藤本健のソーラーリポート

PV Japan 2015で最新の太陽光発電システムをチェック

「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)

 7月29日~31日の3日間、東京ビッグサイトで太陽光発電に関する総合イベント、PV Japan 2015が開催された。一般社団法人太陽光発電協会(JPEA)が主催する形で2008年に始まったPV Japanは今回が第8回目。出展者数は153社/団体と昨年、一昨年と比較するとやや少な目だったためか、会場内も少し落ち着いた印象を受けた。初日に会場内を回ってみたので、気になったところを中心にレポートしてみよう。

太陽光発電に関する総合イベント、PV Japan 2015が、東京ビッグサイトで開催された
出展者数は153社/団体と、去年、一昨年よりは少なかった

 太陽光発電のイベントはJPEA主催のこのPV Japanと、リードエグジビションが主催するPV EXPOの2つがあるが、どちらかというと日本の企業のブースが中心で、日本の太陽光発電事情を俯瞰できるのがPV Japan。昨年までは、ある意味、太陽光バブルのような状況で、お祭り的な雰囲気があったのが一転。今年は、地に足の着いた内容の展示が多く、派手さには欠けるものだった。太陽光パネルのメーカーも、これまではシャープ、京セラ、パナソニック、三菱電機、東芝そしてソーラーフロンティアと国内大手メーカーが揃って大きなブースを出していたが、今年は京セラが出展を見送るなど、やや寂しい面もあった。

東芝~太陽光発電コストが電気代よりも安くなる「グリッドパリティー」

 そうした中、まず東芝が打ち出していたのは「グリッドパリティー」。ポストFIT(フィードインタリフ:プレミアム価格で太陽光発電による電力を売電できる制度)として登場してきたキーワードであり、太陽光発電コストが電気代よりも安くなることを意味しているもの。つまり発電した電気は自ら利用することで、電気代を大幅に削減できる、という考え方だ。

東芝ブース
東芝ブースでは、「グリッドパリティー」を大きく打ち出していた
グリッドパリティーとは、太陽光発電コストが電気代よりも安くなることを意味する
東芝のパネルと組み合わせて使う「グリッドパリティー・キット」。補助金などと組み合わせることで、8年程度で投資を回収できる可能性がある

 これまでの売電中心の考え方とは明らかに異なるもので、東芝ではこれを実現するために「グリッドパリティー・キット」なるものを発表。これは、工場や倉庫などの屋根に設置するための金具であり、東芝のパネルと組み合わせて施工することで、従来より安く設置できるため、補助金などを活用すれば8年程度で投資を回収できる可能性もあるとのこと。現時点では、まだグリッドパリティーの実現には補助金が必要というのが実情だが、夢のグリッドパリティーの実現が目前になってきているのは間違いなさそうだ。

シャープ~太陽光だけでなく、太陽熱も有効利用できる太陽電池パネル

 シャープは新たなアプローチの太陽電池パネルの参考出品を行なった。PVサーマルモジュールというもので、一見見た目は普通の多結晶シリコンの太陽電池パネルなのだが、裏側を見てみると、ここには不凍液が通るアルミの板が張り合わせられており、パネルに集まる太陽熱を集められる構造になっているのだ。この不凍液をヒートポンプユニットに送って熱を受け渡すことで、ヒートポンプでお湯を沸かすのに使うエネルギーを少なくできるようになっている。

シャープが展示していた新たなアプローチの太陽電池パネル。一見、普通の多結晶シリコンの太陽電池パネルに見える
裏を見ると、不凍液が通るアルミの板が張り合わせられている
不凍液の熱を受け取るヒートポンプユニット
ヒートポンプでお湯を湧かすのに使うエネルギーとして利用する

 太陽熱専用のパネルではないだけに、これだけで給湯に十分な熱量が得られるわけではないが、パネルに集まる太陽光も太陽熱も有効利用できるようになっているのだ。しかも、このように熱をヒートポンプ側へ送ることで、パネルの温度を冷やせるのも太陽電池にとっては大きなメリット。これによって発電効率を上げることができ、一石三鳥のような効果を持っているという。

パナソニック~発電効率、発電量を向上させたHIT太陽電池パネル

パナソニックの展示ブース

 パナソニックは、順当に、より発電効率、発電量を向上させた最新のHIT太陽電池パネルの展示を行なった。今回発表したのはパネル1枚で250Wの出力が得られるHIT P250αPlusと、そのハーフタイプであるP120αPlusで、基本性能をUPさせると同時にフレーム構造を小さくすることで実質面積を広げ、セル間の空白部分を作ることにより反射を増やして効率アップを実現させている。ただし、フレームの形が変わったことで従来製品と工法が変わっている。

 一方、フレームの構造はそのままで、従来工法で設置のできる245αPlus、120αPlusという製品も出している。ちなみにPlusは保証期間の強化を意味しており、モジュール保証が25年、機器瑕疵保証が15年となっている。

発電効率、発電量を向上させた最新のHIT太陽電池パネル
従来品のセル間隔
最新モデルではセル間の空白部分を作ることにより反射を増やして効率アップを実現させている

Looop~薄膜のCIGS太陽電池で住宅用に参入

 また住宅用の太陽光発電の分野には新たな企業も参入してきている。これまでDIYで野立ての太陽光発電設備を設置するためのキットを展開してきたLooopが住宅用に参入することを発表。ユニークなのは、一般的なシリコン太陽電池ではなく、薄膜のCIGS太陽電池を採用するという点だ。

住宅用太陽光発電システムに新規参入するLooop
一般的なシリコン太陽電池ではなく、薄膜のCIGS太陽電池を採用する

 CIS/CIGSと呼ばれる太陽電池はソーラーフロンティアが大きく展開しているほか、ホンダなども研究開発に取り組んでいるが、今回Looopが扱うのは台湾製のもので、ソーラーフロンティアのものよりも同じ面積での発電量が多く、価格的にも安く提供できる、としている。すでに住宅メーカー1社との契約は決まっており、そこを通じて今秋より出荷を開始するが、今後も取り扱う住宅メーカーを増やしていきたい、という。

出力制御装置導入問題に対する展示も

 昨年9月、九州電力が系統接続申し込みに対する回答を保留する、いわゆる「九電ショック」が起きたことを契機に、太陽光発電に関する状況も大きく変化してきている。その中で、新たな制度上で大きいのが、出力制御装置の導入だ。

 これは住宅用でも10kW以上の産業用でも、新たに設置する場合、出力制御対応機器設置義務が生じる地域が出てきたのだ。東京電力、関西電力、中部電力の管内を除くすべてのエリアで義務付けられたのだが、具体的な話がなかなか見えてこないのが実情。

 出力制御装置とは、電力会社側からの要請があった場合、出力を止めることができるという機器。ネット経由での要請が来るため、ネット接続も必要になるそうだが、現時点では、その装置自体がまだ登場していない。

 PV Japan 2015では、この問題に対する展示もいくつか見かけた。パワコンメーカー大手のオムロンによると、エナジーインテリジェントゲートウェイというシステムを設置することで、出力制御に対応できるようになるという。ただし、現状まだ細かい規定が決まっていないため、すぐに動作するわけではなく、実際の運用が始まる時点でファームウェアをアップデートすることで対応させる。

 そもそも出力制御の実証実験が、ようやく2016年1月に九州電力の一部地域でスタートするという状況で、導入にはまだ時間的な猶予がある模様だ。また、家庭用より、産業用を優先して抑制するため、当面、住宅用が抑制される心配はなさそうとの話だった。

シャープの展示ブース

 シャープも現行のパワコンが出力制御機能を装備した機器として使えるようになるという。同社は「サンビスタソーラーWEBモニタリングサービス」というものを行なっており、日々の発電量などをネット経由でクラウドに上げ、それをユーザーがチェックできるようなっている。この仕組みを利用して、ネット経由でパワコンのファームウェアをアップデートできるようにしており、これによって出力制御ができるようになっているとのことだった。

新規参入メーカーがモニタリングサービスに注力

リコーでも2014年から太陽光発電の監視サービスをスタート。現在60カ所をモニタリングしている

 比較的地味な展示会となっていたPV Japan 2015だが、その中で非常に目についたのは監視サービスを行う企業が増えてきていることだ。全国的にメガソーラーを含む10kW以上の太陽光発電所が増えてきているが、とくに数多くある50kW未満の低圧システムの場合、モニタリングのシステムを導入していないケースが多く、機器故障のトラブルも増えている。実際、7割以上が導入していない、というデータもあるため、各社がモニタリングサービスや監視サービスの展開に力を入れ始めているのだ。

 これまで太陽光発電とは関係のなかった、リコーや富士通といったメーカーが参入してきているのもユニークな点だ。リコーでは、2014年からサービスをスタートさせ、現在60か所でのモニタリングを行なっている。リコーとしても新規事業であるが、従来のコピー機やルーターなどのOA機器のメンテナンス体制がインフラとしてそのまま活用できる、という考えから事業化したという。

 太陽光発電の監視は、モニタリング装置を使って集中監視を行なう。異常が起こる大半は落雷などによるブレーカーダウンであるため、人が駆けつけてブレーカーを上げるといったことで済むことが多い。いかにすぐに駆けつけられるかが重要になるため、全国に400カ所あるサービスセンターが大きな威力を発揮するというわけなのだ。現在、エンドユーザーからの直接の受け付けは行なっておらず、EPCと呼ばれる太陽光設備の設置業者を介してのビジネス展開を進める。今後も、監視ビジネスを大きく広げていきたい考えだ。

 富士通は、2014年5月より、レオパレス21が全国で展開している屋根借り太陽光発電システムの監視サービスを行なってきたが、今後それを幅広く展開していくという。すでに、レオパレス21の案件だけで、全国で4,119棟/55.6MWとなっているが、それを大幅に増やしていきたいという考え。

富士通はレオパレス21で展開している屋根借り太陽光発電システムの監視サービスを行なう。今後さらに増やしていきたいという
富士通のモニタリングシステムでは、各社のパワコンから直接信号を取り出すので、正確な情報が検知でき、より高精度な監視が可能になる

 このモニタリングシステムの分野では、NTTスマイルエナジーのエコめがねが先行企業として大きなシェアを取っているが、富士通はエコめがねよりも高精度なモニタリングができるようなシステムにしているのが特徴。エコめがねの場合、出力段のところにCTと呼ばれるセンサーを取り付けて電流測定しているので、正確な電力を測定できないのに対し、富士通のシステムでは各社のパワコンから直接信号を取り出すので、正確な情報が検知できると同時に、パワコンからのアラート情報も取れるので、より高度な監視が可能になるというのだ。

“エコめがね”のNTTスマイルエナジーも新型システムを発表

 そうした各社を迎え撃つNTTスマイルエナジーもPV Japanの開催に合わせ、出力制御に対応した新型の「“エコめがね”全量モバイルパックパワコン接続タイプ」という製品を発表した。これは従来のCTに接続してモニタリングするのではなく、富士通と同様にパワコンと直接接続して情報を得るというもの。

NTTスマイルエナジーの監視システム“エコめがね”は、低圧遠隔監視システムのシェアNo.1
参考出品されていた「“エコめがね”全量モバイルパックパワコン接続タイプ」。パワコンと直接接続して情報を得る

 また、単に情報を得るだけでなく、せっかくパワコンとネットとの通信を可能にするのだから、出力制御への対応もこれで兼ねてしまうという発想のシステムになっているのだ。またNTTスマイルエナジーはNTT西日本とオムロンの合弁会社ということもあり、パワコンはオムロン製のものに限定となるが、オムロンのパワコンからの信号はすべて詳細に解析できるため、他社にはできない精度での監視が可能になるという。しかも価格的には従来製品よりも安くできるとのことなので、この辺の各社間の競争は今後激しくなっていきそうだ。

Looopでは、モニタリング用のカメラをオプションで付けられるシステムを参考出品していた

 なお、同じ監視サービス、「みえるーぷ」でシェアを伸ばしてきているLooopは監視システムのオプションとしてモニタリング用のカメラを参考出品していた。従来、太陽光発電の監視装置にカメラを追加すると、かなり高価になり、メガソーラーのような大規模案件でないと、なかなか導入が難しかったが、Looopが出したものは初期導入費用が2万円で、その後特に料金も発生しないという。

 24時間動画ストリーミングをする場合には、別途通信費が発生するが、一定時間置きに静止画を送るタイプでは、通常の監視用のモバイルルーターの通信に入れ込むことができるため通信費もかからないようにする、とのこと。個人で小規模の太陽光発電システムを設置している人などにとっても、大きな味方となりそうだ。

 以上、PV Japan 2015での展示内容についてレポートしてみた。派手さはなくなったものの、今後、日本で太陽光発電をどのように活用していくべきなのか、業界全体で模索していくという意味で大きな意義のあるイベントになっていたように思う。

藤本 健