ソフトバンク、自然エネルギー普及を目指す協議会を設立

~19道県と協力、休耕田にメガソーラー発電所を建設
ソフトバンク孫正義社長

 ソフトバンクの孫正義社長は、25日に行なわれた記者会見にて、自然エネルギーの普及・促進を目的とする協議会「自然エネルギー協議会」を、19道県と共同で設立すると発表した。設立時期は7月上旬の予定。

 同協議会は、現在の原子力や火力を中心とした大規模・集中立地型の発電から、太陽光、風力、地熱といった中・小規模分散型の自然エネルギーによる発電へ転換し、発電所の立地リスクを抑制することが目的。自然エネルギーの普及促進のための政策を提案していく。

 同協議会には、全国19の道県、およびソフトバンクが参加。資金・技術などのオペレーションはソフトバンクが担当、土地は県が提供する。


自然エネルギーによる、分散型エネルギー社会の実現が目的となる大規模・集中立地型の発電を転換するtこおで、立地リスクを抑制する狙いがある賛同する自治体は19の道県


休耕田にソーラーパネルを設置する「電田プロジェクト」からスタート

 当面は、全国各地の休耕田、耕作放棄地などに太陽光発電パネルを設置する「電田(でんでん)プロジェクト」に取り組む。メガソーラー発電所の発電規模は地域によって異なるが、概ね20MW(メガワット。20,000kW)前後の「メガソーラー発電所」となる見込み。孫社長によれば、発電売上の数%が、土地の利用料として収益となるビジネスモデルとなる。

 「日本には休耕田が20万ha(ヘクタール)、放棄地が34万haもあり、そこにすべて太陽光発電パネルを敷き詰めると、合計2億7千万kWの発電ができる。もちろん全部に設置はできないが、そのうちの2割に置いただけでも、5,000万kWの出力になる。ピーク時間の発電容量でいえば、原発の50基分に相当する」(孫社長)

使われていない農地にソーラーパネルを設置する「電田プロジェクト」をスタート全国の休耕田のうち2割にソーラーパネルを設置することで、5,000万kWが発電できるという


孫社長が掲げる「自然エネルギーの普及に必要な3つのこと」

孫社長は、自然エネルギーの普及には、(1)全量買取制度、(2)送電網の接続義務、(3)用地の規制緩和が不可欠だと指摘

 孫社長は、自然エネルギーの普及を加速させるには、(1)全量買取制度、(2)送電網の接続義務、(3)用地の規制緩和が不可欠である点を指摘した。

 (1)の全量買取制度とは、自然エネルギーで発電した電気すべてを、電力会社が平均的な売電価格よりも高く買取る制度。「フィードインタリフ(Feed-in Tariff)」とも呼ばれる。孫社長は「欧米では一般的な制度。日本でもできるだけ早く国会で通していただきたい」としている

 (2)の送電網への接続義務は、自然エネルギーで発電した電気を送電するために必要となる。「いくら発電しても、送電網に接続されないと、皆様のところに電気が届けられない」(孫社長)

農地は転用が制限されているが、公共・公益性の高い事業であれば、転用が可能という

 (3)の用地の規制緩和は、電田プロジェクトで農地に太陽光発電パネルを設置する際に重要という。

 「日本の農地は転用の際に利用制限が掛かっているが、『公共性、公益性の高い事業には転用可』とされている。発電はまさに公共性、公益性の高い事業。農地に家を建てたり工場を建てるとなると、居住権や営業権も絡み、食料不足になった時に元の農地に戻せないという問題があるが、一時的に杭を差してその上に太陽光パネルを置き、ボルトで留めておくなどであれば、農地のままで利用できる」(孫社長)



2020年までに自然エネルギーだけで電力20%を確保

 孫社長は、同協議会の2020年までの目標として、太陽光で1億kW、風力や地熱ほかで0.5億kW、合わせて1.5億kWを、自然エネルギーだけで発電することを掲げている。

 「政府や地方自治体による政策で、太陽光発電システムが全国の屋根に続々と設置され、仮にそれが2,000万kWだとしたら、(電田プロジェクトによる)農地活用で5,000kW、その他の分野で3,000万kW普及すれば、2020年までには太陽光だけで合計1億kWまで目指せる。そのようなビジョンを国家として持つべきではないか、というのを提唱していくのが協議会の役割となる。

 これに、風や地熱などによる自然エネルギーを足すと、合計で1.5億kWとなり、雨の日や夜、風の吹かない日など、一切合切の条件を勘案しても、日本国内で使われている電力の20%を自然エネルギーでまかなえる可能性がある。そうすると、我々が現在抱えている問題のひとつの答えになるのではと考えている。子供たちに安全な未来を提供することが一番大事」(孫社長)

2020年までの、太陽光発電の導入目標風力と地熱を合わせた2020年までの設置目標は「1.5億kW」。日本の全消費電力の20%がまかなえるという

 自然エネルギーに対する投資額は、ソフトバンクグループ全体の売上3兆円のうち数%。社会貢献の一環として投入する。

 「株主のみなさんから、本業が手薄になるのではという心配もいただいているが、本業はあくまでも通信事業なのは従来通り。震災で停電になった際に、ソフトバンクの通信が大規模で止まってしまい、電気がないと通信ができないということを、改めて痛感させられた。節電はもちろん、発電も社会貢献の一環として考えている」(孫社長)

 また、後続企業が参入しやすいよう、自然エネルギー事業が赤字にならないことを宣言した。

 「各県の財政にあまりご迷惑をかけずに、Win-Winの関係を築いていきたい。そのためにも、全量買取制度、送電網の接続義務、用地の規制緩和は必須。ソフトバンクは、自然エネルギー発電のモデルケースづくりに貢献することを考えている。“ボロもうけ”できるような事業ではないが、少なくとも赤字にならないようにしないと、後に企業が続いてこない。欧米でも事業として成り立っているからこそ、自然エネルギーの普及が加速している」(孫社長)


“自然エネルギーに積極的な知事から声を掛けた”


 協議会に賛同する地方自治体は、北海道、秋田、埼玉、神奈川、山梨、静岡、長野、愛知、三重、福井、岡山、広島、香川、高知、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎の19道県。孫社長は、賛同する自治体について「(すべての都道府県に)くまなく声をかけたのではなく、自然エネルギーに積極的に取り組んでいる知事から声を掛け、広がった。名を連ねていないから(自然エネルギーに)反対というわけではない」としている。

 会場には、同協議会に参加する4県の知事が登壇。埼玉県の上田清司知事、神奈川県の黒岩祐治知事、長野県の阿部守一知事、静岡県の川勝平太知事が、自然エネルギー普及への意欲を見せた。

埼玉県の上田清司知事。「埼玉は日照時間は全国並みだが、晴天の日の回数は、ここ10年間で8回、全国で1位となっている。太陽光発電に絞った形で、自然エネルギーを推進していきたい」神奈川県の黒岩祐治知事。「テレビで太陽光政策について話したところ、孫社長からは『あなたの思いと同じだ。恥を欠かせるわけにはいかない。一緒にやろう』と声をかけられた。神奈川県は先頭に立って、このプロジェクトを推進していきたい」
長野県の阿部守一知事。「長野県は小規模な自治体が多く、仮に20MWのソーラーを作った場合、それだけで6つの村における全住宅の電力がカバーできる」静岡県の川勝平太知事。「静岡はM8.0以上の東海地震が起きる恐れがある。このプロジェクトで、大規模集中立地型から分散自立型の発電に変えていきたい」





(正藤 慶一)

2011年5月26日 00:00