そこが知りたい家電の新技術

大手メーカー出身者が立ち上げた新たな家電ブランド“cado”とは

 cado(カドー)という家電メーカーを知っているだろうか。2011年に設立、2012年に家庭用空気清浄機、2013年に加湿器を発売した“国内家電メーカー”だ。日本は世界でも有数の家電大国として知られており、何十年も続く老舗メーカーが多い。その日本でなぜ、新しい家電メーカーを立ち上げたのか。

 代表取締役社長を勤める古賀宣行氏と、代表取締役副社長の鈴木健氏に話を伺った。

代表取締役社長を勤める古賀宣行氏
代表取締役副社長の鈴木健氏

元大手家電メーカー出身の2人が代表取締役

 カドーは、ソニーで開発などを経て、中国においてSONY ACBC(Audio China Business Center)のプレジデント職などに就いていた古賀宣行氏と、東芝やamadanaでデザインマネージメント経験がある鈴木健氏の2名が代表を務める。

 古賀氏は、「カドーは古賀と鈴木が出会ったところからスタートしていると言っても過言ではない」と語る。

 そもそも、ソニーにいた古賀氏が自分で家電メーカーを作りたいと思ったのはなぜなのだろう。

古賀社長

 「1980年にソニーに入社してから、オーディオ開発に長いこと携わっており、その後中国の深センに赴任になった。そのときに中国ではまだまだ家電が普及していないことを知り、ビジネスチャンスと感じ、現地で会社を立ち上げたのが最初。Audio China Business Centerという会社で、作った時にはまだ具体的にどういう製品を作ろうか決めてはいなかった。しかし、ものづくりをしたいという想いは強くあった」(古賀氏)

 それが具体的な製品を思い浮かべるようになったのは、会社設立から1カ月ほど経った頃、東北文化学園大学の野崎教授から連絡が来たことがきっかけだった。

 「当時、日本の空気清浄機はイオンを放出するものが主流になっており、野崎先生はその傾向を危惧して、ご自分で空気清浄機の試作機を作っていた。それを手伝ってくれないかというお誘いだった。実際、野崎先生が作った試作機は当時出回っていた空気清浄機に比べると除去能力に圧倒的な差があった。この製品ならば後発でもやれるという自信になった」(古賀氏)

やるなら世界No.1を狙う

 そこからは製品の開発に集中した。

 「ただ空気清浄機を発売してもダメだ。やるからには世界最高の性能を目指さなければダメだと。そこで開発したのがPhoto clear技術。一般的な空気清浄機の多くが消臭効果のある活性炭を使っているが、活性炭は寿命が短く、性能が劣化してしまう。そこで、活性炭のフィルター表面に光触媒をコーティングして、性能を持続させるというもの」(古賀氏)

 独自のPhoto clear技術を搭載した空気清浄機は、まず業務用製品から展開をスタートした。

 「業務用製品で一定の評価を頂いて、家庭用の製品もやりたいという思いが募ってきた。しかし、業務用製品とは違い、家庭用製品はデザイン面が重視される。技術者出身の私は、性能については自信がありましたが、デザインは全くの専門外。そこで、出会ったのが鈴木健でした」(古賀氏)

家電の“ブランド”を作りたい

鈴木副社長

 鈴木氏もまた、日本の大手家電、東芝の出身だ。彼はそこで、10年間、冷蔵庫のデザインを担当していた。

 「冷蔵庫というのは、長い時間使う製品なので、いわゆる普遍的なデザインのものが多い。奇抜すぎるデザインはダメだし、インテリアとしての側面もある。10年間がむしゃらに仕事をしていたが、落としどころを考えながら仕事をするということに、悩むようになってきて、その後、amadanaに転職。当時プロダクトデザインを担当していたのは自分1人だったので、とにかく色々なことを勉強させてもらった。社長の熊本さんとよく話していたのは、とにかく“ブランド”を作りたいということ。どんなにカッコ良い製品を作っても、家電量販店ではそのデザインをアピールするのは難しい。販路を開拓して、そのブランドのらしさを貫き通していかなければ、デザイン性の高い家電は売れないということを痛感した」(鈴木氏)

 その後、鈴木氏は独立してデザイン会社を創立。プロダクトデザイン以外にも、ホームページのデザインやポスターのデザインなど様々な仕事に関わっていく。

 「それでもやっぱり物作り、ひいては自分達のブランドを作りたいという想いは強くあった。そんなタイミングで、古賀氏に出会った」(鈴木氏)

 コンシューマー向け製品のデザインに問題を抱えていた古賀氏は、鈴木氏に出会ってすぐに製品デザインを依頼、鈴木氏も古賀氏が開発した空気清浄機を見て、すぐにプロジェクト参加を快諾した。その後、2人は改めてカドーという会社を設立し、家電メーカーとしての仕事をスタートしていく。

デザイン家電という言葉が嫌いだった

 鈴木氏が、古賀氏のプロジェクトに参加を決めたのは、その製品に確かな技術があると感じたからだという。

 「当時、日本では“デザイン家電”という言葉がブームだったが、その言葉にすごく抵抗があった。デザイン家電というのは、デザイン、つまり見た目ばかりを重視して、姿、形、色の変化に偏っているように感じていた。家電製品というのは、機能性が重視されるはずのものなのに、デザインと機能が融合していなかった。古賀さんと出会って、これまで欠けていたパーツがやっとはまったな、この人と組めば、技術とデザインが融合した製品が作れると思った」(鈴木氏)

2012年の12月に発売した「cado(カドー) AP-C700」

 技術の古賀氏とデザインの鈴木氏がタッグを組んで製品化したのが、2012年の12月に発売した「cado(カドー) AP-C700」だ。55畳まで対応する空気清浄機で、前述したPhoto clear技術を搭載したもので、毎分15.3立方mの空気を清浄する高機能タイプ。通常、新規のメーカーが家電量販店に製品を卸すのはハードルが高いが、この製品は、米国家電製品協会(AHAM)が定めるCADR(Clean Air Delivery Rate:クリーンエア供給率)において世界No.1の空気清浄機能が認定されており、発売当初から、ヨドバシカメラ店頭での販売をスタートしている。

 「AHAMは、世界で最も基準が厳しい規格の1つで、現在日本で発売している空気清浄機で、この認定を受けているのはcadoとスウェーデンのブルーエアの製品の2つだけ。ヨドバシカメラで、販売スタートできたというのは、この認定の存在が大きい」(古賀氏)

2014年末発売のPM2.5カウンターを搭載した「空気清浄機 AP-C700S」

 「製品のデザインに関しては、とにかく空気をきれいにするものである、ということにこだわった。つまり、空気を吸い込みやすく、出しやすい形。フィルターとファンの位置も外から見てもわかるようにしている。そして、当初からこだわっているのは、インターフェイス、つまり操作系統を統一するということ。例えば、2012年に発売したモデルと、2014年末に発売したモデルでは、ボタンの数も順番も揃えており、一目でカドーの製品だとわかるようにしている。これは、家電メーカーで働いている時から、実行したかったこと。製品やモデルごとに操作ボタンのデザインや、配置の場所が違うのはとても使いにくいと感じていた」(鈴木氏)

家電メーカー出身ならではの視点

 ソニー出身の古賀氏と、東芝出身の鈴木氏、元々いた組織に比べると、カドーはずいぶんと規模が小さい。大手家電メーカー出身だからこそ感じることを聞いた。

 「元々いた会社に対しては、感謝の気持ちしかない。訓練させてもらった……と。例えば、冷蔵庫は半年に一度、デザインを変えるので、ものすごい数の製品を作ってきた。デザインモックを作ったり、トライ&エラーするのにも当然お金がかかる。塗装1つとっても、実際やってみなければ分からないことが多い。それを経験させてもらったというのは、本当に感謝しています」(鈴木氏)

 「大手の企業にいたことで、品質管理に対する考えは徹底された。それは大きなプラス。逆にベンチャーならではの利点はやはりスピード感。立ち上げから数年でここまで製品数を増やせたのは、少人数で動いているからこそ。逆に、走りすぎてしまうこともあるので、スピードをきちんとコントロールしていかなければいけない」(古賀氏)

 鈴木氏は、ベンチャー企業の強みを“こだわり”と表現する。

「加湿器 HM-C600S」。長さ90cmの透明なパイプを備える

 「大手では絶対にこだわれないところもこだわっている。例えば、家電メーカーというのはマスを狙っているので、どうしても大衆受けするというか、多くの人が心地良いというデザインにしなければならない。そうすると冷蔵庫は白くて、四角くなってしまう。カドーの加湿器は長さ90cmのパイプを搭載しているが、この形は大手では絶対にできない。倒れやすい、危ない、という意見がでてきてしまう。でも、この加湿器は蒸気が見える、水が見えるということにこだわっていて、カドーというのはそういう製品が作れるブランドだと思っている」(鈴木氏)」

今後は海外展開と、“商品化力”を強みにしたコラボ

 今後の展開について、両者が口にしたのは海外展開と、異業種とのコラボレーションを進めていくということ。

 コンシューマー向けの製品を発売してから2年が経過した。その間にもカドーでは、加湿器や空気清浄機の新モデルを次々に発売している。今の現状を聞いた。

 「大手家電メーカーがひしめく日本市場において、新たな家電メーカーをスタートさせるという逆境の中においては、まずまずのスタートが切れた。認知度も向上しており、確かな手応えを感じている。しかし、人口から考えても、日本の市場はそれほど大きくない。今後は海外市場への展開を積極的に進めていきたい」(古賀氏)

 「メイドインジャパンのブランドとして、海外展開を進めていく。世界には日本よりもっとずっと空気が汚いところがたくさんある。性能の良い空気清浄機を世界に広めていくというのをライフワークにしていきたい」(鈴木氏)

 更に、古賀氏は、自社の強みとして“商品化力”を挙げる。

 「空気清浄機に搭載したPhoto clear技術、加湿器に搭載した除菌技術、小型加湿器の空間除菌技術など、日本の優れた技術を応用して、製品に落とし込んでいく商品化力がある。今後も優れた技術を探してきて、製品とのマッチングを進めていく」(古賀氏)

 ダイソンの掃除機が市場シェア1位を獲得するなど、大手家電メーカー一辺倒だった国内市場がここに来て、動きを見せている。高級扇風機で知られるバルミューダや、ハイアールアジアがamadanaとの連携を発表するなど、いわゆるベンチャー企業もこれまでになく目立っている。

 何十年も同じサイクルで家電製品を作り続けてきた家電メーカーがこれらの企業にどう対抗していくのか……2015年の家電市場はもっと面白くなりそうだ。

(阿部 夏子)