老師オグチの家電カンフー

第19回

電動歯ブラシはオーラルケアのホワイトハッカーか?

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです

 歯みがきが嫌いな子供でした。まぁ、好きな子供も少ないでしょうが、大人になると、歯みがきをしないと気持ち悪いと思うようになりますね。習慣とは恐ろしいものです。

 江戸時代より以前、数日風呂に入らないとか普通だったはずですが、シャワーが普及してからは毎日体を洗わないと気持ち悪いのと同じで、歯みがきも体感覚に染みついた習慣のひとつです。

 そんな生活習慣の効率化を図る家電が、電動歯ブラシです。歯みがきは面倒だが、忘れると気持ち悪い。電動歯ブラシが出たときは、これは良いハックツールだと飛びつきましたね。

最近使い始めたフィリップスの「ソニッケアー ダイヤモンドクリーン(HX9353/54)」。ガラスのグラスに入れると充電されるステキ仕様。充電は付属のトラベルケースに入れればUSBからも可能

 ハックとは、慣れ親しんだ方法を変えることで成果を上げること。そう個人的には解釈しています。普通は、製品化されたものや行為をハックとは言いませんけどね。

 辞書を引くと、ハック(hack)には、「切る」や「耕す」といった意味があります。歯は切るためのものですし、耕すのはブラッシングの行為に似ていませんか。はいはい、無理があるのはわかってますよ。

 そもそも今のような歯ブラシが日本で普及したのは1890年以降、明治時代の後半から。それ以前は、楊枝のような木の棒で歯を掃除していたそうです。歯ブラシも過去のある時点ではイノベーションだったわけです。

中央に菱形の毛先を配置し、歯垢やステインを除去する「ダイヤモンドクリーン」ブラシ。高速振動することで音波水流を発生させ、歯と歯ぐきの間、歯間の歯垢も落とすという
通常のブラッシングに使う「クリーン」やステイン落としのための「ホワイト」、歯ぐきをマッサージする「ガムケア」など5つのモードを備える

 電動歯ブラシが登場して普及しはじめるのは、それから100年後の1990年代から。あと100年もすれば、口の中に入れておくと歯みがきしてくれるロボットや、虫歯にも歯肉炎にもならなくなる注射が発明されるんじゃないでしょうか。

 近年、歯みがきを含むオーラルケアは健康につながり、寿命をも左右すると言われるようになりました。

 口は文字通り人体の入り口で、セキュリティの要。歯みがきは細菌の不正侵入を防ぐだけでなく、インフルエンザなどのウィルスをも体内に取り込みにくくする効果があるそうです。

 セキュリティを管理する正義のハッカーのことをホワイトハッカーと呼びますが、歯を白くする歯みがきはホワイトハッキングなのです。

昔気質の歯科医には、電動より手でみがくべきという人もいますが、名もなき一般人(アノニマス)の意見としては、普通は電動歯ブラシのほうがキレイになると思いますよ

 最近は、スマホと連携する電動歯ブラシも増えています。アプリでブラッシングの記録を取ったり、磨き方のアドバイスが表示されたりするのですが、歯ブラシとスマホはBluetoothという規格で接続されています。

 Bluetooth、直訳すると「青い歯」。青い歯で白い歯!

子供向けの電動歯ブラシ「ソニッケアー キッズ」。歯をみがくとスマホアプリでアイテムがもらえ、ゲーム的に楽しむことができる。歯みがきもプログラミングも、幼児期からしっかり学ぶべきとされている、とハッカーネタにつなげてみる

 今回の原稿、いつもより“こじつけ濃度”が高めですが、こじつけでも無理なことをなんとかすることこそハックの精神じゃないでしょうか。

 そう思いながら、辞書アプリをめくっていたら、「ハック・ライター(hack writer)」という項目を見つけました。意味は、「売文家」「三文文士」。小銭のために低品質の原稿を書きまくるみたいなニュアンスですね。あー、まさにオレのことじゃん……。歯でもみがいて寝ます。

「小学館ランダムハウス」アプリより。ハック=カッコイイと思っていたが、通俗的とかカネで雇われたとか、良くない意味もある

小口 覺

雑誌、Webメディア、単行本の企画・執筆、マンガ原作、企業サイトのコンテンツ制作を手がけるライター。日経MJの発表した「2016年上期ヒット商品番付」では、命名した「ドヤ家電(自慢したくなる家電)」が前頭に選定された。

Webページ「有限会社ヌル/小口覺事務所」
http://nulloguchi.wix.com/nulloguchi