そこが知りたい家電の新技術

シャープの新たな挑戦〜幸せをもたらす「アート家電」とは

MiYABiの名称を持つ、アート家電冷蔵庫「SJ-GTR500」

 シャープは、MiYABiの名称を持つ、和モダンデザインを採用した冷蔵庫「SJ-GTR500」を、300台の限定モデルとして発売している。前面のガラスドアに、赤黒の市松模様を施したデザインは、これまでの冷蔵庫にはない独特の配色だ。シャープでは、これをアート家電と位置づけ、新たなプロモーションや、ブランディング戦略に生かそうと考えている。

 なぜ、シャープから「MiYABi」という製品が生まれたのだろうか。大阪府八尾市の健康・環境デザインセンターを訪れ、MiYABiの狙いについて聞いた。

単なるカラーバリエーションではなくアートを追求したデザイン

大阪府八尾市にある健康・環境デザインセンター

 シャープが300台の限定製品として投入した「MiYABi」は、シャープが昨年10月30日に発売したメガフリーザー搭載冷凍冷蔵庫「SJ-GT50A」をベースに、和モダンなデザインを採用した製品だ。

 SJ-GT50Aは、大きな食材もそのまま保存できる173Lの大容量を持つ同社独自のメガフリーザーを採用した製品。冷却器ユニットのコンパクト化により、474Lの容量ながら、600Lクラスに搭載している大容量の冷凍室を搭載することに成功。冷凍食品がマイナス18℃を上回ると味が落ちるところに着目し、冷凍室を開閉しても、庫内温度変化を少なくする工夫を凝らすなど、昨今の家庭における冷凍食品の利用増加に着目した開発コンセプトが特徴だ。

 シャープ 執行役員 健康・環境システム事業本部の沖津雅浩本部長は、「メガフリーザーは、冷凍食品に対するニーズが高まるなかで、冷凍室の大型化、収納の高効率化、食品保存の高性能化という3つの特徴を持つ製品。シャープでは、450L以上の冷蔵庫の5割以上をメガフリーザーにする」と宣言。同社の戦略商品に位置づけられるものだ。

 初期配荷した店舗数は、従来製品の1.5倍の約5,000店舗。10月30日の発売以降、前年に発売したハイエンドモデルに比べて、1.3倍の売れ行きをみせているという。

 こうした戦略商品において、シャープが初めて挑んだのが、アート家電への取り組みだったというわけだ。

シャープ プロダクトビジネス戦略本部デザインセンター 健康・環境デザインセンターの水野博志デザインマネージャー

 「商品の基本設計やデザインは、2013年末にはほぼ完成していた。だが、2014年春になって、営業部門や事業部から、新たな生活スタイルを強く打ち出すことができるデザインができないか、という提案があった。デザイン側から新たな生活スタイルに対して、どんな提案ができるのか。デザインセンターは、その課題に挑戦することになった」と、シャープ プロダクトビジネス戦略本部デザインセンター 健康・環境デザインセンターの水野博志デザインマネージャーは当時を振り返る。

 新たなデザインにおいて、デザインセンターが基本においたのは、メガフリーザーのプロモーションに寄与できるデザインであること。そして、健康家電を打ち出すシャープにとって、そのブランド価値を高めることかできるデザインである、ということだった。

 そして、単なるカラーバリエーションに収まらないということにもこだわった。

 「デザインには2つのアプローチがある。ひとつは、心地よい空間を演出するもの。空間へのフィット感があり、デザインが主張しないもの。そして、もうひとつは、美しいアートとしての魅力を追求したもの。こちらは心地良さよりも、アクセントを付けるデザイン提案であり、空間を美しく演出するものになる。MiYABiでは後者を狙ったデザインとした」(水野デザインマネージャー)。

 この考え方は、MiYABiが単なるカラーバリエーションに収まらないデザインであることにもつながる。

 「冷蔵庫の場合には、空間にフィットすることを前提にデザインするのが基本。カラーバリエーションの場合にも、空間にフィットすることを前提に色を決める。だが、MiYABiが狙ったのは空間を美しく演出するアクセントを持ったもの。コンセプトの基本が、カラーバリエーションという考え方からは外れたものになる」とする。

 強いアイキャッチと高い独自性、そして、話題性のあるデザインを目指したのがMiYABiだというわけだ。

「和」のデザインを意識

 MiYABiのデザインは「和」を強く意識している。

 ベースモデルとなるメガフリーザー搭載冷凍冷蔵庫「SJ-GT50A」が、すべてシャープ八尾工場で生産されている「MADE IN JAPAN」であること、そして、日本のユーザーを対象に販売する限定製品であることなどがその背景にある。

 「世界的な緑茶ブームや、和食が無形文化遺産に登録されるといったように、日本に対する注目が高まっている点も見逃せない。日本の美意識をテーマにデザインすることで、高いアピール力を目指した」という。

 MiYABiのデザインにおいて、デザインセンターがまず注目したのは、ユニークな庫割だ。

 下段に大型冷凍室、中段には、左側にアイスルームと新鮮極み冷凍を実現する冷凍室、右側には野菜室。そして上段には冷蔵室とチルドルームを配置したメガフリーザーには、6つの扉がついている。

 「いままでの冷蔵庫とは異なる発想の庫割をどう生かすか。そこで3つの観点からデザインアプローチを行なった」という。

 ここで打ち出したのが日本固有のデザインともいえる「市松」、箪笥階段に代表される「階段」、そして障子などに代表されるような格子状にわけることができる「分割」という3つのアプローチだった。いずれも日本の美意識をもとにしたデザンイアプローチだ。

シャープ プロダクトビジネス戦略本部デザインセンター 健康・環境デザインセンター デザイナーの一色純氏

 デザインセンターでは、それぞれのデザインをスケッチ。それをもとに比較検討を開始した。

 「庫割を最も美しく見せるデザインはどれかという観点から比較検討を行なった。その結果、美しくありながら、デザインの強さや、庫割のわかりやすさを表現するという点で、市松を採用することに決定した」と、シャープ プロダクトビジネス戦略本部デザインセンター 健康・環境デザインセンター デザイナーの一色純氏は語る。

空間を美しく演出するための色選び

 続いて市松模様をベースにした色の組み合わせてについても検討を開始した。冷蔵庫のカラーバリエーションの場合、基本は一色で構成される。異なる色の組み合わせは、異例のことだといってもいい。検討段階では、ヒット商品であるお茶プレッソを意識した、緑や白などの色合いも用意した。

 「様々な組み合わせのなかで、黒(墨)と赤(漆)という日本の伝統色を用いたデザインは、空間を美しく演出するための配色として最適だった。また、シャープの健康・環境製品の代表ブランドとなるヘルシオのイメージカラーは赤。健康家電を打ち出すシャープにとって、そのブランド価値を高めることかできる色」(一色氏)といった理由から、黒と赤のデザインに決定した。

デザイン段階ではお茶プレッソにあわせたカラー展開も検討された
様々な色を試した結果、冷蔵庫の大きな表面にも最適な「赤」を選択した
縁の部分にも塗装を施すこだわりぶりだ

 だが、冷蔵庫という存在感がある製品だけに、とくに赤の色合い次第では圧迫感が出過ぎるという懸念もあった。実際、家電製品のなかで、これだけ色を施せる面積が大きい製品は少ないともいえ、色を施した時の存在感は極めて大きい。

 市松にデザインが決定して以降、デザインセンターでは、様々なカラーサンプルを用意。冷蔵庫に最適な赤の選択作業に入った。

 「深みや奥行き感がある漆器の赤、あるいは刷毛目を施したムラのある赤など、様々な赤を試した。また、手元のサンプルやPCのシミュレーションではいいと感じても、実際に冷蔵庫の大きさにして試してみるとイメージとは違うものなるという場合もあった。その結果、赤と黒の組み合わせは、100通り以上に及んだ」(一色氏)という。

 当初は、日本の美意識を表現するために、漆器の赤、いわゆる朱に近い色にこだわったが、冷蔵庫の大きな表面で高いデザイン性を実現するにはより赤く、光沢を持った色が適していることがわかった。

 何度も試行錯誤を繰り返した結果、行き着いたのが、MiYABiで採用した色だった。実物サイズでは、このひとつの組み合わせだけを作り、幹部に対するプレゼンテーションにおいても、この1台だけを提案するというように、デザインセンターとしても強い自信を持ったデザインだった。

 それは、狙い通りだった。このデザインは幹部からも大きな評価を受け、そのまま製品化することにつながった。

 デザインにおいて、デザインセンターがもうひとつこだわったことがあった。

 それは、中段右側の野菜室である。野菜室の前面は赤に塗装されている。だが、この縁の部分は、もともとは素材の色を生かした黒になっていた。デザインセンターでは、ここをあえて赤に塗装したのだ。縁のパーツは、前面部分とは素材が違うため、色合わせにも苦労を伴う。もちろんコスト上昇の要因にもなる。だが、赤と黒の市松模様をデザインした際に、縁の部分まで同色を採用することで、完成度が大きく向上するのは明らかだった。

 MiYABiで目指した「アート家電」の実現において、デザインセンターが見せた、「小さくて、大きな」こだわりだったといえるだろう。

なぜ、MiYABiという名称がついたのか

 一方で、MiYABiというネーミングにもこだわりがある。

 これは、デザインが完成してからつけられた名称だ。

 同社によると、MiYABiという名称は、日本古来の意匠である市松模様に配した製品デザインから発想。上品で優雅、そして洗練された和の美意識を実現するものとして、「雅=みやび=」と名づけけた。

 これを英文としたのは、「和食」が無形文化遺産として評価されるなど、近年、日本の食文化が世界で注目されていることに着目。広く海外でも評価されるデザインであることを願って、あえてアルファベット表記とした。

 また、ロゴデザインにもこだわりがある。

 明朝系や筆文字などでは、和の印象が強くなりすぎ、先進技術が搭載された最新の冷蔵庫というイメージが伝わらないため、ゴシック系の書体を採用。さらに、MiYABiというように、「I」の表記は、大文字ではなく、小文字の「i」としたこと、「A」の横線を「・」にすることで、母音の3文字に「・」を入れた。これにより、ロゴに「雅」なリズムをもたらす狙いがあるという。

こだわりのロゴデザイン(製品情報ページより)

 なお、MiYABiはアルファベット表記としているものの、現時点で、「MiYABi」を海外展開する予定はないという。

今後のアート家電の展開はどうなるのか?

ヘルシオシリーズと連動させた提案も行なう

 シャープでは、MiYABiの製品化にあわせて、「アート家電」という提案を開始した。

 ヘルシオ「AX-XP100」、ヘルシオ炊飯器「KS-PX10B」、ヘルシオジュースプレッソ「EJ-CP10B」、ヘルシオお茶プレッソ「TE-GS10A」の4製品に用意されている黒と赤を基調にした製品と連動。MiYABiとともに、キッチンやリビングにおいて、アクセントを持たせたデザインを採用した家電を提案している。

 だが、アート家電という呼び方をしているものの、これらは、ひとつのコンセプトで統一したものではない。細かく色をみてみると、それらで使用されている「赤」は、決して同じものではない。微妙に色合いが異なっているのだ。これは、それぞれの製品に最適化した「赤」を採用しているのだ。そして、生い立ちが「アート家電」というコンセプトに基づいてそれぞれがデザインされたものではなく、あとから「アート家電」という枠に、くくりなおしたという点でもコンセプトを統一したものとはいえない理由がある。

 そうした点で、アート家電を強く意識し、カラーバリエーションとは異なる提案をしたのは、今回のMiYABiが初めてのものとなる。

 現時点では、アート家電の今後の展開について、明確な方向性が打ち出せているわけではないが、今回登場したMiYABiが、市場からどんな評価を得られるかが、シャープが提案するアート家電の今後に影響を及ぼすことになるだろう。

 シャープの一色純氏は、「MiYABiによって、キッチンやリビングの空間の質が上がった、あるいはこうした冷蔵庫を待っていたという声があがることを期待している」とする。また、シャープの水野博志デザインマネージャーは、「MiYABiを見て、1人でも多くの人に幸せを感じてもらいたい。また、MiYABiをきっかけにメガフリーザーを知っていただき、そこからメガフリーザーの販売増につながるとうれしい」と語る。

 MiYABiがシャープの家電製品戦略と、ブランド戦略にどんな寄与を果たしたのか。そろそろ最初の結論が出るタイミングに差し掛かっているといえそうだ。

(大河原 克行)