家電製品ミニレビュー

東芝「Dynario」

~モバイルバッテリーとしての燃料電池の実力は
by 林 佑樹
東芝「Dynario(ディナリオ)」

 2010年、最も期待されるエネルギーのひとつに「燃料電池」がある。たとえば家庭では、ガスから水素を取り出して発電する「エネファーム」、自動車でも動力に使用した燃料電池車が登場しはじめている。

 そしてこの冬には、手軽に持ち歩いてモバイル機器などを充電できる、ポータブル電源の燃料電池までも登場した。今回は、そんな燃料電池、東芝「Dynario(ディナリオ)」を紹介しよう。


メーカー東芝
商品名Dynario(ディナリオ)
品番PF60A000001
購入店舗東芝直販ショップ
Shop1048
(3,000台限定販売)
購入価格29,800円

燃料電池って何?

 ところで、読者の中には「燃料電池って何?」という人も多いだろう。燃料電池とは、簡単に言えば「水の電気分解」を逆にすることで発電する仕組みだ。理科の授業で見たことがあると思うが、水に電気を流した場合、水素と酸素に分解される。つまり、これを逆転させれば、水素と酸素から水と電気が生まれるというわけだ。

 燃料電池が発電する方法はガスを利用する方法や、食品を使うものもあるが、Dynarioではメタノールを使用した「DMFC方式」を採用している。DMFCとは、ダイレクトメタノール形燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell)の略称。メタノールを燃料として、化学反応で生じる電気を利用するというもので、言ってみれば、電池というよりも発電機なのだ。

Dynarioの発電方式は「DMFC方式」。メタノールを使用するため、これ単体では燃料電池として動作しない東芝燃料カードリッジ内の高濃度メタノールが、Dynarioの燃料となる

 DMFCの具体的な仕組みを紹介すると、まず燃料となるメタノール水溶液をアノード(燃料極)というところに供給する。すると、メタノールが電子(e-)とプロトン(H+。水素イオンのこと)と、二酸化炭素(CO2)に分解される。この時の電子がそのまま電気となり、さまざまな機器に使用される。電子はその後、カソード(空気極)というところへ移動し、プロトンとともに、空気中の酸素と反応、水蒸気(H2O)となって排出される。これが、DMFCの一通りのサイクルである。

 このあたりは使う上であまり意識することはないが、とりあえず機器の内部ではこんなことが起こっているということを、頭の隅にでも入れておいていただきたい。

 ところで燃料電池といえば、“クリーンな電源”というイメージがあるが、DMFCではその仕組み上、どうしても温室効果ガスの一つであるCO2が発生してしまう。とはいっても、発生する量はごく微量。もちろん、火力発電で発生するような窒素酸化物や硫黄硫化物(大気汚染につながるとされる)は発しないので、クリーンであることには違いはないだろう。
 

十分に携帯できるサイズ


 発電する仕組みが分かったところで、Dynarioを触れてみよう。

 Dynarioの本体サイズは、150×21×74.5mm(幅×奥行き×高さ)。一般的なモバイル電源と比べると大型だが、発電する仕組みを考えれば十分にコンパクトだ。重量は約280gとやや重め。

 本体の正面を見ると、ほとんどがメッシュで占めてられているが、これは吸気と発電時に生じる微量の水蒸気を排出するためのもの。そのほかは燃料タンクのメタノール残量がわかるゲージ、出力スイッチとシンプルだ。裏返して本体底部を見ると、直立させるための回転式スタンドと、メタノールの注入口がある。

本体は150×21×74.5mm(幅×奥行き×高さ)とギリギリ手のひらサイズ。重量は約280gとモバイルバッテリーとしては重い部類に入るサイドには独自形状の端子。専用のUSBケーブルで電気の入出力を行う底面には、本体の主電源と燃料注入口がある。左側のスタンドは回転式で収納時に邪魔にならない


 側面には、付属のUSBケーブルの差し込み口がある。ここに挿したケーブルと、モバイル機器のUSBケーブルを接続することで充電できるわけだ。本体への接続は独自形状の端子となっているため、付属のケーブル以外の使用は不可能となっている。出力はDC5V 400mA。

付属の専用ケーブル端子は東芝独自の形状なので、中身はUSBケーブルといっても一般的なUSBケーブルは使用できない付属の入力ケーブルと出力ケーブル。片方は普通のUSBおなじみの端子形状だ
専用ケースはDynarioを入れたまま使用する前提でデザインされている本体以外に専用ケーブルを収納するスペースもアリ。基本的にセットで持ち歩くことになるカバンに入れてみたところ。薄いため、肩掛けカバン程度の大きさであればあまり邪魔にならない


メタノールで発電、余剰電力はリチウムイオン電池に充電


 さっそく充電をしたいところだが、その前に本体内に燃料となるメタノールを注入する必要がある。

 メタノールの補充には、Dynario専用の燃料カードリッジを使用する。この中には、高濃度メタノールが50mlが入っている。5本入りで3,150円だ。

 補充方法は、カートリッジのキャップを外し、燃料カードリッジを本体の燃料注入口に取り付け、プッシュバーを押すだけ……なのだが、最初はやり方に手間取るかもしれない。というのも、まずキャップがなかなか開かない。キャップを下に押しながら反時計方向に力を入れてやっと外せた。単体でカードリッジ中央のプッシュバーを押しても内容液は漏れ出てこないことを考えると、これらは誤用を防ぐための仕様だろう。

 本体の燃料タンク容量は15ml。注入量は正面にある燃料ゲージで確認できるが、初めての燃料注入でも20秒程度で済んだ。手順さえ覚えてしまえば乾電池感覚で使えてしまう。

燃料カードリッジのキャップを取っても、本体にセットしてプッシュレバーを押さないと、内容液は出てこない仕組み本体側の燃料注入口は小さく、燃料カードリッジのノズル部分は精巧な作り。雑な取り付けは厳禁極力本体に対して垂直に燃料カードリッジをセットしてプッシュレバーを押すと、メタノールが注入されていく。およそ20秒くらいで終了する

 本体底部のスイッチをONにすれば、いよいよ発電がスタートする。発電中は振動やニオイ、音も特に感じられず、淡々と進んでいく。出力ボタン長押しのあと電子音がわずかに聞こえるくらいだが、その時間は短く、以降は無音。DMFCの性質上、発電中は水蒸気が発生するのだが、メッシュ部分に触れても“湿ってるかも?”程度。いわゆるケータイバッテリーと印象は変わらない。

 ただし、熱は発生する。発電中は本体はホッカイロ並みに暖かくなるが、専用ケースに入れておけばほとんど熱は気にならない。

 Dynarioは、モバイル機器の充電が終わると、内蔵のリチウムイオン電池を充電する運転へと切り替わる構造になっている。本体が熱を持ったのも、リチウムイオン電池を充電していることの影響だろう。この内蔵リチウムイオン電池の充電は、付属の入力用USBケーブルでも可能だ。

スタンドを回すと見える本体スイッチをONにする。別段、OFFにする必要はないので、あまり操作することはない正面にある出力スイッチを長押しすると、ランプが点灯する。青色が発電モニター、赤色が内蔵電池充電モニター。写真の状態は、燃料電池で発電しながら、内蔵電池に充電中、ということを示している
本体正面左端には燃料ゲージがある。青色が残り燃料だ内蔵のリチウムイオン電池はUSBの入力ケーブルを使えば、PCなどのUSB接続で充電できる

 気になる充電能力だが、リチウムイオン電池の補助込みでDC5V 400mAとなっており、平均的なケータイ電話を充電するとした場合、1回の燃料注入で2回充電できることになる。カートリッジは50ml、本体のタンク容量は15mlなので、単純に計算して7回は充電可能といったところだ。

 燃料カードリッジは5本セットで3,150円で、Dynario本体と同様東芝のShop1048で販売されている。1本630円で、1本当たり携帯電話が7回充電可能なのだから、携帯1回あたりの充電コストは 630÷7 = 90円となる。乾電池と比べても安いじゃないかと思ったが、この計算に本体価格を加えれば、価格はさらに跳ね上がる。日常生活で使うには、本体の価格がお手頃になってからが本番となるだろう。


iPhoneにスマートフォン、果てはLEDライトまでOK!


 さて、本製品はUSBで充電するため、接続できる機器は幅広い。そこで、どれほどの機器が充電できるかを試してみたい。

 小生所有のモバイルガジェットは、ソフトバンクの「iPhone 3GS」、ケータイはドコモの「T-01A」と、MP3プレイヤーはソニー「ウォークマン NW-X1060」、ゲーム機はニンテンドーDSとPSP(PSP-3000)。オフィシャルのサポート情報には、iPhone 3GSとウォークマンの品番は掲載されていない。しかし、いずれもUSB経由充電が可能なので、出力的にはDynarioも対応しているハズ。これらのガジェットをさわりながら、バッテリが減った状態でDynarioで充電した。

iPhoine 3GSでは、バッテリー残量がなくなり、シャットダウンした状態からでも充電OK。バッテリー残量13%になったところで、自動的にiPhoneOSが起動した
 まずはiPhone 3GS。iPhoneの場合、バッテリー残量が20%以下になると要求電力が増加し、純正品以外の充電器では充電できないものもあると聞く。しかし、このDynarioでは、電池残量が何%でも、完全に電池がなくなった状態でも問題なく充電できた。最終的には、50%くらいまで充電できた。

 細かいことを言うと、たまに「アクセサリ非対応」と表示され、再接続すると充電が再スタートするということもあった。また、ケーブルを引き抜くとバッテリー残量が急に増えたり減ったりする現象も発生した。
電池状態が何%でも、常に充電できたバッテリーなしの状態から充電をし続け、残量50%になったところで「充電には対応していません」のエラー発生。ただ、コネクタを挿し直してみたところ再開されたこのエラーはときおり起こる。発生条件はいまいち不明

 それからも、ウォークマン、ニンテンドーDS、PSP、LEDライトなど、さまざまな機器で充電を試したが、全て充電できた。さらに気になったので、友人のケータイ電話を試してみたが、いずれもOKだった。というわけで、給電機能はまったく問題なし! 寒空の下の撮影シーンでは、ケースから取り出してカイロ代わりする利用法も発見できた(ちょうどいい温度だった)。


 いろいろ試した後の燃料ゲージを見ると、100%で開始したのに、いつのまにか残り10%になってしまった。普段の外出ならばここまで減ることは無いだろうが、今回のようにいろいろな機器をとっかえひっかえに充電する用法には向いていないだろう。

T-01Aは問題なく充電できたスマートフォンの「EMONSTER S11HT」も充電OKエヴァケータイもやはり充電可能だった。大半の携帯電話・スマートフォンには対応しているとみていい
ウォークマンNW-X1060は東芝サイト上のリストになかったが、充電を確認できたサンコーレアモノショップで購入したUSB電源のLEDライトもばっちり点灯した
ニンテンドーDS Liteは充電可能だった。DSiやDS LLも充電できそうだPSP-2000で充電テスト。DC IN 5V端子に変換させているが、問題なく充電が開始PSP-3000でもチェック。初回は反応なかったのだが、差し直したところ充電が開始された


性能は十分、本体の低価格化と燃料カードリッジの入手経路がカギ

 3,000台限定販売、価格は29,800円ということを考えれば、普段使いの製品というよりも、最先端好きな人向けのガジェットといえる。価格の高さに加えて、燃料カードリッジの入手経路が1つしかないというインフラの少なさを考えれば、まだまだ手軽な製品とは言えない。

 ただし、モバイルバッテリーとしての性能を十二分に備えている点は疑いの余地が無い。東芝だけでなく、燃料電池製品を投入する各社がどう挑んでくるか、これからの動向に注目される。

 1月27日現在では、同社直販ショップ「東芝Shop1048」ではまだ取り扱っている模様だ。新しモノ好きな人、未来の発電装置を体感したい人は、ぜひとも手に入れていただきたい。



2010年1月28日 00:00