、注目の新作などは日本人デザイナーが手掛けていることが多い。こうした日本のデザイン力を世界に発信すべく、日本の若い才能を発掘し、インスタレーション(空間芸術)などを通して世界にアピールしている日本企業も多い。

 その代表的な会社がキヤノンと東芝だ。残念ながら東芝は今年の展示は見送ったようだが、キヤノンは2008年から続けている「NEOREAL」と呼ばれる、新しい表現を模索する展示を行なっている。

 今年は「NEOREAL IN THE FOREST」と題して、建築家の中村竜治氏が手掛けた「Spring」、ファッションデザイナーのミントデザインズと映像アーティストの志村信裕氏のコラボレーションによる「Fall in Pop」、フォトグラファー大木大輔さんの写真をキヤノン総合デザインセンターのデザインチームがプロジェクター4台の映像を1枚に重ねて表示させた「Super Nature」の3つのインスタレーション作品を展示した。

 会場は、フオリサローネの中でもっとも勢いがあるトルトーナ地区の、その中でも特に勢いがある巨大展示施設「スーパースタジオ・ピウ」の大ホール。会場構成はミラノで活躍するデザイナーの森ひかる氏が手掛け、森を思わせる環境音はサウンドデザイナーの畑中正人氏が手掛けた。

 「Spring」は、細いピアノ線でつくられた自立する構造体に映像を投影した作品。吊るしているのではなく、ピアノ線で組まれた巨大ジャングルジムのような構造体が真っ暗な部屋の床に置かれている。

 天井のプロジェクターから模様や文字など4分ほどの映像が投影されると、ピアノ線がその光を受けてかすかな光を放ち、構造体が暗闇の中に煌めく線として姿を現す。非常に繊細な作品だが、オープンの直後から大きな賞賛の声を浴びていた。

キヤノンのブースで展示された「Spring」。ピアノ線で作られた構造対に映像を投影しているかすかな光が暗闇の中に煌めく線として姿を表す

 続く「Fall in Pop」では、「グラスオーガンジー」という、ポリエステル製の光沢があるテキスタイル(織物)を円形に吊り、その内側から映像を映し出した。光はテキスタイルを透過し光沢のある床にも映し出され、来場者そのものが光のテキスタイルでくるまれているような不思議な感覚を味あわせてくれた。

 3つめの「Super Nature」では、キヤノン製フルHDプロジェクタ「WUX4000」4台を使い、デジタルシネマ相当の繊細で解像感のある1枚の映像を映し出した。

続く「Fall in Pop」では、ポリエステル製の光沢があるテキスタイル(織物)を吊り、内側から映像を映し出す来場者そのものが光のテキスタイルでくるまれているような不思議な感覚が味わえる「Super Nature」は、キヤノン製フルHDプロジェクタ「WUX4000」4台を使って1枚の映像を映し出した

LIXILは泡で温まる浴槽を展示

LIXILは、泡で温まる浴槽「Foam Spa」で、風呂の新たな可能性を打ち出した

 日本の文化に根付いた製品を通して、暮らしの新しいカタチを提案する企業もある。それがLIXILだ。同社は「Foam Spa」という名で製品化している、風呂の表面を泡で覆う技術を使った新しい生活提案を行なっている。

 昨年は「Furo」の名前で、喜多俊之氏がバスタブの形からの提案を行なったが、今年はデザインシンクタンク「原デザイン研究所」の原研哉氏が「a new desire(新しい欲望)」と題した展示を企画、スタイリングではなくフォームの風呂の可能性をヴィジュアライズする形の展示とした。

 「Foam Spa」は、風呂の湯の表面をカプチーノの泡のような柔らかい流体の泡で覆うことで、湯気を出さずに身体を温め、休めることができるのが特徴だ。湯気が発生しないため、眼鏡が曇ることもなく、本などの紙を湿気させることもない。それによって、バスタブが風呂場を飛び出して、これまで湯船をおくことを思いつかなかったようなリビングルームや書斎に置かれる可能性を提案したものになっている。

 バスタブは、この技術の特徴である「湧きだし溢れる泡をそのままかたち」にしている。バスタブそのものが白いため、どこまでが泡で、どこからがバスタブかわからないデザインがユニークだ。

バスタブは、この技術の特徴である「湧きだし溢れる泡をそのまま形にしているリビングルームや書斎に置かれる可能性を提案している


  今回のレポートは日本企業の取り組みの紹介を中心とした。日本は数年前までグッドデザイン振興会が出展し、日本のデザインをアピールしていたが、今では企業や個人での取り組みが目立っている。

 今後のレポートでは、海外企業のデザインなども紹介していくつもりだ。






(林 信行)

2012年4月19日 00:00