イベントレポート IFA 2015
サムスン、ネットワークと暮らしにつながるIoT家電の「現在形」
(2015/9/7 12:01)
サムスン電子は昨年にメッセ・ベルリンの新しいホールとして開館した「CityCube」のメインホールを丸ごと使った豪快な展示を行なっている。
ただ、ホールの印象は昨年までとはかなり変わって、より洗練されたように感じた。来場者がブースを移動する際の動線に気遣い、製品のポイントを押さえて配置しながら道幅も広くレイアウト。BtoBも含めてサムスンが扱うセグメントごとに商品とサービスが整然と並べられていて、いまのサムスンが何に一番力を入れているのかとてもよくわかる。
今年の展示全体を束ねているテーマは、カンファレンスでも重要なキーワードとして繰り返し語られた「IoT(Internet of Things)」だ。
ブースの中央には、イタリアの著名建築デザイナーであるFerruccio Laviani氏がプロデュースした特別展示「IoT Zone」が鎮座する。招待客に限って入場が許可されているインビテーション・オンリーのスペースなので、一般来場者が足を踏み入れることができないのが何とも勿体なく、歯がゆく感じられるほど。いまのサムスンが“遠い未来の出来事”ではなく、近い将来のビジョンとしてIoTをもって何を実現したいのかがみえてくる展示内容だった。
特にコンシューマーの生活に密着したかたちで「サムスンのIoT製品が生活に組み込まれることによって、実現される豊かな暮らし」の姿が明確に見えてくるパネル展示は興味深いものがあった。
その展示と向かい合うことで、サムスンが掲げるIoTの構想には「In Sync With Life(生活とのハーモニー)」「IoT for you(人のためのIoT)」という、スマートホームの実現に主眼を置いたメッセージの横串が通っていることもしっかりと伝わってくる。
iPhoneにも対応する睡眠解析デバイス
では、実際に今年のIFA2015でサムスンがどんな製品を発表したのか見ていきたい。同社は現地時間9月3日にプレスカンファレンスを開催している。当日、サムスン電子のデジタルアプライアンス事業部バイスプレジデントのYoon C.Lee氏が壇上で発表した新商品に「Samsung SleepSense」がある。
本製品はセンシングや、モバイルアプリケーションの先端技術を駆使して「睡眠の質」を改善しながら健康を維持・増進することを目的としたヘルスケア商品だ。サムスンの本拠地である韓国、およびアメリカでは既に販売がスタートしている。ヨーロッパでの発売時期は決まっていないが、今回のIFAではとりわけ強くスポットを当てているので、近く導入が検討されていることは間違いないだろう。
本機のコアとなる睡眠解析センサーは、イスラエルに本拠地を置く企業が開発したものであるという。ユーザーの肌にセンサーを直接あてることなく、最大97%の正確性でデータが計測できるところが大きな特徴だ。
使い方は本体にコンセントを差して、眠る前にベッドのマットレスとシーツの間などに挟んでから就寝。本体に内蔵する心拍/呼吸/モーションセンサーがユーザーの睡眠状態をリアルタイムに解析しながらデータを残し、朝起きたらスマホアプリに睡眠の記録が蓄積されているという使用フローになる。
ユーザーの睡眠解析は「トータルの睡眠時間」「睡眠効率」「深い眠りに落ちるまでにかかった時間」「睡眠中に目覚めた回数」「ベッドから出た時間」「レム睡眠状態の頻度」「深い睡眠が得られた比率」という全7項目のスコアで評価される。心拍数の動きなど個別の項目をそれぞれに作成されるグラフで読み取ることもできる。
さらにユーザーの健康に関連する客観的なデータを提示するのではなく、「ではどうすれば睡眠の質を改善できるのか?」というユーザーの関心に答える具体的な処方箋となるアドバイスもアプリ上で提供できるという。
ペアリング可能なスマートフォンはサムスンのGalaxyシリーズに縛られてしまうのかと思いきや、Bluetooth接続ができるデバイスであれば、プラットフォームはAndroidでもiOSでもいけてしまうそうだ。
モバイルのカテゴリーでは、最大のライバルであるアップルのiPhoneとサムスンのGalaxyが激烈な闘いを繰り広げていることは周知の通り。だが“理想のIoT”を実現し、いち早く市場のポールポジションを獲得するために“iPhoneユーザー”という大きなパイをしっかりと取りにくるところにサムスンの逞しさを感じずにはいられない。ちなみに後ほど紹介する、最新のネットワーク対応洗濯機やロボット掃除機をコントロールするためのアプリもAndroid/iOSコンパチブル仕様だ。
なお「SleepSense」はスタンドアロンでユーザーの睡眠サイクル管理ができるだけでなく、サムスンのネットワーク対応のエアコンや薄型テレビにWi-Fi経由で接続できる。例えばユーザーが寝ている間に快適な睡眠が得られるようエアコンの風量や温度を自動調節したり、目覚める直前にテレビを点灯して心地良く起こしてくれるアラーム機能なども実装されている。
オープンプラットフォームで充実したホームセキュリティ機器
サムスンは、2014年にスマートホーム向けのプラットフォームを開発する米SmartThings社を買収。現在はサムスンのグループ企業となったSmartThingsの、新しい製品群もサムスンのブースで一望できた。
中核となるデバイスは「Samsung SmartThings Hub」。SmarthTings対応ネットワーク機器のコントロールセンターとなる言わば“脳”の部分を司る高機能プロセッサー内蔵するボックスだ。昨年までSmartThings社が独自に展開してきた製品に改良を加え、ビデオモニタリングやバッテリーバックアップ機能を追加した新しいモデルがサムスンのブースに展示された。
サムスンブランドからは、ホームセキュリティ用途を目的とした人感センサーや、ネットワーク経由の電源マネージメントを実現する電源プラグなどバラエティに富んだラインナップが供給される。アメリカ・カナダではIFAの本会期が始まった9月4日に発売され、来週からはイギリスで、以降順次ヨーロッパの各地域で展開を予定している。
SmartThigsの優位性は、オープンプラットフォームであること。サムスンブランドの製品に限らず、同じプラットフォームに賛同するメーカーのネットワークカメラやサーモスタットは既に商品化を完了している。そのため、これらを組み込んですぐに充実したスマートホーム、スマートセキュリティ環境が構築できることが大きな強みだ。
これらの機器をコントロールするためのモバイルアプリ「SmartThings」からは、設置した機器ごと、あるいは部屋単位での細かいマネージメントが可能になる。そして、こちらのアプリもAndroidとiOSをともにサポートしている。
ユーザーの操作性にこだわったスマート家電
ホームアプライアンスの展示コーナーには、サムスンが注力する製品群が一堂に集まっている。昨年までの展示から少し変わった点として、今年は同じ型番の製品をむやみに数多く並べず、特にイチオシのヒーローモデルの実機展示は数を控えめにしていた。フォーカスしたい技術や機能について、パネルや製品の模型をつくりこんで、来場者への機能説明に力を入れて取り組んでいるように感じられた。
洗濯機やロボット掃除機は電源を入れて実演スタイルで紹介している。特にWi-Fiで接続して、アプリで本体設定や機能のコントロールができるフラグシップモデルについては、展示説明のスタッフを厚めに配置して機能をわかりやすく伝えていた。
筆者もそれぞれの商品でアプリをつかって、どんなことができるのか説明を聞きながら展示をまわってみた。サムスンのスマート家電は自社開発のアプリ「Samsung SmartHome」で一括管理・コントロールができるのが特徴であり、ユーザーに取って非常に利便性が高いと感じた。
ホーム画面には現在、サムスンが展開する洗濯機/エアコン/冷蔵庫/オーブン/ロボット掃除機/照明器具/空気清浄機といったネットワーク接続ができる家電製品のリストが並ぶ。動かしたい製品のアイコンをスワイプして切り替えながら、それぞれに詳細設定やコントロールがスムーズにできるユーザーインターフェースに仕上がっている。グラフィカルで操作に迷わないシンプルなデザイン。操作への反応も機敏で心地良い。ちなみにこのアプリもAndroid/iOSの両方に対応している。
ロボット掃除機の機能などを詳しく説明してくれたサムスンのスタッフに、「これだけバラエティ豊かなスマート家電の品揃えがあって、アプリからスムーズに操作できる使い勝手を既に実現しているのは見事。確かに今年のサムスンのIoTはひと味違う」と素直に感想を伝えてみた。
すると、「いや、これはまだ序の口です。いまの時点ではWi-Fiでネットワークにつないだ家電をアプリでマニュアル操作できるようになっただけ。サムスンが遠くない未来に実現しようとしている本当のIoTは、ユーザーの行動パターンやライフスタイルの好みを機器が学習して、例えば“帰宅時間に合わせてエアコンで室内を快適な温度にしておいて、好きな音楽をかけてお迎えする”といった、インテリジェンスを備えた家電が実現する生活です。これこそが今回のIFAでハイライトしている“In Sync With Life”であり“IoT for you”の真の姿なのです」と力のこもった返事が返ってきた。
スマートウォッチと連携できる「車のIoT」
最後に、サムスンのブースでは「車のIoT」についても最新のサービスが展示されていたことを報告しておきたい。パートナーは、ドイツ大手の自動車メーカーであるフォルクスワーゲンとBMW。
サムスンがIFAで発表したスマートウォッチ「Gear S2」の3Gモデルを使って、車のネットワーク通信モジュールにつなぎ、燃料やバッテリーなど車のコンディションを手元のスマートウォッチでチェック可能。ほかにも、エアコンのリモートコントロールやナビゲーション、マップ機能と連動して自分の車を駐めた場所をスマートウォッチで確認できるといった用途が実現されている。
BMWの展示コーナーで、Gear S2にインストールしたBMW iRemoteアプリによるデモンストレーションを体験できた。BMWの車種i8/i3シリーズで既に提供されているサービスであるという。
今年のサムスンは、昨年までのハイライトだった4Kテレビから完全にシフトして、家の中から屋外まで既に利用可能なサービスとして実現している「IoT」に徹底してスポットを当てていた。
AV家電からIT・モバイル、そしてホームアプライアンスまで、幅広くエレクトロニクス製品を扱うサムスンと、それらのカテゴリーを一望できるショーであるIFAでこそ実現できる展示は見応えがあり、暮らしに直結したIoTの具体をリアルに感じることができた。